第179章:熱暴走
「(受けた傷が大きい…ここは)熱魔法-焼塞-!!」
シェイは魔法を詠唱する。
全身から淡い光が漏れ出し、小さな傷はみるみるうちに塞がっていく。
だが、肝心の左翼の傷だけは、塞がらなかった。
「…翼はダメか」
シェイは小さく舌打ちをする。
それを、デイジーは見逃さなかった。
「おや。どうやら計画通りに魔法が発動しなかったようだね?」
すると、デイジーがピストルを構え、魔法を詠唱する。
「樹木魔法-鳳仙弾-!!」
次の瞬間、炎を纏った弾丸がシェイを襲う。
「(横に回避する…)」
シェイは軌道を読み確実に回避を試みた。
だが…
「ポンッ!!」
なんと、弾丸が四方に弾け、破片が空間を埋め尽くしていく。
「えっ!?」
そのうちの一つがシェイに迫る。
「かかってくれたね…」
デイジーがニヤリと口角を釣り上げる。
そして…
「チュドーン!!」
弾丸はシェイに直撃する。
「うわぁぁぁ!!」
シェイは爆風で激しく吹き飛ばされる。
「うぐっ!」
シェイの体が激しく転がり、会場の壁に叩きつけられる。
「さ、とどめだ…」
デイジーは勝利を確信し、追撃と言わんばかりに魔法を詠唱する。
「樹木魔法-螺旋木理-!」
次の瞬間、地響きと共にシェイの足元から巨大な樹木が現れる。
「ゴゴゴゴ!」
それは、太い枝が蛇のように彼女の四肢に絡みつき、天高く持ち上げた。
「ぐあっ!」
シェイは樹木に強く締め上げられ、口から血を吐き出す。
肋骨が悲鳴を上げ、全身の自由が奪われる。
「もういいだろう…ギブアップ。してくれるよな?」
デイジーは下からシェイを見上げるように呟く。
「ぐっ…(私、このまま終わるのか?)」
シェイは必死に起死回生の策を模索する。
「これは勝負あったか?」
リュウがデイジーの勝ちを確信した。
「あの状況を脱出するのは難しそうだよ」
サシャはシェイが置かれた状況に半ば絶望している。
「どうなっちゃうんだろう!?」
アリアは演習場を飲み込むような巨大な樹木の威圧感に、肩をすくめて震えていた。
「キュイッ…」
アルブも戦いの行方が気になるのか目を丸くして見ている。
「ここから逆転…なんてのも期待したいわね」
一方で、マヨはシェイが逆転するパターンをどこか胸の中で期待していた。
「(確かに小僧の言う通り、あのドラゴニアの小娘はピンチじゃ。だが、熱魔法の使い手。もしかしたら…)」
そして、トルティヤもシェイに残された一縷の可能性を見出していた。
「さ、ギブアップと言ってくれ。でなければ…絞め殺してしまうぞ?」
デイジーが静かに、脅すように呟く。
「(私は…タピオンの分まで背負わないとならない。S級傭兵になって、最強の衛生兵だと証明したい!)」
シェイの中にタピオンとの戦いの中で感じた彼の意思。
そして、自分の目的を再認識し、決意をしたように頷く。
「(使うしかない。リスクはあるけど、このままやられるくらいなら…!)」
そして、シェイは魔法を詠唱する。
「熱魔法-鳳憑-!!」
次の瞬間、シェイの心臓の鼓動が激しく打ち鳴らされ、血管の浮き出た皮膚が灼熱を帯びていく。
「この樹木は防火林にも使われているものだ。簡単には…」
だが、デイジーはシェイの使用魔法を考えて、燃えにくい樹木を選択していたのだ。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
シェイが腹の底から雄叫びをあげると、全身が更に赤に染まる。
すると…
「ボワッ…!」
なんと、木が燃え始めたのだ。
「なにっ!?」
デイジーは想定外のことに目を丸くする。
「これだけ解ければ十分…!!」
そして、拘束が解けると、シェイは思いっきり息を吸い込む。
「まずい…!!」
デイジーは咄嗟に瓦礫の後ろに隠れる。
「ボワァァァァァ!!」
そして、シェイは口から火炎を吐き出す。
紅蓮の炎が会場を真っ赤に染め上げる。
「なんつー火力だよ…」
審判のアイアンホースは瓦礫の上から、目の前の地獄絵図を凝視する。
「熱い…なんという火力なんだ…」
デイジーは瓦礫で防いでいるが隙間から灼熱の炎が襲う。
しばらくすると火炎の嵐が止む。
辺りには焦げた匂いと熱い蒸気が立ち込め、視界が白く濁る。
「なんとか凌ぎきったか…」
デイジーが安堵した、その時だった。
「ドコン!!」
なんと、目の前の瓦礫を破壊し、シェイが目の前に現れたのだ。
「うぐっ…」
デイジーは突然の襲撃に対処しきれず、瓦礫の破片を頭部に受けてしまう。
「ここっ!」
そして、シェイが追撃と言わんばかりに赤く熱した鉄鞭を彼女の肩めがけて振り下ろす。
「ドコッ!!」
「うぐあっ!!」
彼女の肩を灼熱と骨が砕ける感覚が襲う。
「(距離を取らないと…)」
デイジーは咄嗟にポーチから煙玉を取り出し、地面に叩きつける。
「(これで距離を取って…)」
デイジーは、別の方向から煙玉の外へ脱出し、近くの瓦礫に身を隠す。
「…さ、どこにいる?」
デイジーはピストルを構えて周囲を見渡す。
だが、シェイの姿がない。
「…いない?」
デイジーが目を丸くする。
その時だった。
「誰を…探しているのかしら?」
なんと、上空からシェイの声が聞こえる。
「馬鹿な…翼は撃ち抜いたはず!?」
デイジーは愕然として空を仰ぎ、信じられないものを見るかのように声を震わせた。
「長時間は無理でも…一瞬なら飛べるのよ…!!」
そして、シェイがそのまま、飛び蹴りを放つ。
「うっ…!」
デイジーは必死に回避する。
地面がひび割れ、瓦礫が小さく飛散する。
「まだまだ!」
それでもシェイは攻撃の手を緩めない。
鉄鞭と蹴りによる連続攻撃で、デイジーを追い込んでいく。
「(どこにそんな力が?…このままでは)」
デイジーは回避し続けるが、そのまま会場の壁際に追い込まれる。
「しまった!」
デイジーに逃げ道はなかった。
「はぁぁぁっ!」
そして、シェイの蹴りが放たれる。
「あっ…」
デイジーの視界がスローモーションになる。
「ドコッ!」
蹴りが、デイジーの側頭部に直撃する。
「あぐっ…!!」
デイジーの脳と視界が大きく揺れる。
「どさっ…」
そのまま、彼女は地面に倒れる。
「…さて、ギブアップ…してもらえるかしら?」
シェイが倒れているデイジーに尋ねる。
「(確かにな…もう打つ手は…)」
体も限界が近い。
デイジーがギブアップを考えたその時。
母の最期の言葉が脳内に響く。
『お母さんから最後のお願い…生きて立派なカニサの戦士に…』
「…母さん。私」
そして、デイジーは拳を握りしめると、ゆっくりと起き上がる。
「デイジーが起き上がったぞ!!」
「この戦い、まだ続くのか!?」
「だけど、お互い血まみれだぞ…」
一進一退の攻防、そして消えることのない両者の闘志に、会場のボルテージは最高潮に達する。
「まだ…終わってない…ぞ」
デイジーは息も絶え絶えになりながらもピストルを構える。
「強がりも…大概にした方が…いいわよ?」
一方で、シェイも肩で息をしながら、両手の鉄鞭を構えた。
会場に一陣の風が吹く。
そして…
「樹木魔法-針蕗 -!!」
デイジーが弾丸を数発放つ。
それは無数の手裏剣となりシェイを襲う。
普通であれば回避はおろか、迎撃するのも困難。
しかし…
「そんな子供だましい…!!」
シェイはそれを全て鉄鞭で打ち払う。
手裏剣は燃え上がり、灰と化していく。
「(もはや、これしかない)」
デイジーはポーチから、密かに炸裂弾を取り出す。
「悪いけど、全治1ヶ月ね!!」
一方のシェイはそれに気が付かず、鉄鞭を振りかざし向かってくる。
「さ、一緒に吹き飛ぼうか…」
そして、シェイが近距離に来た時、デイジーは炸裂弾を下へ落とした。
「なっ!ここで自爆!?(よけられない!)」
シェイは回避できないと悟り、慌ててガードの体勢を取る。
次の瞬間…
「チュドーン!!」
会場の真ん中で凄まじい火柱が立ち昇り、会場の石畳を粉々に粉砕して四散させた。
「二人とも巻き込まれた…!」
サシャが目を丸くする。
「まさか…ここで自爆か…」
リュウは予想外の展開に驚きを隠せないでいる。
「これは分からなくなったわね」
マヨは息を呑む。
「デイジーさん…シェイさん…大丈夫かなぁ?」
アリアは二人の安否を心配していた。
しばらくののち、会場の砂煙が晴れる。
熱気がわずかに引き、荒廃した会場が再び姿を現した。
「おいおい。まさか二人ともくたばってないよな?」
アイアンホースは焦ったように様子を伺う。
砂煙の中には二人の影があった。
「…うっ」
一人は魔法の効果が切れ、地面に力なく倒れているシェイだった。
意識はあるが、瀕死の状態だ。
「…はぁ…はぁ…こんなところで…」
一方、デイジーも全身に爆傷を負い、倒れている。
「こりゃあ…引き分けか…?」
アイアンホースが引き分けの判定をするかどうか迷っていた。
その時だった。
「…まだ…終わって…ない…」
デイジーが体を震わせる。
そして、ゆっくりと上半身を起こす。
「ね…熱魔法…」
一方のシェイは、回復魔法を詠唱しようとした。
だが…
「…っ!!(魔力がもう…)」
彼女の全身を激しい痛みが襲い、立つことすらままならなかった。
「(…ここまでね)」
シェイは小さくため息をつくと、視線をアイアンホースに向ける。
「アイアンホースさん…降参…私はもう動けないわ」
アイアンホースに降参を宣言する。
「…あぁ」
アイアンホースはそれを聞いて小さく頷く。
そして…
「準決勝 第一試合、勝者はデイジー!!」
そして、勝者を高らかに宣言する。
「…母さん…やった…よ」
それを聞いたデイジーは、安堵の表情を浮かべ地面に倒れる。
「医療班!二人を医務室に運べ!!」
アイアンホースが医療班へ指示を飛ばす。
医療班は手際よく現れると、二人を担架に乗せて、そのまま医務室へ運んでいった。
「わー!!!!」
「一人目の新たなS級傭兵はデイジーか!」
「すごい戦いだった!!」
観客達は新たなS傭兵の誕生に大いに沸き立つ。
「デイジーさんが勝ったよぉ!!」
アリアはどこか嬉しそうな表情を見せる。
「キュイッ!!」
アルブも尻尾をパタパタさせ喜ぶ。
「デイジーさんがS級傭兵に…すごい!」
サシャは新たなS級傭兵誕生に目を輝かせる。
「とてつもない激戦だったわね」
マヨは、自身の予想を上回る熱量に、満足げな笑みを浮かべていた。
「あぁ。だが次の試合は…」
リュウは周囲の熱狂とは対照的に、次に控える冷酷な予感へと向けられていた。
なぜなら、次の試合はレグとバケットの試合だからである。
そして、準決勝第二試合。
バケットが地獄を見ることになるとは、まだ誰も知らない。




