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その雷が幾筋も……と思ったらそれらは空中で合体し、一点に集中して巨大化してから、落ちてきた。
こちらは四人。ならば、四方に散って逃げれば? いや、そもそも自然のものではないのだから、雷がそれを追ってまた四分裂するかもしれない。そうならないとしても、誰か一人は確実に受ける。そうなれば……
ここまでは一瞬で、ニコロもミレイアもリネットも、ほぼ同じことを考えた。そして考えたから、どうしていいかわからず、動けなかった。
クラウディオだけが、一歩先まで考えたらしく、動いた。
「っ? クラちゃんっ?」
クラウディオは、その長い腕で三人を掻き集めるようにして、まとめて地面に叩きつけ、その上に四つん這いになって覆い被さった。
直後、数本が合成されて自然の物より太く強くなった雷が、重い音を轟かせて落ちた。
クラウディオの背に。
「ぐおおおおぉぉっっ!」
息を呑む三人の上で、眼前で、クラウディオが苦悶の声をあげる。
「……な、なんてな、っと。ま、こんなもんか」
脇に置いた槍を握り、それを杖にして地面に突き立て、クラウディオは立ちあがった。
「ク、クラちゃん、大丈夫なの?」
リネットたち三人も、続いて立ち上がる。
その三人にクラウディオは、脂汗を浮かべながら引き攣った笑みを見せる。
「ああ。この俺の、無敵の筋肉にとっちゃ、こんなもん大したことねえよ。それより、これほどの大技だ。流石に連発は無理だろ。一気に奴を……」
レーゼの方へと体の向きを変えようとしたクラウディオが、足をもつれさせ、倒れ伏した。
そのまま、クラウディオは声もなく、動かない。
「クラウ兄いいぃぃっ!」
ニコロが絶叫した。倒れたクラウディオを心配しての叫びと、伏したクラウディオの背中を見ての悲鳴と。
クラウディオの広大な背中、そのほぼ全域が焼けていた。防具、衣服、そして自身の皮膚まで、跡形なく燃え尽きている。背筋は完全に露出して、黒く焼け焦げていた。肉が隅々まで黒く焦げきったおかげで止血ができている、という惨状だ。
ミレイアとリネットが言葉を失っている前で、ニコロはクラウディオの側に両膝を着いて両手を組み、祈る。
「体の神様、命の神様! 御力を!」
ニコロの体が光に包まれ、その体でニコロは、クラウディオの背に覆い被さった。
「僕の祈りで足りない分は、僕の命を削って代わりに! 僕の血肉を、クラウ兄の血肉に替え、いくらでも使って下さい! どうか、どうか、クラウ兄の命だけはっっ!」
必死に祈るニコロの生命力が、生きている気配が、僅かずつではあるが確かに失せていっているのを、リネットは感じ取った。言葉通り、自らの命をクラウディオに捧げているのだろう。
近くで、金属の擦れる音がした。
見ればレーゼが、腰の剣を抜いている。
「その男が言った通り、今のは大がかりな兵器だ。エネルギーチャージに時間がかかるので、連発はできん。よって、お前たちにはこの武器で相手をしてやる。इऍ औचठ थफऱष!」
レーゼが何かを唱え、剣を振り上げ、振り下ろした。
その動きに合わせて、空から何かが降ってきた。また雷かと思ったが、今度は何も見えない。見えないが、確かに何かが来ている。高速の、風の唸りが聞こえる。
「風っ?」
それは強風の塊であった。と気づいた時にはもう遅い。ミレイアとリネットは、大嵐の夜に崖下で土砂崩れにあったような衝撃をいきなり背負わされ、激しく地面に叩きつけられる。肺が圧迫され、内臓が衝撃に揺らぎ、強烈な吐き気と呼吸困難で意識が揺らいだ。
実際に物体を背負ったわけではないので、重みはすぐに消える。が、地面に激突したダメージは体内に深く刻まれて残った。立ち上がれない。こんなものを続けて何発も受けたら……
「気象兵器、そして気象武器。素質も努力も何の術も必要とせず、ただ手に持ってキーワードを発声するだけで、これほどの精霊力を行使できる道具。我らエルフ星人は、かつてこのような技術を持っていた。一度は捨てられたそれが今、ここで、こうして復活しつつあるのだ」
リネットとミレイアは、どうにか地面から体を引き離し、立ち上がった。
レーゼがその二人に言い放つ。
「私の計画を妨害した罪は重い。我らエルフ星人の偉大さの前にひれ伏し、這い蹲り、恐怖と絶望の中で死ぬがいい」
「……アタシはね」
「ん?」
リネットは、地面を噛まされて口に入った砂を、吹き捨てて言った。
「もともと、全世界のオトコを相手に、たった一人で戦う為に造られた存在よ。今更、アンタ一人にビビッたりしないっての」
ほう? とレーゼが少しだけ興味を示した。
「面白そうな話だな。だが、お前は先程、この私とは敵対するのが望みだとか言っていたな。どうだ? 今はその気が変わってきたか?」
「アンタと敵対する、と宣言した時の気持ちと、今の気持ちとは確かに別物ね。今のアタシは、あの時と違って、アンタのことを強く憎んでいる」
リネットは、まだ微動だにしないクラウディオと、身命を削って祈りを捧げ続けるニコロを見た。その視線を、レーゼが見る。
「ふん。人造人間のお前が、チキュウ星人を傷つけられて怒る、か。愚かな」
「なにしろ、まだ自分の足でこの地上に立ってから一日しか過ぎてない、幼く可愛いお子様なのよ、アタシは。だから、」
リネットの眉が吊り上り、
「お気に入りのオモチャを傷つけられたら、問答無用で怒り狂うってものよ!」
リネットの爪先が地面を蹴り、レーゼに襲いかかった。
レーゼは後方に跳びすさりながらまた何か唱えて、剣を水平に振る。
「उए ओङट धभळह!」
瞬間、刃の周りに黒い煙のようなものが発生したかと思うと、重い音とともにそこから、閃光が蛇行してリネットへと伸びた。
リネットもミレイアも、つい先ほど見たものだからすぐに解った。あの黒いのは雨雲、そして閃光は雷!
もちろん、天空から落ちてきたものに比べれば細く小さいが、それでも雷である。既に跳んでいたリネットに回避することはできず、真正面からまともに雷を受ける!
「ぁぐぅぅっ!」
跳躍の勢いを弾かれて殺され、痺れで全身の筋肉が弛緩してしまって力が入らず、リネットはレーゼまで届かずその場で着地し、そして立っていられずに力なく片膝をついた。
立てない。腕が上がらない。顔さえ上げられない。
だがそれは、ほんの数瞬のこと。すぐにリネットは、まだ少し脚を震わせながらも、レーゼを睨みつけて立ち上がった。
「まだ、まだあぁっ!」




