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事務長の業務日誌  作者: 川口大介
第三章 事務長、事件と歴史の真相を知る
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 クラウディオの顔にも、声にも、緊迫した様子は全くない。

「お前が、ヨルゴスの言ってたレーゼって奴だな。降参するなら今の内だぜ」

「その言葉はそっくり返そう、とは言わん。お前たちには降参する権利など与えん」

 レーゼは全く迷うことなく右手を振り上げ、振り下ろしながらミレイアたちを指さした。

「かかれええええぇぇっ!」

 巨大熊が、巨大犬が、巨大狼が、巨大猪が、巨大猿が、それらの大群が、地響きを立てて襲ってくる。その中には何匹か、明らかに他の連中より一回り大きいのが混じっている。おそらく、レーゼが特別な薬を与えて作った、それぞれの群れのボスなのだろう。

 ということは、凶暴性も生命力も高く、戦闘能力は他を圧しているはず。ただでさえバケモノな巨大動物、魔獣たちの格上的存在。それが何匹もいる。

 だというのに、クラウディオは慌てず騒がず、落ち着き払った動作で腰の刀を抜いた。そして、柄尻を槍の石突と連結。長い長い、一本の双刃の武器とする。

 ただでさえ、普通の槍より長い槍と、普通の刀剣より長い刀を繋げたのだ。超巨漢であるクラウディオの身長を遥かに超えた長大さとなり、これでは個人用の武器には到底見えない。この大きさは、もはや攻城兵器だ。

 そんなものの中央を、クラウディオは握って頭上に構えて、大きく大きく振り回した。

「さぁさぁさぁさぁ! かかってきやがれええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 クラウディオが、全方位から襲いくる魔獣たちに対して攻撃を始める。すると比喩ではなく本当に、物理的現象として、竜巻が起こった。

 クラウディオの槍の穂先は、間違いなく穂先の形をしている。だがその巨大さゆえに、通常の感覚でいえば大鉈や斧といえるほどの分厚さ、重さ、大きさがある。その反対側には今、これまた分厚く長い刀が装着されている。そんなものが両端に付いている長い武器をクラウディオは、投げ縄のように気軽に振り回しているのだ。

 風の唸りはブンブン、ではなくゴオゥゴオゥ。人間が武器を振るう音ではない。クラウディオは長い一本の武器を、一瞬も止まらせることなく回転させながら、それによってできた刃の円盤を、前後左右上下と、高さも角度も方向も変化させながら、グルグル動かしている。刃の円盤、転じて刃のドームとなり、それは触れるもの全てを圧倒的な力と鋭さで叩き斬る、全方位への完全な防御、完全な攻撃となった。

 隼が飛ぶ速度と猛牛の突進力を備えた刃が、襲い来る魔獣たちを次々と葬り去っていく。中には、クラウディオを超える巨躯の大熊などもいるのだが、その脳天にクラウデイオの刃が触れるや否や、瞬き一つの後には股間まで真っ二つ。瞬き二つめの時には、胴を横なぎにされて四つの肉塊と化していた。

 右前足、左前足、右後足、左後足をそれぞれ一本ずつ備えた四つの肉塊。こうなると、それぞれがまだ生きて闘志をもっていても、どうにもならない。一本しかない足で跳ねると、どうしてもその爪先が下に向くので、跳びかかった先への攻撃は不可能。もちろん顎の骨も真っ二つに割られているので、噛みつくこともできない。

 薬物によってあらゆる能力を何倍にも高められた、この世の自然ならざる巨大な魔獣たちが、絶え間なくクラウディオに襲いかかり、次から次へとその猛竜巻に巻き混まれ、まるで枯葉のように、肉塊になって舞い上がっていく。

 リネット、ニコロ、そしてミレイアは、クラウディオの起こす竜巻の中心、つまりクラウディオの足元で身を寄せ合っていた。斬り裂かれた獣たちの肉も血も臓物も高く高く舞い上げられてはキノコの傘のような軌道を描き、上空から放物線を描いて遠くに落ちていくので、ミレイアたちにはかからない、どころか見えもしない。

 ゴオゥゴオゥの風の唸りにかき消され、断末魔も聞こえない。獣たちが接近してくるのが見えた、と思ったら次の瞬間にはバラバラになって上空へ。そんなことが、一呼吸の内に前後左右で、何匹も何匹も同時に起こっているのだ。まるで天才魔術師による強力な術か、さもなくば数十年に一度ぐらいの、稀な規模の自然災害のよう。だがこれは紛れもなく、たった一人の、人力で行われていることなのである。

 リネットは歓声を上げ、ニコロは安堵しつつも動物たちの冥福を祈り、ミレイアは驚愕と呆然に包まれて、

「た、旅の美少女魔術師と一緒にいる美形剣士とかって……こういうレベルなのかな……」

 若干、妄想の世界に飛んでしまっていた。


 山の獣たち全てを掻き集めての総攻撃だったらしいが、どうやらそれも尽きたようだ。

 クラウディオが最後の一振り回しで血を飛ばし、流れるような動作で元通りに武器を分割、刀を腰に差して槍を構えた時、周囲には生きた獣の姿はなく、広場の外周に夥しい血肉が散乱しているのみだった。

 いつの間にか、殆どクラウディオの脚に抱きつくような状態になっていたリネット、ニコロ、ミレイアが立ち上がり、レーゼの前に四人で並ぶ。

 流石のクラウディオも今は息を切らせているので、リネットが進み出た。

「さて、どうするのかしら? 星の海を越えてきた侵略者さん」

 部下であるヨルゴスも、そして獣たちも失ったレーゼだが、まだ落ち着いた顔をしている。

「私がなぜ、そこの大男が戦っているのを、じっと見ていたかわかるか?」

「恐れをなしてたんでしょ?」

「ふん。面白い見世物だと思っていただけだ。獣たちなんぞはまた、いくらでも勝手にここへ来て、勝手に中毒になってくれるからな」

 ニコロの眉が吊り上がり、レーゼを怒鳴りつけた。

「そうはさせません! あなたはここで逮捕され、ここの施設も破壊して、この山への入口を完全に閉じます! もう二度と、動物たちをあなたの好きにはさせませんっ!」

 この子にこんな声が出せたのか、とリネットが驚くほど、気迫のこもった大声だった。それほど今のニコロは、動物たちのことを悲しみ、そしてレーゼの所業について怒っているのだろう。自然の、動物の声を聞けるニコロのことだから、彼らの苦しみや悲しみを我がことのように受け取っているのかもしれない。

 だが、その怒りを向けられたレーゼは、飄々としたもの。

「ああ、私が逮捕されればそうなるか。麻薬の精製をする機材も、このフィールドへの出入りを管理する設備も、その他の資料も道具も、全てあそこにあるぞ。私を逮捕できたなら、好きにするがいい」

 レーゼは顎をしゃくって、背後にある岩山の洞窟を指した。

「が、そうはならん。言っただろう? 私はかつての、エルフ星の技術をこの手にしているのだ。麻薬などはその一端にすぎん」

 と言って、レーゼは金色の首飾りを軽く握った。

「我々の祖先はこのチキュウ星に、原住民がいるならば侵略制圧をするつもりで来たのだ。その祖先の遺産となれば、多層空間制御装置だの麻薬だのよりも、武器兵器こそが主体だとは思わんか? 例えばこのような……इऍ ओङट थफऱष!」

 首飾りを握ったレーゼが、何やら異様な発声をした。

 と、快晴だったはずの空が瞬く間に暗転、黒雲に覆われた。空の全域ではなく、リネットたちのいる一帯だけ、切り取ったように。

 空を見上げる四人。その視線の先、黒雲の中から、幾筋もの閃光が落ちてきた。

 落雷である。

 魔術で、手から電撃を放つといった術ならリネットも知っている。その電撃の強さは術者の技量に左右され、未熟な者の術では軽く痺れを感じさせる程度でしかないが、熟達すれば全身を麻痺させたり、一撃で気絶させることも可能だという。

 しかし、これは電撃ではない。雷なのだ。直撃したら当然、麻痺や気絶で済むはずがない。

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