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お見合い結婚しました  作者: 彩ぺん
日常編

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日常編「リルと読書3」

 本を読み進めて、なぜシャーロット令嬢がレティア姫になるのか知ることができた。

 血筋はお姫様だったけど、皇帝陛下——異国では王様の浮気が原因で生まれたので庶民の中に紛れていた。

 王族の娘、お姫様だけが茨の冠に青薔薇を咲かせられる。そんな話がこの世にあるなんて。

 誘拐されて恐ろしい目にあっても、他の人を助けようとするなんて、シャーロット令嬢ことレティア姫はやっぱり優しい。

 しかし……


「旦那様、ユース皇子様が全然出てきません」


 シャーロットが大聖堂——神社のようなところで冠に青薔薇を咲かせたところで本を閉じて目の前の机に置き、振り返る。

 すると、ロイは涙を流して鼻をぐすぐずさせていた。こんな彼は初めてだ。


「ロイさん?」


 珍しく返事がない。ロイは本気を出すと読むのが早いので、さっき(ページ)をめくったのにもう次へ進んだ。読書に夢中みたい。それなら私もまだ読むぞ。

 青薔薇を咲かせたシャーロット令嬢は、お姫様として城に迎えられて「レティア」という伝統的な名前を授けられた。

 いばらの冠に青薔薇が咲いた場面で予感していたけど、私の知っているお姫様の名前になった!

 すすり泣きがして驚いて振り返る。ロイは読書をやめたのか、それとも読み終えたのか、両手を合わせて本を拝んでいた。


「ロイさん?」


 ハッとしたロイが私を見る。彼は少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「久々にええものを読みました」


「……泣いていましたね」


 突っ込んでいいのか分からないけど、つい尋ねていた。


「心を動かす文章だったのでつい。リルさんも泣くと思いますよ」


「それはええ意味でですか?」


「どちらかというと悲しくてです」


「悲しい物語は嫌だから、ここから先は読みたくありません」


 シャーロット令嬢はお姫様でした。その続きは気になるけれど、あの優しいお姫様が悲しい思いをするのは嫌だ。

 お姫様になってなぜ悲しくなるのだろう。知りたいけど知りたくない。

 ロイが近寄ってきて両肩に手を乗せられた。


「まさか。最後まで読むべきですよ! そしてレティア姫様がまたいらっしゃる時に席取りをしましょう」


 ロイが私の体を前後に大きく揺らすことはあったっけ。多分、無い。


「そこまで言うなら読みます……」


 今日はもう遅いのでお休みなさい。そのはずが、ロイに押し倒された。庶民同士で良かったと言われながら。

 物語はどんな風に幕を閉じたのだろう。


 ☆


 翌朝、いつもと同じ朝を過ごしていたら、目を腫らした義母と廊下で会った。


「お義母さん! 目の病気ですか⁈」


 すぐに病院! と思ったら違うと言われた。

 本の続きが気になって眠れなくなって、最後はつい泣いてしまって、目が腫れたそうだ。


「旦那様も泣いていました」


「あら、ロイも? そんなあの子を見たことがないわ」


「私も初めて見ました」


 義父も起きてきて、義母の目を心配したので同じ会話になった。


「そんなに感動する話なのか」


「気になるなら、読んでみるとええですよ」


 義母にそう言われて、興味無さそうだった義父も読むことになった。

 朝食を運んで、ロイも来たのでみんなでいただきます。

 いつものようにロイと義父を見送り、朝食の片付け。次は洗濯をしてその後は買い物。

 そのはずが、義母に本をどこまで読んだのか聞かれ、そこからはあと少しだから読んで欲しい、家事はしておくと言われた。


「洗濯はお義母さんの手が冷たいです」


「数日溜めて洗濯屋を呼びます。年末は混むから、そろそろ掃除の助っ人を頼みましょう。来週まで少し汚しておきなさい。たまには休まないと」


 時々あるけど、いつ発生するか分からない『嫁を休ませる日』がこんな風に飛び出すなんて。

 日々の節約はするけど貧乏ではない卿家——というか義母の采配のええところ。


「ありがとうございます」


「読書に夢中で散歩を疎かにしていたから、散歩がてら出前の注文に行ってきます。夜、何が食べたいですか?」


 出前までしてくれるとは大盤振る舞い。義父がまた何かしてしまい、お財布を掴まれたのだろう。


「あれだわ。セイラに何か用意させましょう。読書でええことを思いついたって言うて。行ってきます」


 こうなると義母はかめ屋の女将とお喋りしてくるだろう。


「お昼は要りますか?」


「セイラと食べてきます」


「はい。行ってらっしゃいませ」


 急に家事がなくなったので読書開始。

 これまでは少なかった挿絵が増えた。異国の皇居の絵、そこから見られるアルタイルの王都の景色。

 お姫様は世話をされ、沢山の講義を受ける。ルシーが手紙に書いてくれる皇居の世界、ソアレ様の生活みたいで楽しい。

 けど、レティア姫は寂しい思いをしている。大切にしていた姉想いの妹は、赤の他人だったから一緒に城では暮らせない。

 お嬢様学校に通うようになった妹からの手紙を読んで、ため息混じりで城の外を眺めるだなんて泣けてくる。


 ぐうっとお腹が鳴ったので、朝食で残らせたご飯をお茶漬けにして食べた。

 妹に突然会えなくなった。それが急に、姉に突然会えなくなって騒いだルルたちと重なる。

 思わず、書き置きを残して本を持って家を出ていた。

 実家に帰ってルルたちに絵を見せてあげよう。身重のルカもいるかもしれない。

 郵便で送ろうと思っていた手紙を持ってきたので、途中でミユの家に配達。

 黙って手紙を入れていくのもな。そう思って思い切って家に向かって声をかけた。

 返事があって、笑顔のミユに迎えられて嬉しくなる。

 実家に行きたいのでそう伝えて、手紙を渡したら、着いていっていいかと尋ねられた。

 そういえば、ルカたちからの手紙に兄がイオと仲良しだから、ミユも遊びに来るようになったと書いてあった。


「ルルさんにまた龍歌を教えると約束していまして」


「それはありがとうございます。ぜひ」


 家の中でミユの支度を少し待って出掛ける。読んだところまでの読書感想を話しながら実家へ向かった。

 

「イオさんがネタバレしてって言うから話しているんです」


 シャーロット令嬢はお姫様だった。それで城へ迎えられて二回目の変身をする。

 一回目の変身は田舎令嬢から都会で働くお嬢さんになった時。

 挿絵があるからイオに見せながら、こんなことがある人生は驚き、綺麗みたいな話をしたという。


「そうしたらイオさんが、貸衣装屋へ行こうって言ってくれたんです」


「貸衣装屋……新婚旅行でそういうことをしました。楽しかったです」


「ああ。エドゥアール。リルさんのお陰で私も行けるんですよ。すごく楽しみにしています」


 両手を合わせて口元を隠しながら照れ笑いするミユは、どこからどう見てもイオと婚約破棄なんてしなそう。


「かめ屋に貸本は借りました?」


「写してええと言われたので、お借りして写本しました。ありがとうございます」


 ミユのらぶゆ話も気になるし、エドゥアール話もしたい。しかし、貸衣装屋話も知りたい。


「私たちって幸せ区には行きやすいじゃないですか」


 話題が増えようとしている。幸せ区はロイが行こう行こうと言っているけど行ってないところ。

 父はルカとジンを連れて、ひくらしの業務で行ったことがある場所。


「えっと、露店や行商が盛んでひくらしも臨時出店や仕入れに行くところです。かめ屋も行きます」


「商品が行き交うから治安が悪いと言いますよね。だから旅行や観光という考えは無かったんですけど、イオさんが『俺があれば護衛は充分』って」


「幸せ区にデートしに行くんですね」


「そうなんです。貸衣装でお洒落してなんて本当に楽しみなんですけど私、また照れでツンツンしないか心配で。リルさんにコツを聞けたらなぁと」


 いつ聞こう、どう聞こうと悩んでいたら私が訪ねてきたので嬉しいと笑いかけられた。

 もっと仲良くなりたい人に頼られて嬉しい。


「コツ……。あの、なぜツンツンしてしまうんですか?」


「分かりません。喋る前に飲み込もう、一呼吸と工夫してみてはいるんですけれど。人前だと悪化するので、二人の時は大丈夫だから幸せ区でも……」


 ミユは「喧嘩したらどうしよう」と小さな声を出してうつむいた。悲しそうに眉尻を下げている。


「素直になるコツは分かりませんが、イオさんと喧嘩しないコツは兄が知ってそうです」


「とても親しいですものね。私はネビーさんと親しくなくて話す機会もほとんど無いから聞いていただけると助かります」


「任せて下さい」


 ミユが幸せ区について調べた情報を教えてもらっていたら長屋に着いた。

 階段を降りる前に、ご近所さんに「リルちゃん」と話しかけられた。


「そろそろリルさんってくらい大人びたね。でもやっぱりリルちゃんだわ。こんなちんまりだったのに若奥様なのよね〜」


 最近、「出戻りかい?」みたいに言われなくなって喜ばしい。

 挨拶をして部屋に行こうとしたら、ルカ夫婦の部屋からルカが顔を出した。


「リルって聞こえたから出てきたらリルじゃん。お帰り〜」


 すっかりお腹が大きいルカがニコニコしながら近寄ってきた。


「ただいま。家で仕事?」


「そうそう。ミユさんもこんにちは。なんで二人なの?」


「ルルに龍歌を教える約束をしてるって。あと……」


 続きの話はルカのお喋りに遮られた。ルルがすみませんとか、ありがとうとか、部屋にどうぞ、お茶を持ってくるとルカの喋りが早い。

 

「お茶なら私が淹れるよ」


「ありがとう。ミユさんにたんぽぽ茶は出さないように! お客さん用は覚えてる?」


「うん」


 実家の部屋に入ると誰も居なかった。お茶を淹れる準備をして、火はルカたちの部屋かなと覗く。

 妊婦のルカが寒くないようにか、七輪の中で炭が燃えている。

 お客さんのミユが寒いのも悪いことだから、勝手に炭を入れて火力を増やしてお湯を沸かしていいはず。

 部屋の外に七輪を持っていってもルカはなにも言わないから大丈夫そう。

 軒先で火力を上げようと竹で吹いていたら、兄に話しかけられた。稽古帰りという格好だ。


「おおー、リル。帰ってたのか」


「うん」


「ルカのためにありがとうな。あとは俺がやってやると。いやぁ〜、夜勤明けでそのまま稽古に行ったから疲れた疲れた。デオン先生は相変わらず人使いが粗い。楽しかった!」


 ミユがいると言いたいのに、ペラペラ喋るから兄が道着の上を脱ぎながらルカの部屋に入るのを止められなかった。


「うわぁ! すみません! おいこらリル! 客、しかも女じゃなかった、女性が来てるなら言え!」


 速攻で部屋から飛び出てきた兄の顔はほんのり赤い。


「言おうとしたけど早いから」


「言い訳するな! 俺はお前が本当は素早いことを知ってる。本気の時だけ早いよな! 本気で止めろよ! お嬢さんを辱めただろう!」


「……自分の行儀が悪いからでしょう?」


 せっかく帰ってきたのに怒鳴られて腹が立つ。自然と唇が尖った。


「うぐっ。そうだけど……そうだから怒鳴って悪かった。兄ちゃんが悪かったからそんな顔をするな。あっ、ちび饅頭。お客様もいるなら買ってきてやる。なっ?」


 ごめんねというように手を合わされたので「うん」と頷く。立ち去りそうな兄を見て、そうだと思い出す。


「相談もしたい」


 背を向けた兄が振り返った。


「相談? 俺に?」


「うん」


 真剣な眼差しで無言で頷くと、兄は走り出した。竹刀袋と道具袋は置いていけばええのに忘れたようだ。

 入れ替わりのようにルカが顔を出した。


「ネビーに相談ってどうしたの?」


「ミユさんのこと」


「ミユさん?」


「ルカも助けて」


「どうしたの?」


「お茶を淹れるまで待ってて」


「う、うん……」


 火を起こして、水を沸かしていたらルカとミユの笑い声がした。静かだったのに急に楽しそう。

 お湯が沸いたのでお茶を淹れて運ぼうとしたら、兄が帰ってきた。少し息が荒いし早過ぎるので走ったのだろう。


「お嬢さんにケチッて思われたくないから練り切りにした。ルルたちの分は饅頭だから内緒な」


 最近、兄は私とルカを甘やかして、ルルたちはその次くらいにする。母が我慢させた分っぽいと言っていた。


「そっか。ありがとう」


「着替えて礼儀正しく差し入れるから、ロイさんと比べてどこが悪いから教えてくれ」


 兄は実家の部屋へ入っていった。張り切り兄は偉いけど面倒くさい。

 お茶を運んでルカとミユの会話に加わる。何が面白かったのかと聞いたら、例の相談のことだった。

 ルカが「恥ずかしいとつい、言いたいことを言えなかったり冷たくしちゃう仲間」と肩を揺らした。ルカってそうだっけ。

 ジンといつも仲良し……いや、確かにルカはたまにツンツンしてる。ジンは「ごめんねルカさん」で終わりで喧嘩になってない。


「失礼致します」


 兄が来て、礼儀正しい挨拶の練習をしようとして、ルカに「よそでして」と中断された。


「ルカさん? 何事も日々の積み重ねか大切です」


「じゃあまずさっきの、脱ぎながら帰宅とかそういう雑男をやめなさい。ロイさんを見習うって全然できてないよね。養子をクビになるよ!」


「お前はまたそういう言い方をして。だからジンと喧嘩するんだよ。もっと優しく言え」


「厳しくしろって言うた口で優しくってうるさいわね」


 なんか、母と父の喧嘩みたい。二人が急に言い合いをするのは昔からだけど、なんか前よりそう思う。


「ふふっ。仲良しですね」


 ミユが笑い、兄は頭を抱えて「お嬢さんに呆れられた」と嘆いた。


「励まないと死ぬまでお嬢さんと結婚できないぞー!」


「十年あればどうにかなるんだよ!」


「イオ君に先を越されちゃって可哀想に。さっさとロイさんみたいになってすぐ結婚しろ」


「ミユさんはお嬢さんだけど尻に敷く女だから俺はもっと淑やかな国立お嬢さんがええから可哀想じゃない!」


「ちょっ、尻に敷く女とはなんですか!」


「うげっ! すみません。つい」


 ミユまで喧嘩に加わってしまった。


「イオさんですね?」


 怒り顔のミユがわなわなと震える。


「俺が勝手にそう思っているだけで、イオはそんなことは言うてません!」


「私とイオさんを見てそう思っていらしたんですね」


「いや、そりゃああの屁理屈自由人がミユちゃん、ミユちゃんって下僕になってる……から……」


 兄の顔が青ざめていく。今のは完全に失言だ。


「下僕になんてしていません!」


「してないのは知ってて、勝手になってるって言うて……やめやめ! この話題は終わり! お邪魔しました!」


 兄、逃亡。失言しまくった兄が悪い。


「あんな気遣いの出来ない男には、ネビーが望む嫁が来ない。一生独身だ。そんなの嫌だー」


 なぜかルカがメソメソしてうずくまった。


「ああ、すみません。私がネビーさんと喧嘩したせいで」


「ミユさん、イオ君に言うて『妥協しろ』って頼んで。うちの両親、特に母親の心労が積みあがっちゃう」


「妥協してではなく、結婚を考えて欲しいでええんですよね?」


「そうです」


 ルカの背中を撫でながら、私も旦那様に頼んでおくと伝えた。私って、何しに来たんだっけ。

 ルカの兄話——というか両親が心配している話から、幸せ区の貸衣装屋の話題になった。

 母がルルたちを連れて帰ってきたので、予定通り挿絵を見せた。最初の変身、都会にきて可愛いドレスを着たところ。


「うわぁ。姉ちゃんと一緒だね。今もかわええけど、前にそこでお祝いをした時はもっと綺麗だった。また見たい」


「ロカもまた見たい」


「レイも見たい! ロイさんとまたあれで来て!」


「ルル、レイ、ロカ。私がテルルさんに相談してみるよ。ルーベルさん家でお姫様みたいになる練習をしたいです。リルを手本にしたいですって。ネビーはロイさん」


 ルルたちは万歳をして、ルカにお礼を言いながら抱きついて、兄はロイみたいにはなれないとケラケラ笑った。

 ルカはすぐ手紙を書いたから、その日のうちに義母に渡して私も頭を下げた。

 

「そう。殊勝ですこと」


 義母はツンとすまし顔でそう言った。けれども翌日、私の母はこれかしら、ルカはこっちが似合いそうと、着物をあれこれ出して私に見せた。

 おまけに、一着だけじゃ町内会での貸し借りに足りないから、ルルたちには何か買わないととまで。

 嫁に甘々義母は、最近、私の実家家族にも甘くなってきた気がする。

 新しい本を読んだだけで、色々起こって不思議。


 ☆★

読書は次話まで続く予定です

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