日常編「リルの読書2」
割り込みだと投稿したと気づいてもらえないようなので「嫁の読書と火消し」とは変えて「読書2」はパロの後にしました。
文字が読めるようになったから物語を知れる。
それだけでも楽しいけど、ミユや義母との読書感想会はすこぶる面白かった。
ミユはとても親切で、私が貸す相手なら大丈夫だから、読書仲間を増やしていいと言ってくれた。
義母が、それなら「我が家で読む」を条件に貸すといいと提案。
私の友人たちは、その小一時間が嫁入り先から抜け出す息抜きになる。
義母としては、ご近所の奥さんの家に行く頻度が減って楽。
毎日、少しずつ読み進めていたら、ロイが同じ本を職場近くで見つけてきてくれた。
三は縁起数字だからという理由で、私とロイが読む用、貸出用になり、元の本はミユに返却。
嫁仲間たちの夫も買ってくるようになり、町内会では同じ本の話題で盛り上がり始めた。私が話す女性たちはそうだ。
義母は、私が読む速度に合わせてくれている。
一人だけ先に読み終わっても話す相手がいないと。
トイング家の奥さんベラが、自分は読み終わっている、義母は嫁と語り合いたいようだとこっそり教えてくれた。すっかり、テルルの娘ですねと。
ほくほく気分なので、茶道の稽古日にかめ屋の厨房で仕入れてきた新作料理を義母とベラに振舞っておいた。
シャーロットは私と同じ貧乏な家に生まれた。
それで、彼女は私とは違い、見栄っ張りで浪費家の親のせいで妹共々腹減り。
私の両親は子供のために働き、だから手伝って、家の手伝いは大人になる修行でもあると言って色々教えてくれた。
けれども、シャーロットの両親は自分たちが楽をするために子供たちに親の仕事を押し付けている。
シャーロットは、彼女が親切にしたユース王子様のおかげでダメ親から逃してもらえ、妹と新しい生活を開始。
王子妃の侍女になるための勉強をしながら、得意の勉強を活かして伯爵令嬢の先生に。これもユース王子様の計らいだ。
異国の本だから、聞き慣れない単語についての解説がたまに出てくる。
年末年始のあの行列の時は「優しくて綺麗なお姫様と皇子様」で胸がいっぱいだったけど、アルタイルに興味が湧いている。
ロイに聞いたら教えてくれて、アルタイルは煌国から見たら東にある小さな国。
煌国と大蛇の国の間、煌国寄りには沢山の小さな国があるなんて知らなかった。
煌国は近隣諸国に「仲良くいましょう」「仲良くするなら手助けします」と言って実行している。
けれども、煌国の土地は豊かで広いから、裏切って領土を切り取ろうとしてしてくる国があるらしい。
「リルさんは平和主義だからあんまり聞きたくないでしょうけど、そろそろこういう社会的な知識も学んでもらうべきなので話します」
町内会に参加し始めて、そろそろ剣術道場やロイの趣味会関係の手伝いもあるから。気合いを入れて、嫁としてますます進化する。
難しい話なのに、ロイに後ろから抱きしめられて座っているからイマイチ集中力に欠けるけど。
「はい、学びます」
煌国は「裏切ったら隷属させる」と宣言している。
親睦を深めるなら協力を惜しまない。互いに無視するというのなら決して踏み込まない。
友好を突っぱねておいて、領土に踏み入ったり技術や知識を奪うというのならまず親睦を要求する。
皇族たちは代々、そういう平和主義で今の皇帝陛下も。
王都や旧都から離れるほど土地が痩せ細るので、そんな土地は欲しくないし、統治する場所が増えるのは大変だから。
「だから、眠れる龍を起こすななんて格言があるんですよ。龍はなんだか分かりますか?」
「龍神王様ですよね?」
「そうです」
裏切り者には天罰が下る。しかし、龍神王様は煌国を守り、豊かにすることで忙しい。
副神様たちまで動員しているし、その副神様たちは自由気まままで言うことを聞かない。
既に知っている話と繋がって面白い。
そういうわけで、龍神王様に代わって皇族が裏切り者粛清——罰を与えることと、国防を担う。
「ネビーさんが崇拝するドルガ様が中心です。ご存知のように自分も憧れています」
「クララさんが見せてくれた浮絵が格好良かったので買いました」
ロイに、浮絵入れに増えた絵を見せた。いつものお礼に兄にも送ったと。
ドルガ様に興味を持った私に、ルシーが皇居で仕入れた話をしてくれたからその手紙も一緒に入れてある。
「ドルガ様はルシーさんが仕えるソアレ様の叔父だそうです」
「そうでしたね。そうか、リルさんは凄い方と繋がっていますね」
「縁って不思議ですね」
私、ルシー、ソアレ様と繋がるドルガ様は普段は中央東部と言われる地域で暮らしている。そこが一番、守りが不安定だから。
飛行機と飛行船を操縦できる権限と能力を持っていて、国防が必要な場所に馳せ参じてくれる。
兄も言っていたけど、ドルガ様が来てくれれば煌国軍はどんな劣勢からでも巻き返して国を、民を守って敵を追い払ってくれる。
全兵官の元帥になってから、一度も負けたことのない龍神王様の加護を受けた皇族の中の皇族。
「ドルガ様のことを知っていたら、煌国とは仲良くしておこうって思いそうなんですけど、他国が時々喧嘩をふっかけてくるなんて不思議です」
「リルさん、自分もそう思います。実際は、ドルガ様の逸話が創作じみていて異国の一部では、存在しないと思われているんです」
「大切なことなのに調べないんですね」
「だから隷属化になるんです。龍神王様の生活範囲外で愚王の下に生まれてしまった民は可哀想です」
煌国の言う隷属とは、罰金またはそれ相応のものを払って有事には協力しろというもの。
許すまで国を豊かにする手助けなんてしない。自国のことは自国で励み、二度と侵略するなと宣言する。
王が変わって「友好」を望むなら応じるけど、信用や信頼はすぐには生まれないから誠意を見せろと言う。
「ロイさん、当たり前のことですね」
「ええ」
私たち自慢の国——煌国もいつも正しいわけではない。
かつて「煌国が統一すれば大勢の人が豊かになる」と考えた皇族がいたことがある。
中間の土地の権利についての話し合いが決裂。美しい女性を巡って争っていたこともあり、大蛇の国と大喧嘩。
戦争反対派が立ち上がって皇族同士、皇居内でも大喧嘩。
それが落ち着いて、友好を結びましょう、全部は悪くないけど煌国にも非があると正式な休戦を提案したのはわりと最近のこと。
「フィズ様は『先に信頼を示します』と婿入りしました。その時の従者は二人だけ。持参金は謝罪の一部。煌国皇族は友好国を豊かにする責務があると言って励みました」
「フィズ様の婿入りってそういうことだったんですか⁈」
かいつまんだ噂しか知らなかったので仰天だ。
★☆
その頃の流星国。フィズはくしゅんっとくしゃみをした。今夜は珍しく早く寝ると、もう寝具の中にいる。
「息子たちが私に会いたがってくれているのかな」
本を読んでいた妃、コーディアルは夫フィズの肩にケープをかけた。フィズも本を読んでいて、二人とも上半身を起こしている。
「エリニスもレクスもまた会いに来てくれますよ」
「セレーネも元気だろうか。それにカールも。みんな帰ってきて欲しい。一緒に暮らしたい」
「そうですね。カールにはそろそろ会いに行きましょうか。私もアルタイルへ行ってみたいです」
「ああ、そうだった。アルタイル王は女性に興味がないそうだし、煌国で大人気で怖かったユース君は婚約して……ディオク王子がいるな」
「十代の若者と恋になんて落ちませんよ。そもそも、私の王子様はフィズ様だけですと何度お伝えしたら信じるのですか」
「私は君の気持ちは疑っていない。君が口説かれることが嫌なんだ」
「ディオク王子は私を口説きませんって。やだやだ言っても、アルタイルに行きますからね」
娘の親友に会いに行く。またあのレティア姫と会う。娘も連れて。娘の体調は良さそうだけど、心配だから親として付き添う。コーディアルはそう笑った。
「留守の間、この国をお願いしますね」
「私も一緒に行くぞ! ルタ君はそろそろ留守番できる」
「彼が首を縦に振るならそれで。私も旦那様と異国散策をしたいです」
「そうしよう。ルイにバレないように行かなければ」
その頃のアルタイル王国、宰相執務室でユース宰相は悪寒を感じた。
珍しくくしゃみが出て、積み上げている書類が宙を舞う。
「ああ、悪い。すまないが拾うのを手伝ってくれ」
ユース宰相は散らばった書類を自ら拾おうとして、臣下たちに声をかけた。
そして、交代制で働く臣下たちに、早朝からずっと働いているからだ、帰って休めと怒られた。
「ははは。ありがとう。筆が乗ってつい。大蛇の国も煌国も私を働かせ過ぎだ」
その通りで、親睦を強制されたアルタイルは、友好の証として「人材」を差し出した。もちろん、それも「強制」だ。
豊かな国は金銭を望まず、別のものを要求した。小さな小さなアルタイル王国はもちろん断れない。
親切を押し付けるのも、友好を蹴ったら「喧嘩するのか?」と睨んでくるのも煌国得意のやり方だ。
欲しいものがあれば強さを利用して奪う。煌国が周辺諸国で「ハイエナ」と呼ばれる由縁。
「しかし、見返りは砦の建設だぞ。早く取りかかって欲しい。心配はありがたいが必要最低限の休息は取っている。終わったらしっかり長く休む」
そのユース宰相をレティア姫が訪ねてきた。何か手伝えることはあるかと。
「まさか。何もないさ。今日も一日、この国のためにお疲れ様。君が気にするから私も終わりにする。君たちも残業はしないように!」
ユース宰相の悪かった顔色は少しは良くなり、軽快な口調と同じ足取りで執務室から出て行った。
臣下たちが次々と「ご結婚されて良かった」と口にする。
「あのユース様が」
「聖女様との結婚で他国にも取られないしユース閣下、アルタイル万歳!」
「終業時間まで励んで宴会をするぞ!」
「今日も宴だー!」
臣下たちは疲れているせいで、最近、仕事が終わると飲み会三昧だ。
アルタイルは侵略戦争を仕掛けられて疲弊していたが、その回復どころか戦争前以上に豊かさを増している。
恵の聖女レティア姫戴冠と、有能な宰相たちが有能で優しい王を支えているからだ。
彼らは国内整備だけではなく、外交で大国から豊かさのお裾分けをしてもらい始めている。
★☆
私はロイの話にすっかり夢中。
アルタイルは煌国と大蛇の国の喧嘩の時に巻き込まれた。なにせ、間にあるからだ。
ただ、争いの道とは外れているからそんなに迷惑はかけてないらしい。
ロイは絵を描いてくれたから分かりやすい。
「この辺りの国は静観の地と言うて、大国外交には出てこないことで自国を守っているみたいです」
「それなのに年末年始のお祭りの時は来てくれたんですね」
「大きな国に『仲良くしよう』と言われたら、脅しだと思って従いますよ。だからアルタイル文化も煌国に流れてきています」
「じゃあ、あのレティア姫様やユース皇子様はビクビク、ドキドキしながら来てくれたってことですか?」
「ええ、きっと。それなのにあんな風に笑って母上に大変、親切にしていただき、頭が上がりません」
ロイが聞いた噂だと、アルタイルは煌国にほとんど要求をしないそうだ。
技術や知識——主に本などを持ち帰りたいと言うくらい。
けれども、煌国の役に立ちそうな情報などはどんどんくれるという。
煌国の奉巫女様と同じような、祈ると神様に時々恵みを与えてもらえるレティア姫様が祈念に来てくれたのも自主的なものだったそうだ。
「新年のご挨拶の手土産が金銀財宝ではなく本物の祈り。皇帝陛下は大変、お喜びだったそうです。自分たちも幸せでしたね」
「疲れない程度にまた来て欲しいです」
「婚約中のユース皇子様と結婚したら、またご挨拶にきてくれるそうですよ。あんなに歓迎されるなら、各地の大神宮で祈る、街の中を歩くと言うてくださっているそうです」
「席取りをしたら、また二人を見られるかもしれないってことですか⁈」
「おそらく。また早く情報を手に入れないといけません」
煌国とアルタイルがどんな繋がりがあるか分かったら、ますます読書が楽しみになった。
「それにしても、本ではまだシャーロット令嬢なんです。なんでここからレティア姫様になるんですか?」
「ネタバレが嫌なので、リルさんが読んだところまでしか読まないようにして、外からも情報を入れないようにしているから分かりません」
「配慮していただき、ありがとうございます」
「一緒に感動を味わいたいからです」
今夜はこのまま読書はしないでロイと寝ることにした。




