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#15 「先」へゆく



 ごめんな、と声が言った。こわがらせてごめんな。言いながら、リーの頬をなでる。

『遺跡に入って最初におまえらと離れたときに、俺はあの野郎におかしな術をかけられていたんだ。そのときの記憶をヤツに飛ばされててすっかり忘れてたが』

 リーは眠っていて、けれどハーディが座っているのを彼の横から見ている。まるで実際に彼の隣に座って話を聞いているように。

 聞け、とハーディが言った。


『あのキザロリ野郎――セドリックはイムラーンだ。小僧とは違う、イムラーンとしての知識を持ってる末裔だ。最初からヤツは俺の姿が見えてた。どうりでうさんくせーと思ったわけだぜ。あいつは俺が“何”なのかと、俺たちの使い方を知ってる』

「使い方?」

『ああ、“使い方”だ』


 ハーディが笑んだ。あたたかくて大きな手がくしゃりとリーの髪を混ぜる。

『悪い。思い出したばかりで、俺もまだ混乱してんだ。もう少し休んでいく。それまで連中から小僧を守れ。絶対に渡すな。できなければ、俺を呼べ。俺が小僧を――あの最後のイムラーンを殺してやる』

 ハーディの青いひとみが決意をたたえるように色を深めた。




      *




 目覚めたとき、リーはアーシェの背に負われて坂道を上がっていた。海風。あたりが暗いので、まだ洞窟のなかなのかと思う。


「アーシェ、」

「気づいた?」


 返事をして、アーシェが海底遺跡を抜けて地上に出たこと、今は夜であることをリーに説明した。

「長いこと地下におったからなあ、サンサン照っとるお日様の下に出たら目が潰れてまう。ラッキーやったで」

 低く振動するようなアーシェの声と体温が心地よい。見た目よりも広くたくましい背中に頭をあずけたまま、リーはまばたきをする。

 星があった。流れていく星のあとをおうように風が吹いて、リーの髪をなでていく。乾いた風。地下での、息詰まるような閉塞感がない。大空(だいくう)へおおらかにぬけていく、気持ちのいい風だ。

 リーはそれを胸いっぱいにすいこむ。アーシェ、と呼んだ。口の中でつぶやくような声だったが、アーシェはきちんと拾ってくれた。言う。

「オレな、謝られるより(わろ)て“ありがとぉ”って言われたい人やねん」


 『迷惑をかけてごめん』。

 『何もできなくてごめん』。


 まるでリーの心うちを読んだかのように、アーシェがおだやかに笑う。

「オッサンの様子がおかしかったのは目に明らかで、リーは一生懸命オレを守ろうとしてくれたやん。うれしかったで」

「……」

「ほら、あの灯台や」

 アーシェが坂道のうえを指さした。

 まるで市街地のある陸地から空へとのぼっていくようだと思ったことがある。切りたった崖の上にぽつんとたたずむ、真っ白な灯台。

 ビガンの大灯台。

 目に留めて、リーはアーシェに言う。


「アーシェ、歩くよ」

 リュックの分もあるし、ブーツも見た目より重い。アーシェは分銅をつけているし、加えてリーの体重分だ。これ以上アーシェに負担をかけるわけにはいかない。

 リーはすみやかにアーシェの背中から降りる。アーシェに言われた通り、なるべく自然な笑顔をつくった。


「ありがとう」

「よし、その調子や!」


 アーシェの曰く、アーシェの中から聞こえる「導きの声」は灯台の方へ続いているそうだ。父とセドリックが依然とリーたちを追っているのであれば当然家には戻れないし、ゼノンたちと合流することも難しいだろう。

 なによりリーの好奇心をかきたてるのは、アーシェの中の「声」がリーたちをいったいどこへ導こうとしているのか、だった。ビガンの大灯台がゴールなのか、それともさらに「先」があるのか。


(「先」)


 ぶる、と体が震える。見とめたアーシェが寒いのかと問うたが、リーは否定した。

「…何が起こるんだろうって思って」

 不思議だとリーは思う。何度となく通った坂道、靴底に当たる地面の感覚。勾配。途中に振り返って見える街の景色、海の景色を覚えている。

 なのになぜだろう、まるで初めて歩く道のような高揚がリーをわくわくさせるのだった。


「鍵とかついてへんの?」

 扉をあけて灯台の中へ入りながら、アーシェが言った。おじゃましまーす、と誰にともなく続けるのを背中に聞きながら、リーは奥の基層部へとすすむ。

 アーシェが首をかしげた。


「声が聞こえなくなった」

「たぶん、その必要がなくなったからじゃないかな」


 リーはランプを手に取る。遺跡の中にいたときには一部分だけしかなかった文字が、表面の黒ずみを自ら払って、そのすがたを明らかにしつつあった。呼応するように、アーシェの胸の紋が真珠色の光をともないながら現れる。

 黄金色に光るランプと真珠色の花紋。

 変化はすぐに起きた。

 まるで上層部のレンズがひっくりかえったような光溜まりが天井にあらわれたかと思うと、まもなく床面を貫いたのだ。その光がリーたちから見て正面の壁に反射し、そこへいくつかの文字をつくりだす。

 リーは声に出して読み上げた。


「“いざ、故郷へ、帰ろう、同胞よ”」

 リン、と灯台が鳴った。



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