第四章 二人の天使
悪魔の腕が振り上げられた。
「アリヤ!」
ひかるは反射的に駆け出した。
アリヤの前に飛び込み、両手を広げる。
怖かった。
足が震えていた。
それでも、身体は勝手に動いていた。
「逃げて!」
「ひかる、だめ!」
アリヤの叫びと同時に、鋭い爪が振り下ろされた。
ひかるは目を閉じた。
その瞬間。
――キィン!
金属がぶつかり合うような、高い音が響いた。
いつまで経っても痛みが来ない。
恐る恐る目を開くと、ひかるの前に、白い光をまとった人物が立っていた。
銀色の髪をした青年だった。
その背には、大きな白い翼が広がっている。
青年は光る剣で、悪魔の爪を受け止めていた。
「……まったく。危なっかしい子だね」
青年は呆れたように呟いた。
「だから言ったでしょう。人間の身体で悪魔に飛び込んじゃいけないって」
「え……?」
ひかるは言葉を失った。
青年はちらりと振り返る。
「怪我はない?」
「あなた……誰?」
「君の守護天使だよ。」
そのとき、もう一つの光が空から舞い降りた。
今度は、金色の髪をした少女だった。
少女にも、真っ白な翼が生えていた。
彼女はアリヤのそばに降り立つと、そっと肩に手を置いた。
「大丈夫。もう怖がらなくていいよ」
温かな光がアリヤを包み込む。
アリヤは呆然と少女を見つめた。
「天使……?」
「そう。私たちは、ひかるを守るためにそばにいたの」
金髪の天使は微笑んだ。
「でも、今日はあなたも守る」
悪魔は忌々しそうに舌打ちした。
「守護天使が二人も……。なるほど、あの娘に契約を拒まれるわけだ」
銀髪の天使が剣を構える。
「お前はやりすぎた。契約を拒否した人間の命を、力ずくで奪おうとするなんて」
「契約が取れないなら、殺して何が悪い?」
「それが許されると思っているの?」
金髪の天使が静かに尋ねる。
悪魔は笑った。
「許しなど必要ない。欲しいものは奪えばいい」
次の瞬間、黒い影が無数の刃となって飛び散った。
「伏せて!」
銀髪の天使が叫ぶ。
光の壁が現れ、ひかるとアリヤを包んだ。
影の刃が壁にぶつかり、火花のように散っていく。
激しい衝撃に、ひかるは思わずアリヤを抱きしめた。
「大丈夫、アリヤ?」
「……うん。でも、ひかる……」
「何?」
「どうして、そこまでして私を守ってくれるの?」
ひかるは少しだけ考えた。
そして、答えた。
「だって、アリヤは何も悪いことしてないから」
「でも……私が悪魔の言葉を信じたから……」
「おばあさんに会いたかったんでしょう?」
アリヤは黙って頷いた。
「それって、悪いことじゃないよ」
ひかるは彼女の手を握った。
「大切な人に会いたいって思うのは、普通のことだよ。悪いのは、その気持ちを利用した悪魔のほう」
アリヤの瞳から、涙がこぼれた。
そのとき、金髪の天使がふと振り向いた。
「……ひかる」
彼女の表情が、真剣なものに変わっていた。
「その子の手を離さないで」
「え?」
「悪魔の狙いが、わかったかもしれない」




