第二章 ふたりのアリヤ
「ひかる、お願い。私を助けたいなら、ひとつだけ約束してほしいの」
目の前に立つアリヤが、そっと手を差し伸べた。
その声も、顔も、仕草も、ひかるが知っているアリヤそのものだった。
けれど、何かが違う。
「……アリヤ、その指輪は?」
ひかるが尋ねると、アリヤは不思議そうに首を傾げた。
「指輪?」
「おばあさんからもらった、大切な指輪。いつもつけていたでしょう?」
アリヤは一瞬、表情を強張らせた。
しかし、すぐに微笑みを取り戻す。
「ああ、あれね。なくしてしまったの」
「……嘘」
ひかるは小さく呟いた。
アリヤがあの指輪を簡単になくすはずがない。
あの指輪を返したとき、アリヤは泣きそうなほど安心していた。
「あなた、誰?」
ひかるが後ずさると、アリヤの笑顔が消えた。
「どうして、そういうことを聞くの?」
「あなたはアリヤじゃない」
「ひどいなあ。助けてくれるって言ったじゃないか」
声が変わった。
少女の声に、低く不気味な男の声が重なる。
「だったら、契約してくれよ。お前の命と引き換えに、あの子を助けてやる」
その瞬間、ひかるは確信した。
目の前にいるのは、質屋で出会った悪魔だった。
「嫌よ。私はあなたと契約しない」
「だったら、あの娘はどうなる?」
悪魔はアリヤの顔のまま、楽しそうに笑う。
「お前が断れば、あの娘は死ぬかもしれないぞ」
ひかるの胸が締めつけられた。
怖かった。
自分が死ぬのも怖い。
けれど、アリヤが傷つくのはもっと嫌だった。
「……そんなこと、させない」
「ほう?」
「アリヤも守る。私も契約しない。あなたの言いなりになんか、ならない!」
悪魔が静かに笑った。
「欲張りな娘だ」
そのときだった。
「……ひかる?」
背後から、聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこにはもう一人のアリヤが立っていた。
買い物袋を手にして、驚いた顔でこちらを見ている。
「どうして……私が、そこにいるの?」
本物のアリヤだった。
ひかるの前には、アリヤの姿をした悪魔。
そして背後には、本物のアリヤ。
二人のアリヤが、同じ場所で向かい合っていた。




