名探偵ぼく
再びのテオドールのお話です。
「テオドール様。エルナ様からお茶のお誘いをいただいております。今日の自由時間にお受けするとお返事をしてもよろしいですか?」
朝の授業が終わり、家庭教師の先生と一緒にお茶をいただいていたら、侍女がお伺いをたててきた。
僕はエルナお義姉様からのお誘いに嬉しくなって、勢い込んで了承した。
「もちろん!すぐにお返事してきてください!」
前のめりで椅子から落ちそうになっていたのか、そっと椅子に押し返されると、「承知いたしました」と言って侍女は部屋を出て行った。
嬉しくて一気に飲み干してしまうと、部屋に残っていたメイドがすぐにおかわりを注いでくれた。
「エルナ様といえば、クリストフ王太子殿下の婚約者様でいらっしゃいますね」
「はい!僕のお義姉様になられる方です!」
「テオドール様はエルナ様と親しくされていらっしゃるのですか?」
「はい!先日も兄上のカッコいいとことをたくさん教えてさしあげました」
「おや、ではテオドール様はエルナ様の先生をされているのですね」
「……先生、はわ〜、そうかもです!」
だって、兄上のカッコいいところを教えてあげているんだからね!
「テオドール様から見て、エルナ様はどのようなお方ですか?」
「うん?う〜ん、エルナお義姉様は……」
家庭教師先生の問いかけに、僕は改めてエルナお義姉様のことを考えてみた。
エルナお義姉様は、僕の大好きな最高にカッコいい兄上の婚約者様だ。
王族になるため一生懸命お勉強したり特訓したりしているらしい。
初めの頃はなかなかご一緒できなかったけれど、最近はお声をかけてくれることも増えて、一緒にお茶をしたりおしゃべりしたりできて、僕は嬉しい!
だって兄上は、いつも忙しそうだから、なかなか僕とお茶をしたりおしゃべりをしたりしていられないんだ。
でも、エルナお義姉様といると、兄上がやってきて、一緒にお茶できるし、兄上はたくさん僕のお話を聞いてくれるから、僕はとってもうれしい。
そんなことを僕は一生懸命家庭教師先生に説明してあげた。
「ふふふ、仲良くされていらっしゃるようで何よりです」
そう言って笑うと、僕たちはもうしばらく一緒にお茶をして、おしゃべりをした。
なんのお話をしたかは忘れちゃったけどね!
そうして午後の授業を終えると、僕は急いでお義姉さまの元を訪れた。
「お待たせいたしました!」
「ようこそテオドール様。お忙しいところをお誘いしてしまい申し訳ありません」
午後の授業の先生は、絶対時間通りに終わってくれるけど、キビキビしていて僕はちょっと苦手。
先生といっても、父上のお姉様だから、僕に容赦がないんだと誰かが言っていた。
やっぱり!
そんな気してた!
あれ?なんかおかしいな?って思うことが何度かあったきがするもん。
それはさておき、僕はエルナお義姉様の笑顔にほわ〜っとした気分になって、そういうことはどうでもよくなって着席した。
「お誘いいただいたのに、こんな時間になってしまってごめんなさい」
「いいえ、急にお誘いをしたのはこちらです。まずはどうぞ、お菓子を召し上がってくださいな」
「わあ!いただきます!」
エルナお義姉様が差し出してくれたお菓子は見たことのないものだった。
それは甘そうなクリームがちょっとしょっぱかったりして、チーズみたいに濃厚で、あまじょっぱさが癖になりそうなお菓子だった。
お口の中の甘いしょっぱいを紅茶で洗い流して満足していると、エルナお義姉様がなにかの紙を差し出してきた。
「今日お時間をいただいたのは、実はこちらをテオドール様にご覧いただくためなんです」
そう言って差し出された紙を覗き込むと、そこにはおそらくクレヨンで描いたであろう何かの絵が描かれていた。
「ん?こちらはなんの絵ですか?」
僕は何が描かれているのかわからかったから、素直に質問を知ると、エルナお義姉様は顔を真っ赤にされて頭をさげた。
「ですよねええ〜〜〜。実はこれ、わたくしの妹が描いたもののようなんです。テオドール様に、という宛先だけは母の字で書かれていたのですが、これだけお渡ししてもきっとなにがなにやらわからないだろうと思って……」
なるほど!
それでお茶の席をご用意してくださったんですね!
ふむふむ、と訳知り顔でうなづいた僕は、「つまり、」と続けた。
「これが何かを一緒に考えるんですね!」
「ご名答〜〜〜〜!!あっ、その通りです〜〜」
どうやら先日一緒にお食事をしたご家族がお手紙を送ってくれたらしいのだが、確かに僕にはここに何が描かれているのかわからない。
お義姉様もわからないというので、一緒に解読しようということだろう。
(ふ〜ん。……おもしろそう!)
それから僕らは、ここはきっとこれじゃないか?この色だからきっとこーであーで、などと解読を進めて行った。
「肌色だからきっとお顔ですね。髪の色は灰色で描かれていますけど、おそらくクリストフやテオドール様のような銀髪を描きたかったのだと思います」
「わかります。銀色のクレヨンって僕はまだ見たことがないです」
「あら、では今度見つけたらお贈りしますね。それで、瞳の色は青のようです」
「では、僕か兄上ということですね」
「ええ。そして、髪をくるくると描いているので、きっとテオドール様を描いたのではないかと思うんです」
「僕は髪がくるくるしてますか?」
「妹にはきっとそう見えたのかもしれません。もしくは、そうとしか描けなかったのかもしれません。テオドール様のお髪はふわふわでいらっしゃいますよ」
ふわっ
エルナお義姉様の笑顔のほうがふわふわな気がします。
「それで、こっちがきっと妹自身だと思うんですよね」
紙いっぱいに大きく描かれたおそらく僕の隣には小さい女の子。
「この紫が何かわからないのですが……」
お義姉様はその丸い紫がわからず頭を抱えている。
小さく、「ブラックホール?」とか「何の球?」とか「ボール遊びしたいとか?」と推理をしているようだ、けど……
エルナお義姉さまの妹ということは、これはもしかすると僕にはわかったかもしれない!
「これは、ブドウかもしれません」
「ブドウ?」
「ええ、先日のお食事の折、アンゲラちゃんのブドウが落ちたので僕のをあげたんです」
「ああ、それで。ということはこの絵はそのお礼かもしれません」
「あれを覚えていてくれたのかな?うれしいな〜」
「ご迷惑かもしれませんが、妹がテオドール様にと描いたようですし、よろしければ受け取っていただけないでしょうか?」
「もちろん、喜んでいただきますよ!ありがとうございます!」
僕は幼い女の子が一生懸命に描いてくれた絵を大切に受け取った。
ちょうどその時、兄上が僕たちのところへやってきて、お義姉さまの隣に座ったので、僕は今受け取った絵をどうやって解読したのかを兄上に教えて差し上げた!
「へえ、それはいいね。テオドール、アンゲラ嬢にお返事を書いてあげないとね」
「!その通りですね!早速お返事を書こうと思います!」
兄上の素晴らしい提案に僕は一も二もなく飛びついた。
幸い今日の自由時間はまだ残っている。
早く書いて今日のうちにお返事を送れば、きっと早く着くだろう。
そう思って僕は急いで兄上たちの前を辞去したが、何を書けばいいか、それとも描いたほうがいいのか悩みに悩んで、気づいたら翌日の朝になっていた。




