=湧き立つ決意を逃すな=
「今、道はこんな感じなんだけど。」
「うわぁぁ、……酷い有り様だね」
まだ少し温もりのある端末。
開始直後から映されていたのは変わり果てた地球の道の様子だった。
ついさっきまで気軽に歩けていたとは到底思えない。
歩いてきた道の変わり果てた姿が飽きるほど続いていた。
「こんなに、歩きにくいなんて……」
膝下まで埋まる程、地べたの悪い中、足を上げて、沈めて、を繰り返し一歩一歩、進んでくれている。
「はぁ、はぁ、なんでこんなになっちまったんだろうな……」
何度も、何度も……同じシーンの繰り返しを黙って木の下から観守っていた。
すると、
「お、あそこじゃない?」
彼の足取りが少し速くなる。
もうすぐ……?
「いたいた。ここだ。」
そう指を差した道の先に三人の姿が写りはじめる。
「良かった。ビストもノーザもロロニも大丈夫そうじゃん。」
三人共の存在を確認し、強張っていた肩の力がようやく抜けた。
その場へ近づき、私のために様子を教えてくれる。
「あぁ、止まったままだけれど、見た限りでは命に関わるような変化は無いみたいだ。」
やっぱり動いていない……か。
色々と持ち方を変え、どうにか別の場所に動かそうとしてくれているが、
「だめだ、このままじゃ……動かせない」
「ごめんね、厳しそうなら無理に助けなくても」
「ぅーん、これからどうしよう……か」
手から端末が落ち、空が逆さまに突き刺さった。
「な!?」
!?
画面奥に映り込んだ黒い影。まさか……あれの別の個体?
「えぇ!もう一体居たの!?」
「そっちに奴はまだ居るの?」
私は目の前を確認した。
まだ奴は建物の残骸に絡みつき、よじ登るようにのっそりと動いていた。
「ちょっとずつ移動しているけどまだ近くで壊してるよ……」
「え……と。」
「絶対危ないから離れようよ。」
最悪だ。
何もかもが。
とぼとぼと引き返し始める彼。
疲れきっているのだろう。
奴は複数体居たのか……。知りたくなかった。
彼らが、私が一体何をしたというのだろうか。
なんでこんな目に遭わなくちゃならないのか。
今の私にその思いをぶつける場所は分からなかった。
……。
端末から一定のリズムで聴こえてきた足音が途絶えた。
彼が何気なく歩みを止めた。
──?
そして拾いあげたのは……緑色の植物の一部?
彼が触れた瞬間それが溶けて縮み、ボタボタと落ちていく──。
──???
「はっ、なんじゃこりゃ!」
「うぇあ!!溶けてんじゃん!すごいじゃん!」
「はい?!落ちていた葉っぱを触ったら溶けたんだけれど!?」
少しばかり興奮することができた。
「ねぇ!もっとよく見せて!!というか早くこっちに戻ってよ!」
「え、怖い、怖いって。」
「急いでよー!待たせすぎだって。」
「待ってよ、足が凄まじいんだって。」
……しばらくして。
「おーい。」
「あー、疲れた」
「ありがとね、様子を見に行ってくれて。」
ようやく来てくれた。
「ほら、この葉っぱが……」
「うわぁ、地球の植物っていつもこんなんじゃないよね!」
「そんなはずはないが!?」
私らだって今まで見て触れてきたし、そりゃそうか。
「なんなんだぁ?もう。」
彼の足元は汚れてぐちゃぐちゃになっていた。
「あー、もう駄目、疲れた!」
彼は疲れているようだ。
まぁ、無理もない。
同じ木の下、私の側で手足を広げ仰向けに寝転がる。
「ガッシャーン。ギギギチャアアア」
重たい駆動音に粘っこい泥のような建物が叩きつけられ、練られ、悲鳴のよう。
悲惨だった。
彼は鳴り止まないその音に耳を塞いでいた。
でも私は伝えたかった。
「キミの能力使えばどうにかなるんじゃないの?」
と。
「へ?」
「だから、キミの手に宿したその能力なら、あれを溶かせるんじゃないの?」
「はい?」
「色々触れて試してみようよ!」
彼は少しの間頭を抱えていた。
「……やってみなきゃわからないか」
純粋な興味、面倒臭さ、不安、世界を救いたい、とか。
その言い方が私には全く違う思いが混ざっているように聞こえた。
結局木の根から腰を上げてくれた。
立ち上がったその後ろ姿は彼から感じたことのない灰色以外の、もっと明るい色がついていた。
「私も」
と、勇気付けられた肩に手をかける。
「大丈夫なの?無理しない方がいいよ」
無理では決してない。私の中にはもう選択肢が残されていないのだから。
「今度は私もついていく。もしかしたら溶けていくかもしれないあれを間近で見てみたいし、何より正体を知りたい。」
──そう。純粋に知りたい。
──心も言葉にも嘘はない。
私はこんな気持ちになるために、こんな思い出のために、あの星を出た訳じゃない。
この星はまだわからないことだらけだ。
いつかの私とはもう違うんだ。




