最終話 そんなわけあるかと叫びたい
すっかり元通りの生活を送れるようになった俺は、アルカと共にセバンのお見舞いに行くことにした。
事前に警備隊が話を聞きに行くような予定がないことは確認済。落ち着いて話が出来る。
安い辻馬車に揺られて王都に向かい、一番大きな病院で受付を済ませる。
「セバンちゃん元気かな?」
「会ってみりゃすぐ分かる事だ」
「それもそうだね」
セバンの病室は二階の端。この病院をあの屋敷に例えるなら、セバンは同じ部屋で入院しているように思えた。
扉をノックすると返事があり、中に入ると一人の少女が静かにこちらを見つめていた。
「こんにちは。助手のアッシスタだ。これ、お見舞いの品」
「探偵のアルカだよ。こんにちは」
「こんにちは、わあ! リンゴですか、ありがとうございます。好物なんです」
「そりゃよかった」
アルカは鹿討帽を取り、椅子に座って膝に乗せる。俺も手土産の果物をサイドテーブルに置いてから椅子に座った。
あの瓦解している屋敷の中で助けたセバンは、今はだいぶ顔色がよくなっていた。ガリガリなのは変わりないが、元気はよさそうだ。
「探偵さん、助手さん。あの時は助けてくれてありがとうございました」
「いや、俺は謝らなければならない立場だ。すまない。すぐに君の人形であることに気付いて捜索していれば、もしかしたら……」
「ああ、このことですか」
男性の俺があまりはっきりとは言いづらかったが、セバンは気付いて自分のお腹を擦った。
「ワンスさんが私を殺さず、監禁した時点で気付いていましたが、やはり私を殺すほどの覚悟は無かったようです。毎日わずかに持ってくる食料に薬を混ぜ、私は子どもが産めない身体になってしまいました」
「もうワンスが未来で生まれる可能性は潰えたという事か」
ワンスがセバンに薬を盛って子どもを産めないようにさせたということは、未来ではセバンの子孫が研究者となって活躍したのだろうと予想できる。
しかし、セバンからワンスへと繋がる線は断たれたことで、希望も断たれてしまった。もうワンスが未来で生まれることはない。
「未来は変わったとでもいうべきか」
「確かにワンスさんがこの時代にやって来たことで私の両親は亡くなり、能力の研究もストップが掛かりました。それによって未来は変わりましたが、まだ糸は途切れていません」
「なんだって?」
セバンが思わぬ発言に首を傾げると、誰かが扉をノックした。セバンが「どうぞ」と声を掛けると、一人の女の子が入ってきた。髪を隠す大きな鍔付き帽子にサングラスとマスク。いかにも怪しい風貌の少女は、俺たちの傍で立ち止まると、その変装を解いた。
「ふう! 流石にサングラスが曇ると歩きづらいね」
「……え? いや、なんで。セバンが二人?」
その少女はセバンとそっくりの容貌をしていた。まるで双子のようにそっくりで、もしセバンが健康な状態なら入れ替わっても気付かないだろう。
「き、君は?」
「私の名前はオーラル・イクシス。名前は知らなくても浮気相手の娘、といえば分かるかな?」
「浮気相手……、ま、まさか! ローヴァの娘か!?」
「正解!」
「でも隠し子はいないはず」
「その推理が外れってことだねー。事件的には偽物の存在なんていてもいなくても変わらないけど」
当主サルコスが過去は何かやましいことがあった。俺はそれを若気の至りとしてどっかの誰かと推理したが、ワンスが未来人だと確定した時、サルコスの浮気相手の子がいる可能性が復活した。
「日記帳を読み返していたらやっぱりローヴァさんとの子がいるんじゃないかなって思って探していたの。もしセバンちゃんとイクシスちゃんの入れ替わり、または二人組の研究者だった場合、近くにいるんじゃないかなって思ったんだ」
「屋敷内に隠れる場所なんて、あの地下牢以外にあったか?」
屋敷は広いし探していない部屋もあった。しかし、ワンスさえも知らないイクシスが屋敷内で隠れられたとは思えない。
「外にあった小屋だよ。内側はただの物置に見えたけど、地下牢と同じで床に隠し扉があったんだ。その先がイクシスちゃんの研究室になっていたよ」
「サスパート家の敷地ってどうなってんだ? 地下室多くない?」
「せっかく王様が屋敷をくれると言うのですから、設計は私とイクシスでやりました。パパとママは、最後まで王様に恐縮して口は出してきませんでしたし」
「私とセバンは半分だけ血が繋がっているけど、母は双子でどちらも母に似ちゃったから、ほら、私たちも双子みたいでしょ?」
イクシスがベッドに腰かけ、セバンと並んで見せる。同じ髪に同じ瞳、二人を視界に収めるとやはり違いなんてほとんどなかった。聞けば身長と体重もほぼ同じで、町に出ても入れ替わっていることには気付かれなかったらしい。
「イクシスは監禁されていたセバンの世話をしていたのか?」
「そうだよ。じゃなかったらもう死んでたんじゃない? 足枷が無ければさっさと外して逃げたんだけど、あれも未来の物かな? 全然壊せなかった。牢屋の鍵は外せたから、足枷を壊せていたら、地下室と隠し扉で繋がっている外の小屋から連れ出せんだけど」
「薬で衰弱した私になんとか食べられるものを運んでくれたのはありがたかったです。私が監禁されたことに気付かず町に出たせいで幽霊騒ぎになっていたのは面白かったですね」
「セバンが監禁された後の目撃証言はそういうことだったのか」
入れ替わりを隠すため、セバンは警備隊に別の場所にいたから全く気付いていなかったと誤魔化したらしい。後から見つかって監禁された、という流れにしたそうだ。
「いやー流石名探偵だよね。まさか私のことを見つけちゃうなんて。私の存在を知っているのは両親だけなのに。あ、母のローヴァは浮気がバレ、祖父母がブちぎれて年寄り貴族の後妻になったよ。私はいないも同然の扱いされたから家飛び出してセバンと出会ったってわけ」
「私の研究に興味を示したので、前の屋敷でも、私の研究室に匿いながら生活していました」
「イクシスちゃんは、両親の事で何か不満とかなかったの? セバンちゃんと最初から仲が良かったの?」
「これでも勉強は出来たから、母が馬鹿なことをして私を産んだことは理解していたよ。セバンとは最初ぎこちない時もあったけど、研究が面白くて気が付けばこの通り」
イクシスはセバンと手を合わせて仲良しアピールした。
結局、俺の推理は半分当たっていたけど、最後の部分はほとんど外れていたようだ。それをアルカが補って推理したわけだから、見事探偵と助手の関係が成立している。
「やっぱり俺は助手なんだな」
…………。
…………。
…………。
お見舞いからの帰り道。せっかくやってきた王都だからと寄り道をしている。
アルカが目移りするままにいろんな店に入り、食べて飲んでは見てを繰り返す。
「そういえば、ワンスさんの提示した報酬ってどうなったの?」
「俺は別にいらないって言ったんだが、セバンが絶対に払うと頑固でね」
「でもお屋敷燃えちゃって、お金ないんじゃないのかな?」
「俺も屋敷の再建にお金が掛かるだろって言ったんだけど、セバン検査で一生お金が入るし、屋敷の外に置いてあったヘソクリで十分払えるんだと」
「わお、お金持ち」
セバン検査は毎日絶え間なく依頼が入り、その度使用料としてセバン達にお金が入る。大量にお金を持っているセバン達を外国に行かせないために巨大な屋敷を与えたのかもしれない。
「そういや、よくイクシスの存在に気付けたな? 怪しいと思っても本当にいるとは限らないだろ」
「実はね、本人に聞いたから知っていたよ。ほら、私の能力を使わない日もあったじゃん? アッシスタは確信していて特に聴けって言わなかったけど、私は気になって聴いたんだよね。旦那さんに浮気相手との子どもはいるの? って」
「それでいるって答えたわけか」
「そうだよ。それで私がサプライズで推理を披露しようとしたらアッシスタが全部掻っ攫うんだもん。まあ結果、ワンスさんが未来人だったわけで私の推理は外れていたわけだけど」
大きな屋敷での捜索と爆発に巻き込まれた最後。救えなかった命に後悔はあるけども、この事件が良い未来へと繋がっていることを信じる他にない。
「未来でワンスさんが幸せになってくれるといいね」
「ワンスの祖先がセバンではなく、入れ替わって過ごしているイクシスの可能性があるからな。セバンは元から結婚するつもりがなく、貴族関係のしがらみはイクシスに全部任せる予定でいたというから驚きだ」
見た目に違いの無い二人の入れ替わり、それは未来に生きるワンスすらも騙した。これがきっとワンスの生きる未来に繋がる糸に違いない。
今後はセバンの体調を見て立場を入替え、この世にいない扱いを受けてきたイクシスが表立って活動するらしい。
「馬車の時間まであと少しあるね。最後にあのお店で食べて行こうよ」
「まだ食べるのか? 馬車の中でお腹痛くなるぞ」
「大丈夫。私は名探偵だから」
「探偵関係ないだろ」
「助手がなんとかしてくれる」
「はあ、しょうがないか」
後世に語り継がれる名探偵ソンナワケ・アルカの助手として名を残せるように、探偵の後姿を追いかけた。
前日譚的なやつがあと一話あります




