十六話 事情聴取
こちとらまともに歩けない怪我人なのに、警備隊から連日事情聴取を受けていた。
崩れ落ちた屋敷から見つかったワンスはやはり亡くなっていて、彼女は神父の言葉と共に天へと還った。悲しいことに、参列者は俺とアルカだけだった。
俺がなんとか助け出せたセバンは、やはり身体が弱っているらしく、面会謝絶で治療に専念している。何か薬を飲まされていたようで非常に危ない状況らしい。
「未来から来た人ねぇ、にわかには信じられんなぁ」
ガシガシと頭を掻く中年の男性、警備隊の隊長は、マジカ探偵事務所のテーブルに肘を付いてぼやいていた。
「俺も信じられないよ。でも、確かに彼女は未来からやってきて、滅びゆくこの国の運命を変えようとした」
「ああ、このことは王様が重く受け止めていてな、計画していた能力の研究に待ったを掛けたそうだ。研究の核となるサスパート家の令嬢もあの状態だからな」
「また未来から誰かやって来て、今度は自分の命かもと思ったら、そりゃ研究は辞めるよな。王様もまだ死にたくないだろうし」
「今はアルカちゃんの能力が役に立っているから秘匿されているが、もし危害を加えるようなことがあればすぐ異端者扱いだ。能力者は見つけ次第首を落とされるだろうな」
「それが怖くてずっと大人しくさせていたんだけどね」
俺は肩を竦めた。アルカの能力は確かに役立っているが、俺みたいに力を強化する能力は扱いが難しい。今でこそアルカの助手兼護衛として役立っているが、この能力も使い方次第では国を滅ぼす力を秘めている。
銃弾は防げるし、この前は瓦礫の生き埋めになっても生還した。寒暖差にも強く、毒でもない限りは殺せないと思う。いや、毒も多分適応するだろうな。
「そういやアルカちゃんはどうしたんだ?」
「あいつは毎日のように墓参りだ。まるで自分が殺してしまったように元気がなくてね。しばらく放っておいてあげようと思って」
「そうか。……はあ、未来人か。アルカちゃんを殺すために未来から来たって、相当覚悟を決めていたようだな」
ワンスの目的はまだ果たしたとは言い難い。アルカもセバンも生きているため、王様がこのまま能力者を秘匿すれば未来は変わるかもしれないが、俺たちが死んだ後の未来なんて分かりやしない。
「そういや、サスパート令嬢の面会が今日から可能になったそうでな。うちの者がさっそく事情調査に向かっている」
「そうなのか? ほどほどにしてあげろよ。相当弱っていたからな」
「分かっている。ちゃんと時間決めてすぐ切り上げるように伝えている」
俺だってセバンとは話をしたいことがたくさんある。事情は隊長に伝えているとはいえ、俺から直接話したいことだってある。俺も歩けるまで調子が戻ったらアルカを連れてお見舞いに行こう。
「というか、今日はなんの用だ?」
「ただ茶を飲みに来ただけじゃダメか?」
「サボりじゃねえか。働けよ警備隊長」
「はいはい、分かったよ。今日は事件の流れを再確認したくてな」
「いつもの事情聴取ね。全部話したと思うが、どこが気になるところでもあったか?」
「今回はちょっと違ってな? サスパート夫妻が亡くなったと推定される日の翌日、セバン嬢の目撃証言があったんだ。使用人のいない屋敷で、家族が殺された翌日にニコニコと外を歩き回っているとかおかしいだろ? そもそも未来人に監禁されていたって話じゃなかったのかってことだ」
「一日ずらして監禁されたってことか?」
「何のために? それに、その目撃証言は、ご令嬢が屋敷から出てきたところを目撃したらしい。だから、あの未来人は何か理由があってご令嬢を一日野放しにして、外にも出させてから監禁したわけだ」
「……確かに不思議だな」
「だろ?」
意味が分からない。セバンの事は最後まで監禁し、アルカには銃口を向けるほど覚悟を決めていたワンスが、最初はターゲットを野放しにしていた? まだ俺の知らないワンスの心情があったのかもしれない。
これについては今日から話を聞けるようになったセバンに直接聞けるため、すぐに解決するだろう。
「サスパート男爵家は町民と仲がよかっただけに悼む人は多そうだ。あ、夫妻が殺し合ったことは誰にも言うなよ? 表向きは爆発事故に巻き込まれたことにしてあるんだから」
「言わないよ。今回の事件は王族が責任を持ってくれたんだろ? 建設に不備があって爆発してしまったと。王都では民衆に姿を見せて謝罪したって聞いたぞ」
「未来の話とはいえ、王様の提案がきっかけだからな。ケジメとして近々王位を王太子に譲る話も出ているぞ」
「そうか。こんな終わり方で未来は変わるのかな」
「少なくとも能力の研究は先送りになった」
誰も幸せになれない悲しい事件は、これで幕を下ろす。結局、未来の事は誰にも分からないのだ。とにかく今はリハビリに専念しよう。
…………。
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「お邪魔します。やっぱりここに居たんだ」
「よく分かったね。というか、ここしかないもんね」
「アッシスタは気にしていなかったけど、私は気になっていたし、なんとなく可能性を捨てきれなかったから」
「流石は名探偵。じゃあ、追い詰められた側として聞くね。私は誰でしょう?」
「あなたは、本物のサスパート・セバンちゃん……の、偽物だよね?」
「あはは! 正解!」




