【魔法少女#8】この日までがプロローグ
「私、言ってたでしょ、全部助けて幸せにするって、てかなんで全裸なの」
全部がハッピーエンド、それが彼女の信念。
「俺は…助けてもらうような男じゃない!」
「いや…そんなことより下だけは隠してよ…」
夜空に星が浮かぶ日の無い学校、その屋上で俺は…情けなく助けてもらった。
全ては自分の罪なのに。
夜空に浮かぶのは禍禍しい笑みを浮かべたローブを羽織る老婆。
「冥王市にいると言う噂…本当だったのか…穿界の魔女!!!」
禍禍しいオーラを持つ謎の老婆を前に、槍を持つ彼女は俺に振り向く。
「君がどうとか関係ないよ__」
彼女の笑顔は、この世界で誰よりも美しく、希望に満ちいていた。
「私が、全部助けて幸せにする、ハッピーエンドが信条だから!!」
「ふざけるなよ!”裏切り者が!!」
魔弾が怒りを乗せて放たれた。
黒い光の弾丸が空気を裂いて一直線に飛ぶ。数は一つじゃない。
数えきれないほどの質量に一つ一つの軌道が変化している。
「へぇ、ちゃんとしてんじゃん」
俺の視界を埋め尽くすそれを、ミリアは一歩も動かずに静かに見ていた。
余裕、彼女はこの状況でも軽いノリだ。
槍型のステッキを振ると、白い円柱の魔法陣が浮かび上がる。
白い光、幾何学的な紋様が回転している。
「まぁ、私との相性は最悪だけどね」
その魔法陣は一つじゃない。
二つ、三つ、四つ――。
魔弾の軌道上すべてに、正確に“配置”されていた。
「……なっ」
老婆の目が見開かれる、驚きが隠せてない。
黒を纏う魔弾が、魔法陣に触れた__と同時。
まるで空間を切り取ったかのように、”消えた”。
いや、消えたんじゃない。
”移動”したんだ。
「ほい、返却しとくね」
彼女の言葉の一拍後、老婆の背後に魔法陣が開く。
「これが…穿界の魔女の力…」
その白い光の魔法陣から、さっきの魔法陣がそのままの速度で吐き出された。
人知を超えたエネルギーが爆発を起こす。
屋上のコンクリートが砕け、校舎の窓が割れる。
屋上が煙に包まれた。
「やば、これ、おじさんに怒られる奴だ…」
ミリアの整った眉が上がる。
「流石は組織の最強、”女王様の特注品”は違う」
粉塵の奥でかすれた声、てか、最強?特注品?こいつはミリアのなにかを知ってるのか?
「空間魔法、我々が叡智と技術を結集し研究を進めた完成品、さすがというほかない」
ステッキをぐるぐると回しながら老婆のローブはボロボロ、老婆自身も相当なダメージだ。
「あんた、魔女で古巣の関係者なのはわかったけど、なんでわざわざ人間の世界にきてるわけ?」
「ふ…組織の理念は貴様も知っているだろ、だが…もう終わりだぞ、貴様が正式にこの地にいることを組織に伝えれば…」
ミリアは興味なさそうに髪をいじる。
「あー、そこはやっぱいいや、さっきの魔道具の解除方法を教えてよ、まぁどうせメモの方燃やすとかでしょ」
ミリアの問いかけが終わると同時、ゆっくりと老婆が立ち上がる。
「あぁ、貴様の正体がわかってるんだ、今更隠しはしない、死んだ人間も紙を破けば元に戻る」
死んだ人間も…元に戻る?
「本当か!?でもどうして?」
「もともとあった未来の輪廻を無理くり魔道具のてこで捻じ曲げてるから、その支えを失えば世界は抑えられてた木の枝みたくビヨンっともとに戻るのさ」
ミリアが槍をぶん回しながら笑顔で解説してくれる、相変わらず目が笑ってない。
老婆がペンとメモを手に取る。
「そうさ…こんなふうに、紙を破けば…貴様の”特別”は消えた」
老婆によって破かれたメモの紙が散らばった。
「だが、穿界の魔女…見落としたね、この魔道具の本質」
ニタァっと割れるように老婆の口元が広がる。
「勝負には負けたさ…でもねぇ…同じ魔女として…あんたをここで葬る、裏切り者には…」
「本質!!」
ここで初めて、ミリアの顔が曇った。
「さぁぁぁお前ら二人は、仲良く地獄に落ちればいい!!」
老婆が吹き飛ばされた屋上の壁際、何かがかなりデカく書かれていた。
【目の前の二人が不可避の事故で死ぬ】
その瞬間、老婆の周りに俺の服を溶かしたスライムが飛び込んでくる。
「がぁああぁあああ」
俺の時とは違う、体の骨まで溶かすほどの消化液。
跡形もなく、青い粘液が老婆を消し去った。
俺とは願いの強さが違ったのか?
「これはやられたかな」
ミリアが見上げたのは__夜空。
「あ、あれって…隕石??」
俺の口からでた、最悪の単語。
月明りが照らす、闇に沈んだ夜。
それを切り裂くように校舎の上に巨大な隕石が迫る。
「俺のせいだ、俺があの日、自分の変なコンプレックスから…」
俺は全裸のまま崩れ落ちた。
「はぁ、言ったでしょ、私がいる」
でか何かで隠してよ…と呟き、ミリアが前に出る。
「言ったでしょ、どんな私が全部幸せにして、ハッピーエンドにするって、それがたとえ敵だとしても」
槍を構えたミリアの目には、一切曇りがない。
「もう、無理だよ…俺は特別にもなれない、誰かに迷惑をかけて死んでいくんだ」
「じゃぁ、私が君に”特別”を上げるよ、こんなインチキじゃない、幸せになりまくりなハッピーストーリ」
振り返った彼女の笑顔が迫る隕石に重なる。
「私が君を、幸せにするよ」




