【魔法少女#9】そしてこの日からの特別
隕石が校舎に迫りくる中、彼女はただ槍型のステッキを構えて佇んでいた。
「俺を…特別…?幸せに?」
「そう、たとえ君を襲った老婆でも」
「いや…あいつはもう死んだよ、さっき一緒に見たでしょ!”代償”を支払って」
そう、しかも破くことができない、コンクリートの校舎の壁、しかも時間がかかるようにデカく長く書いてある。
「これ…なんの魔法でいつの間に!」
もう隕石がだんだんと近く成ってきた、素人の俺でも間に合わないと本能で解る。
「そう、魔道具にはルールがある、まぁ複雑だし線引きはよくわかんないけど、願いの字自体を消せば、幸運も不幸も消える、その間に起きた事象や認識がどうかはあいまいだけど」
そうだ…俺は何を見落としていたんだ。
破けば…壊せば払った代償は少なくとも無かったことに出来る。
でも…
「このコンクリートの壁に掛かれた文字、消すなんて無理ですよ!」
「いや、私なら全部幸せにできる」
そういいながらミリアが槍で魔法陣を起こす。
一つは壁に、一つはミリアの前に。
「はぁあぁ!」
そこに向かって槍の連打、その立ち振る舞いは達人。
槍が魔法陣を飛び越え、壁に届く、まさに移動魔法。
凄まじい音で外壁が削れて行く、デカく書かれた外壁を囲うように。
「私のカウンターの魔弾の時の煙、その隙にこれ書くの、流石魔女、狡猾だね」
そういいながら外壁を繰り出し、前に倒れるように外壁が落ちる。
その前にはそれを包むほどのデカい魔法陣。
「柊、私は、絶対にあきらめない、全部をハッピーにしなきゃいけないから!!」
夜空に浮かぶのは、それと同等の魔法陣、隕石の前にすでに展開されていた。
「これで、全部助かる」
魔法陣からポンっと外壁が飛び出し、それが頭上の隕石と衝突!!
「これが…ミリアの…」
体の内部まで響く衝撃が夜の校舎を震わせる、素肌に石や何かの破片が当たって痛い。
「ってか、柊!!まだ裸なの!!」
「どうしようもないんだよ!!」
ミリアとの言い合いの気を取られて一瞬、すでに隕石は頭上から消えていた。
「まじかよ…」
隕石関連で傷ついた校舎も、先ほどの外壁ももとに戻っている。
さらに___
「っは!!?なぜ私が生きている??スライムに溶かされて…」
綺麗になった外壁の前に、老婆がいつの間にか立っていた。
「言ったでしょ、全部助けて幸せに、それが私の信念」
夜風に揺れる白銀の髪で彼女の表情は見えない。ただなぜか笑顔なのは伝わる。
「貴様…私を生かすメリットなんてないだろ!!私が組織に戻れば…貴様は!!」
「別に、あんたがどうしようと関係ないよ、ただただ私は全てを救って幸せに、それだけだから」
老婆が慌てたようにステッキを取り出し、魔法陣を展開した。
「いかれてるぞ、穿界の魔女」
老婆の体は紫の光に包まれて消えた、残した言葉が屋上に木霊しながら。
その空間には、全裸の俺と、美しい白銀に包まれた魔法少女だけが残された。
「いいのかよ、逃がして」
「いいよ、どうせまた襲ってくるし、あと手だけじゃ隠すの限界あるって」
「あの老婆、俺の書いた紙は破かなかったのかよ!!」
___これは、全ての幸せを求める彼女と、普通という呪いを背負った俺が一緒に特別を求めていく話。
彼女の幸せとは、なぜ全部助けるのか、彼女は幸せなのか。
その不完全で完全な正義と信念。
それを追い求める、異世界と人間界を繋ぐ、便利屋の話。




