表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/57

【魔法少女#46】少女ミリアⅡ

「なるほど、魔力の無かった人間は魔力に頼らず生活しているのか」


幼き頃から習った世界の知識、旅というのは幼き頃蓄えた知識の答え合わせのような物。


人間が作り出した電気で動く道具たちはどれをとっても面白い。


テレビにゲーム、魔力とは違ったエネルギー源で動く移動手段。


本の創作物の中だけだと思っていたファストフード店に商店街や学校。


全部が面白くて、魔女の国にはなかったものばかり。


でも、なんだろうな。


この生物達を魔女と対等の格だと思えないのか、一ミリも感情移入できなかった。


そんなことをぼんやりと考えていた。



【女王からのオーダーは完了した、帰国する】


同行していた魔女たちが任務を遂行したという連絡が入った。


さて、作業は終了したし、旅も満足した。帰国しようとしていた時。



今でも忘れやしない、私の目を焼くのは立派な、きっと幸せを詰め込んだ一軒家が紅蓮の業火に包まれていた。


その前にいるのは特殊な衣服を身に纏う中年の男、青色の服装…警官か?


興味本位でその男を観察してしまった、何故か目を離すことができない。


「俺のせいだ…俺が…家族を…」


燃えている炎の魔力で理解した、この男こそ今回の女王のターゲットの一人。


そして…初めて見たのだ。


流れ作業のように幸せを穿たれた、奪われた側…いや、残された側を。


「魔女…そこにいるお前かぁああぁ」


遠目から覗いていても、相手はその道のプロ、私の存在に即座に気付いた。


家族の死、それが引き出す濃密な殺意を込めた標準が私に合う。


しかし、その男は私を撃つことは無かった。


電池の抜けた機械のように、腕から力が抜けて手から拳銃がこぼれる。


その後の一言が…私の価値感を一気に塗り替えた。


「殺せ」


意味が解らない。


「お前が…お前達が殺したんだろ!!」


なんで自らの死を願う?


「どうせ生きる意味もない、全部奪われるくらいならここで死ぬ」


普通なら命欲しさに泣き落としに掛かるか、復讐を誓うだろ。


私には理解できなかった。


今まで敵は皆武器を手に取った。


憎み、怒り、その思いを胸に込め戦った。


でも…この男は違う。


空っぽで、残されたはずなのに、何も残っていないんだ。


火柱が立つその凄惨な現場には、一人の男の言葉にもならない呻き声だけが、夜に残っていった。




ゲートを超えて帰国後、何故か私は寝れなくなった。


不眠だけではない、何故か食べ物は喉を通らずに吐き気だけが私を蝕んでいた。


回復魔法を施されても、高名な調合士が作成した薬草の汁物さえ喉を通らなくなった。



しかも、何故かあの男の顔だけが頭に残り続けて離れない。


何をしても、何をしても、何をしても。


強力な粘着物で張り付けられたかのように頭から離れない。


そんなどうでもいい人間一人が何故ここまでなんだ?


今まで私は奪ってきた命なんて途方もない数。


なのに…なのに一人だけ?



流行り病やその他の感染症ではない。原因不明の体調不良が私を襲いながらも、私は資料室の本棚を漁っていた。


死を願った男の名前は”龍門玄”。


妻は教師、そして子供は絵を描くのが好き。


消された理由は、あの日いた警官の悲惨さをその仲間に伝え、調査を辞めさせること。



何をしても消えない気持ち悪さを残しながら、私は女王の間に向かっていた。


「何故、家族だけ殺したのですか?本人を殺すべきでは?」


けれど…私の質問の意義すら問わす、女王はたった一言返してきた。


「必要だったからだ」


それだけ。



その瞬間、胸の中に膨らんでいた何かが音を立てて割れた気がした。


中に閉じ込められていた吐しゃ物とヘドロを合わせたようなその不快な何かが体にいきわたる、気持ち悪い。


自分もそうだ、やってきたじゃないか、全部これだったではないか。


必要だから、命令だから、組織の為だから。



そこからの記憶は曖昧で、何故かすでに人間界に降り立っていた。


理由は分らない、でも龍門玄、その男にもう一度会いたかったからだ。



組織の諜報部隊の情報は途轍もなく正確だ。


桜が散り切った、夏の始まりを感じさせるようなそんな公園。


そこにいたのは、残された側の龍門玄。



私は考える事すらなく彼の目の前に降り立った。


「な、なんだ?」


空から降ってきた女を見て普通は驚くだろうが、一瞬にして”あの時”の魔女だと気づき顔が険しくなる。


「何しに来た…いまさら」


私は彼の前に立っても、何故か言葉が出てこない。


感じるのは胸が潰れてしまうほどの苦しさと吐き気。


「なんだ…?お前」


私の様子が何かおかしいと、彼も気づいたのだろう、腰かけていたベンチをゆっくり立ち上がる。


「謝りにでも来たのかよ、魔女代表として」


…謝る?私が?


「私は…私は…」


胸の中に膨らんでいる言葉がうまく纏まらない、絞りだしても単語が出てこない。


「罪悪感を感じたりでもしたのかよ、いきなり」


罪悪感…?


その言葉を聞いた瞬間、私の内臓が鉛に変わったかのように重くなる。



そうか、私は罪悪感を初めて感じたのだ。


今まで雑草を作業のように抜いていたのに。


その雑草には雑草なりの幸せをしってしまったから。


作業のように奪った命の重さが、今まで無視してきた…いや、感じることができなっかったものが一気に溢れたのだ。


「お前が謝る必要はない」


心を射貫くような辛い視線。


「でも、二度と誰かから奪う側になるな」


あれだけ全てを失ったのに、口から出たのは復讐の意ではなくこちらの気づかい。


「目ぇ見りゃわかる、あんたは若い。どうせ上にやらされてんだろ、罪は罪だがな」


「どうすれば、この気持ち悪さは…罪は消える?」


頭に浮かんだことすらなかった罪悪感という感情。


罪。そうだ、私は大勢の命を奪った魔女、断罪されるべきだ。


「なくせるかよ、どうあがいても消えねーよ」


彼の口からその言葉が出た直後、私の体から温度が抜けていった。


強さではどうしようもない、魔法でも、魔学でも消すことの出来ない”これ”。


私の顔を力ずよく見つめたまま、龍門玄は空を見た。


「でも、償うことは出来る、例え取り返せなくても、許されなくても」


「償うには…許されるにはどうすればいい」


私は言い切るよりも先に龍門玄の肩を激しく掴んでいた。


「舐めんな、償うことができても許されることはない」


許される…ことはない?



温度のほとんどなくなった手が力なく垂れ下がる。


「あー、わかったわかった」


なら…と彼は膝を突き、私の腕を優しく包んだ。


「あんたは強い、見りゃわかる」


温かい、なんだろう、手を握られて安心するなんて、初めて知った。


「なら、あんたが全部救え、今後あんたと同じ知らずして罪を犯す加害者も、為す術なく奪われる被害者も、不幸で回り続けるスパイラスをあんたが止めろ」


彼の目は赤く、涙が目じりに沿って流れ出る。


「今後俺のように不幸になるヤツ、あんたのように奪って不幸にやるヤツ、全部幸せにしろ、そうするしかない」


熱の失われた全身に温度が戻り、へばりついていた吐き気も消えた。


いや…覚悟に変わったのだ、重たい罪悪感が。


「わかった、誓うよ、私が全てを幸せにして全部を救う」


今後、私のような奪う側も奪われる側も…


この綺麗ごとを押し通す、それが私のたった今からの使命。



この日から、私は命を穿つ穿界の魔女から、幸せの魔法少女に変わったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ