【魔法少女#42】血の雨が降る
「ミリアちゃんはほっといても死ぬ、仲間から殺そうか」
影を従える悪魔との闘いの火蓋が切って落とされる。
「てめぇ!!」
ウルが制服のスカートを揺らしながら俺との距離を詰める。
「壮志郎、お前は隠れとけ」
俺は大男を突き飛ばし瓦礫の山の影に吹き飛ばす。あいつはもう動けないな。
間合いを押しつぶした悪魔少女による死を纏うナイフ。
「ミリアちゃんの保護者の方なのかな?地獄でもきっと会えるよ」
「時期に俺も行くがな…お前が先だよ」
能力でも魔法でもない、この磨き上げナイフは間違いなく本人の技術。俺が一方的に削られる。
「男はこの世界に必要ない、ミラが美女全て幸せにする」
「単細胞生物以外絶滅すんぞ」
横から何もかもひき潰す圧力で魔人ミラが迫る、こいつの一撃はまずい!
まるで落石のような衝撃。
「ぶっ潰れとけ!!」
血が止めどなく流れる体を無理に捻り迫る死から逃れる。
(こいつ…ミリアとの傷がまだ治ってない…?)
棍棒を振るうミラの魔人族特有の紫の帯が靡く高貴な戦闘衣装。その腹が真っ赤に染まり、箇所によっては包帯を超えて血が溢れている。
「私の攻撃を避けるとは…貴様ただの人間ではないな」
ミラのテンションが目に見えて上がった、この怪我でなお出力が衰えていない。
「頭からっぽな魔人族もたまには役立つね」
「くそがよ!!」
ウルの尋常じゃない速度のナイフが俺の鉄棒を超え肉を裂く。
この速度とナイフ捌き…人間の俺だからこそわかるぞ。この領域に至るまでの努力が。
「私は他の戦闘者と違って能力的には強くない…けどね。努力はしてきたんだよ」
死の影を乗せた刃が深く刺さる、俺のダメージも相当まずい。
「体が悪い、では星よりも高い場所に行くといい」
「優秀だな、魔人族」
ウルのナイフに遅れを取った隙をこいつは見逃さない。
空気を削るような異質な剛撃、それが俺の目の前に迫りくる。
「男は死ぬ、私と美女だけしかいらないんだよ」
「思想が極端だな」
皮一枚で爆発したかのような鉄塊を俺は回避。風圧だけで皮膚が痛む。
だがよ…俺がタダで終わるわけがあるかよ。
「お前らも連れてくぞ…地獄にな!」
俺が落としたのは閃光弾。地面に当たり甲高い音が路地に響く。
「聖なる光か!!」
ミラが巨大すぎる棍棒を盾に光から逃れる。
「隙ありだぜ、魔人族の嬢ちゃん」
俺の速射が奴の腹を射貫く、乾いた音と同時に上がるのは血の飛沫。
しかし相手の悪魔はそこまで甘くない、俺の第六感が濃密な死の気配を感じ取る。
「聖なるものでも光は光だよね!!」
悪魔ウルが目を腕で守りながら凶弾を放つ。
流石に外せない、俺の右肩を鉛が穿つ、悪魔のくせして繊細な基本性能が高い。
俺は決死の覚悟でバックステップ、強引に距離を開ける。
(これ以上は本当にまずいぜ…)
手術室前での氷の魔法騎士ロウとの戦闘による刀傷と爆傷。
そして悪魔ウルによる銃傷とナイフの傷も深い。
逆境。今の状況を表す言葉は正にこれ。この状況化では俺はただ殺されるだけ。
(どうする…もし柊がミリアを救え…いや、必ず救ってここに来る)
俺の思考は回る、このままじゃただ三枚におろされるまな板の上の鯉と同じだ。
「おじさんって言われてたね、この組織のボスなのかい」
当然奴らが俺に考える時間をくれるわけがない。すでにウルが弾丸を放っている。
「マジでめんどくせーな」
俺は懐から再び閃光弾を取り出す。
「悲しいな、もう見えてるよ」
鼓膜を揺らす銃声、それが脳に届いた時には俺の手のひらにぽっかりと穴が開いていた。
痛みが遅れてやってくる。手から最後の閃光弾が転がり落ちた。
「ならこれがあるぜ!!」
俺は炸裂弾を負傷した手で強引に投げる。同時に魔人ミラに向けてけん制の銃弾を放つ。
「汚い男のくせに抵抗するな」
「爆弾は悪魔的だ!!」
次の瞬間、病院の間の空間を歪ませる途轍もない熱戦と衝撃。
ミラは壁際まで飛ばされる。しかしウルだけはギリギリで爆破の地帯から抜けていた。
「ここで二人とも殺す。俺と一緒にな!!」
血と温度が抜け続ける限界の体に活を入れ飛び出す。
最後の力を振り絞った近距離の強引な斬り合い、血と互いの意地だけ刃と共に交錯する。
「まだだ!!」
「やんじゃん、ミリアちゃんの親玉!」
これで最後と思えば力が湧いてくる、攻撃に振れば俺の鉄棒とてナイフを超える。
だが気合では何も現実を変えることができない。ウルのナイフだけが俺の肉体を削る。
「もうがんばったよ、人間なのにさ」
影をウルが力ずよく踏む、まるで全身の筋肉を固められたかのように動けなくなる。
「さよなら」
「がぁああ」
もう手の指で数えられない、数十回目の凶刃が俺の体を裂く。
俺では憎くてたまらないこいつに傷一つつけることが出来ない…
「男の中ではマシな男だったよ、でもミラの方がモテモテだけどね」
悍ましい圧力で鉄の塊を掲げた魔人美女が距離を詰め切る。
(クソが!!もうどうしようも…)
両者の攻撃が俺に当たる、その刹那だった。
突如として目の前に巨大な壁が俺達の前に割り込んできた。
「瓦礫??」
病院の爆発と火事で剥がれ落ちて山になっていた瓦礫の壁部分。それが俺の命を繋ぐ。
「モアの炎とロウの剣、どっちも食らってまだ動けるんだ。タフすぎ」
ウルの声のトーンが下がり切る。
「俺の…恩人を…やらせるか」
現れたのは、血と粉塵にまみれる角を持つ大男。俺らの特攻隊長、鬼島宗次郎。
全身を焦がすような怒りを纏う壮志郎の闘志は場にいる誰もが飲み込まれる。
「悲しいね、全てがさ」
その呟きは…俺達に向けられた強い哀れみだった。




