【魔法少女#34】炎の魔女 モア
「お前らがミリアを狙うから、俺達の特別が壊れる」
鬼島が灼熱の中で仁王立ち、覇気がやはり違う。
灼熱の業火が6階の病院の廊下を包み込む。高温の空気が肺に入るたびに息が苦しくなる。このままじゃまずい…
鬼島は炎を纏う魔女相手に一切怯んでいない、どころか凄んでいる。
「私は~難しいことわかんないけど~裏切ったのが悪いんじゃない~」
炎の魔女モア、なんだこの感じ。まるで暖簾に腕押しだ。
「話すつもりがないならもういいな」
鬼島が突如地面を砕きながら前に飛び出す、もはやその迫力は戦車。
「こわい~モアの事いじめないでよ」
モアは迷いなくステッキをかざして炎の魔弾を飛ばしまくる、狙いが無茶苦茶だ。
「こんなもん意味ないな」
まるで何もないかのように魔弾の中に突っ込んでいく。
それと同時、魔弾をまるで虫を払うかのようにバットで弾きながら距離を強引に詰め切った。
「捉えたぞこの野郎」
「怖い人は嫌い~」
剛力の気が籠った交通事故のような鉄の一振り、熱を帯びる空気が爆ぜる。
「モアの為だからね、犠牲になって」
バットが捉えたのは人影、炎に包まれた本体。何かが砕け飛び散った。
「…なんだこれはよぉ」
鬼島は振るったバットを凝視する、手ごたえが軽すぎる。
物陰から見ている俺では煙と炎に隠れて鬼島の攻撃がヒットしたかどうかが確認できない。
「モアの為にありがとう」
バットが砕いた人影から突如として炎の魔弾が発射される。
「鬼島さん!!!逃げて!!」
俺の声はギリギリで届いたのか、強烈に横に転がった。
「偽もんかよ!!」
その魔弾が貫いた先の壁、その空間だけがなくなったかのように抉れている。
「私の為なら死ねるっていう~お人形さんが沢山いるんだ~」
モアの前に転がるのはひび割れし砕けた炎の人形。
「関係ないけどな」
鬼島がその擬態に使用した人形を踏み越えモアを射程に捉えた。
「近づかれると、何もできないからやめてよ」
モアは灼熱の壁を一瞬にして隔てる、これもいつもミリアが使用している魔法陣に酷似している、やはり同じ組織の魔女!
「気合でぶち抜く」
次の瞬間、ガラスの壁に突撃したかのように炎の壁が砕ける、その破片はまるでルビーのよう。
「こんなに燃えてるとか、バカなの?」
モアの後ろに赤の幾何学文様、紅蓮の魔法陣が一瞬にして現れる。
「関係ない」
赤褐色の炎の人形が陣の中から突如飛び出してくる。
「モアの為にね、お人形さんいっぱい作ったの!!」
炎の魔女の顔が愉悦に染まる、人形は5体。その勢いは半端じゃない!
「知るか、関係ない」
それを見ても鬼島は怯まずにバットを振りかぶっている!
人形に意思があるのかは分からないが、バットを両腕で防ぎに行く。
「軽いぜ」
黄金のバットが向かってくる人形を一気に弾き返した、あたりに溶岩のような破片が飛び交う。
「ミリアちゃんの仲間~甘くない~」
モアが下がりながら炎の陣を展開していた、赤い特殊な幾何学が俺達二人の前に光り輝く。
紅蓮の虎のような炎があたりの炎を吸収し、鬼島に向かって突っ込んでいく!
人形の飛び散った破片すらも巻き込み、威力は途轍もない。
「クソが!」
回避は間にあわない、虎が口を開け獲物を食らう!鬼島が飲み込まれた!
「死んじゃうね~」
ステッキを回しながら燃えている全てに笑みを浮かべる、価値観が違う。
けどな…俺はそのために影に隠れていたんだよ!!
俺は手に持っていた消火器のピンを抜きホースを燃え盛る炎に向ける。
次の瞬間、灼熱の廊下に白煙が大量に舞い上がる。
「鬼島さん!!」
焦げ付いたジャケットから火が消える、魔法の火も消火器で消せるのかよ。
「よくやった、助かった」
俺だけの威力の炎を食らてなお、鬼島の体には火傷らしい火傷がない。
「モアの炎~めっちゃ熱いのに、だから嫌い」
予想外だったのか、モアからは不快感が露になっている。
「でもさ、皆よく頑張るよね」
ステッキを回す奴の空気が少し変わった。
「助かりもしない仲間を頑張って助けようだなんてさ」
先ほどまでは全てに愉悦を感じていた彼女が、まるでおもちゃから興味を失った子供のように変わっている。
「それは、どういうこと?」
俺は彼女の呟きが気になり、純粋に聞き返してしまう。
その答えは、目のみが笑っていない魔女の笑み。
「だって人間の医学と魔学じゃ、ノクスレインの魔女を治せないって言ってんじゃん」
その刹那、スピードに振った最速の火球が放たれた。
「もう意味ないぞ」
鬼島は低く屈みそれを回避、ここまでの戦闘のダメージはまだない。
「きっとこの病院のお医者さんたち、めっちゃ困ってるし~モア達もそれ狙いだし」
魔女、確かに人間の世界では滅多に見かけない種族。さらにはノクスレインの魔女は魔法学の技術で改造された戦闘者。
それらを全て見越した上での奇襲、つまりここでミリアを殺す気なんだ…
「柊、よく聞け」
「は、はい」
バットを肩にかける鬼人族の喧嘩屋が、ふと俺の方を振り返る。
「お前は今すぐ逃げて、ミリアを助けろ」
紅蓮が侵食するこの現場、炎はすでに病院のほとんどを飲み込み始めている。
「わ、分かりました!やれるだけのことは!」
俺は消火器を陰に置いたまま、6階の非常階段に向けて走る。
鬼島さん___俺に任せてください!!




