【魔法少女#30】過去が襲う
「もう動ける、こんなもん痛くもない」
俺の名前は鬼島宗次郎、たった今病院を退院した便利屋で働く男だ。
病院のエントランスを抜け、全助に一度寄ろうかと考えていた時、俺の携帯が鳴る。
「玄さん?」
退院の言葉でもくれるのかと思いながら電話を取った。
「うっす、俺です」
「宗次郎か!まずいことになった…」
この人がここまで焦っているのは初めてだ、一体なんだ。
「今ミリアと柊達が襲撃された、柊は無事だが依頼人と…特にミリアが生死を彷徨っている」
「あいつが負ける…?そんなことあるかよ」
現実味がなさ過ぎてまだ頭にその情報が入ってこない、あのミリアだぞ?
「今異界救急センターでこれから処置を行う、もしかしたら追撃があるかもしれない、すぐに来てくれ」
この事実を受け入れられない、まるで漫画の世界から出的なような無敵な女。
(頼む、死ぬな)
俺は軋む体に鞭を打ち走り出す。いつも見てる冥王市の夕暮れがどこか不安を煽ってくるようだった。
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「柊!ミリアは!?」
「鬼島さん!」
全力で病室に駆け付けた俺の体は汗にまみれていた、先の傷も数か所開いている。けどそんなのは関係ない。
「ってミリア!!!」
俺はその目に入ってくる状況が理解できなかった。
包帯と夥しい量の輸血、素人の俺が見ても言葉を失うほどだ。
それと同時、玄さんが病室に入ってくる。
「宗次郎、来てくれたか」
「玄さん!」
扉をくぐる玄さんの衣服も汚れて血がついている、この人も現場にいたのか。
「これをやったのがノクスレインの連中か?」
「現場にいたのはお前と戦った悪魔ウル、そして金花探偵事務所を壊滅させた魔人ミラ、どちらも戦闘力は最高峰と言わざる負えないな」
ウルの強さは俺自身が体感している、凍るような闘気。文字通りの悪魔だった。
「依頼人の紫崎っつうねーちゃんも命に別状はない、ただそれなりに重症だ」
「俺がもっと早く気づけば…」
柊の拳はズボンを歪ませるほど強く握られている。
「ミリアがここまでやられたのは初めてだ、今まで傷一つ負ったことないような奴だったのによ」
玄さんの表情は険しい、それほど俺達にとってミリアは中心的な人物だった。
そう、俺にとってもこいつは…ミリアは俺を変えてくれた唯一の存在。
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まだ俺が玄さんや全助を知る前の事。
ガキの頃から、この家が貧乏だって言う事は感じ取っていた。
「お菓子、食べたい」
幼少期に常に考えていたことはこれだった。
俺の両親はいわば異界からの出稼ぎ労働者、鬼人族を多く雇ってくれる人間を求めて多くの同胞が扉を超えた。
荒れた土地にいつ危険が迫るかもわからない故郷より、人間界でお金を稼いで暮らす方が遥かに安全で夢があった。
そんな力しか能力がない鬼人族の行く末は賢い人間に騙され、最後の最後まで辛い搾取。俺の両親や同胞の大人達は子供を残し皆いなくなってしまった。
後から知ったことだが、そもそも人間は工事が完成した段階で給料を払わずに安い労働力として別の人間に俺の両親や仲間を売っていた。
いつしか亜人族や鬼人族なんかの子供や生き残りが集まってできたのが、あの冥王市の裏路地の集落。
親の愛が欠落した子供しかいない、そんなもん全員荒れるに決まってる。
俺達は近くの暴走族や異界を良く思わない連中とよくケンカしていた。
潰した族や組織は5を超えたあたりから数えなくなったな。
そりゃ能力がないとはいえ人間に力では負けることは無い、俺はいつの間にかその界隈の頂点に立っていた。
でもひどく退屈で虚無感しかない、その虚しさを”普通”だと思っていた。
でも俺の普通が”特別”に変わった日があった。
あれは俺と仲間が路地裏でいつも通り敵対している高校生の族と喧嘩している時だった。
「君達か、この辺で喧嘩しまくってるっていう奴は」
現れたそいつはスポーティーな女、ミリアがなんと立った一人で現れやがった。
「誰だお前?俺達を舐めるなら異界人でも容赦しないぜ」
見下され蔑まれる人生、喧嘩は全て買う、それが俺の信念だった。
「私は全てを幸せにできるし、全てを救う、たとえ君達の過去さえも」
「何言ってんだ前?喧嘩売ってるってことで良いな?」
この後の展開は説明しなくてもいいだろう、一歩的に全員倒されていつものセリフを聞かされた。
「大丈夫、私が絶対全員助けるから」
言葉通り、集落は行政に認められ支援を受けることができた。
売買された両親や一族の行方も玄さんが調べて、そして悪い人間の奴隷となっていた異界人を解放してくれた。
「いったでしょ?私が全部助けるって」
この言葉を聞いた俺は気づけば、全助に入っていた。
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だからな、俺が今度はミリアの過去を救う。
「柊、宗次郎、これからおそらく奴らはミリアを狙い次なる手を打ってくる、必ず阻止すっぞ、いいな」
白い病室の壁に腰を掛ける玄さんの目には決意が灯っていた。
玄さんもミリアは実の娘も当然、ここでやられるわけにはいかない。
「安心してください、玄さん」
俺はまだ、集落の皆を助けてくれたミリアの恩を返せてない、そのために全助に入ってあの信念の手伝いをしてるんだ。
「たとえどんな奴が来ようと、必ずぶちのめします」
もう負けない、ここで引いたら男じゃないだろうよ。




