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第六話 シナリオのエンディングは、新作スチルが製造されました!?



 魔法帝国の皇城。大きなホールには赤い絨毯が敷かれ、豪華なシャンデリアが煌々と輝く。貴婦人は色とりどりのドレスに身を包み、シャンパン片手に語り合う紳士の表情は明るい。

 

 ――今夜、魔王討伐の祝賀パーティーが盛大に行われていた。


 騎士の国の、しかも婚約解消などと碌でもない噂のまとわりつく、大して力のない令嬢である私も、熱心に請われて参加していた。


(皇令とまで言われてしまえば致し方ない……)


 光沢のあるスモーキーブルーの生地が美しいスレンダーラインのドレス。大きく開いたデコルテに品良く輝くアメジストのペンダントが重くて仕方ない。


  

 エドワード殿下がエディだと知ってから半年が過ぎた。


 素直で真面目なリリーはお告げを順調にこなし、その中でオリバーとの愛を徐々に深めていった。


(お告げでは愛せなんて理不尽は言わなかったけれど、相性が良かったのね)


 二人の時間が増えていく度、彼らはお互いを知り、お互いをかけがえのない存在として認識していくようになった。


(私のプロデュース力もなかなかのものじゃない?)


 なんだかんだ推し活を堪能できてしまった。


 私の心配をよそにあっさりと不審者扱いをやめたエドワード殿下は、その後もエディとして現れた。リリーとオリバーを横目に、どちらかと言うとフィーナとの会話を楽しんでいるようだったが目的は何だったのか。

 

 まあ、おかげで順調にスチルも回収できた。もうほんと、どれもこれも尊かったわよね、セラフィナ。

 胸に手を当てると、トクリと返事をするように、私とは別の温もりを感じるような気がする。

 

 リリーの手元にある浄化石が七色に輝き出した頃、魔王が復活し、この魔法帝国の帝都に降臨した。


 スチルスキルによって、その日時を詳細に掴んでいた私はこれでもかと準備した。


 リリーにお告げをしたし、私自身、不測の事態に備えて役立ちそうな魔法を得られるだけ習得した。


(私が唆しておいて、リリーに丸投げなんて、私ならその理不尽に激怒するもの。セラフィナが嫌がりそうだから、やられて嫌なことはしないわ)


 そして使えそうな権力は堂々と使った。リリーを通してオリバーを悟し、騎士団を事前に配備させた。騎士団の最高司令がエドワード殿下だということは、もちろん知っている。


 結局エドワード殿下がどこまで知っているのかは分からないが、彼は何も言わないし、セラフィナをどうこうするつもりもなさそうだ。それならもうそれでいい。わざわざ問いただす必要も感じない。

 

 だけど、そう。エドワード殿下は、女神のお告げと言えば騎士団を動かしてくれるかな、と打算はあった。


 セラフィナへの信用を利用しているみたいで居心地は悪かったけど、権力は使うためにある!


 ……なんて、語弊があるかな。


 一つ一つ鱗を剥ぐように、ゆっくり確実に暴かれた心の内。


『フィーナ、』


 甘く、情熱的な瞳を思い出して、頭を振った。ずきんと胸が締め付けられるように苦しいのに、ドキドキと心臓が狂って、もうほんとどうしようもない。どうしようもないくらい、ぐちゃぐちゃだ。


(〜〜すべてはあの魔性の美貌が悪い! 勝手にスチル製造してくるのが悪い!)


 スチルは全て心の保養になると思っていたけど、それだけじゃないなんて知りたくなかった。


 ぐう、と喉の奥で唸っていると、ホールが一際大きくざわめいた。

 皇族が入場したのだ。


 ホールの正面、階段を上がった壇上にある豪華な玉座に皇帝陛下と皇后陛下が座る。

 今の皇后陛下はオリバー殿下の母君で、先妻であるエドワード殿下の母君はとうに亡くなっている。


 エドワード殿下が、皇后陛下より少し下がった位置に立った。


(圧倒的美!!! 優勝! これ以上ない!)


 正装、憎らしすぎる。儀礼用の黒い軍服に両肩留めのマントを羽織り、彼の鋭利な美貌をこれまでかというほどに引き立てている。


(ああ〜! エドワード殿下にはスチルスキルが発動しないの悔しいわ)


 距離があるので詳細に検分できない。

 ……いや、そのほうがいいかな。あの美をスキルで見てしまった日には心臓が止まるかもしれない。

 

「っ!」


 目が合った。引き結ばれていた口元がゆったりと弧を描く。


 途端ご令嬢たちが色めき立った。

 

 エドワード殿下は、私の三つ上の二十歳。適齢期の彼がどのご令嬢と婚約を結ぶのか、社交界の一番の関心事である。


(でもあの視線は私に向けられたもの)


 ……と確信するのは自意識過剰だし、独占欲が強すぎるかしら。まあオタクの性よね。


 陛下が声を張り上げた。バリトンのよく通る声だ。


「先日、この皇都に魔王が降臨したときの恐怖を忘れることはないだろう。日は陰り、動物は騒がしく鳴き、皇都は異様な魔力に侵食された」


 当時を思い返したのか、ゴクリと唾を飲むような音があちこちからする。

 

 あの日、皇都の中心にある皇城の直ぐ側にある帝立レガリア学院の校庭に、人のような姿だけれど、鋼鉄の肌に尾の生えた禍々しい魔力の生命体が突然現れた。


「だが、魔は既に滅ぼされた! 我らが帝国の栄光に一点の曇りもない!」


 皇帝陛下というのはすごいな。

 力強い物言いは本当に陰りなく、彼について行けば大丈夫だと思わせる。


 現に、列席する貴族たちの目には忍び寄った危機に対する恐れはなく、むしろ誇りに輝いている。

 

「魔王、その復活をいち早く察知し、奴が力を顕現させる前に討ちはらった功労者を二名、我が名において讃えたい。ベル男爵令嬢リリー、そして我が息子オリバー、登壇せよ」


 玉座の正面の大きな扉が開き、オリバーがリリーをエスコートして入場した。


 会場から感嘆の溜息が上がるが、ハープの音で私はそれどころではない。


 ピンク色の髪をハーフアップにまとめ、淡い黄色のシフォンのドレスを軽やかに着こなすリリー。七色に輝きを放つ浄化石をブローチとして胸元に飾り、人々の注目を集めていた。

 

 対してオリバー殿下は、白い軍服に片掛の青いハーフマントを羽織っている。


 ふふ、互いの瞳の色を堂々と身につけるとはお熱いことで。信頼し合う視線を時折交わらせながら、歩幅を合わせてゆっくりと陛下の元へ向かう。


(まさにヴァージンロード!! 陛下はさながら神父!)


 なんて清らかなスチルでしょう。胸の奥がじわりと温まる。もしかしてこれが親心。セラフィナも喜んでくれている気がする。


 彼らが一歩踏み出す度、シナリオの終わりが近づいていく。――そのとき、私はどうなるんだろう。


 二人は陛下の前に悠然と傅いた。


「此度の魔王討伐並びに我が国への忠義、誠に見事であった。褒章と一つ望みを叶えよう。申してみよ」


(陛下もゲーム通りの振る舞いだわ。ふふっ、またスチルの時間よ)


「叶うなら、オリバー殿下との婚姻をお許しください」


(キターーーーッ!)

 

 全私が歓喜する。ここでこの発言をリリーからするのが味噌なのよ。可愛らしい声なのに、この凛とした響き。俯けた顔の表情の、強さ!


 リリー、私には丸見えよ。困難を乗り越えてきたからこその表情に身体が痺れる。


「私からもお願いします」

「二人の意志は硬いのだな。許そう」

「ありがとうございます」

 

 オリバーが同意し、陛下が鷹揚に頷く。なるほど、事前に打ち合わせがあったに違いない。ゲームをしていたときには気にならなかった裏側も、いざ直面するとなんとなく推測するようになっていた。


「時に、リリー。そなたの献身、魔王を浄化した力、まさに聖女の称号にふさわしい」


「……恐れながら陛下。その称号まで頂くわけには参りません」


(え?)


 リリーが頭を垂れたまました発言に、強烈な違和感を覚える。


(どういうこと? ゲームのシナリオとしては、受け入れてクライマックスのはず……)


「私は幸運にもお告げを受け、前線に立っただけでございます。この危機を察知し、魔王を真に打ち払ったお方がおります。真の聖女は彼女。私がその称号を頂くには荷が勝ちすぎます」


(え…………?)

 

 ドキン、ドキンと心臓が脈打ち、冷たい汗が背をつっと流れる。そういえばリリーは、女神をどう認識していたのだろう。


「それに、私が魔王に立ち向かえたのは、私が女神の声を聞いたと荒唐無稽を申したのをオリバー殿下が信じ、共に立ち向かってくださったからです」


 リリーは横を向き、照れたようにオリバー殿下に視線を流す。こんなスチルなかったはずなのに、ハープ音が鳴りやまない。何が起きているの?


 それにしても新スチルのリリー、作画よすぎない?


「ふむ、その謙虚な心こそ聖女の資質とも思うが、相わかった。……二人の幸せを、この上なく祈っておる」

「ありがたき幸せにございます」


 二人は立ち上がり、寄り添いながら会場に向かって一礼をする。

 わあああっと歓声や拍手が沸き起こった。


(これはやはり結婚式! 花のエフェクトがまるでフラワーシャワーね!)

 


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