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第三話 ヒロインが攻略をボイコットするので、女神になって暗躍します



「はあ……」


 魔法帝国の最高学府である帝立レガリア学院のカフェテリアで一人紅茶を優雅に嗜みながら、心は鬱々としていた。


(もう、絶望でしかない……)


 即席でも上手く作り上げた契約書のおかげで、なかなかスムーズに留学にこぎつけた。セラフィナの能力半端ない。


 婚約解消の慰謝料は私宛にもぎ取ったし、王権を傘にきた私を思う通りに操れず苛立ったお父様の顔を見て溜飲も下がった。

 白を基調とした品の良い制服がとても可愛いし、この歴史を感じるもはやお城のような学院もとっても素晴らしい。だというのに! どうして……。


(どうしてストーリーが進まないのよおおお!!!)


 セラフィナの淑女技術がなければ、この衆人環視で頭を抱えてのた打ち回っていたことだろう。


 四月、ヒロインのリリーが入学するところから魔法帝国編は始まる。私はスチルスキルが誘うまま、校門近くの初代学長の像の前で、歴史に思いを馳せる聡明な学生を演じていた。


「あれが二年に留学してきた隣国のセラフィナ様か……」

「初代学長に挨拶されてるのよ。さすがだわ」


 よし、擬態も上手くできている。


 初代校長のひげの長さを目測していると、突如、ハープの効果音が聞こえた。


(おおっ!? きたきたきた!)


 『魔法と浄化の乙女』のスチルのメロディだわ。俄然わくわくしてきた。


 校庭の噴水前に視線を向ける。

 

(あれは第二皇子殿下がヒロインであるリリーの落としたハンカチを拾って声を掛ける出会いイベント! ゲーム通りだわ。 ……あ、来た! ほんのり手が触れてしまうスチル! なんて美麗!!)


 歓喜が止まらない。

 赤い髪の端正な青年である第二皇子オリバーの、まだあどけないシトリンの瞳が不意の接触に見開かれる。

 ああっ、その慣れてない照れてる感じ、尊い!


 リリーのピンクの長い髪が風に靡き、青い目を瞬かせて頬をほんのり染める。

 くうっ、初々しい! なんて可愛らしいの!


(――スチルスキル、優秀すぎでは?)


 距離があっても、ズームされて二人の顔の細部まで見える。キラキラとエフェクトがかかり、二人の声まで聞こえてくる。


(なんというご褒美! セラフィナ、これが潤いよ)


 スチルスキルを選んだ私、有能すぎる。


 


 ……なんて、思っていた時期もあったわね。

 一月経ったけど、スキルの予感さえ、ピクリともないこの現状。


(リリーが攻略してくれないとスチルスキルも宝の持ち腐れよおおお!!)


 攻略対象すべてと出会ったところまではよかった。なのに、なのに、リリーったら一人学業に励むか、女友達とのカフェ巡りにばかり夢中になってる。あなた、それは攻略対象とやらないと駄目でしょう!?


(真面目で良い子なのね……)


 図書室でのオリバーイベントのスルーっぷりたらなかった。本棚の高いところの本をオリバーが背後から取ってくれるスチルのはずなのに、浮遊魔法であっさり自力解決していた。


 スキルが反応しないから、わざわざ毎日リリーの動向を伺ってこれって……。はあ。


 セラフィナがきっと悲しんでいる。


(リリー、まずは校舎裏の廃れた女神像を磨いて浄化石を手に入れないと話が進まないでしょ!?)

 

 ここ数週間、リリーを追い回して気づいたことがある。


(プレイヤー不在だと、ヒロインもただの人ってことなの!?)


 もしかして恋愛ルートへ誘導する人がいないからこんなことになっちゃっているのでは?

 きっとそう。たぶんそう。だって……。


 制服の胸ポケットに触れる。硬い感触。つるりと平べったい、ただの石ころ。


(どうしようこれ……)


 スチルが見られない失意のまま、先日校舎裏の入り組んだところに向かった。植物に覆われて隠れていたけれど女神像はあった。


 ゲームと同じ女神像かを確かめることに躍起になって、気づけばとても綺麗な状態まで磨き上げてしまっていたのは、本当に迂闊でしかない。


 エフェクトの掛かった声が耳に響き、『世界を……救ってください……!』なんて人違いも甚だしい! そもそも掃除をしてあげた見返りが世界を救う重責なんて、損得釣り合ってないしぶっちゃけ迷惑なんですけど!?


 急に押し付けられた救国の責務を全うするヒロインってまじヒロイン。


 そして気づけば、手の中にはただの石ころ、もとい力を取り戻していない浄化石があったのだ。

 そうそう。これを愛の力で輝かせて魔王を討つのよね。

 ――これがないとシナリオが成り立たない超重要アイテムなんですけど……? 


(私には輝かせられないのにどうしろと? これを持っていると夢見が良い気がするけど……。いらない、そんな安眠効果。私がほしいのは眼福!)


 ん? 夢?


 なんだかいいアイデアが浮かんできたわ……!


 騎士の国では魔法が使える人はほとんどいない。しかしセラフィナの祖母は、魔法帝国の皇女だった。セラフィナは祖母の血が濃かったようで、春休みに猛特訓したところ、なんと魔法の才が開花したのだ!


 初級魔導書の一番最初のレッスンを試した感想が「魔力?笑」だったときには、無謀な挑戦だと思ったが。成せば成る、成さねば成らぬって本当ね。

 

 ちなみに初手で『地面に横たわり脱力しましょう。大地のエネルギーが身体を巡るように、自己の魔力の本流を知るはずです』と言われたって、現代日本人に何がわかると!?

 

 魔力を感じるために瞑想しては、魔導書を買い読み漁り、やっと魔力らしきものを掴んだ後は手当たり次第に魔法を試して暴発させたり、……はあ。


 なかなかの迷走っぷりだった。お陰で体力気力と睡眠時間が犠牲になった。


 これも悪役令嬢スペックというものかしら。

 魔法は想像力とも言うし、私のオタクムーブもちょっとは影響してると嬉しいな。


 騎士の国からの留学生であるセラフィナは学院の普通科に留学していた。魔法が使えないと周囲に思われているのは、リリーのストーキングにはとても好都合だったので、これは私とセラフィナの二人の秘密だ。


(もともとセラフィナが目覚めた時に彼女の選択肢が増えれば良いなと思って始めたことだけど、特訓して良かったわ)


 そんな経緯で魔法の心得はあるのだが、たしか『夢見の魔法』というものがあったはず。ちょっと習得してくるわ。


 


 ――ということで、リリーの夢に入り込みます!


 いやあ、さすがは使いこなせる人は一握りの高等魔法なだけありました。


 セラフィナの優秀な公爵令嬢のガワを最大限利用して帝国図書館の禁書庫の魔導書を借り、三日三晩徹夜しましたとも。……逆にそれしきで習得とは、セラフィナのポテンシャル凄すぎない?


「リリー・ベル、聖女たる清廉な光を宿す乙女よ。あなたが魔王を討ち滅ぼす予知を見ました。浄化石を復活させ、どうか世界を救ってください」


 神々しい光は、光魔法の応用でなんとかなる。逆光で顔を隠して、声はちょっと下げてしっとり話す……。

 どう? 女神のお告げっぽくない? ふふ、本物の女神と二度も会ったことがある私の経験値を見よ!

 

 ……なんて、我ながらチープな女神だけどね。

 浄化石は転移魔法でリリーの部屋に転送済みだ。急に枕元に石があったらホラーだけど、真面目で素直なリリーなら、奇跡を信じてくれるはず。

 

 確信はないけど翌日、また夢枕に立つ。


「聖女リリー。浄化石の復活に必要なのは、そう、絆。まずは図書室でオリバーに本を取ってもらうのです」


 本当は愛が必要なのだけど、そんなの出会ってすぐの男と愛を育めと言われても気持ち悪いわよね。私がやるのはスチル製造。イベントさえ発生させれば愛は勝手についてくる(多分)!


(でもこの考え、正解みたい)


 だって、明日、スチルが見れるってスキルが言ってるもの。ふふふ、計画通り。私もたまにはやるでしょ、セラフィナ。


 

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