02
実は俺、癌なんだ。もうすぐ、死ぬらしい。
そう、簡潔なメールを充のアドレスへ返信した後、直登の携帯に彼からの返事はなかった。
きっと、冗談に思われたに違いない。実際、自分が充の立場だったら、たちの悪い冗談を吐くなと怒っていただろう。
直登は、自嘲的に笑った。
その日の夕方。直登の病室は初めて賑わいを見せた。事実を知ったクラスメイトが見舞いにやって来たのだ。
「久遠、お前なんで今まで言わなかったんだよ…」
「嘘でしょ?もうすぐ死んじゃうなんて…っ」
賑わいとは言っても、もちろん明るいものではなく、悲しみに暮れる懺悔だったが。
それでも、こうして自分の為に悲しみ、泣いてくれる人達がいる。そう思うと、なんだか妙に穏やかな気持ちになれた。
「…充、ごめんな」
何が、「ごめん」なのだろう。
「なんで…謝るんだよ」
案の定、充にも聞き返される。
どうして謝ったのか。そんな事、本人の直登にさえ分からない。これまで迷惑を掛けた事か、恩返しをする前に死んでしまう事か。
「よく、分からないや…」
全て合っているようで、全て違っているような。
分からないけれど、思わず彼への謝罪の言葉が零れた。
「直登」
充達が帰った後、どうやら寝てしまっていたらしい。
母親の声で目が覚めた。
「直登、お客さんよ」
病院でお客さんという表現は間違っているような気もしたが、直登はそこに触れず、体を起こした。
そして、目を見張る。
「こんばんは」
挨拶をする“お客さん”は、相変わらず綺麗な声をしていた。
「こうして、ちゃんと話をするのは初めてだよな?」
ああ、初めてだとも。それどころか、こうして顔を見るのでさえ、今回が二度目だ。
なんで彼がここに。直登は寝起きのせいで働かない頭で、必死に考える。
そんな様子を見て、少し可笑しそうに。常磐燐はふわりと微笑んだ。