お慕いしております
相変わらずぼんやりと外を眺める直登。ただひとつ違うのは、ここが学校の教室ではなく病院の病室だという事。
学校の桜はもうほとんど散ってしまったけれど、まだここの桜は咲いている。それが、どんなに直登の心の支えになる事か。
はあ…と、もう幾度目か分からない溜息を吐く。
「…常磐君、か…」
病室に自分一人しかいないのを良い事に呟いた名前。
先日桜の中で見た、歌の上手い青年、常磐燐。彼について知っているのは、その名前と、直登のクラスに来た転校生だという事。他は何も知らない。その名前だって、充から聞いたのだ。
学校に行きたい。彼に、もう一度だけ会いたい。そして、歌声を聴きたい。
そんな些細な願いを胸の奥にしまう。願っては駄目だ。諦めがつかなくなる。ただ、自分の身に降り掛かる出来事を受け止めればいい。足掻いたってどうしようもない。惨めになるだけだ。
「望んじゃ、駄目だ…」
直登は、そっと目を閉じる。桜が散るのを見たくないから。
ナオ、随分長い事休んでるけど、風邪そんなに酷いのか?
充から送られて来たメールに、どう返信しようか悩む。
風邪だと言って誤魔化すのは、もう限界か。だけど、真実は言いたくない。
「直登、充君達に本当の事言わなくていいの?」
どうせ、いつかはバレるのよ。母親が顔を歪めて言う。
そういえば最近、痩せた気がする。苦労してるからか。させているのは、他でもなく自分。
「うん。じゃあ、本当の事言う」
騙すのも、もう限界だろうから。
直登は微笑む。それは、とても頼りのないものだった。




