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【学園都市で、異能✖魔法カードバトル!】魔法少女とディビジュアル―ツ〜学園都市で"唯一"の魔法少女、七つの大罪をスペルカードに従えます〜  作者: NoN
第一章:『猫と吸血鬼と異能者の街』

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第十四節:『五つの魔法』

『純潔。


 それは穢れなく清らであること。

 

 いかなる邪心をも持たず、我欲にも色欲にも心を傾けず、聖なる愛と希望で心身が形作られたこの偉大なる『魔法少女』にとって、それはまさに存在の基底とも言える美徳だわ。


 夢幻の聖力は、どんな逆賊の悪意も純潔の名の下に跳ね除けるもの。



 その恩恵に与りたくば、心を空(から)くし我が偉力に身を捧げることね。



』

* * *



「——それじゃあ陰々蛇(いんいんじゃ)さん、準備はいい?」


「うん、いつでもおっけー」


「よし、じゃあいくよ——『無我の鏡像(ミラリング•チャス)』!」


 刹那、僕は手に握ったミントグリーンのカード、『純潔』のスペルカードを天高く掲げ、その魔法を詠唱し——次の瞬間、その僕の掛け声に呼応するかのように放たれた眩いミントグリーンの光が、僕の全身を逃さず包み込んだ。


 そして——


「……!」


「ゆ、ユーバラ……っ!?だいじょうぶ……?急にぶったおれちゃったけど……」


「……」


 あわあわと目の前の紙袋の少女は慌てたような様子を見せる——なぜなら、唐突に僕の身体は糸が切れたようにパタンと、その場に仰向けに倒れ込んだのだから。


 無論、そう冷静に自分の状況を俯瞰出来る、僕の頭は極めて正常だ。それは平時を正常だと定める場合に限ってではあるが、ともかく思考には異常がない。


 ただ問題なのが——身体の方だった。


「もしかして……おまえ今、うごけないの?」


「……」


「目だけパチパチしてる……いえすってこと?」


 僕が現状で唯一取れるコミュニケーション、そのアイコンタクトを受け取った彼女は、それでもまだ困惑したように紙袋を傾かせている。


 そう……今の僕は、目以外のどんな身体の部位も、自分の意志で動かせなくなっているのだった。


 意識だけははっきりしているのに、身体だけはピクリとも動かせない——喩えるなら金縛りのような状態に近いが、しかし不思議とあれほどの閉塞感も、息苦しさも感じることはない。


 それはこれが、れっきとした『純潔』の魔法の効果だからなのだろうか。


「うーん……ちょっと心配だけど、でもこれはテストだから」


 しばらく彼女は完全に沈黙した僕の傍にしゃがみこんでツンツンと僕の身体をつついていたが、やがて意を決したように立ち上がって、手に持っていた二枚のスペルカード——『色欲』と『憤怒』をそれぞれ両手に掲げ、倒れた僕の方に向ける。


「ごめんユーバラ……それじゃあいけ——ピンク、赤」


 と、彼女のその言葉と共にそれぞれのカードが桃色と赤色の光を放ち、二つの光が全身ミントグリーンの僕に真っ直ぐ向かうが——


「……やっぱり、さっきと同じでちゃんとはじかれた」


 そうぽつりと呟いた彼女の言葉通り、それらの光は僕の身体の触れた瞬間に反射し、あらぬ方向に弾かれて消えていった。


 やはり『純潔』の魔法は、他者からの妨害を跳ね除ける効果があるのは間違いないみたいだった。


——ただしその制約として、自分の意志で身体が動かせなくなる、ということか。


 ……しかしだとしたら、先ほどの『演者(パフォーマー)』の最期の狂乱の様子が疑問に残るが。


 ガタガタと全身を震わせながら、自我が崩壊したかのようにその姿形を言動をグチャグチャに変化させ、そしてそのまま足を滑らせて奈落の底に転落していった、壮絶な最期を遂げた『演者(パフォーマー)』。


 ……もしかしたら自分にも、あの銀色仮面のような恐ろしい副作用が起こるかもしれないと思わないわけでは無かったが、今の僕の精神状態は平静そのものだ。


——そんなことを考えていると、何やら右頬にふにっとした感触を感じて、僕はそちらの方に視線を動かす。

 

「ぷに、ぷに……わっ、目だけギョロっとうごいた」


 ……なんか、陰々蛇さんに好き勝手に頬を摘まれているな。彼女の細くしなやかな指が、僕の右頬を引っ張ったりぐにぐにと遊んでいたりしてこそばゆい。


 僕の頬をおもちゃの様に扱うのは辞めてほしいのだが、そうはいっても口が動かせないので何も抗議の声を上げることは出来ない。


「——こしょ」


「……!?」


 その時、彼女はおもむろにその白い手を僕の首元に近づけて来て——その指先が、僕の喉元をくすぐるように撫でた。


 ちょ、ちょ、陰々蛇さん……くす、くすぐったいん、だけど……っ!?


「こしょこしょ……アハッ。やっぱりこれでもうごけないんだ……」


「……!……!」


「ふーん……」


 僕が必死に瞬きを繰り返しても、彼女の指先は執拗に僕の喉元をどこかテクニカルに撫で回し続け、局所的かつ的確な淡い刺激が触覚を通じて脳髄を侵すように断続的に迸り続ける。


 彼女のその行為の意味は不明だが、もしかしたら動かなくなった僕が心配で、彼女なりに僕の意識がちゃんと在るのかどうかを確かめているだけなのかもしれない。


 そ、そうだよね……陰々蛇さん?


「かわいそうにユーバラ……そんなんじゃ身体がひえちゃう。だれかがあっためてあげないと……」


 ようやく喉元から手を離してくれた彼女は、しかし今度は位置を変えて動けない僕の股の所で膝立ちになり、どこか投げやりにそう言ってじっと僕の目を見下ろす。


 紙袋の穴から覗く彼女の血色の瞳が。

 いつも以上に、不気味に脳に焼き付き——どうしてか背筋がゾッと、寒くなる。


「……!」


「緊急事態だからしょうがない。おまえの命をすくうために、ぼくが一肌ぬいであげなきゃ。……いいよね、ユーバラ?」


 た、確かに——言われてみれば、さっきからなぜか寒気のようなものを感じていたが。

 

 自発運動が出来なくなった今の僕の状態は、自分で思っているよりも危険な状態であるという彼女の主張には一定の正当性があるだろう。


 当たり前のように、目の前でいきなり人が倒れて動かなくなったら陰々蛇さんだって、感情の起伏が小さいだけで内心は気が動転しているに決まっている。


 なんだ、そうと考えればあの執拗なくすぐりも……少しやり方を間違えていただけの彼女なりの蘇生措置だったのだ。


 まさか陰々蛇さんの様な優しい少女が、動かなくなった僕をおもちゃの様に思っていたはずがないのだから。


「……アハッ。それじゃあユーバラ、全身『ぽかぽか』にしてあげる——」


 そう楽しそうに呟いて、彼女はゆっくりとその白い指先を僕の服の裾へと伸ばしてくる。


 そういえばと、僕はそんな彼女の様子を見送りながらぼんやりと思う。


 僕の身体を温めてくれるとのことだが。

 具体的に彼女は、これから何をするつもりなのだろうと——


『——不純だわ』


「あう……っ!?」


 だが陰々蛇さんの指先が僕の服に触れた瞬間、頭の中で誰かが冷たく囁き、僕の身体を包みこんでいたミントグリーンが一際強い光を発して、彼女の全身を激しく吹き飛ばしていた。


「いた……っ!なんでぼくが、はじかれるの……っ!」


 その場に背中から横転した彼女は、だがすぐに負けじと起き上がって僕の身体にもう一度手を伸ばすが——


「——っ!な、なんで……さわれない……っ!」


「……」


 今度はバチンと鈍い音が響いて、彼女の指先が僕の身体を包み込むミントグリーンの光に触れた瞬間に強く弾かれる。——まるで、それ自体が意志を持って拒絶しているかのように。


 意味が分からず陰々蛇さんの指先が何度も何度も弾かれる光景を呆然と見つめていると……だがそこで、不意に全身を覆い尽くしていたその光が掻き消え、途端に身体が自由になった。


「——あ。どうやら、魔法の効果が切れたみたいだ」


「……ユーバラ、ちょっと手かして」


「……うん?別に構わないけど」


 どこにも身体の異常は無く、むくりと身体を起こした僕に、隣に座り込んだ彼女はどこか不機嫌そうにぶっきらぼうにそう口を開く。


 彼女のその言に従って、そっと僕は自由に動く右手を差し出すと、すぐさま彼女は自分の両手でそんな僕の手を逃さぬようにぎゅっと力強く握り締めた。


「い、陰々蛇さん?」


「……よし、今度はちゃんとさわれる。てことは……」


 と、ほっとしたように息をついた彼女は、手を離して足元に転がっている『純潔』のスペルカードを忌々しげに睨み付けたのだった。


 

「……ぼく、この魔法きらい」



* * *



——そんな風に、『純潔』の魔法の効果について一通りの検証が終わったわけだが。

 

「結局この魔法は、どんな効果なんだろう」


「……たぶん、うごけなくなる代わりにそれはどんな攻撃もはじくんだとおもう。むかつくけど」


「なるほど?」


「恣意的に……えらんで……フェアじゃ、ない……」


 何かボソボソと彼女は極めて不服そうに呟いていたが、ともかく『純潔』の魔法は不動の制約の代わりに無敵になる強力な効果があるというのが、陰々蛇さんの見解であるらしかった。


「……じゃあ、これで五枚のスペルカードの全ての効果が分かったわけか」


 そう、僕は手元の五色のカードを一枚一枚見渡して重く呟いた。


 黄色の『怠惰』、『自堕落の腐食(スロウ•スロット)』。

 赤色の『憤怒』、『血色の超興奮(ラス•フィジカル)』。

 桃色の『色欲』、『桃色の超感覚(ラス•パニカル)』。

 緑色の『忍耐』、『苦難の受け皿(ペイズ•ペインズ)』。

 そしてミントグリーンの『純潔』、『無我の鏡像(ミラリング•チャス)』。


 僕らの武器は……自分の身体と異能と、この五枚のカードのみ。


「……黄色のカード、もう色あせてほぼ石みたいな色になってるけど。まだつかえるの、これ?」


「……分からない」


 彼女が指差してそう言った通り、指摘の『怠惰』はもう力なんてほぼ残っていなさそうに無惨な有様になっている。

 大体このカードだけなんでこんなに色褪せてしまっているのか。他のカードは綺麗なままだと言うのに、これではまともに扱えるスペルカードは実質四枚しかないということになる。


——こんな満身創痍で、闇崎(あんざき)さんを助けに行くことが出来るのか。


「……っ」


 僕は脳裏を過ったその弱気な気持ちを振り払うように首を横に振る。


 出来る出来ないの話ではないし、『敵』が明確な悪意を持って彼女を連れ去って行ったことが分かった以上、もはや僕らに選択肢は無いのだ。


 だが、そもそもの問題として――


「……アンザキ、どこにつれてかれちゃったのかな」


「……そう、それが問題なんだ」


 陰々蛇さんが心配げに呟いた通り、僕らには闇崎さんを探し出す手段が無い。この広い繁華街を一通り見て回るというのは現実的ではないし、こちらから積極的に動き回るのは『敵』に見つかる可能性を高めるだけ。


「クソ……一体どうすれば……と、んぐ?」


 だがその時のことだった。不意に目の前の彼女は何かを感じ取ったようにハッと顔を上げて、僕の口をその手で塞ぎながら、しいっと人差し指を口元の位置に立てる。


 そしてそのまま、淡々と口を開いた。


「……だれかくる。『隠密』で隠れるから……ゼッタイに、ぼくの身体から手をはなさないで」


「……え?」


「どこでもいいから、とにかくぼくの身体のどっかにふれてて。——そうしないと、おまえの存在感をけせないから」


「わ、分かったよ」


 言われるがままに、僕は彼女の左腕を掴み、そのまま彼女に付いて近くの物陰に姿を隠した。


 そして、ほどなくして——



「——あらあら……ここにも見つかりませんわね。一体『演者(パフォーマー)』は、何処に行ってしまわれたのでしょう」


「あ、あいつがく、くたばってたら……い、いい『被写体』になる……さっ!」


「趣味が悪いですわね、『写真家(フォトグラファー)』」



——金色のフルートと大きなカメラを携えた二人の人影が、僕らの前に姿を現していた。

遂に五つの魔法の効果が全て出揃いました!ここでこれまでの情報を一度整理しておきましょうか!


怠惰(黄)→地面ドロドロ

色欲(桃)→五感を鋭敏にする

憤怒(赤)→五感を鈍くする代わりに、身体能力を強化する

忍耐(緑)→負担を肩代わり

純潔 (ミントグリーン)→動けない代わりに、無敵になる


ざっとこんな感じですね。どれが一番強いと思いますか?良ければ何でも感想ください。


ちなみに下のイラストは最近描いた『魔法少女』、魔宮木イツキです。イラスト初めて大体一年、ちょっとは上手くなっただろうか。偉大なる『魔法少女』は私の画力じゃ表しきれないほどにもっとプリティーチャーミーなのだけれど、寛大な彼女はどんなファンアートだって喜んで受け入れてくれるでしょう!


まあそんな彼女、本編では未だ不在なのだが……。


挿絵(By みてみん)


さてそれでは、いよいよ佳境が近づく第一章。


どうぞ最後までお楽しみいただければ幸いです!

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