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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第一章 孤児院と謎の寄付
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赤い土が呼ぶ破滅


 侵入者──ガルドは、眠り込んだリオと震えるルカを抱えたまま、人目のない山道を進み、鉱山の穴蔵へと入っていった。


 その鉱山は、地図にも記されず、誰の探索記録にも残っていない。

 だが──完全な未踏ではない。


 岩壁には、少数の人間が秘密裏に掘った浅い傷が残っている。


 穴蔵の空気は冷たく、湿り気を帯びている。

 薄い酸素が、静寂をさらに深くする。

 

 自然の闇に沈む穴蔵の奥で、一筋の金色がかすかに光る。


 ここはごく少数の人間だけが知る、隠された金鉱脈だった。


「……ここなら好きなだけ叫んでいいぞ、クソガキ」


 ガルドは苛立っていた。


 ルカが叫んだ赤い土という言葉。

それは自分達の計画を台無しにしかねない言葉だ。

喉元にナイフを突きつけられたような一言に、殺意を抑えられずにいる。


「うぐっ」


 ガルドはルカとリオを地面に放り投げ、懐からナイフを抜いた。

 刃が湿った鉱山の光を受けて、鈍く光る。

 ナイフを構える手つきは、かつて冒険者だった頃の癖がまだ残っていた。


 恐怖に震えながらも、未だ眠る姉を必死に庇おうとするルカ。

 その行動が、さらにガルドの神経を逆撫でする。


「まずは目からだ」


 ルカの喉元を抑え、ナイフの先端がルカの右目へと向かう。

 恐怖に引き攣る顔に、ガルドはニヤリと笑みをこぼす。


 そして、刃が黒目に触れようとしたその瞬間──

 もう一人の男──セリオが手を伸ばし、ガルドの腕を掴んだ。


「やめなさい、その子も人質にします」

「あぁ? ……チッ」


 ガルドは舌打ちしながらナイフをしまい、ルカを投げ飛ばした。


「がはっ……たす──」


 必死に息を吸い、声を出そうとする。

 だがそれは許されなかった。


「ぐっ──!」


 ガルドの蹴りが腹にめり込み、肺の空気が一気に抜ける。

 少年は折れたように倒れ込み、さらに拳で頭を殴られ、完全に沈黙した。


「これくらいはいいだろ」

「やれやれ、先に相談してください」


 セリオはルカの状態を一瞥する。

 その目はまるで荷物の傷を確認するようであった。

 鉱山の空気が、さらに冷たくなる。


「さて……あなたは子供一人も殺せないんですか?」

「はっ、昼に変更したのはお前だろうが。夜なら確実だったんだよ」

「それはあなたも了承したはずでは?」

「チッ……だがこうして口封じは出来ただろ。それにこのリオってガキも連れてきたんだ。金はきっちり払ってもらうからな。勿論上乗せで」

「分かっていますよ。金を用意してきますので、ここを見張っててください」


 セリオはそう言い残し、鉱山の外──暗い森へと消えていった。


「ケッ、最初から素直に金だけ出せばいいってんだ」


 ガルドはその場に座り込み、懐から酒の入った水筒を取り出す。

 そして荒々しく呷った。


「……逃亡のためにアレンを殺せって言われた時は、冗談かと思ったがよ」


 ごきゅ、ごきゅ、と喉を鳴らしながら酒を流し込む。


「なるほどな……娘を人質にすりゃ、アイツも殺せるってわけか」


 そして酒で濡れた口元をぬぐい、水筒をバンッと地面に叩きつけた。


「確かに、あの野郎に俺達の捜索を依頼したら終わりだ。チッ……目障りな野郎だぜ」


 ガルドは不機嫌そうに顔を歪めたが、次の瞬間にはゆっくりと口角を上げていた。


「だがよ……アイツを殺せば一生遊んで暮らせる金が入るんだ。くくく……人を殺すのにも慣れてきたしな。どうせなら何か、楽しい殺し方でも考えるか……」


 鉱山の奥に、ガルドの不敵な笑い声が響いた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 お昼頃。

 受付で冒険者達の依頼受注や達成報告をまとめていた時だった。


「俺、こんなでけーゴブリン倒したぜ!」

「バッカお前その大きさじゃオークだろ!」


 冒険者達が昼間からエールで一杯やっている。

まったく……冒険者達の交流の場として酒場を設けるのはいいけれど、ギルド嬢の仕事場所と酒場が近いのはどうかと思う。

臭いし煩いしやめてほしい。


「ミーナさん、お仕事お疲れ様でした!」

「はいお疲れ様です、サラさんはこれからお昼ですか?」

「はい! なので一緒にどうかなと!」


 サラちゃんは私の後輩だ。

一年前に入ったばかりの新人さんで、若くて愛嬌よくて元気いっぱい。


 そんな子がなんで私を誘うのかしら。

なんて一瞬考えるけど、素直に嬉しかった。


「そうですね、それじゃあ行きま──え、アレンさん?」


 私が席を立つと、アレンが目の前にいた。


「あ、いや、すまん、先約がいたか」


 チラリとサラを見るアレン。

 あーこれは……


「だ、大丈夫ですよ、アレンさん! 私、ちょうど予定思い出しちゃってー!」


 サラは風のように消えた。

 耳元で「頑張ってくださいね」と聞こえた気がしたけど、無視する。


 あーあ、またアレンとの噂が広がる。


「どうしたんですか? 今日は依頼ありませんよ」

「いやそうじゃなくて……ミーナ、その、飯でも行かないか」


 ……え?

 アレンが食事に誘うなんて、ほとんど無い。

 嬉しい、でもどうしよう、ドキドキしてるの隠さないと……。

 今日メイク、大丈夫だよね……。


「え、えぇ、いいですよ」

「そうか……ならミーナの好きなレストランを教えてくれ」

「は、はい……そうですね……」


 緊張して顔を見れない……

 は、恥ずかしい……


 でも目を合わせないのも失礼だし、ちゃんと顔を見て──


 ……あーはいはい。リオちゃんの件ね


 分かってますよー、分かってましたよー。

 

「なら近くの海の都ってお店にしましょう、おいしーですよ」

「あ、あぁ、えっとなんか怒らせたか?」

「いいえーそんな事ないですよー」


 期待した分だけ、ちょっと残念。

 でもあの深淵狼すら討伐してしまうアレンが、十代の少女に右往左往してるのは正直、可笑しくて笑ってしまう。


「じゃあいきましょうか、深淵狼スレイヤーさん」

「お、おいその名で呼ぶなよ、やっぱり怒ってるのか?」


 ちょっとイジりながらレストランへ向かった。


「それで、どうしたんですか?」

「いや、まあ最近どうかと思ってな……」


 席に着くと、アレンは落ち着かない様子でそう話す。

 ……はぁ、仕草がもう完全に悩んでますのサインですよー、アレンさん。

 

「いいですよ、本題はリオさんの事でしょ?」


 そう声をかけると、アレンはちょっと恥ずかしそうに笑う。


「ははは……まぁ、ちょっと喧嘩してしまってな」


 やっぱり。ほら来た。

 何年あなたと仕事してると思ってるんですか。


「喧嘩の原因は?」


 アレンは眉間を押さえながら話す。


 リオちゃんの弟のルカくんを信じなかった事。

 それをリオちゃんに怒られた事。

 ムキになって仕事を押し付けた事。


 アレンの顔は、完全に反省してますの顔になっている。

 ……ほんと、昔っから不器用なんだから。


「それで、一人で仕事を任せて心配と」

「し、心配なんて言ってないだろ! 俺は──」

「俺は?」

「……はい……心配です」

「もう、そんなに心配なら謝ればいいじゃないですか」

「いや、それは……」


 アレンは黙った。

あ、これは……恥ずかしくて言えないやつね。


 昔のアレンを思い出して、思わず笑ってしまう。


 ……まったく。


 冒険者やめて落ち着いたと思ったけど、こういう所は全然変わってない。


 はいはい、しょうがない。

 私が間に入ってあげますよ。

 本当、アレンは私がいないと──


「アレンさん!!」


 レストランの扉が勢いよく開いた。

 自警団の隊員が駆け込んでくる。

 ざわついたお店の雰囲気が、一気に緊張状態へと変わった。


「シスターからです。リオさんとルカくんが……攫われたと……」


 そして世界が一瞬で静止した。


「……え?」


 アレンの椅子が倒れる音がした。

 彼はもう走り出していた。

 私も急いで後を追う。


 そして孤児院に着いた瞬間、胸が冷たくなった。


 割れた窓。

 床に散らばる破片。

 倒れた院長。

 眠り込んだ子供たち。


 ただ事ではない事が、一瞬で理解できた。


「睡眠作用のある毒草が使われています。食事に混ぜられたようです」


 リットさんが倒れた院長や子供達の様子を見てそう話す。

 命に別状はないみたいで、すこしホッとした。


「計画的な犯行だと思われますね」

「そうですね……」


 孤児院の子供達を一斉に眠らせるなんて、突発的にできることじゃない。


 でも──だったら、なんで昼に?


 二人を狙うだけなら夜でもいいし、外出時でもいい。

 わざわざ人目につきやすい昼に行う理由がない。


 計画が早まった?

 単純に計画が穴だらけだった?

 

 ダメだ、情報が足りなさすぎる。


「リオさんやルカさんについて何か情報はありますか?」

「そうですね……あたりに血がない事から無傷と考えられますが、争った形跡があるのでなんとも……」

「そうですか……」


 そもそも何故犯人は二人を狙った?


 第一に考えられるのはリオちゃんの人質利用。

アステル周辺ではリオちゃんがアレンの保護下である事は知れ渡っている。

だからリオちゃん誰もリオちゃんを襲わない。


 ただもし狙いがアレンの無力化であれば、リオちゃんを狙う価値は十分にある。


 ──でも、これはまず無い。


 リスクの割に犯行が杜撰すぎる。


 だとすると犯人の目的は……


「アレンさん、ルカくんの件もう少し詳しく──」

 

 ──遅かった。


「あのバカッ! リットさん! アレンがどこに行ったか分かる!?」

「え? アレンさんなら赤い土の話を聞いた途端、街の外に行きましたよ」


 赤い土、それはルカくんが最後に叫んだ言葉だ。

 いや、今はそんな事よりも……!


「ッ! なんで止めなかったんですか!!」

「い、いやアレンさんだったら止めなくてもいいかなって……」

「もうっ!!」


 なんで分かってくれないの!?

 あの人は確かに強いけど──!!


「アレンさんを追います! あなた達も情報収集と孤児院の方々の保護を終えたら、すぐに来てください!!」

「わ、わかりました! でもどちらに──」


 兵器でもなんでもない、ただの優しい人間なのよ!!


「アレン──!!」


 あぁ! 胸騒ぎが止まらない!!

 お願いだから間に合って!!

 


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