ロタリー暗殺計画
私は今、馬車の御者をしながらロタリーさんとリシュアの護衛をしている。
行き先はエンディル。
目的はロタリーさんの禁忌魔法使用の正当性に関する後ろ盾だ。
「ロタリーさん、エルドラシアから出来る事はこの程度ですが、どうかお力にならせてください」
「やめてくださいリシュアさん、頭を上げてください」
禁忌魔法使用者は裁判にて罪が裁かれる。
そこで必要なのは、妥当性を証明する証拠とその提出者の信頼。
エルドラシアはそのどちらもが、最高峰で提供できる。
本当なら裁判すらも無くせるのだけど、ロタリーさんはそれを良しとしなかった。
禁忌を犯した罪は裁かれるべき。
それがロタリーさんの考え方だった。
「カイラム、どう? 魔物はいる?」
「いないかな。というかこの辺の魔物は私のマナで逃げちゃうから」
「相変わらずだな」
私の体内のマナは討伐難易度高五程度の魔物数体分だ。
だから私さえ馬車に乗せておけば、今みたいに安全な旅が保証される。
ロタリーさんは往復どちらも私が護衛だ。
どうぞ安心安全な旅を──と言いたいところだけど。
「二人とも隠れて、殺気が向けられてる」
風が変わった。
馬車の外を流れる空気が、わずかにざらつく。
胸の奥で、獣の本能が警鐘を鳴らす。
私は馬を止めて周りを警戒した。
「わ、分かりました! 山賊ですか?」
「違う」
山賊の気配ではない。
欲望と雑念が混じった、あの軽い殺気とはまるで質が違う。
これは、研ぎ澄まされた刃だ。
迷いも、怒りも、欲もない。
ただ殺す──
その一点だけに研ぎ澄まされた、冷たい殺気。
「声、出さないで。多分暗殺者だと思う。それも相当優秀な」
「──っ!?」
二人は必死に声を抑え、体を強張らせる。
あまり驚かしたくはないけれど、警戒してもらった方がやりやすい。
でも何故だ。
何故暗殺者は、わざわざ私が護衛中に狙った?
「……来るなら来い」
短剣を構え、周りを警戒し、襲撃に備える。
正直言って周りの連中では一斉に来ても、私を殺せない。
いくら優秀でも強さが違いすぎる。
だから狙ってきてくれた方がありがたいのだけど……。
「……来ないのか」
暗殺者の殺気は次第に薄れ始めていく。
諦めたのか?
だとしたら更に意味がわからなくなる。
「リシュアがエンディルに行くって情報は出回っている?」
「いや、一部の人間しか知らない」
「分かった、次にその一部の人間は私が護衛する事を知ってる?」
「知っている」
「分かった、次にロタリーさんの帰還日はエンディルに知らせてる?」
「知らせている、ただ護衛に誰を付けるかは伝えていない」
なるほど、ハッキリした。
さっきの暗殺者は諦めたんじゃない。
私が護衛をしているという想定外が発生して撤退したんだ。
「……まずい事になった、リシュア」
「あぁ、私もその質問で想像がついたよ」
「……」
ロタリーさんが杖をギュッと握る。
彼女も想像がついたのだろう。
「……誰か、ロタリーさんを暗殺しようとしてるね」
その一言が、馬車の空気を深い静寂へと沈めていった。
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それから五日間、街は静かだった。
その静けさが逆に不気味で、疲労がじわじわと蓄積していた。
そして──アレンが来た。
理由は私達がアレンにロタリーさんの護衛を依頼したからだ。
「なるほどな……」
「アレン、どうやって護衛しようか」
「まず、護衛されているという認識を相手にさせたくないな。対策を取ってきそうだ。護衛がないと思わせて敵を誘い出したい」
アレンの考えは護衛という情報を出さないというものだった。
ただ、それでは満足に護衛できそうにない。
そういうとアレンは首を横に振って答えた。
「護衛以外でロタリーさんと一日中一緒にいても不思議じゃない関係になれば問題ないんだろ? なら……そうだな、弟子とかならいいんじゃないか?」
「確かに……」
「なら決まりだな、俺がロタリーさんの弟子って事で」
「分かりました、よろしくお願いします」
護衛の方針を話し合った後、情報共有を開始した。
リシュアとアレンがお互いの情報を交換する。
「こっちの方ですが、カイラム達と同じ道を通って来ましたけど殺気を感じませんでした。やはり山賊の線は薄いですね」
「やはりですか……私達の方はというと……ロタリーさんに死刑が求刑されました」
「なんだって!?」
リシュアの言葉にアレンが驚きを隠せていなかった。
当然だ、状況的に考えて死刑なんてあり得ない。
「それで、罪はどうなったんですか!?」
「当然棄却です、情状酌量の余地ありで執行猶予がつきました」
「……そうですか。執行猶予中の保護観察官はどうでしょう、暗殺者の可能性はありますか?」
「断定出来ないですが恐らく無いかと。ただ警戒するに越した事は無いと思います」
「そうですね……まあ敵だった時点で詰みですが……」
辛いけど、アレンの言う通りだ。
観察官が敵だった場合、どんな手を尽くしても反省の色なしと上に挙げられておしまいだ。
刑執行で牢屋に入れられて、獄中で殺される。
「まあまずは暗殺者を捕まえる所からかな、何処の勢力か分からないし」
私達は今日決まった事をまとめた。
一つ目、アレンはロタリーさんの弟子として共に行動し護衛に徹する事。
二つ目、リシュアをエルドラシアに送還後、調査部隊を送る事。
三つ目、暗殺者は可能な限り捕縛する事。
リシュア送還はエンディルからだと二泊かかる。
そうなると調査部隊合流は今日から五日後あたりになる。
なんとかしてアレンには耐えてもらわないと。
「カイラム、まあ心配すんなって、任せろ。暗殺者からの護衛は心得ている。何回か命を狙われている悪徳領主の護衛をした事があるからな。一緒に護衛しただろう?」
アレンは笑ってそういうけれど、私は嫌な予感がしてたまらない。
「じゃあ、よろしくねアレン……くれぐれも無理はしないでね」
「おう、早めに戻ってこいよ!」
殺気を感じた暗殺者はいかにも手慣れだった。
対策を組まれると私でも勝てるか分からない……。
「リシュア、帰りは少し急ぐよ」
「少しではない。全速力だ」
「……うん!」
待っててね、アレン!
すぐに助けに戻るから!
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朝の光が、ロタリーさん家の木製の床を静かに照らしていた。
この家は、彼女の性格そのもののように整然としていて、余計なものが一つもない。
カイラム達と別れたその日、襲撃は来なかった。
攻めるのなら昨日だと思うのだが、まだ警戒しているのだろうか。
俺は椅子に座り、湯気の立つスープを前にして少しだけ緊張していた。
「アレン、冷めるよ。食べて」
ロタリーは淡々とした声でそう言うけれど、どこか柔らかい。
昨日よりも砕けた、師匠としての声だ。
「いただきます、ロタリーさん」
「さん付けも敬語もいらないよ。弟子なんだから」
「……わかった。ロタリー」
「うん、その方がいい」
ロタリーは少し笑った。
その笑みは昨日よりも自然で、どこか距離が近い。
彼女は演技を頑張ってくれている。
俺も頑張らなければ。
「うん、美味しい!」
「は……あぁ、そうだな」
スープを飲むロタリーの顔は穏やかで、昨日の不安が嘘のようだった。
前日のロタリーの目にはクマが出来ていたが、少し薄れたように見える。
一日でも早くロタリーが安心して寝れるようにしないとな。
「そろそろ出る時間だね、出ようか」
「もうか、随分と早いな。分かった」
食器を片付け、ロタリーと家を出る。
朝の空気は冷たく、気持ちが引き締まる。
家の前で、隣の家の女性──セラ・ノルンさんが植木に水をやっていた
「あら、ロタリーさん。今日も早いのね」
柔らかい声だが、どこか観察するような響きがある。
「おはようございます。今日も仕事ですので」
「最近あなた帰りが遅いでしょ? 無理しちゃダメよ」
ロタリーは少しだけ目を伏せた。
「……そうですね」
セラはロタリーの生活リズムを自然に把握している。
それが自然なのか監視なのか今はまだ判断をつけられない。
そして──彼女の視線は俺に向けられた。
「あなた、ロタリーさんの……?」
「挨拶が遅れました。アーレ・ヴァルスと申します。ロタリーの弟子です」
アレン・ヴァルステッドの名前はそこそこ有名だ。
エンディルの街にも知っている人はいるだろう。
だから偽名を名乗る事にした。
顔までは変えられないが、せめてもの抵抗だ。
「ロタリーさんの弟子、アーレさん……ねぇ」
その言い方は、どこか含みがあった。
探っているような、試しているような。
ロタリーは軽く頭を下げて歩き出す。
俺もそれに続いた。
背後からセラの視線が離れない。
──この人、少し危ないかもしれない。
そう思いながら、冒険者ギルドへ向かった。
第二部開始となります。
引き続きよろしくお願いいたします。
また本章から土日メインの不定期投稿になります。
その間に一部の誤字脱字修正等をしていく予定です。
お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。




