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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第二章 禁忌と贖罪が交錯する時、エルドラシアは災厄に沈む
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幕間 エルドラシア恋愛戦記〜英雄とむっつりと怪力乙女〜


 インヴィクタの輝きは、絶望を希望に変えた。


 街の住人はアレンに感謝し、英雄と称え、生存の喜びを噛み締める。


 だが一人、絶望に堕ちる者がいた。


「リシュア様。そろそろアレン様への報酬を決めなければ……」

「アンリ……無理だよ……」


 ──その名はリシュア。


 彼女は今、ドラゴン討伐の最大貢献人であるアレンへの報酬に、頭を抱えていた。


「普通に金銭はいかがですか?」

「いくら渡せば妥当なんだ! ドラゴン討伐なんだぞ!」

「では勲章は──」

「国を差し置いて勲章を渡すのか!!」


 リシュア最大の悩みは、アレンが国からの褒賞を断っている事にある。


 ──俺、気ままに暮らしたいからさ!


 言い分はとても理解できる。

国に目をつけられれば、どうにかして取り込もうと様々な接触が行われるはずだ。

リシュアとしても恩人の頼みは聞き入れたい。


 そう思っているからこそ、彼女は悩んでいる。


「じゃあもう、国からの接触回避に尽力するって事でいいのでは?」

「それでは街の住人が納得しないだろ……」


 街の住人からは、アレンにどのような褒賞を渡すのか期待されている。


『銅像か? 銅像なんだな!? 作っておくから安心しろ!!』


 街の代表者から言われたその日、胃薬をがぶ飲みした。


「はぁ……」


 空っぽの胃薬を見つめ、リシュアは何度目かのため息を吐く。


「相手がカイラムなら簡単なんだがなぁ……」


 もし相手がカイラムならアレンとデートをさせれば良い。

それで万事解決なのに……と考えた時、彼女に電流が走った。


「そうだ……カイラムを嫁に出そう」


 天がざわめいた。

雲が一瞬止まり、雷が「え?」と鳴った。

周りも「それは報酬なのか?」と顔を見合わせる。


「カイラムをここに呼べ!!」

「し、しかしそれではアレン殿が不憫でならな──」

「いいから呼べ!!」

「は、はい!」


 リシュアは確信していた。 

アレンもカイラムの好意にやぶさかではなかった事に。

ちょっと押せばくっつく気がした。


 それにカイラムは中身はあれでも見てくれと実績だけは超一流だ。


 エルドラシアは街の希望との結婚を許可する。

これを報酬にしようと考えた。


 街の希望として尊敬されているカイラムと街の英雄の結婚。

それがエルドラシアにどれほどの恩恵をもたらすか。

リシュアは想像して涎が垂れそうになっていた。


「リシュア、呼んだか?」

「カイラム、アレンにプロポーズしろ。もしくは落とせ」


 カイラムは胸を張り、拳を握る。


「任せといて!」


 リシュアによる恋愛大作戦が始まった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「天気最悪だな……」


 入院してから五日目。

俺は暇を持て余していた。


 医者からは絶対安静と言われ、看護師が周りで俺を監視している。


 ……もっと慎重に抜け出すべきだった。


「仕方ない、新聞でも読むか」


 朝刊の二周目に入ろうとした瞬間、ドンッと扉が開けられた。


「アレン! おはよう!」

「カイラムか! 久しぶりだな!」


 カイラムとはミーナとリオをアステルに届けてからは会っていない。

会っていないと言っても数日ぶりだが、やはり仲間と話せるのは純粋に嬉しかった。


「なあちょっと抜け出すのを手伝ってくれよ」

「そんな事よりもだ! 今日はアレンに話があってきた!」


 カイラムがふふんと胸を張る。

同時に雷がドガーンと鳴った。


「話ってなんだよ」

「聞いて驚くなよ!! アレンよ!」

「なんだよ」


 一向に話そうとしないカイラムと目を合わせる。


「……」

「……」


 激しい雨の音だけが、病室に響き渡る。


「えっと……その……」

「……?」

「あの……その……」

「……?」


 なかなか言い出そうとしないカイラムをじっと見つめると、どんどんと顔が赤くなり、体が震え出した。

風邪か?

いや馬鹿は風邪を引かない。


「け、けけけ、けっ、けっ」

「どうした、壊れたか?」

「けっ……けっこーいい天気ですね!!」

「……? そうですね?」


 空を眺める。

雷鳴、黒雲、禍々しい天気。


「失礼すりゅっ!」

「あ、おい!!」


 カイラムは逃げ出すように出て行ってしまった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「あーん、無理だよー! アレンが好きすぎて言えないよー」

「……」


 リシュアのアテが外れた。

カイラムはこういう時、スパッと好意を伝えられると思っていた。

だが結果は散々たるものだったのだ。


 確かに少し前のカイラムであれば可能だっただろう。

だがエルドラシア大事件を通して、カイラムのアレンに対する好意は限界を超えていた。

本気で好きと言うのが出来なくなっていたのだ。


「リシュアー、助けてよー!」

「……仕方ないですね」


 リシュアはこう見えて……いやどう見ても仕事人間だ。

今までに恋愛のれの字も経験してきていない彼女には、その願いは到底叶えられそうにないと思える。


 だが……リシュアは経験はなくとも知識はあるのだ!

部屋の隅に積まれたピュアピュアな恋愛小説の数々が彼女に勇気をくれる!


 そう! 彼女はむっつりさんなのだ!!


「恋愛マスターの私が、サッと解決してあげますよ!!」

「やったー!!」


 そうはしゃぐ二人を見て、アンリはため息を吐くのだった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 恋愛とは所詮、求愛行動である。

鳥が羽を広げ、魚が泡を吐き、虫が変なダンスを踊るように、

人間もまた、恋愛という名の儀式を始めるのだ。


 では人間はどのように求愛行動を行うか。


 リシュア曰く──スキンシップだ。


「……アレン、て、手握ってやろうか?」

「……何言ってんだ?」


 次の日、アレンの見舞いに来たカイラムがアレンに問う。


 カイラムは信じていた。

男は女とスキンシップを取りたがるものよ!というむっつりの言葉を。

 

 故に驚愕する。

普通に警戒するアレンの姿に。


「なん……だと……」

「いや何言ってんだよ、何が目的だよ」


 これ以上警戒されたらもうアウトだ。

だからカイラムは覚悟を決めた。


「アレン! 私がスキンシップする!」

「えっちょっ、なに!?」


 アレンの手をぱっと握り、無理矢理のスキンシップをした。


 拒絶されたらどうしよう、気持ち悪がられたらどうしよう。


 そんな不安を押し込み、アレンの手を握る。


 しかし反応は、意外なものだった。


「……な、なんだよ」


 顔を赤くし、耳まで真っ赤。


 照れていたのだ。


 そっぽ向いても、手は引かない。


 それが嬉しくて、カイラムはもっと手を握る。


「あぁ……ずっとこうしていたいな」

「いきなりな──あだだだだだっ!?」


 が、力加減を間違えた。


 こうして求愛行動に失敗したカイラムは病室を出禁になったのだ。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 アレンが退院して二日目。


 完全復活にはまだ遠く、医者からはリハビリ期間を三日間指定されていた。

その話を聞いたリシュアが、リハビリとして仕事を依頼したのだ。


 ──カイラムと共に冒険者の戦闘訓練をしてくれないか?


 エルドラシアの冒険者は非常に死亡率が高く、そのため無償で戦闘訓練の場を開いている。


 その話を聞いたアレンは、リシュアの提案に二つ返事で了承した。


 ──滞在させてもらう礼です、任せてください。


 リシュアの良心に多大なるダメージが来た事を、アレンは知らない。


「そこ、出過ぎだ! 自分の間合いをちゃんと理解しろ!」

「は、はい!」


 アレンは教えるのがとても上手であった。

当然だ、あのカイラムに読み書きや魔法を教えたのだから。


 直感的でわかりやすく、それでいて理論がある。

そんな彼の元に冒険者が集うのは当たり前だった。


 そしてカイハムはというと──


「ドガーンとするな! ガーンだ! そこ! ズババッとしてガッだ!」


 こんな有様である。


「……はぁ」


 これでは自分が教えた人間と、カイラムが教えた人間で差が生まれる。


 そう考えたアレンは、カイラムに一つの提案をした。


「おいカイラム、俺と模擬戦をしよう」

「……! やったー!!」


 カイラムにとって模擬戦は自分の有用性を示す場だ。

故に模擬戦もまた、彼女にとっては求愛行動になる。


「模擬戦は冒険者にとって不要に見えて実は理にかなっている。例えば人型の魔物や知能のある魔物との戦いに活かせるからな」


 だがアレンは呑気に講義中だ。

自分が狩られる側だという事を……彼はまだ認識していない。


「よし、カイラム! 軽く打ってこい! 軽くだからな!」

「……任せてくれ、私の全力を見せよう」

「……へ?」

「身体強化、身体超強化、衝撃強化、衝撃超強化……」

「あの……カイラムさん……?」


 ドラゴン戦のカイラムを彷彿とさせるマナの流れに皆が怯え、そして察する。


「に、逃げ──」

「見てくれ! アレェェェェン!!」


 その日、アレンは病院送りにされ、カイラムは訓練施設を出禁になった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「嫌われたぁぁぁぁぁぁ」

「終わったぁぁぁぁぁぁ」


 リシュアとカイラムが床で寝そべっている。


 頭を抱え、ワタワタと全身全霊で絶望の舞を披露していた。


「はぁ……」


 やっぱりなとアンリはため息を吐く。

 結果は彼女の予想斜め下だったが、まだ想定内だ。


「アレンさんが興味持っている事、調査しておきましたよ」

「「エッ!?」」


 二人が同時に向いて、目を丸くする。

こいつマジか天才か、と言いたげだ。


「ど、どうやって……?」

「どうって、軽く街を一緒に歩いた時に聞いただけですよ?」


 私、何かやっちゃいました?と首を傾げるアンリに二人が殺気を送る。


「アンリ……我々の反応を楽しんでいたな……?」

「抜け駆け……? ねぇ抜け駆け……?」

「お、おほほっ、話を戻しましょう!?」


 渋々頷いた二人は、アンリの言葉に耳を傾けた。


「アレンさん自身が仰った訳ではないですが、その……夜の区画に結構興味ありげでしたよ」


 その言葉にカイラムがショックを受け、リシュアが納得する。


「なるほど……英雄色を好む……か」

「私という者がありながら!!」

「そうですね、なので単純ではありますが夜の区画の最高級店で最高のおもてなしをしては?」

「ふむふむ……はっ! それだぁぁぁぁっ!」

「何閃いたんですか!? 変な事はしないでくださいね!?」


 リシュアが笑顔で叫び、カイラムが泣き始め、アンリが慌てる。


 その頃アレンは、突然の悪寒に苦しんでいた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 アレン二回目の退院。

 アレンはその夜、夜の区画の最高級店へ案内された。


 アレンはウキウキだった。


「いやぁ、アステルにはミーナもリオもいるからご無沙汰だったんですよー! めっちゃ嬉しいです!! リーダーともよく一緒に行ったなー!」


「それは良かったです。夜の区画の中でもエルドラシアが誇る最高級のお店ですので、楽しんで行ってください」


「ありがとうございます、リシュアさん! いやードラゴン倒してみるもんですね!! 次ドラゴンきたらまた呼んでくださいね! インヴィクタ輝かせちゃいますから!! 夜の街、輝かせちゃいますから!!」


「はい、是非輝かせてください」


 リシュアはアレンと話しながら、アンリの言葉を思い出す。


『いいですか、絶対に余計な事をしないでくださいね!』


 その度にリシュアは憤慨する。


 ──失礼だ! 見ておけ、絶対に成功させるからな!


「あれ、リシュアさんどうしました?」

「い、いえなんでもないですよ! さぁ到着いたしました!」


 リシュアは妙に鋭いアレンに警戒しながら、個室へと案内する。


「すでに遊女はついておりますので、あとはごゆるりと」

「分かりました、では後程!」


 アレンはルンルンで部屋を開け、遊女を前にして……冷静を取り戻した。


「……何してんの?」

「ほ、ほほ、本日お相手いたします、か、カイラムでひゅっ!!」


 後ろを見ると、リシュアがのぞいている。


 ──仕組まれた。


 アレンが事態を理解するのに、そう時間は掛からなかった。


「わ、私じゃ……だめでしょうか……」

「……はぁ、まあいいか。乗ってやるよ」


 ウルウルと目を揺らす彼女を見て、アレンはカイラムの隣に座る。


「そういえばお前とこうして酒飲んだ事なかったな。ちょっと昔話したい気分だったんだ。ちょうどいいから付き合え」


 アランはカイラムに酒を注ぎ、カイラムもアレンに酒を注ぐ。


「……私も話したかった」

「……そうか」


 リシュアは反省した。


「そうだ……ただこうすれば良かったのだ……。戦友同士の絆に小細工などいらないのだな……」


 そう思い、ゆっくりと立ち上がり去ろうとする。


 が──彼女はふと自分がとんでもない過ちをしている事に気がついた。


「ひっく……おい、リシュア……こい」

「や、やらかした……っ!」


 リシュアは激務で忘れてしまっていたのだ。


 カイラムはとてつもなく酒癖が悪いことを。


「あ……えっと……」

「ひっく……殺すぞ」


 リシュアは即座にひざまずいた。


「もちろんです! お酌させていただきますよ!」


 アレンは冷や汗をかきながら思い出す。


「そういえば……リーダーいつもカイラムに酒呑ませてなかったな……」


 そんな二人を横目に、彼女が遊興道具を手に持つ。


「ひっく……じゃあ賭け事をしよう……」


 アレンは嫌な予感がして必死に止めた。


「いやいや、そんなそんな、やめましょうよ! ね、リシュアさん!」

「そ、そうですよカイラムさん!」


 二人の息のあった制止が、カイラムの逆鱗に触れた。

ドンっと振動を感じさせる程の勢いで酒瓶を置き、ドスの効いた声で呟く。


「あ? 肉団子にされてーのか?」


 二人は顔を青く染め、体を振るわせながら必死に笑顔を作る。


「め、めっそうもございません! ね、リシュアさん!」

「そ、そうですね! では何をかけましょう!」


 カイラムはにっこり笑う。

 その笑みは愉悦を滲み出していた。


「じゃあー、私が負けたらアレンは私に好きな事していいよー! アレンはえっちだからねー! きゃー!」

「コイツムカつく!!」

「アレン殿抑えてー!」 


 アレンの苛立ちを必死にリシュアが止める。

もしこの二人が暴れたら、それはもうあの大事件よりもとんでもない事が起きてしまう。


 アレンがイラつきながらも自制を効かせてくれる事にホッとしながらリシュアが座ると、カイラムは二人に指を指した。


「その代わり、二人が負けたら…… 私が好きな事するねぇ? キャー!」


 アレンとリシュアは悟った。


「じゃあーかいしー!」


 ──目が獣のそれだと。


 次の日。


「カイラムさん、リシュアさん。私言いましたよね……余計な事するなって……」

「「すみませんでした!!」」

「……アレンさんどうしますか?」

「もう……お婿にいけない……」

「はぁ……では、代わりに私が制裁を下しますね」

「「はわわわわ……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」


 二人がどうなったかは、アレンとアンリのみぞ知る。


幕間までお読みいただきありがとうございました。


幕間という事で、ちょっと落書きさせてください。


一部楽しんでいただけましたでしょうか?


見返していると誤字脱字をちょこちょこ発見します。

何度も見直しをしているのですが、難しいですね。

ご迷惑をおかけしています。


一部のテーマはアレンの成長でした。

彼の成長を感じていただけたら嬉しいです。


インヴィクタを書く上ではどうしても彼の成長は必要でした。

人に頼る事、人を助ける事。

簡単なように見えて結構難しいですよね。


あ、幕間の彼はちょっとはっちゃけてますが、本編がシリアス寄りなので許してやってください。


落書き長くなってすみません。

一部まで書き切れたのが嬉しく後語りしちゃいました。


さて、次回からは通常運転です。

引き続き本作をよろしくお願いします。


最後になりますが、

一部最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

心よりの感謝を込めて。

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