絶望を越えた朝に、未来は微笑む
ドラゴンとの激闘から二日が経った朝。
エルドラシアの街は、まるで何事もなかったかのように活気に満ちていた。
壊れた建物は修復が始まり、ドラゴンを押し潰した際に崩れた防壁も、職人たちが威勢よく立て直しを進めている。
まるであの凄惨な戦いが嘘だったかのように、街は再生を始めていた。
「いや……違うか」
病室のベッドから街を眺めながら、俺は首を振った。
あの事件があったからこそ、人々は前を向いているんだ。
そう思いながら白い天井を見上げる。
俺は今、病室に軟禁されていた。
固有魔法を使い終えた直後、俺はその場で気絶して倒れたらしい。
全身の消耗が酷すぎて、二日は寝ていたとの事だ。
俺が起き上がった瞬間、目の前で医者が泡を吹いて気絶した。
目を覚ました医者に「君は死なないとおかしいんだ!」と力説された。
いや、言い方よ……。
「俺……重症なんだよなぁ」
確かに身体中は痛み、マナもうまく制御できない。
けれど──体は軽い。
心も軽い。
入院が必要なほどボロボロなのに、今までで一番絶好調だ。
理由は分かり切っていた。
俺は……やっと自分の事が赦せたんだ。
俺を赦せるのはリーダーでも他人でもない。
俺だけだったんだなと、今更ながら気づいた。
「……少し外でも歩くか」
そう思ってベッドから起き上がろうとした時、隣から殺気が飛んできた。
「馬鹿なんですか? 治してあげましょうか?」
「すみませんでしたぁぁぁ……!」
ミーナの殺気に冷や汗をかきながら、そっとベッドに戻った。
この病室にはミーナと俺だけだからな……きっと本気だ。
「ミーナ、俺いつ出られるの?」
「馬鹿は死んでも治らないと言いますからね、死ぬまでじゃないですか?」
「えぇ……」
「はぁ……そんなに退屈ならここ最近の事を話しますよ」
ミーナは果物を剥きながら、俺が寝ていた二日間の出来事を話してくれた。
禁忌魔法の連鎖魔法陣と魔物召喚を使った犯人については、手掛かり一つ見つからないらしい。
ただロタリー曰く、ドラゴンを呼び寄せた核魔法陣の暴走は、何者かによる故意だと調べがついた。
エンディルでは最近、禁忌魔法の情報を記した本を保管していた場所に、何者かが侵入した形跡があり、その関連性を調べるためロタリーはもう少し残るらしい。
その時に少しでも手掛かりが見つかればいいが。
他のギルド長はというと、ロード含めドラゴン戦の翌日に帰ったとの事だ。
あのドラゴン戦を経験したにも関わらず、休む事なくすぐ帰るとは……。
ギルド長には絶対になりたくないな。
「ミーナはいつ帰るんだ?」
「あら帰って欲しいんですか?」
「意地悪いうなよ」
「ふふっ、ごめんなさい。アレンさんも大丈夫そうですし、明日にでも帰りますよ」
「そうか……」
俺はミーナの笑顔をみて思う。
今回の事件は何かしらの陰謀が渦巻いている。
禁忌の魔法が俺達を、ドラゴンを焚き付けた。
そんな奴らは許せない。
そう思うと同時に──
昔よりも笑えるような暮らしができたらいいな、とも思う。
「ミーナ……ありがとう」
俺がミーナに感謝を告げると、彼女はふっと笑った。
「顔、怖くなくなりましたね」
「えっ、怖かったの?」
「さぁどうですかね」
ミーナは剥いた果物を置き、立ち上がる。
「それじゃ、さようなら」
「おーい!」
呼びかける俺を無視して、ミーナはくすくす笑いながら病室を後にした。
ミーナの言葉を思い出しながら、俺は天井を見上げる。
「まぁ確かに……笑えるようになった、かな」
そう思った瞬間、心の奥から過去の記憶が溢れ出した。
辛かった思い出。
悲しかった思い出。
苦しかった思い出。
けれどそれ以上に──
楽しかった思い出が溢れていることに気づく。
その記憶を噛み締めながら、俺はそっと呟いた。
「リーダー……素敵な思い出をありがとう」
その呟きは、窓の向こうへ。
青い空のもっと先へと抜けていった。
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次の日は、リオ、カイラム、ロタリーが見舞いにきてくれた。
「アレン!!」
「アレンさん!!」
リオとカイラムは会うなり胸に飛び込んできた。
「うぐぁっ!?」
二人の衝撃でさっき食べた朝飯が「おっ出番か?」と顔を出しかけた。
当然朝飯に出来る事は惨劇を作り出す事だけだ。
なので早急に胃袋に帰ってもらう事にした。
「もう体は大丈夫なのか!?」
「痛いところはありませんか!?」
「大丈夫だよ、お前らがダイブしなければもっと大丈夫だったけど」
「「よかった!!」」
「うん、人の話は聞こうねー」
そんな俺達の会話にロタリーがくすくすと笑う。
あぁリオさんや、君はカイラムに会うまであっち側のキャラだった気がするんだがな……。
「ロタリーさん、色々とご迷惑をおかけしました」
「やめてくださいロタリーさんなんて、前みたく呼び捨てでいいですよ」
「できませんよ、命の恩人に……あ、それよりも……」
ん? と首を傾げるロタリー。
気を遣って気付かないふりをしてくれているのだろう。
いい人だ……。
「過去の門……ありがとうございました……その……俺に出来るこ──」
そう言いかけたところで、俺の唇が指で抑えられた。
優しく、それでいて少し艶やかに笑う彼女に、俺は見惚れてしまった。
「大丈夫ですよ。過去の門はそこまで重い禁忌ではありません。状況的に仕方なかった点もありますし、リシュアさんの後ろ盾もあります。問題ありませんよ」
「そ、そうですか……あの何かあったらすぐに相談してください。駆けつけますから」
「はい、その時は期待してますね」
ロタリーはそういうと、ふふっと笑って病室を後にする。
残ったのは、ぷくーっと頬を膨らませたカイラムとリオだった。
「アレンどういう事だ!? 私は浮気を許さないぞ!」
「私もです!!」
「だー! いいから離れろって!!」
多分これがロタリーに罪を背負わせてしまった罰なのだろう。
甘んじてうけておきます……。
「それよりカイラム聞いたぞ。ミーナの護衛をしてくれるんだってな」
「もちろん! そしてリオも護衛するぞ!」
ふんすと得意げにするカイラムをほっとき、リオに視線を向けた。
「リオ、帰るのか?」
「はい、なんでも屋がいつまでも休業って訳にも行きませんからね!」
「……そうか、そうだよな」
……少し寂しいな。
そんな事を考えていると、リオがニヤニヤしながら俺をみていた。
「大丈夫ですよーアレンさーん。入院といっても一週間ですからね。私と一日でも長く一緒に居たいアレンさんには辛いか──あたっ!?」
とりあえずチョップをしといた。
最近少し生意気だ、帰ったらシメてやろう。
「じゃあ頼んだよ、カイラム」
「うん! お代はデートなー」
「あぁ、分かっ──えぇっ!?」
気づけば二人の姿がもうない。
あいつら騒ぐだけ騒いでどっか行きやがった。
何しにきたのやら……。
まあでも──
「これが楽しい人生ってやつなんだろうな……」
そんな事を思いながら、俺は眠りについた。
今日もいい夢が見れそうだ。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
これにて本章終了となります。
また本章終了をもちまして、本作の一部が完結となります。
次章からは二部になります。
引き続きお付き合いいただけますと、幸いです。
なお、幕間も用意しております。
そちらも楽しんでいただけましたら幸いです。




