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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第二章 禁忌と贖罪が交錯する時、エルドラシアは災厄に沈む
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空の絶望と地の希望


 ドラゴンとの戦いは、アレンがいない状態で始まった。


 対ドラゴンを想定した攻略法は存在しない。

何故ならドラゴンと戦う事自体が稀であり、そして戦っても生き残れないからだ。


 ただ、ある程度のセオリーは存在する。


 ドラゴンは逆鱗が弱点であり、それ以外は攻撃が通らない。

 故にまずは逆鱗を探し、そこに攻撃を当て続ける。

 これを一撃一撃が必殺のドラゴンに行う。


 あまりにも単純で、あまりにも非現実的なセオリーだ。


 しかし、それ以外は勝つ術がない。

 故にカイラムは剣を握る。


「だぁぁぁぁぁっ!」

『グラァァァァァァッ!』


 ドラゴンとカイラムが戦うさまは例えるならそう、人間が蚊を払うそれだ。


 カイラムは必死になって剣を刺そうとする。

 ドラゴンは不快だから振り払う。


 次元が違っていた。


 だが、カイラムは一人ではない。


「強化魔法かけます!」

「「お願いします!」


 ロタリーの声にリオ、ミーナが反応する。

 三人は逆鱗を探す捜索チームだ。


 強化された動体視力で二人は探し、ロタリーはマナの流動で逆鱗を探す。


 逆鱗はマナを集める機関であり、目視だけでなくとも捜索が可能だ。

しかし暴れ狂うドラゴンにそれを可能にするのはロタリーただ一人だけだ。


「安心して探しな、二人とも」

「えぇ、護衛は任せといてぇん」


 アステルのギルド長ロード、カステリアのギルド長トーベルは三人の護衛。

万が一ドラゴンの注意が捜索班に向いた時に戦い、肉の壁になる役目だ。

並々ならぬ覚悟が二人から滲み出す。


「防衛兵、位置につけ! 冒険者、マナを集めておけ!」


 リシュアは防衛施設を使用したサポートを行う防衛兵と、魔法でサポートする冒険者の指揮を執る。


 治安維持兵は住人の避難誘導に専念している。


 一つでも間違えると全てが終わる。


 そんな極限の緊張感が走る中、ミーナの言葉が空気を割いた。


「見つけました! 首元です!!」


 カイラムは首元に目線を向かわせ、存在を確認する。

 その瞬間弓を取り出し矢を番え、詠唱を開始した。


 蚊の大群の反撃が開始する。


「魂は軌を描き、軌は行き先を示す」


 詠唱を確認したリシュアが頷き、指示を出す。


「防衛兵! 対ドラゴン用拘束バリスタ! 発射!」

「「「発射!!」」」


 巨大な杭がドラゴンの影へ向かって飛ぶ。


 対ドラゴン用拘束バリスタ。

これは攻撃を通さない頑丈な鱗を持つドラゴンとの戦いに想定された兵器。

矢には魔法陣が刻まれており、ドラゴンの影を貫いた瞬間魔法が発現する。


 発現する魔法は、闇魔法──シャドーグリップ。


 影そのものを地面に縫い付ける。

 影を縫えば、影の主も動けない。

 拘束を得意とする闇魔法を利用した拘束兵器だ。


 ドラゴンの巨体が一瞬だけ止まる。


「行き先は縁に結ばれ、縁は必ず辿り着く」


 詠唱を続けるカイラムの前で、ドラゴンが暴れる。

 メキメキと崩壊の音を立てるバリスタが、残り時間を示していた。


「冒険者部隊! 魔法用意!」

「「「魔法用意!!」」」


 その瞬間、冒険者達を中心にマナが奔流する。


「「「簡易闇魔法 サレマ・シャドーチェーン!!」」」


 威力を度外視した簡律詠唱での魔法発現。

 いくら数で誤魔化そうとも、この程度の魔法では一瞬しか止められない。


 が──それでいい。


 何故ならもう、詠唱が終了するからだ。


「我が矢よ、霊道をなぞれ──付与魔法 アストラルチェイサー!!」


 その詠唱と共にカイラムの矢は輝き放たれる。


 同時にドラゴンの拘束が解け、矢が掠める。


 誰もが失敗と落胆するであろうその瞬間に、魔法が希望を照らす。


 ──矢が急激に軌道を変えたのだ。


 物理法則を完全に無視した動きで矢はドラゴンへと向かい、逆鱗を貫く。


『グアァァァァァッ!』


 まさしく一矢報いた瞬間だ。


 アストラルチェイサーの性質は概念レベルの追尾。

 付与した武器に、魂へ追尾する、という力を付与する。

 魂は使用者のイメージ次第であり、カイラムは逆鱗を魂とした。


 ──故に、攻撃は必中する。


 ドラゴンは森へ吹き飛び、地面が揺れ、砂煙が湧き上がる。


 防衛兵達が歓声を上げた。


「やったぞぉぉぉ!!」


 しかしカイラムは叫ぶ。


「まだ!!」


 ドラゴンが空へ飛び上がり、翼を広げ咆哮する。


 その瞬間──周囲のマナが急激に集まり、傷が一気に回復していく。


 これがドラゴン最大の理不尽。


 ドラゴン討伐セオリーは逆鱗を探す事、逆鱗を狙う事、そしてもう一つ。


 一撃で倒す事。


 でなければ──


「くそっ……! やっぱり倒しきれなかった!!」


 空という安置で行う回復が、攻撃を無にしてしまうから。


 この理不尽が、ドラゴン討伐を不可能としているのだ。


「くるぞぉぉぉぉぉぉっ!」


 完全回復したドラゴンが再度襲いかかる。

 その爪は常に強者へと向かう。


「はぁ……はぁ……くっ!」

「カイラムゥゥゥゥゥッ!!」


 疲労困憊のカイラムに死の宣告が刻まれた──かのように思えた。


『グラァァァァァァッ!?』


 ロードの大剣がドラゴンの顎を跳ね上げ、トーベルの張り手がドラゴンを吹き飛ばす。

まるで一つの生き物かのような連携で、ドラゴンは再び地に伏した。


「うてぇぇぇぇっ!」


 リシュアの号令の元、冒険者、防衛兵が一斉に魔法を撃つ。


 その隙にカイラムは回復薬を飲み、再度前線へ。


 しかしドラゴンも空へ飛び、同じように回復する。


 回復と回復。

 千日手と思えるような光景だが、実際は敗北を意味している。


 ドラゴンの回復は傷どころかスタミナも回復する。


 されど回復薬は傷を治せてもスタミナは戻らず、武器の消耗も戻らない。


 回復の差が違うのだ。

 

 戦線はジリジリと削られていく。


「くそっ!」

「ワタシ達も協力するわよ」

「おうっ!」


 逆鱗の発見をした今、探索班は前線に出る必要がない。

 故に護衛も前へと出るが、それは命を数秒伸ばすだけに過ぎない。


 皆がその時を覚悟し、剣を強く握ったその刹那──


「待たせたな!!」


 森の奥から、声が響いた。

 今までにない自信に満ちた声が。


「「「アレンっ!」」」


 ──アレンは過去を乗り越えた。


 彼は自分の人生(みらい)を歩むために、ドラゴンへと向き合った。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「カイラム、状況は?」


 アレンの声はとても冷静で落ち着いていた。

彼の心にある楔はもう、取り払われたのだろう。


「いまはマナを吸って回復している。けれどすぐに戦闘が開始すると思う」

「そうか……数分……いや一分時間を稼げるか?」

「リシュア! 一分稼げる!?」


 アレンの問いに、私は城壁上に立つリシュアに相談する形で応えた。

 リシュアが頷く。

 彼女が出来るというなら出来るのだろう。


「できる。固有魔法の詠唱をするの?」

「あぁ、おそらくドラゴンがこっちに来るから、なんとか注意を引いてくれ」

「分かった、やってみる」


 私の答えを聞いたアレンは、エルドラシアの城壁上に立つ。

 リシュアと同じ、皆を見下ろせる位置だ。


 私はアレンの頷きに応え、剣を構える。


 ドラゴンもマナの吸収を終え、私達に目線を送った。


 その瞬間──


「我が剣は拾われた光に焼かれ、赦しの炎へと鍛え直された」


「「「──っ!?」」」

『──ッ!!』


 空気が震えた。


 風が逆流し、木々は喚き、血脈が揺れる。


 まるで世界を動かすかのようなマナの奔流に、誰もが動きを止めた。


 ──ドラゴンも含めて。


「これが……固有魔法……」


 これは成功する。

 私は確信した。


 今まで聞いたアレンの固有魔法の詠唱とは違うけれど、マナの動きは尋常じゃなく強くなっている。


『アァァァァァァァァァァッ!!』


 ドラゴンはアレンの詠唱を聞いて咆哮した。

その咆哮は、怯え、恐怖、死の実感、全てが混じっているように聞こえる。


 そして次の瞬間──ドラゴンはアレンへ向かって突進した。


「アレンを守れぇぇぇぇっ!!」


 叫ぶと同時に、ロードさんとトーベルさんが攻撃をする。

 冒険者達が魔法を撃ち、防衛兵がバリスタを再装填する。


 それでもドラゴンは止まらない。

 アレンだけを狙っている。


 ドラゴンは確信しているんだ。

 彼を止めなければ死ぬと。


「我が剣は、斬る事叶わず。我が剣は、奪う事叶わず」


 詠唱が進むたびに、マナの奔流が強くなる。

 ドラゴンが怒り狂ったように咆哮し、地面を砕きながらアレンへ迫る。


「くそっ……! 止まれぇぇっ!」


 私は矢を放つ。

 皆は魔法を一斉に放つ。

 それでもドラゴンは止まらない。


 アレンの詠唱が進むほど、ドラゴンの殺意と恐怖が濃くなっていく。


「されど──我が剣は敵を討つ」


 どれだけ攻撃しても、アレンから視線を外さない。

 私達の攻撃は足止めではなく、ただの邪魔でしかない。


「対ドラゴン用拘束バリスタ! 発射!!」


 リシュアの号令で、巨大な杭が影へ向かって飛ぶ。

 影を貫き、シャドーグリップが発現する。


 影が縫われ──ドラゴンの動きが止まる。


 しかし──


 メキメキッと音を立て矢が一瞬で崩壊する。


「早すぎる……っ!」


 拘束を解かれたドラゴンはさらに速度を上げる。


「闇を断つ声があり、絶望を抱く手があり、

 赦しを与えた者達が我が剣を形造る。

 ゆえに我が剣は、過去を赦し、未来を救う」


「冒険者! シャドーチェ……っ!?」


 そしてドラゴンは飛翔を開始した。

 私達の拘束を恐れたんだ。


「飛翔を阻止しろ!!! ブレスが来るぞ!!!」


 私は矢を打ち、皆が魔法を打つ。

 防衛兵の皆もバリスタや大砲を打つも飛翔は止まらない。


 そして──ドラゴンの口元に炎が集まり始めた。


「あいつ……! エルドラシア全域を焼く気だ……!」


「世界の痛みは剣に刻まれよう。

 世界の負荷は剣に積もりよう。

 剣が砕けるその瞬間まで──救いは続く」


 攻撃は届かない。

 固有魔法はマナの流れ的に間に合わない。

 そもそもブレスを防御する手段がない。


 誰も止められない。


 全員が天を見上げるしかなかった。


 絶望が戦場を覆う。


 だけど一人諦めない戦士──リオがいた!


「皆! 目を閉じて!!」


 反射的に目を閉じる。


 次の瞬間──閃光玉が空へ投げられた。


 空間が一瞬で光に染まる。


『グラァァァァァァッ!?』


 ドラゴンが怯み、ブレスが中断される。


「なんて子なの……!!」


 驚愕するしか出来なかった。


 誰もが顔を伏せたあの瞬間、あの子だけは上を向いていた。


 誰よりも早く、誰よりも強く、未来を掴みにいった。


「未来を守りたい者よ。未来を救いたい者よ」


 マナが暴れ狂い、空気が震え、地面が割れる。

 ドラゴンが怯みながらも再びアレンへ向かおうとする。


「アレン!! 早く……!!」


 私は叫ぶ。

 皆が叫ぶ。

 世界が叫ぶ。


 そして──その時はやってきた!!


「我が名を呼べ! 赦剣(しゃけん)インヴィクタ、今ここに顕現する!」


 その瞬間──世界が光に包まれた。



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