罪が遺した最期の贈り物
「……ここは?」
──気づくと、柔らかい草の感触が背中にあった。
目を開けると青い空が広がっている。
風の匂い。
鳥の声。
どこか懐かしい、胸の奥をくすぐるような感覚。
ゆっくりと起き上がると、見覚えのある木々が並んでいる。
間違いない。
ここは昔住んでいた森だ。
「そうか、俺は死んだのか……」
ドラゴンを目の前にして俺は気絶した。
生きていられるわけが無いはずだ。
「ごめん……」
あんなに力を合わせて頑張ったのに、情けない結果になってしまった。
──けれど少し、安心している自分がいる。
もう……罪を背負わなくていいのだと……。
そんな事を思っている時だ。
『おぎゃぁぁぁ、おぎゃぁぁぁぁ!』
どこか遠くで赤子の泣く声が聞こえた。
「どこの馬鹿だ、ここに赤子を捨てたのは──いや、ここは現実じゃないんだよな……でもなぁ……」
非現実的な世界で現実的な事を考える自分が馬鹿らしくなりながらも、赤子をほっとけず声の主へと足を運んでいた。
そこには──昔死んだ爺さんがいた。
赤子を抱き上げていた。
その赤子は、俺だった。
『……すまんな。こんなところに捨てられて……』
爺さんは昔見せたあの、慈愛に満ちた顔と声でそう言った。
「これは……過去の景色?」
そう呟いた瞬間、気づけば景色が変わっていた。
「な、何が起きてるんだ?」
森から小屋へと景色が変わる。
昔爺さんと一緒に暮らした小屋だった。
あの時見た机、あの時見たベッド、何もかもが懐かしい。
『アレン・ヴァルステッド。お前の名前だよ。すまないね、昔病気で死んだ子供の名前で……嫌だろうけど貰ってくれると嬉しいよ』
「そうだったのか……」
そういえば俺は、自分の名前の由来を聞かされた事が無かった。
そうか……死んだ子供の名前だったのか……。
そう思うと、どれだけ大切に思ってくれたのかがよく分かる。
「ごめんな……爺さん……俺……結局……親孝行できなかった」
自然と涙が溢れ出てくる。
どれだけ大切にしてくれたかも知らず、のうのうと暮らし、あまつさえ死んでしまった自分が申し訳なくなる。
場面が変わる。
爺さんが息を引き取る瞬間だった。
当時10歳の俺は、ただ静かに見つめていた。
『すまないね……満足に育てられなくて……』
『……?』
爺さんは、死を知らない子供の俺の頭を撫でる。
その景色を見てられなかった。
けれど目を閉じても、視線を逸らしても、景色はまるで俺に何かを訴えかけるように続いていく。
「謝らないでくれよ……っ!」
だから想いが口からこぼれ落ちてしまった。
俺はあなたが拾ってくれたからここにいるんだ。
俺はあなたが育ててくれたから立っていられるんだ。
謝らなきゃいけないのは……こんなふうに育ってしまった俺の方なのに……。
『……すまんな……一人にさせて……』
「俺の方こそごめん……わがままで……甘えてばっかで……何もしてやれなくて……」
爺さんの頭に触れようとするが、手はすり抜けた。
それでも、せめて楽に行けるようにと祈った。
『アレン……大きくなったな……』
「……っ!? 爺さ──」
一瞬爺さんは俺を見て、そんな事を呟いた気がした。
しかしその後直ぐに、景色が変わる。
結局それは気のせいなのか、そうでないのか。
分からないまま別の場所へと飛ばされた。
次の景色は、俺が一人で狩りをしている場面だった。
11の時だ。
カエルや蛇を捕まえ、帰りに果物などを採る。
量は明らかに一人前を超えていた。
「あぁ……そうか……」
小さい俺は、食事を小屋へと持って帰る。
そして腐った食べ物を新しい物へと変える。
『爺さん早く起きろよ』
子供の俺は爺さんの死を、寝てるだけだと思っていたんだ。
息をしなくとも腐ろうとも、死は殺さないと訪れないと思っていた。
だから殺してない爺さんは死んでいないと思っていたんだ。
『……もういいや!』
そして爺さんの手が腐り落ちた所で、子供の俺は興味を無くす。
全て、実際にあった事実の光景だ。
「おい! このまま出て行くのかよ!!」
当然子供の俺は返事をしない。
目は鋭く狼のようで、体は11歳とは思えない無駄の無い肉付き。
まるで野性の猿かと思えるような子供は、そのまま森へと消えていった。
そしてまた景色が変わる。
「──っ!」
12の俺は、森の奥で一人の冒険者と出会っていた。
リリック・ダストン。
当時18歳のリーダーだ。
『お前誰だ?』
『……気に入った! お前、俺に負けたら仲間になれ!』
当時、リーダーの言葉に何となく腹を立てた俺は殺す気で殴りかかった。
しかし、結果は惨敗だった。
リーダーは、コテンパンにぶちのめした子供の上に座る。
『よし! これからお前も俺の仲間だ!』
『くそっ! 何なんだよお前!!』
そうだった……これが俺とリーダーの出会いだったんだ。
そしてまた、景色が変わった。
次の景色は、俺が育った森とは別の森だった。
俺が13、リーダーが19の時だ。
目の前には黒い毛皮の小さなオオカミが一匹、俺を食い殺そうと飛びかかる。
討伐難易度中一の魔物、ヴァー・ウルフ。
厄介な相手ではあるが、一匹だけなら負けるわけが無い。
リーダーと俺は、その敵を難なく倒していた。
『おっしゃ! コイツの肉はうまいんだ!!』
子供の俺は魔物を殺すなり雑に毛皮を剥ぎ取り、美味いところだけを切り出し、それ以外はその場所に放置した。
そんな俺にリーダーが怒鳴る。
『命は大切に扱え!』
『俺が勝ったんだからコイツの命をどう扱おうが俺の勝手だ!』
『ったく、悪ガキが』
リーダーはそういうと、ぐちゃぐちゃに解体された死体を綺麗に分け、袋に入れる。
その姿を俺は、まるで汚物に集るハエをみるかのような目で見ている。
『ゴミ拾うとかきったねー』
そしてその場を後にした。
二人が拠点としていた街は、カーラルという小さな街だった。
流れ者や訳ありが集まり、ひっそりと暮らす街だ。
当然そんな街の設備は充実しているはずもなく、あたりは荒廃していた。
そんな街で俺は、隅っこで肉を食っていた。
『あ、アレンさん……』
『何だよくれてやんねーよ!!』
『ご、ごめんなさいっ!』
近づく子供は威嚇して追い払い、大人はボコボコにして黙らせる。
そんな横暴を繰り返していた俺は、当然一人孤立していた。
気づけば周りからは、狂犬とまで呼ばれていた。
まさしくその通りだろう。
当時の俺は、集団で生きるという意味を理解できていなかったのだ。
『……』
けれど憧れはあった。
俺の近くでは、リーダーが肉や道具、装飾品なんかを配っていた。
そんな彼の周りには感謝が集まっていた。
『くそっ……』
肉は俺が捨てた硬い場所、道具は俺が捨てた毛皮、装飾品は俺が捨てた骨。
まるで当てつけかのようなリーダーの行動に、俺はチクチクと胸を刺すような、殺意や苛つきとは別の不思議な怒りを覚えていた。
今なら分かる。
きっと嫉妬だったのだろう。
あそこには俺がいるべきなんだ。
感謝されるのは俺だったんだ。
そんな年相応の嫉妬を、当時の俺は理解出来なかったんだ。
だからだろう。
俺があの行動を取るのは、必然の事だった。
ある日、子供達が熱を出していた。
周りの子供たちは泣いていた。
大人たちも泣いていた。
当然だ。
荒廃した場所に医療などある訳がなく技術も無い。
熱に勝てるほどの体力もない。
熱を出せばほぼ死ぬのが、この街の常識だった。
しかし当時の俺はそれを知らなかった。
それどころか、未だに死ぬとは殺す事、としか認識していなかった。
爺さんの死を理解出来なかったように、目の前に広がる死の空気も理解出来なかった。
けれどそんな俺でも空気が暗い事は理解出来た。
そしてその空気は俺の心にも侵食して来ていて、とても不快だった。
だから俺は考えた。
リーダーの周りには明るい雰囲気が広がっている。
ならばリーダーと同じ事をすれば良い。
そう考えた俺は、たまたまリーダーに痛い目見せてやろうと捨てなかった素材を使って、色々なものを使った。
肉はリーダーの真似をして煮込んで柔らかく。
牙や骨は爺さんに教えてもらった御守りにした。
残った素材は売って金にして綺麗な花を買った。
『おいお前ら! これやるから暗くなるな!』
そういって食べ物を配り、熱を出した子供達には花や御守りを渡した。
迷惑だからそれで明るくなれ、そしてどっかいけ。
そんな気持ちで渡した物を、受け取った彼らは笑って言った。
『ありがとう』
俺はこの瞬間を今でも覚えている。
アレン・ヴァルステッドという人間を形作った、強烈な出来事だった。
『……おう』
胸が少しフワッとした。
足りない何かが埋まった瞬間だった。
『しょーがねーから明日も作ってやるよ!!』
そして次の日。
皆が泣いていた。
『おい何泣いてるんだ! 持って来てやったぞ!』
理解出来なかった。
だから無理やり肉を渡した、花を渡した、御守りを渡した。
でも皆は泣くばかりだった。
イラついた。
『前みたいにありがとうって言え!』
『……ありがとう』
でも昨日みたいなフワッとした感じはなかった。
仕方ないので、目の前で寝ている子を起こそうとした。
けれどその体には反応が無かった。
さらにイラついた。
『なんで起きない!』
『……起きないよ』
『なんでだよ!!』
そこにリーダーが来て言った。
『その子は死んでいるんだよ』
その瞬間──俺は理解した。
死とは殺す殺されるだけではないのだと。
死とは突然やって来て、全てを奪うのだと。
目の前の子はもう目を開けない。
もう笑わない。
もうありがとうと言ってくれない。
そして──爺さんも、もう起きないことを理解した。
『そんな……いやだ……いやだよ……』
気づいたら涙を流し叫んでいた。
他の誰よりも涙を流し、他の誰よりも喚いていた。
その日は一日泣いていた。
次の日、俺とリーダーは爺さんを置いた家に戻った。
その場所は死臭が溢れ、いろんなものが腐っていた。
鼻が曲がりそうなほどの匂いと、吐きそうになるほど腐敗した死体。
俺は爺さんを崩れないように抱き抱え、リーダーに墓を作ってもらった。
リーダーに言われ、墓の前で手を合わせる。
墓というのが何か知らなかった。
祈るとはどういうことか知らなかった。
けれどこうしていると、なんだか胸が軽くなり死を実感出来た。
その日も涙が止まらなかった。
それから俺は、殺した獲物を大切に扱うようになった。
子供の死、爺さんの死、獲物の死、全部同じだと思った。
食べるために殺すなら全部食べる。
残ったものは捨てずに何かに使う。
勿体無いとか、命に感謝とか、そういう理屈的な物じゃない。
残ったものを捨てると後味が悪いから、という感情的な理由だ。
けれどそんな俺をリーダーは認めてくれた。
『そんな理由でいいんだよ、命を大事にするのに理屈なんて要らないさ』
『そんなもんか……』
余った素材で道具を作った。
作った道具は配ったり売ったり、作り方を教えたりもした。
そしたら周りに人が寄ってきて──また「ありがとう」が聞けた。
その時、リーダーが言った。
『ありがとうって気持ちいいだろ』
俺はその言葉に、ケッと笑い返した。
でも──本当は嬉しかった。
リーダーは、俺を人へと変えてくれた恩人だった。
場面が変わった。
今度は俺が15になった時だ。
リーダーは21になっていた。
魔法使いのルーサ、剣士のバザーが入り、次第に仲間が増えていった。
けれど誰もが俺より年上で強く、俺はいつも負けていた。
『皆大人気ないよ』
『だってこの子が可愛いんだもーん』
『才能があるから鍛えてやった』
『ざっけんなよ! お前らぜってー倒してやるからな! 特にリリック! お前にはぜってーまけねー!』
『アレン、俺の事はリーダーと呼べといっただろ』
『やなこった!!』
……俺を一番ボコボコにしてたのはリーダーだった。
でも楽しい日々だった。
俺達は年も違えば性別も違い、目指す所も違っていた。
けれどいつも笑いが絶えず、明るい場所だった。
リーダーはいつも笑っていた。
そんな中、カイラムが仲間に加わった。
唯一の同い年だった。
彼女は目に生気が無く、ほっとけば死んでしまいそうだった。
当時俺はなんでこんな辛気臭いやつを入れたのかと思ったが、とうとう勝てるやつが来た、と思うと全てがどうでも良かった。
『おいお前! 俺と勝負しろ!』
……一瞬で負けた。
『覚えてろよー!!』
『……』
『黙ってんじゃねー!』
そんな俺達をみて、リーダーは俺をカイラムの世話係に任命した。
意味がわからなかった。
カイラムは嫌そうだった。
俺も嫌だった。
『なんでこんな奴の世話を見ないといけねーんだ!』
『……っ! フン!』
カイラムはフンっとその場を後にしたが、その瞬間転び全身泥まみれになった。
もう一度フンっと歩き出したが、今度は拠点とは真逆の方向に進んだ。
リーダーは言った。
『頼むよ……』
俺は答えた。
『……分かった……』
そこからは、毎日が大変だった。
カイラムは不器用で俺はいつも振り回された。
掃除をさせれば汚くするし、食事を作らせれば爆発が起きる。
とにかく大変だったけど、学ぶことも多かった。
爺さんは危険な行動ばかりする俺をいつも止めてくれたし、リーダーも常識知らずな俺を導いてくれた。
カイラムを通して二人の優しさを知り、ありがたみを知り、尊敬した。
だから俺は、いつも最後までカイラムの面倒を見た。
そんな俺にカイラムが一度尋ねた事がある。
『なんでそんなに面倒見てくれるの?』
その質問に具体的な答えを出せなかった。
俺の面倒を見てくれた人達が皆そうしてくれたから……少し違った。
リーダーに頼まれた仕事だからだ……少し違った。
答えをいろいろと考えた時、カイラムの不安そうな顔を見た瞬間、自然と言葉が口から出ていた。
『お前一人じゃ生きていけないだろ! 難しいこと考えねーで俺に頼れ!』
単純な話だったんだ。
誰かのために何かをするのに、なぜ具体的な理由がいる。
お前の為に何かをしてやりたいからやってんだ。
ただそれだけだった。
「あぁ……そうだったな……」
子供の俺とカイラムのやり取りをみて、改めて気づいた。
「爺さんもリーダーも、そうだったんだな……」
景色が変わる。
「……っ」
目の前には何度も夢に見た光景が広がっている。
──ドラゴン討伐の終盤だ。
『ど、どうなってるんだ!? 逆鱗がないぞ!?』
「やめろ……」
『よけろ! ルーサ!』
『えっ!? きゃぁぁぁぁぁ!』
「やめてくれ……」
『くそっ……こんな所で……っ!』
「やめろって言ってんだろぉぉぉぉぉぉっ!」
しかし俺の叫びも虚しく、過去は淡々と紡がれていく。
『カイラム、大丈夫か?』
『ごめん、剣も弓矢も使い物にならない……』
そして、その時が来た。
『……すまん、リーダー、もうこれしかないよな』
最悪の判断。
この軽率の判断が、リーダーを殺した。
「あぁ……俺のせいだ……」
俺はただ、リーダーに生きて欲しかった。
俺に大事な事を教えてくれたリーダーに、恩返しをしたかったんだ!!
「やめてくれ! 俺を庇わないでくれ! 俺を助けないでくれ!」
偽りでもいい、あり得ない妄想でもいい。
ただ、リーダーに助かってほしいっ!
そんな時だ、あのリーダーの声がした。
『お前のせいだ』
俺の足は崩れ、その場で頭を抱え必死に声を遮った。
『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』
しかし声は止まらない。
『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』『お前のせいだ』
「ごめんなさい、リーダーっ!!!」
『何を謝る事があるんだ?』
「……えっ?」
心の声に支配されそうになった時、本当のリーダーの声が聞こえた。
心の奥から響く声とは違う、故郷にいるような安心する声だ。
「……リーダー?」
気づけば世界は白一色に染まり、目の前にはリーダーがいた。
『お前もおっさんになったな、アレン』
「リーダー……うっ……ごめん、俺……俺はっ!」
『大丈夫だよ』
頭からふわっと伝わる、リーダーの優しい温もり。
その温もりに、涙が耐えきれず溢れてくる。
『俺がやりたかったからした事さ』
「違う……やめろ! やめろ! 事実を歪めるな!!」
目の前のリーダーは、俺が罪から逃れようとするために生んだ幻想だ。
リーダーは俺のせいで死んだ。
それは変わらない事実なのに、自分勝手に赦そうとする自分の心に反吐が出る。
『ならアレンは、どうして俺を助けようとしたんだ?』
「えっ……それは……」
その問いに言葉が詰まる。
──あなたを助けたかったから。
それを言ってしまえば罪から逃げてしまう気がした。
『……まったく。幾つになっても面倒くさいやつだな。あなたもそう思いませんか?』
「……えっ?」
リーダーの視線の先に目を向けると、そこには爺さんがいた。
『まったくだ……すまないね……』
爺さんはそういうと、俺の後ろを指した。
「──っ!」
後ろには、涙を流しながら手を振る仲間がいた。
リオ、ミーナ、カイラム。
皆が必死に、体全身を使って俺に何かを呼びかけている。
『もう聞こえるだろ、皆の声が』
耳をすませば、確かに声が聞こえてくる。
『アレンさん! しっかりして!』
『アレン! 生きてくれ……っ!』
『アレンさんっ! お願いだから死なないでっ!』
「みんな……うっ……みんな……!」
『いい加減もう俺の事は忘れろよ、俺がしたくてしたんだよ。お前のようにさ』
「リーダー……俺、いいのかな……」
『……いいんだよ』
「そうか……もういいか……」
──その瞬間、モヤが完全に消えた。
心の奥にあった闇が消え、小さな光が輝きだす。
その輝きはまるで、二人が俺を祝福しているようだった。
『過去を振り返るな、前だけみろ。それが俺の……いや、俺達の望みだ』
「……うん、分かったよ」
ゆっくりと立ち上がり、三人の方を見る。
俺の光は、前へ進む道を照らしていた。
「リーダー……爺さん……俺……皆と生きていくよ。自分の人生を!」
『ありがとう、アレン。楽しい人生だったよ』
『アレン……ありがとうねぇ……』
「こちらこそ……こんな俺に育ててくれて……ありがとう……」
意識が、白い光の中に溶けていった。




