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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第二章 禁忌と贖罪が交錯する時、エルドラシアは災厄に沈む
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エルドラシアの兆し


「簡易光魔法! サレマ・ルミナバースト!」


 次の日、リオの詠唱と共に魔物の周りに光の球が出現する。

そして見事、討伐に成功した。

光の球は五個だったが、どれもが小さいものだった。


「どうですか!?」

「す、すげーな……」


 はっきり言ってリオは魔法の天才だ。

光魔法は覚えやすい性質があるとはいえ、それでも早すぎる。

平均して簡単な魔法でも発現に三日、威力を出すのに一年、更に威力を上げるのに五年と言われている。


 だというのに、リオは発現に一日すらかかっていない。

威力は当然低いが、この調子だと明日には俺と同じくらいの威力を出せそうだ。


「リオちゃん、冒険者に興味はないかな?」

「さらっと勧誘するな、冒険者なんて危ない仕事は許さんぞ」

「はいはいお父さん、いいから護衛を続けてください。ギルド長も露骨に勧誘しないでください」

「誰がお父さんだ」


 リオの魔法に目をつけたのか、ギルド長が勧誘をしてきた。

冒険者数には困っていないだろうに、抜かりない男だ。


「冗談だ、あと魔法の練習はそろそろ終わりにした方がいいかもな」

「分かってる、ここからは強力な魔物の群生地だからな。リオ、消費したマナはこれを食って補充しろ。ここからは空気中のマナを取り入れるな」

「は、はい!」

「あとちょうど良い、魔物についても学んでおけ」


 俺はリオに魔物について説明した。


 魔物は普通の生物が進化の過程でマナに順応した生き物だ。

生物と違い、マナを使用した狩や戦闘を可能にする。

その代わり生命維持に必要なエネルギーはマナとなり、身体中のマナが枯渇した途端に絶命する。

当然普通の生物の死因でも絶命する。


 故に魔物はマナに敏感で、常にマナを取り込もうとしている。

魔物がマナを取り込む方法は二つで、一つ目は人間や魔物を捕食する事による捕食摂取、二つ目は空気中のマナを取り入れる空気摂取。


 基本的に魔物はどちらも行えるが、捕食摂取の方が効率が良いらしい。

そのため魔法を使ったり空気中のマナを取り入れたりすると、魔物はマナの流れを検知し近づいてくるのだ。


 だから念のため、リオには空気中のマナを取り入れるのをやめてもらった。


 さっきまでは近づく魔物などたかが知れていたが、この付近はもうエルドラシア近郊で強い魔物ばかりだ。

なるべく戦闘は控えたい。


「なるほど……でもそう考えると人間って不思議ですよね、マナ枯渇しても死にませんし。まあ動けなくはなりますけど」

「良い着眼点だな。ただ実はそこの所は未だよく分かっていないんだ。定説では魔物と同じ性質の人間が昔いて、それらと血を交えた結果今に至る……とされているが、確証はないらしい」

「そうなんですか……なんか気になります」

「リオちゃん、魔物研究者に興味はないかな?」

「あんた節操ないな……」


 そんなこんなでエルドラシア近郊を抜けていき、正門へと到着した。


「す、すごい……! 話には聞いていましたけど本当に大きいですね!」

「あぁ、そうだな」


 エルドラシアの優秀な防衛施設として真っ先に挙がるのが、街を囲う防壁と門だ。

これらは攻撃や魔法を通さないドラゴンの素材が一部用いられており、それでいて高く分厚い。

この辺りの魔物が突破するのは百年かかっても無理だろう。


 歴史には詳しくないが、この街が発展したのはたまたまドラゴンの死体を発見したからだとか。

もしその発見がなければ、エルドラシアは今存在しなかったと言われている。


「はは、嬢ちゃんエルドラシアは初めてかい?」

「はい! えっと……?」

「あぁ、私は防衛兵のラゼル。この門番をしているよ」

「ラゼルさん! 私はリオです! よろしくお願いします!」

「ははは、いい子だ。存分にエルドラシアを楽しんでいくといい」


 リオはすっかり門番のラゼルさんと仲良くなっていた。

相当楽しみにしていたのだろう。

瞳をキラキラと輝かせながら話を聞いている。


「君がラゼル殿か、話には聞いている。私はロード・レグナス。アステルでギルド長をしている」

「あぁ、これは失礼しました。あなたがロード様ですね。ギルド長のリシュアから話は聞いております。どうぞお入りください」


 ギルド長が身分証を見せると、ラゼルさんは門を開けた。

やはりギルド間で何か会議があるのだろうな。


「あ、では隣にいるのがアレン様ですか!? 噂は聞いております! 本日の会議にも参加されるのですか!?」


 えっ、そうなのか!?


 ギルド長に視線を向けるとフルフルと頭を横に振る。

良かった、そんな話聞いてなかったらビックリした。

たまにギルド長は、当日断れないタイミングで言い出す事があるから怖いんだ。


「いや彼はただの護衛だ」

「おっとこれは失礼しました」


 ラゼルさんはそう言うと、頭を下げて道を開けた。

まったく余計な事を言いやがって……心臓が止まるかと思った。


「それじゃあ護衛はここまでだな」

「あぁ、助かった。それとアレン達はこの宿を利用してくれ。リシュアが用意してくれている宿だ」

「おっかなり良いところじゃないか、助かる。いくぞリオ」

「はい! じゃあミーナさん、ロードさん、また後で!」

「あぁ」

「はい、お気をつけて」


 俺はリオを引っ張り宿に向かう。

用意してくれたのは一泊金貨十枚の高級宿だ。

一回は泊まってみたいと思っていた宿だったが、まさか今日泊まれるとはな。


 しかしミーナ達は到着するなり直接冒険者ギルドに向かうとは。

相当緊急な招集だったのだろうか。

うーん関わりたくはないが少し気にはなるな。


「アレンさんアレンさん!」

「なんだリオ」

「私この後観光したいです!」


 ……まあそうなるよな。


「そうか、気をつけて行ってこいよ」

「え、アレンさんも行きましょうよ!!」

「ダメだ、疲れた」

「えー」


 リオには悪いが一人で観光してもらおう。

正直疲れてはいないが、観光途中にカイラムとバッタリとかは絶対に嫌だ。

確かこれから泊まる宿には観光地図が用意されていると聞く。

いくらか金を渡して一人で観光してもらおう。


「お待ちしておりました。アレン様、リオ様。お話はギルド長リシュアより聞いております。お部屋の方にご案内いたします」

「ありがとうございます。あ、あとで観光地図を一人分を用意いただけますか?」

「はい、かしこまりました。ご案内後お部屋にお持ちいたします」

「助かります」

「ぶー」


 リオは不服そうにしながら隣を歩く。

すまんなリオ、夜は沢山話を聞いてやるから。


 俺達は各自の部屋を確認した後、別行動を開始した。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 エルドラシア冒険者ギルドの会議室は、静寂が支配していた。

重厚な石造りの壁に囲まれた部屋は、ここタストーラ王国でも最高峰の防衛地らしく軍事拠点のような緊張感を漂わせている。


 エルドラシアのギルド長であるリシュア・ドラウベルは、長い楕円形の机にて全員の顔が見渡せる位置に立つ。


「まずは……緊急招集にも関わらず、こうして集まっていただき、心から感謝します」


 銀灰色の髪を後ろで束ねた三十代半ばの女性で、軍人のような姿勢を崩さない。

彼女の鋭い眼光は、誰もが従わざるを得ない魅力を持っている。


 そんな彼女の言葉に、三人のギルド長がそれぞれ反応した。


 アステルのギルド長ロード・レグナス──四十代。

大柄で、短く刈り込んだ黒髪と太い腕にいくつもの傷跡を持つ豪快な男だ。

椅子に座っているだけで存在感がある。


「当然だ。ドラゴンの鱗が見つかった以上、来ないわけにはいかないだろう」


 ロードの断定的な声が響く。


 次に、カステリアのギルド長トーベル・カリスタン──五十代。

 筋骨隆々の体をした逞しい男で、肩幅は広く、腕は丸太のように太い。

しかしその体格に似合わず、鮮やかな紫のロングコートを着こなし、胸元には宝石を飾っている。

長い睫毛と整った顔立ちで口調は柔らかい女性のようだが、目の奥は未だ戦士の闘気を宿している。


「緊急招集なら来るに決まっているわ。ドラゴンが本気で動いたら、街どころか国が灰になるもの」


 最後に、遠方エンディルのギルド長ロタリー・マナスティア──三十代前半。

黒髪をタイトにまとめ、白と黒のシンプルなギルド服を着ている。

無駄な装飾は一切なく、瞳は深い青で、冷静沈着という言葉がそのまま形になったような女性だ。


「こちらとしても状況を共有する必要があると判断しました。ドラゴンの件は放置できません」


 アステル、カステリア、エンディル、そしてエルドラシアはタストーラ王国の中でも主要な場所だ。


 冒険者の生存率が高く育成力のある成長の街、アステル。

 様々な土地や生態を発見し続ける探索に優れた開拓の街、カステリア。

 魔法に長けた冒険者が数多く在籍する魔法の街、エンディル。

 強力な魔物に囲まれながらも今尚進化し続ける命脈の街、エルドラシア。


 これら街に存在する冒険者ギルドを合わせた四大冒険者ギルドのギルド長が、今回招集されたメンバーだ。


 リシュアは三人を見渡し、深く頷いた。


「皆さんも手紙で状況は把握していると思いますが……ドラゴンの鱗が見つかった以上、王国は最悪の事態を想定しています。我々が一丸となって本件の解決に尽力しましょう」


 ロードが腕を組み、低く唸った。


「最悪の事態、か……ドラゴンが侵略してくるって話だろう」


 リシュアは静かに言葉を続けた。


「はい。ドラゴンが我々に敵意を持っている場合、エルドラシアの防衛施設でも一瞬で滅びます。そしてエルドラシアが落ちれば、王国の防衛線は崩壊し、国そのものが終わります」


 トーベルが肩をすくめた。


「そうね。マナを吸い尽くされたり、焦土と化したり、ドラゴンの脅威は歴史が証明しているもの」


 ロタリーが淡々と続ける。


「今回の招集はドラゴンの動向調査と聞いてます。目的は敵意の有無、で問題ないですか?」


 リシュアは頷いた。


「残念ですがその通りです。アレン殿やカイラムが所属していたパーティが敗北した以上、人類がドラゴンに勝てるとは思っておりません。敵意がない事を祈るばかりです」


 ロード、トーベル、ロタリーは苦い顔をしながら頷いた。


「失礼、会議早々にいう言葉ではなかったですね」

「いえ、私も変な質問をして申し訳ありません」


 リシュアは一つ先払いをし、机に地図を広げた。


「では、ここ三ヶ月の魔物の動きを共有しましょう。ドラゴンの凶兆があったかどうかを確認します」

「ミーナ、頼む」


 ロードの言葉に隣で静かに座っていたミーナは頷き資料を配る。

彼らは受け取るなり目を広げて驚いた。


「三ヶ月前、アステルでは堕獣狼が人里まで降りてきました。またその個体は重傷を負っており深淵狼へと至ったことを確認しています」


 リシュアは眉をひそめた。


「失礼ですがよく生き延びられましたね……深淵狼など我々でも犠牲を覚悟しなければならないほどなのに……ちなみに討伐を確認したとありますが、討伐者はアレン殿ですか?」

「はい、そうです」

「そうでしたか……」


 リシュアはミーナの返答にニヤリと笑う。

嫌な予感がしたミーナはすぐに話を変えた。


「話を戻します。我々が報告するドラゴンの凶兆は堕獣狼が重傷だった事です」

「これは失礼しました、報告ありがとうございます。確かに堕獣狼が重傷を負うのは異常事態です。ドラゴンが関与している可能性が十分にありますね」


 リシュアはミーナに謝罪すると、エルドラシアの状況を説明した。


「エルドラシアでは、一年前から討伐難易度高ニの魔物同士の縄張り争いが過激化しています。さらに三ヶ月前──弱い魔物が群れを成して逃走しているのを確認しました」


 ロタリーが静かに言う。


「弱い魔物が群れで逃げる……ドラゴンの高密度なマナから逃げている可能性が高いですね」


 続いて、トーベルが資料を広げた。


「カステリアでは三ヶ月前、興奮した獄炎熊(ごくえんゆう)の目撃報告があったわ。討伐難易度高五。ドラゴンのマナを狙うほど凶暴な魔物よ。ただ、調査部隊を向かわせたけれど発見はできなかったわ」


 最後にロタリーがエンディルの状況を述べた。


「エンディルでは異常はありません。魔物の動きも通常通りです」


 リシュアは地図を見つめ、静かにまとめる。

カステリア、アステルはエルドラシア付近の街だ。

エンディルはエルドラシアから遠く離れている。


 エルドラシアとその付近の街で三ヶ月前に異常事態を確認している。

これはもう、エルドラシア付近にドラゴンが居る、もしくは来たと確定して問題ない程の情報だった。


「……ありがとうございます。以上の情報から、三ヶ月前にエルドラシア付近へドラゴンが来た可能性が高いと判断します」


 誰も反論しなかった。

 むしろ、全員がその結論を受け入れるしかないと悟っていた。


「調査はエルドラシアを中心に行います。目的は敵意の有無の確認です。各ギルドには腕の良い冒険者の派遣をお願いします、それと……」


 リシュアはロードに目配せをするが、ロードは顔を横に振って答えた。


「アステルからは何人か出せる。だがアレンは無理だ」


 リシュアは目を細め不満を露わにする。


「……ロード。国の危機です。アレンを貸していただけますか?」

「ダメだ」

「ロード!!」


 バンッと机に手を叩きつけるリシュア。

しかしロードは態度を微塵も揺るがせない。


 その言葉に、トーベルが諌めるように口を出す。


「リシュア、やめておきなさい。彼……まだ治ってないんでしょ?」

「あぁ、そうだ」

「……」


 トーベルの言葉にリシュアは、唇を噛み締めながらも口を噤む。

 そしてしばらくの沈黙の後、息を一つ吐いた。

 

「……無理を言いました、申し訳ありません。アレン殿の件はこれ以上触れません」


 そして会議は締められた。


 エルドラシアの空気は、いつもより重く、冷たかった。

まるで──山の奥で眠る巨大な影が、ゆっくりと目を覚まし始めているかのように。


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