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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第一章 孤児院と謎の寄付
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姉弟の誓い

 孤児院の食堂は、いつもよりずっと賑やかだった。


「アレン、これ食べて!」

「アレン、また冒険譚教えてくれよ!」

「アレンさん、あと読んで欲しい本があるのー」

「だから飯くらい黙って食えって」


 子供達にもみくちゃにされているアレンさんを見て、思わず笑ってしまう。

あれだけ怖い顔で怒っていたのに、今はもうすっかりいつものアレンさんだ。


「すみません……せめて感謝としてご馳走をと思いましたが、子供達がご迷惑をおかけして……」

「大丈夫ですよシスター、アレンさんはみんなおもちゃですから」

「きこえてるぞー」


 私はそんな光景を眺めながら、事件のことを思い返していた。


 自警団のリットさんから、事件の顛末は全て教えてもらった。

アレンさんの半殺しを受けた二人はとても協力的で、全てを話してくれたという。


 事の発端は、セリオが借金取りから逃げて森を彷徨っていた時、金鉱脈を偶然見つけたことだった。


 本来なら金鉱脈の発見は、領主に報告するのが決まり。

 でもセリオはそれを独り占めしようと考えた。


 金鉱脈の不正採取は重罪で、最悪は死刑にもなる。

だからセリオは協力者には破格の賃金を払い、その代わりに黙ってもらっていた。


 ──ルカもその一人だった。


「ルカ、傷の方は大丈夫?」

「あぁ。しばらく安静にしていれば問題ないってさ」

「そっか、良かったね」

「……あぁ」


 ルカが組織に入れたのは、セリオ曰く奇跡に近いという。


 ルカはどこからか盗み聞いた金鉱脈の話を、セリオに伝えた。

そして──口を割らない代わりに協力者として雇え。

という条件を出したという。


 セリオは普段であればその場で殺していたが、時期的にそれは出来なかったという。

理由は組織拡大による、周りからの警戒心の高まりだ。


 薬草を大量購入する人間が多くいる。

 夜に街の外で人影を目撃した。


 それらの情報が出回り始め、いつ調査を開始されてもおかしくなかった時にルカがそんな条件を出すもんだから、セリオはのむしかなかった。


「……リオ、巻き込んでごめんな」

「いいのよ、でも今度からは困ったらお姉ちゃんに頼ってね」

「……うん、そうする」


 そんな中、セリオ達がルカを狙ったのは、ある一つの情報が原因だった。


 作業員から、赤い土についてアレンさんとリットさんが話していた、という情報だ。


 赤い土は、この土地の鉱山の特徴。

その情報から自警団やアレンさんの調査による、不正に独占している金鉱脈の発見を恐れたセリオは、すぐに撤退を決めた。


 撤退の障害となる協力者を暗殺。

 最大の障壁であるアレンさんも殺害。

 情報を漏れなくしてから逃走。


 それがセリオの策だった。


 既に協力者の何名かは殺害されてしまったものの、自警団は残りの協力者の足取りを追っている。


 リットさんは言っていた。


 ──セリオがもう少し策を練れる人間だったら、事態は最悪だった。


 その言葉を思い出して、背筋がゾッとする。


 もし相手がガルドじゃなかったら?

 もし相手が私を人質として利用しなかったら?


 考えただけでも、震えが止まらない。


「リオ、大丈夫か?」

「……はい」

「巻き込んでごめんなさい……リオ、アレンさん」


 もう何度目かもわからない謝罪をルカがする。


 ルカは拾ってくれた院長に何とか支えたくてお金を欲していたという。

 けれど子供が稼げる金額なんてたかが知れている。


 結局、アレンさんのいう通りだった。


 けれど──


「謝るなルカ、こちらこそすまなかった」


 アレンさんがルカに頭を下げた。


 俺が気づいてやれば良かった。

 もっと親身に話をするべきだった。


 アレンさんは何も悪くないのに、そう謝罪する。


「私もごめんなさい……アレンさんが正しかったのに……」

「そんな事はない。リオの意見だって正しかったんだ。そもそも誰が正しいとか、正しくないとかないんだよ」


 アレンさんは私とルカをみて笑った。


「みんなで意見を出し合って、みんなで解決すれば良かったんだ。お互い馬鹿だったな」


 優しくて温かくて、何処か呆れたような声。

 私とルカは、その言葉に強く頷いた。


「じゃあ食べよう、せっかく俺達のために用意してくれたんだ。冷ましちゃ悪いからな」

「はい! アレンさん!」

「……はい!」


 隣でルカが笑っている。

 その笑顔を見て、胸がじんわりと温かくなる。


 あぁ……本当に、よかった。


 私はそっと息をつき、孤児院の温かい空気に身を委ねた。


 そして楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう出発の時間になった。


「それじゃあね、ルカ! またくるよ!」

「いいけど明日も来るとかはやめてくれよ」

「ひどい! 行こうと思ったのに!」

「やっぱりか! 来るなよ!」


 私とルカのやりとりに皆が笑う。

そしてアレンさんがじゃあと手を上げた所で、何か思い出したかのように口を開いた。


「あぁそうだ。ルカのお金はどうしますかシスター」

「はい、その件についてですが──」


 ルカのお金は決して正しいお金ではない。

 けれどルカは未成年で、罰金などはなくお金はそのままだ。

 どう使うかはルカと、ルカの責任者であるシスターに委ねられていた。


「全てルカのために使おうと思います。贖罪の意味も兼ねて」

「そうですか……ちなみに贖罪とは?」


 アレンさんの疑問にルカが胸を張って答えた。


「俺、アレンさんや姉ちゃんみたいになる!! 二人みたいに誰かを助けられるような、ヒーローになるんだ!!」


 その言葉に、私とアレンさんは目を合わせて笑った。


「そうか、じゃあちゃんとシスターの言うこと聞いて大きくなれよ」

「好き嫌いせずちゃんと食べるのよ」

「姉ちゃんだってニンジー残す癖に!」

「あ、言ったわね!! それ秘密だって約束でしょ!」

「残すのが悪いんだ! やーい、ニンジー女!」

「こんの、まっちなさーい!!」


 ルカが笑いながら逃げていく。

 その背中を追いかけながら、私はふと気づいた。


 ──あの子の心に、小さな光が灯っている。


 誰かを助けたいと思える強さ。

 誰かのために立ち上がれる優しさ。

 その光は、きっと消えない。


 いつか本当に誰かを助ける人になるのだろう。


 その未来を想像しただけで、胸が躍る。


「ルカ!」

「なんだよ!」

「頑張りなさいよ!」

「……もちろんだ!」


 私は、そっと誓った。


 小さな光が、確かに未来へ続いている。

 その光を、私はずっと見守っていこうと。


これにて孤児院編終了となります。


お付き合いいただきありがとうございました。


もしよろしければ次章もお付き合いいただけると嬉しいです。

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