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勇気は剣より強く 〜なんでも屋が灯す小さな光〜  作者: かえる
第一章 孤児院と謎の寄付
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叫びが紡ぐ絆

「このクソガキがぁぁぁぁ!!」


 背後から怒号が響く。

 振り返らなくても分かる──男が追ってきている。


 木々の間を必死に駆け抜ける。

 枝が頬を掠め、土が跳ね、呼吸が荒くなる。


「リオ! 後ろ!!」


 その瞬間──男が立ち止まり、腕を振り上げた。


「簡易風魔法──サレマ・ウインドブラスト!!」


 空気が震えた。

 次の瞬間、暴風が私達を襲う。


「きゃっ──!」

「うわっ──!」


 体が宙に浮き、木々の間へと吹き飛ばされる。

私は右へ、ルカは左へ。

視界がぐるりと回り、地面へ叩きつけられた。


 肺から空気が抜け、呼吸が止まりそうになる。


「もういい、人質なんて一人でいいだろ」


 男の声が近い。

体を起こすと、男はルカの方へ向かっていた。


「弱ってるガキを連れて……女の方は殺すか」


 だめ──!


 男がルカに手を伸ばした瞬間。


「っ……!」


 ルカが地面の土を掴み、男の顔へ投げつけた。

 土が目に直撃し、男が大きく怯む。


「ぐっ……てめぇ……!」

「ルカ! こっち!!」


 その隙に私達は合流し、手を掴んで再び走り出す。


「逃げ道知ってるのか!?」

「逃げ道じゃないけど、一旦あっちに逃げるよ!!」


 ──遠距離魔法を打ってはダメな場所?

 ──そうだな、まずは障害物が多い所だな。


 アレンさんから教わった魔法の特性が頭をよぎる。

 木々が密集する場所なら、男も魔法を打ちづらいはず!!


 私達は木々がより生い茂る方向へと走り込む。

 枝が視界を遮り、地面は不安定。

 でも──それがいい。


 ここではもう遠距離の魔法は打てない!

 それにここなら小柄な私達の方が逃げやすいはず──


「なんて、考えてるのか?」

「──ッ!?」


 茂みに入り、より視界が悪い場所を探そうとしたその時、男が目の前に立っていた。

さっきまで遠くにいたはずなのに、まるで森そのものから滲み出てきたような、そんな距離感だった。


「ルカ! 後ろに!!」

「お前の方が厄介そうだな」

「あがっ!?」


 首が掴まれ、うまく息が出来ない。

孤児院で意識を失った時と同じ状況だ──!


「元とはいえ冒険者相手に森で有利になれると思うなよ?」


 よく見ると私達は服が土や泥で汚れているのに、男の服はほとんど汚れていない。

なるほど、確かに逃げ道としては失敗だったかも。


 けれどね──私の弟から目を離したのはもっと失敗よ!!


「リオから手を離せ!」

「がっ!? いってぇなぁ!?」


 ルカが大きめの石を投げる。

ゴツンと鈍い音がした瞬間、男は頭を抱えてよろけた。


「リオ! 今のうちに逃げろ!」

「ええ!!」


 私とルカは逆方向に逃げる。


「もういっちょ!」

「あぶねっ!? このクソガキがぁ! もういい! 女の事なんか知るか! まずはテメェからだ!」


 男は激情に任せてルカの方に向かう。

 どうやら今度は私から目を離したようだ。


「少しは学習したら!? 光魔法! シャインレーザー!」

「うぐっ!? くそっ!?」


 射程距離まで近づき、魔法を放つ。

シャインレーザーはアレンさんから真っ先に教わった魔法だ。

一直線に放つ光線は、威力こそ低いけれど体勢を崩すには十分。


 マナ消費も少ないし、まだまだ打てる。


「ルカ! 逃げるよ!」

「分かった!!」


 体勢を崩した隙を見て、また樹海へと潜る。

 すぐ追いつかれるけど、連携して体勢を崩しまた逃げる。


「この! クソガキどもがっ!!」

「はぁはぁ……ルカ! 逃げるよ!」

「はぁはぁ……分かった!」


 私達じゃこの男から逃げ切る事は出来ない。

でも、こうやって撹乱する事で時間稼ぎをする事は出来る。


「──っ!? てめぇら! ()()が目的か!!」


 時間を稼げば稼ぐだけ、相手は不利になる。

 何故ならアレンさんが助けに来てくれるから!!


「ガルド、何を遊んでいるんですか?」

「チッ、おせーぞ!!」


 振り向くと黒い外套の男が、木々の影から滑り出るように現れた。


「くっ……」


 私は致命的な見逃しをしていた。


 増援を待っていたのは私達だけじゃないという事を……。


「そちらの男の子は任せましたよ」


 その言葉と同時に、足が地面から浮いた。

 気づけばセリオという男に、体を抱えられていた。


「リオ!!」

「こっちきちゃダメ!!」


 ルカは私の方に向かって走ってくる。

 けれどその瞬間、ルカもガルドに捕まってしまった。


「離せ!! 離せよ!!」

「暴れんな!!」

「ぐあぁぁぁぁぁっ!」


 腕を掴まれ、地面に押し倒される。

 ルカの叫びが森に響く。


「ルカ!! やめて!! 離して!!」


 抜け出そうとするけれど、セリオの腕は微動だにしない。

まるで私の体重など存在しないかのように、片手で持ち上げている。


「セリオ! 今どういう状況だ!」

「アレンと女がこの二人を救出しにきました」

「ど、どうするんだ!?」

「とりあえず逃げます、一度体勢を整えてから次の策を練りましょう」

「チッ、いいのかよ、そんなに落ち着いてて!」


 ガルドは舌打ちして言い返す。

するとセリオは私の顔を覗き込み、薄く笑った。


「えぇ、人質を得たこちら側が圧倒的に有利ですから」

「──っ」


 声が出せなかった。

 もう頭が回らない。

 胸の奥が完全に折れた。


 あぁ……もう……ダメだ……。

 私もルカも……捕まった……。


 ごめんねルカ……ダメなお姉ちゃんで……。


 なんて──言えるもんか!!!


「がっ──!?」

「どうしたセリオ!?」

「こいつが!! 噛んできた!!」


 最後まで足掻いてやる!!


「リオッ!!」

「な、このガキ!? 暴れるな!!」


 諦めるもんか!! 私が諦めたらルカはどうするの!?


「ルカ! 私と命をかけて!」

「──っ! あぁ姉ちゃん!」


 最後まで足掻いて足掻いて足掻いて!!

 たとえ力がなくたって!!


「「たすけてぇぇぇぇぇぇぇ!!」」


 私には──


「叫んだって誰も──う、うそだろ……?」

「何をしているんですガルド! 早く取り押さえないと──」


 信頼できる弟と──


「待たせたな、リオ、ルカ」

「アレンさんっ!!」


 助けてくれるパートナーがいるんだから!!


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


「近づくな! 人質がどうなってもいいのか!?」


 ガルドと呼ばれた男がルカを押さえつけて叫ぶ。

 セリオもリオを抱えたまま、冷たい声で続ける。


「そ、そうです! あなたが一歩でも動けば──この子達はどうなるでしょうねぇ!」

「……あぁ、動かねぇよ」


 俺の言葉に、セリオとガルドはニヤリと笑う。


「俺はな」


 だが次の瞬間には、二人の顔は悶絶へと変わった。


「ぐあっ!?」

「なっ──!?」


 二本の矢が、ガルドとセリオの肩に突き刺さった。


「リオ!! ルカ!! 今だ!!」

「アレンさぁぁぁん!!」

「アレンさん!!」


 二人はその隙に敵の腕から抜け出し、俺の方へ走ってくる。


「ごめん、ごめんな、怖かっただろ」

「怖かったよぉぉぉぉアレンさぁぁぁぁん!」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 震えている。

 泣いている。

 必死にしがみついてくる。


 俺はそんな二人を強く抱きしめる。

 讃えるように、癒すように。


「やりましたね! 救出完了ですよ、アレンさん!」

「何自分のおかげみたいに言ってるんですかリットさん、頑張ったのはリオさんとルカさんですよ」


 森の影から自警団の弓兵とリット、ミーナが姿を現す。

 ミーナは喜ぶリットを冷めた目で見ていた。


「俺……馬鹿だったな……」

「はい、馬鹿です」

「ちょ、ちょっとミーナさん!」


 ミーナの即答につい笑ってしまう。


 でも本当に、俺は馬鹿だった。

 俺一人で背負う必要なんて、どこにもなかったんだ。

 誰かに頼れば、二人に怖い思いなんてさせずに済んだんだ。


 俺が心の中で猛省した──その時。


「くそっ……逃げるぞセリオ!!」

「えぇ、ここはまずいですね」


 ガルドとセリオが逃げようとする。

 が、もう無理な話だ。


「足が、抜けねぇ!」

「う、動けない?」


 足が土にめり込んでいた。


「逃げられると思って?」


 ミーナは魔法で二人の動きを封じた。

相当怒っているのだろう、俺すら震えそうになる怒気を纏っている。


 ──ただ、それは俺も同じだ。


「お前ら……よくやってくれたな」


 身体強化を行う。

 空気が震え、風が周りを吹き荒れる。


「や、やめてくれ! 俺達が悪かった!!」

「反省してる!! だからやめてくれ!!」

「そうか……反省しているのか」


 拳に力を込める。

 空気中のマナがすべて拳に集まり、赤く光る。


「そ、そうだ! いや、そうです! だから殺さないでください!!」


 俺はその言葉に、静かに答えた。


「殺さないさ。死んだ方がマシだと思うほどの傷を、体に残すだけ」


 俺は全力で拳を振り上げ、そして──


「ただの半殺しだ」


 振り下ろした。

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