57話 外伝2 祖母の告白
前のエクレーヌは、マドレ侯爵家の第二子で、長女として生まれた。
おばあちゃんのように生まれた瞬間から前世の記憶があるわけではなく、ごく普通に侯爵令嬢として甘やかされて育てられた。
ところが18歳の誕生日に、癒しの力が発動して聖女に認定されてしまう。
それだけでなく、癒しの力が発動したと同時に、前世の記憶がぶわっと頭の中に流れ込んできた。
エクレーヌの前世は、恋愛小説が大好きな一般家庭の女の子で、大学に入学してすぐに、トラック事故で命を落としたらしい。
そして記憶の渦の中から、ここは読んだことがある『竜トワ』の世界だと思い出す。
それからは聖女として働かねばならず、毎日神殿に行っては祈りを捧げ、騎士様たちのケガを治す日々。
だけど、喜んでしているわけではなく、むしろ嫌々やっているって感じ。
神殿で祈っている最中も不満顔を隠せないエクレーヌに、おばあちゃんは聞いてみた。
「聖女様、何か悩み事があるのですか? 私でよろしければ、お聞きしますよ」
「ああ、あなたは徳の高い神官様ですよね。私の話すことを信じてもらえるのかしら?」
エクレーヌは、きっと誰かに聞いてもらいたかったのだろう。
縋るような目でおばあちゃんを見つめた。
「もちろんですよ。聖女様のお話を私は信じますよ」
「ほんとに? 本当に信じてもらえるの?」
エクレーヌは嬉しそうにおばあちゃんの手を握った。
エクレーヌは胸のつかえが取れたように、ほっとした顔で自分の身に起きたことを話し出した。
18歳の誕生日に、癒しの力の発動と同時に前世の記憶を思い出し、この世界が『竜トワ』の世界であり、自分は一行しか出てこないモブの聖女に転生したことを知ってしまった。
「神官様、同じ転生するなら、別の小説の、もっとメインのキャラになりたかったわ。モブの聖女に転生したって、王子様を助けることもできないし。どうせ王子様は、クリードと恋仲になるんだから、私なんていてもいなくても一緒じゃない?」
不貞腐れて言うエクレーヌのことを、おばあちゃんは元気づけようとした。
「モブの聖女に転生して残念に思う気持ちもわかりますが、いてもいなくても一緒だとは思いませんよ。昨日だって、一生懸命に騎士様たちを癒して差し上げていたではありませんか?」
「それが嫌なのよ。みんな汗臭いし、平民ばっかりだし。それに騎士と恋に落ちたって相手は平民でしょ? 私も前世は平民だったけど、18年間も侯爵令嬢で贅沢してるとね。今さら平民となんて、ちょっとね」
「騎士様の中には、貴族の方もいらっしゃいますよ」
「それがね。シューク様なら子どものときに会ってるし、もしかしたらいけるかもって頑張ってみたんだけど、結局救護室に来なくなっちゃった。やっぱり原作の強制力は半端ないわ…って、神官様、私、つい前世の言葉で話しちゃったけど、意味わかってる?」
「はい。わかりますよ。」
「さすが徳が高い神官様は違うわ。前世を思い出してから、侯爵令嬢の話し方が堅苦しく思えてしかたがないのよ」
「では、聖女様は何がお望みなのでしょう?」
「そうねえ。できたら別の小説の世界に転生したいわ。BLじゃないやつね。そして、メインキャラと恋愛をするの。こっちの世界よりも断然いいわ」
夢を語るエクレーヌの意識は、もう完全に違う世界の中に入っているようだ。




