58話 外伝3最終話 働き者の聖女
ほわわんと夢の中に入り込むエクレーヌに、おばあちゃんは困ったなと思ったらしい。
「でも、そうなれば、この世界から聖女様がいなくなってしまいますよ」
「それなのよね。みんな聖女が誕生したって喜んでるし。そうだわ。私、すっごく良いことを思いついたわ!」
「良いこととは?」
「ふふふっ、もっと働き者の誰かが私の代わりに聖女になったらいいんだわ。私をこの世界に引き込んだのが神様なんだったら、別の誰かを引き込むことだってできるはずよ」
「そんなに上手くいくものなのでしょうか?」
おばあちゃんは半ば呆れて見ていたのだけれど、エクレーヌは自分の考えにすごく満足していた。
「やってみないとわからないわ。これから毎日神様にお祈りするわ。私の代わりに働き者を転生させくださいって」
それからエクレーヌは、毎日神様に祈りを捧げた。
「神様、私の代わりに仕事を嫌がらない働き者をここに呼んでください。そして私を別の小説の世界に転生させてください。モブじゃないお金持ちの令嬢でよろしくお願いします」
わざわざ声に出して祈るエクレーヌに、おばあちゃんは冷汗が出た。
「聖女様、その祈り、声に出してよろしいのですか? 誰かに聞かれたら困りませんか?」
「だって、声に出した方が神様に届きそうじゃない? それに、神官様と私しかいないんだから大丈夫よ」
おばあちゃんは、そんなエクレーヌを冷めた目で見ていたそうなんだけど、『竜トワ』の話を知っているから、若い彼女が他の世界に行きたいと思うのも仕方がないことなのかな?って思うようになった。
ところがある日、エクレーヌが突然祈りを変えた。
まるで初めて神殿に来て祈りを捧げるような、ぎこちない祈り方。
「この世界が平和でありますように……」
不安そうにおばあちゃんを見るエクレーヌを見て、一目でわかった。
前のエクレーヌは望みが叶えられたのだ。
そして彼女の願いは聞き届けられ、代わりに働き者の娘がやって来たのだと。
それに……、娘から感じる雰囲気、そして祈ったことが『世界平和』。
ああ、これは、働き者の孫、千代子がやって来たのだと直感した。
それからは、孫がこの世界に早く慣れるようにと、祈りながら成長を見守った。
新しい聖女は本当によく働く。
身体を壊さないかと心配するほどに。
だからこそ、その姿を見て、やっぱり千代子なんだと確信を持ったそうだ。
『竜トワ』なんだから、王子様と結婚できなくても、千代子が愛する人と結ばれて幸せになってくれたらそれでいいと思っていた。
だけど、孫は本当に王子様と結婚することになった。
そこで司会進行を頼まれて引き受けたわけだけど、千代子に前世の記憶があるのかわからないのだから、正体を明かさずに心の中でお祝いできたらそれでいいと思っていた。
でも、私が式の最中におばあちゃんのことをシューク様に話したから、いてもたってもいられず、おばあちゃんとしてお祝いをしたくなっちゃったんだって。
「おばあちゃん、あの時、カミングアウトしてくれて嬉しかったよ。こうやっておばあちゃんとお話できるようになったもの。」
「そうだねぇ。やっぱり正体を明かして正解だったんだよねぇ。」
「ねえ、おばあちゃん、世界平和を祈ったからって、どうして私だってわかったの?」
「それはね。千代子ちゃんは小学生の頃、七夕飾りの願い事に毎年書いていたでしょう? この世界が平和でありますようにって。だからわかったのよ。新しく来た働き者の聖女は、千代子ちゃんだって」
「おばあちゃん、覚えていてくれたの? 私はおばあちゃんの孫で幸せ者だわ!」
私はおばあちゃんに、ありがとうって言いながら抱きついた。
前世の幼い自分に戻ったように、おばあちゃんの温もりを全身で感じていた。
数多い作品の中からこの小説を選び、最後まで読んでくださりありがとうございます。
千代子がエクレーヌに憑依しちゃったら、本物のエクレーヌはどうなったのだろう?と疑問に思った方もいらっしゃると思ったので、こうして外伝にてお知らせすることにいたしました。
今頃、元エクレーヌは、お金持ちの侯爵あたりの赤ちゃんとして生まれて、幸せに暮らしていることでしょう。その後の人生がどうなるのかはわかりませんが、別の世界で夢を叶えてメインキャラと幸せになって欲しいものです。
面白かったと思っていただけましたら、ブックマーク、評価よろしくお願いいたします。
新作『木こりの俺がお姫様と結婚する方法』の連載を開始しました。
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