56話 外伝1 エクレーヌの悩み
今話から外伝が始まります。本編では書けなかったエクレーヌの誕生秘話です。
短編ですが、どうぞお楽しみくださいませ。
私は幸せな結婚式の後、新婚旅行に行って、シューク様と甘―い二人だけの時間を過ごした。
シューク様ったら、一日中、私の手を離してくれなくて、何をするときも一緒。
私もべったりとくっついていることが嬉しくて、本当にこんなに幸せでいいのかしらなんて思った。
シューク様は「こんなふうに独占できるのは、今だけだから」なんて言ってたけど、それは本当だった。
新婚旅行から帰ってきたら、シューク様は公務で忙しいし、私は私で聖女の仕事が忙しい。
王太子妃の公務も加わるから、忙しさが倍増する。
いわゆる前世で言えば、働き盛りの共働きっていうやつだ。
でも、夕食はできるだけ一緒にとるようにしているし、どんなに遅くなっても夜はベッドで一緒に過ごすことにしているから、私は仕事と夫婦生活の両立にとっても満足している。
だって、私、シューク様も大好きだけど、聖女のお仕事も大好きなんだもん。
それに、お仕事の昼休みは、時間が合えばだけど、おばあちゃんのところに行って一緒に昼食をとるようになった。
そのことも、すっごく嬉しい。
この世界に一人で来たと思っていたのに、おばあちゃんがいてくれたことが、とっても心強いし頼りになる。
でもね、ずっと前から気になってたこと。
前のエクレーヌはどこへ行ったのだろう?
私が幸せになればなるほど、その思いは膨らんでくる。
彼女は今どこにいるの?
もしかして、私が彼女の幸せを奪ってしまったのではないかしら?
それがすごく気がかりで、私の唯一の悩み事でもあった。
おばあちゃんは、この世界の偉い神官様だから、何か知っているかもしれない。
だから聞いてみることにした。
「おばちゃん、気になってることがあるんだけど……。前のエクレーヌはどうなったの? 私が彼女の幸せを奪ってしまったんじゃないかって思うと申し訳なくて……」
そしたらおばあちゃん、あらそんなこと?って感じで、お茶を啜りながら私を見て微笑んだ。
「千代子ちゃんが気にする必要はないのよ。だって、あなたを呼んだのはエクレーヌさんだったのだから」
「えっ? 何それ? そんなの聞いてない!」
私は本当に驚いて、持っていたティーカップを落としそうになった。
「千代子ちゃんは新生活に慣れることで精いっぱいだったし、聞いて来ないなら、あえて言わなくてもいいと思ったのよ」
「じゃあ、今だったら教えてくれる?」
「もちろんよ。実はね。前のエクレーヌさんも転生者だったのよ」
「ええっ? て、転生者?」
衝撃の事実に、私はポカンと大きく口を開けてしまった。
おばあちゃんは、順を追って話すからと、まず自分のことから話してくれた。
おばあちゃんがこの世界に来たのは五十年前で、子爵家の三女として生まれた。
生まれた瞬間から前世を覚えていたおばあちゃんは、会話ができるようになると、人が困っているときには、その知識と経験で助けてあげた。
二日酔いにはシジミが良いとか、貧血の人にはほうれん草が良いとか。
旦那さんの浮気で苦しんでいる人には、親身になって話を聞いて助言してあげたり。
どんな幼児なんだって思うけれど、その頃から神童と呼ばれ、神様に最も愛されている子どもだと評判になった。
だから、大きくなったら神官になることが約束されていて、16歳から神殿勤めをすることになった。
「おばあちゃん、16歳から神殿勤めだなんて……、結婚はどうしたの?」
「この国では神官職に就いていても結婚できるから、おばあちゃんにもお年頃の貴族令息との縁談はあったのよ。でも、前世の記憶を持っているとね。みーんな孫みたいに見えるのよ。だからどうしても結婚する気になれなくてね。独身でいることにしたの」
「なるほど」
なんだかおばあちゃんの気持ちがわかるような気がする。
「じゃあ、次はエクレーヌさんのお話をするわね」
おばあちゃんの話は、前のエクレーヌの話へと続いた。




