34話 同じ目をしていたから
男の子の身体についたあざは、如実に現実を物語っていた。
虐待されている。
おそらく父親からの暴力だろう。
あざの数と色から見て、男の子は日常的に暴力を受けている……。
ガトーさんも、あざを見て絶句していた。
「パンを持って帰らなかったら、お父さんに殴られるのね」
「う、うん……」
男の子は、恐怖で顔を歪めて泣き出した。
「聖女様、よくわかりましたね。私は病気のおばあさんが本当にいるのだと思ってしまいました」
「この子の目が、恐怖で怯えている目だったからです。病気のおばあさんにパンを持って帰ってあげようという優しい気持ちでパンを隠す目ではありませんでした」
そう、この子の怯えた目は、私の幼かった頃と同じ目をしていたから……。
私は、小学一年生の年に、母を病気で亡くした。
父と二人暮らしになったのだけれど、その頃から父の事業が上手く行かなくなり、父は酒を飲んで帰ることが多くなった。
食事はお金を与えられていたから、コンビニ弁当でひもじい思いをすることはなかったけれど、酒に酔った父は、機嫌が悪いと私に暴力を振るうようになった。
酒の量はますます増えて行き、何か気に入らないことがあると、酒臭い息で私を罵倒し殴った。
怖くて怖くて仕方がなかったけれど、幼かった私は、誰かに助けを求めることも知らず、ただただ、父の暴力が過ぎ去るのを待つだけの日々を過ごした。
ただ、幸運だったことは、父の暴力が始まって二年後、母方の祖母が私の異変に気付いてくれたのだ。
心配で様子を見に来た祖母が、生気を失い目がうつろになっている私を見て、父から引き離してくれた。
それからは、祖母と二人暮らしの平穏な生活が送れるようになったのだけれど、しがない年金暮らしの祖母に経済的な負担を掛けたくなくて、高校、大学の七年間、バイトバイトに明け暮れた。
同年代の女性が、煌びやかな化粧に流行の服を着ている姿を見て、羨ましいとは思っても、バイトで稼いだお金を、そんなものに使う気にはなれなかった。
学生時代も、社会人になっても、忙しすぎて男性と遊ぶ時間なんてなくて、気が付いてみれば、地味で目立たず、彼氏いない歴二十五年の人生を突き進んでいた。
いやいや、今は自分のことを振り返っている場合ではない。
この子のことを、どうにかしなければ……。
「ガトーさん、この子を家に帰したら、父親に殴られてしまいます。虐待親から引き離さないといけません。早くしないと、この子は父親に殺されるかもしれないのです」
そう、祖母が私にしてくれたように、虐待されている子どもを守らなくてはならない。
「ガトーさん。この国には虐待されている子どもを救う法律はないのですか?」
ガトーさんは視線を落とし、少し考えてから私を見た。
「そのような法律は、今のところはないが……、一時的に保護する目的で孤児院に預けることはある」
「だったら、この子を孤児院に預けることはできますか? 」
「一時的にはできるだろう。だが、長期になると、話しは変わってくる」
「では、今できることを、この子のためにしてあげましょう」




