33話 隠されたパン
子どもたちが、ぞろぞろとやって来た。
どの子も痩せていて、ろくに食べさせてもらっていないのだと、思えるような子どもたち。
一度に入れるのは三十人ほど。
食堂内に入った子どもたちは、料理の匂いに目を輝かせた。
騎士様が、子どもたちを順番に座らせていく。
今日のメニューは、肉と野菜が入ったシチューとパン、それに牛乳。
目の前に出された料理を見て、子どもたちは歓声を上げた。
「わー、お肉だ! お肉なんて久しぶりー」
貴族にとっては質素なメニューであっても、貧民街の子どもたちにとっては、最高のごちそうである。
「さあ、みんな、よく噛んで食べるんだよ」
アンナさんも、とても嬉しそうだ。
私も嬉しくなって、子どもたちを見ていたのだけれど、キョロキョロと目を動かしている挙動不審な男の子を見つけた。
やせ細った腕が今にも折れそうなその子は、七歳くらいだろうか?
いったい何に怯えているのか、不安げな目とブルブル震える手で、その子はパンを食べずに、サッと服の中に隠した。
食堂に来る子どもたちには、出された料理を全部食べてもらうために、持ち帰ってはいけないことを知らせている。
食べきれない場合は、残った料理をまた煮込んで、次の子どもに回すことにしているし、パンも食べかけであっても、次の子どもに食べてもらう。
前世のように、食べ残したら捨てるなんてことは、この貧民街では考えられないことなのだ。
持って帰ってはいけないから、カバンを持ってくることを禁じている。
その子は服の中にパンを隠したまま、シチューを食べ牛乳を飲んだ。
だけど、隠したパンには、一切手を付けなかった。
食べ終わった子どもから、食器を使用済み棚に片付け、次の子どもが入ってくることになっている。
私はその子が食器を片付けた際に、声を掛けた。
「ぼうや、ちょっとお話ししてもいい?」
男の子はビクッとして、目をキョロキョロと動かした。
「じゃあ、あっちのお部屋に行こうか?」
私は隣の控室に、子どもを連れて行った。
ガトーさんも心配してついてきた。
私はしゃがんで、目線を子どもに合わせた。
「ぼうや、パンを隠してたけど、それはあなたのパンなのに、どうして食べなかったの?」
男の子は下を向き、こちらを見ようとはしない。
「あの……、僕のおばあさんが病気なので……持って帰ろうと……」
私はアンナさんを呼んだ。
「アンナさん、この子には病気のおばあさんがいますか?」
「いいえ、この子のおばあさんは三年前に亡くなりましたよ。今は父親と二人暮らしです」
「ぼうや、どうして嘘をついたのかな? 怒らないから、正直にお話してくれる?」
私はできるだけ優しい声を出して、男の子に問うた。
男の子は、ポロポロと涙を零して泣き出した。
「ご、ごめんなさい。パンを持って帰らないと、父さんに怒られるんだ。食べずに持って帰れって言われたんだ。本当にごめんなさい」
「そっか……。お父さんに言われたことをしたのね。あなたのせいじゃないから、泣かないでいいのよ。ねえ、お姉さんに身体を見せてくれないかな?」
私はできるだけ優しく、男の子を刺激しないように言った。
「う、うん……」
男の子が服を脱いで見せてくれた身体には、あちこちに無数のあざがあった。




