32話 子ども食堂
「報告とは何ですか?」
「聖女様が提案していた子ども専用の食堂のことです。明日、試験的に施行することになったので、聖女様にも来ていただきたいのですが……」
「まあ、子ども食堂が実現するのですね」
「はい。初めての試みなので、まだ試行錯誤の段階ですが、いずれは定着させたいと殿下は考えておられます」
「もちろん行きます。とても楽しみだわ」
私が提案した子ども食堂が着々と進んでいただなんて、すごく驚いたし嬉しかった。
さすがシューク様だわ。
きっと将来は、よくあるただふんぞり返るだけの王様じゃなくて、弱者に寄り添える立派な王様になるんじゃないかしら……。
翌日の午前中、私は馬車に乗り、ガトーさんとロミアスさんの護衛と共に貧民街に向かった。
昨日、ガトーさんは、子ども食堂ができるまでの経緯を説明してくれた。
広めの空き家があったので、そこを購入し改修して使えるようにした。
調理人は、幼い子供を抱えて働きたくても思うように働けない母子家庭の母親を雇うことにした。
その子どもたちは食堂内で保護すれば、見張りをしている騎士たちの目が届くので安全だろうということだった。
食堂に来れるのは、この時間に働いていない十二歳以下の子どもたち。
貧民街の子どもたちは、十歳を過ぎると、靴磨きや日雇い労働で、働きに出る子どもが多いのだそうだ。
馬車が食堂に到着したので外に出たら、騎士様が数名、外の見張りをしていた。
大量の食糧を奪われないためには、見張りが必要なのだそうだ。
「騎士様、お疲れ様です」
「お声掛け、ありがとうございます」
騎士様の、頼もしい返事が返って来た。
私はガトーさんと一緒に、食堂の中に入った。
食堂内にも騎士様がいたのだが、その騎士様は、ずいぶんと子どもたちに好かれて人気者である。
調理人として雇われた女性たちの子どもが、若い騎士様の腕にぶら下がったり、おんぶしてもらったりで、キャーキャーと大喜びで遊んでもらっていた。
その中には、以前ひき逃げされて、私が治療した男の子もいた。
厨房の中では、五人の母親が料理を作っていて、皆とても忙しそうである。
「まあ、聖女様、来てくださったんですね。ありがとうございます」
男の子の母親、アンナが挨拶してくれた。
「こちらこそありがとうございます。この食堂を作るために、ずいぶんとご協力していただいたそうですね」
「いえいえ、お陰様で、仕事がもらえて、とても喜んでいます」
アンナさんが、とても嬉しそうに話してくれた。
「さて、料理ができたことだし、皆を呼びに行ってもらいますか」
「うん、僕たち行ってくる!」
子どもたちが、騎士様と一緒にベルを持って出て行った。
子ども食堂のことは、事前に貧民街の住人に口頭で伝えられていて、用意ができたらベルを鳴らして報せることになっている。
子どもたちは、カランカランとベルを鳴らしながら
「子ども食堂でーす。子どもは食べに来てくださーい」
と大声で叫んで、歩き回っている。
うんうん、出だしは順調ね。でも、本番はここから……。
私の心の中に、緊張が走った。




