第71話 私有地内ダンジョン
(*´ω`*)魔力だけなら取り巻き達の方が強いでつね。
(力が無いってのは惨めだな)
家や立場だけの話ではない。あの目隠れ女子生徒のアドバイスで一旦引っ込めた魔力感知を再発動する。自分を余り良く思ってない連中相手だ。
(遠慮無く視させて貰おうか)
プリメリア達をパッシブスキル魔力感知で調べ上げるクート。拡張スキル魔石感知は魔石の無い人間相手には効果が未知数なので使わない。パッシブスキル魔力感知は、具体的には無自覚に体外に放出されている魔力パターンを読み取ると云う感覚だ。クートは味覚由来の魔力感知なので、舌で舐め取る様な具合だろうか。プリメリアと其の取り巻き達の魔力の味を調べる。
「ん?何だ?」
「どうしたの?」
「変な感じがした。モンスターか?」
「ダンジョン近いし、其れかな?」
取り巻き達が少しざわつく。クートの魔力感知に反応したのは恐らく固有スキルが感知魔法タイプの者だろう。あの目隠れ女子生徒の云う通り、パッシブスキルでも自分の魔力が何者かに触れられると違和感を覚える者は居る様だ。幸いダンジョンが近いので、そっちと誤解してくれた。
(ふーん、成る程?)
魔力感知の結果、取り巻き達の魔力は低く、プリメリアの魔力が高いのが解った。身分だけでなく魔力差も関係性通りらしい。
「?皆様どうかなさいましたの?」
プリメリアはキョトンとしている。彼女の反応は鈍い。其れは彼女に才能が無いのではない。寧ろ其の真逆―――
(総魔力に対して出せる出力が低いんだな。プリメリアの潜在能力は高いぞ)
瞬間的な魔力感知だとプリメリアも有象無象の扱いだ。しかし至近距離でプリメリアの魔力をじっくり調べると、結構な才能の原石を感じた。総魔力が高い為に反応が鈍いのだろう。あくまで主観だが。
(フラッペもショコラも攻撃が大味だ。試験官には俺の魔力制御を褒められたが、多分総魔力が低いから運用が楽なんだろう)
クートの魔力制御が上手いと評価を受けたのはナイフで林檎を剥く様な物だと捉えている。ショコラなら全身鎧で林檎の皮剥きチャレンジをする様な物か。フラッペに至っては攻城兵器で林檎を剥こうとするのに等しい。あのガラスのコップの水を凍らせたり沸かせたりするのはあの凸凹コンビには多分無理だろう。
(其処まで極端じゃないけど、プリメリアも強いな)
クートがプリメリアの評価を上方修正する。強い女は好きだ。フラッペショコラ程ではないが、プリメリアからも似た様な気配を感じる。今は兎も角、将来有望だ。
(モンスターで例えるなら他の連中はE、プリメリアは現状Dって所か。俺はまぁFが妥当かな?)
クートは人間をモンスターに例える事で脳内の整理を着ける。実際魔力は多分クートが一番低い。しかし低いなりの運用方法は有る。先程の林檎の皮剥きが良い例だろう。プリメリアは炎を飛ばせても、至近距離での近接戦は出来まい。クートは魔法を飛び道具にする事は不得手だが、魔法を手に纏わせた近接戦は出来る。
(まぁどうせなら、大技を使える方に憧れるけどさ)
此の貴族女にまで嫉妬心は覚えない。フラッペショコラと出会い、つまらないプライド等砕け散ってしまった。
(しかし此の女⋯取り巻きにチヤホヤされるだけで満足してないで、モンスター討伐でもすれば才能が開花すると思うんだけどな。⋯勿体無い―――が、まぁ仕方無いのかな)
例えば踊り子のシャロンの身体能力なら戦闘力も凄そうだ。身のこなしから戦闘職の可能性も有る。だが彼女は踊り子で在る事に誇りを持っている。自身の固有スキルに興味も無い。
(其れが彼女の美しさにも成っている。否定は出来ない)
ドリー上級魔法士は戦闘に優れているらしいが飲食店経営が夢だ。フラッペは攻撃魔法を極めれば恐らく世界レベルで最強に成れる。だが彼女はモンスター食と云うゲテモノ研究に執念を燃やし、其の過程でクートを育成してくれている。フラッペが自身を鍛える事にしか興味を示さないクートの様な人間だったなら、わざわざクートを鍛えたりしないだろう。
(勿体無く感じるが⋯其れはフラッペの否定だしな)
クートだって今すぐ危険な冒険者を止めて飲食の道に進めと強要されたら全力で暴れる自信が有る。
(プリメリアが満足してるなら強要は出来ないな)
プリメリア自身は現在とても悩んでいるのだが、家を飛び出しモンスターを殺戮する道を邁進するクートからすれば、微温湯でパチャパチャ遊んでいる様にしか見えない。
「へぇ〜、プリメリアの家って凄いんだね」
「そうよ。凄いのよ」
プリメリアはご機嫌だ。性格は悪いが顔は良いので笑顔は可愛い。クートが社交力を発揮してヨイショをしていると簡単に乗せられている。
(口調が安定しないな?此方が素なのかな)
クートの思い浮かべる貴族令嬢の様な丁寧な口振りと、今みたいに少し子供っぽい口調で揺れ動いているプリメリア。クート自身も年上や目上に対する敬語、意識した砕けたタメ口、レナみたいに男友達に対する様なぞんざいな口調。ざっくりだが三パターンぐらい使い分けている。第四のパターンとしては、命の遣り取りをする相手が一番素直に話せてる気がする。胸の裡を晒して殺し合う。もしかすると自分は―――
(殺し合いの中でしか自由に成れないのかもな⋯)
美味い飯を喰う事よりも、ぐっすりと眠る事よりも、良い女を抱く事よりも、強敵との死闘が一番楽しいのだ。
「着きましたわ」
「おお、此れが⋯」
山中を歩いて本当に直ぐの所にダンジョンを見つけた。見た目は普通の洞窟の様だが、中からチリチリとした独特の気配がする。
(魔力⋯モンスターの味だ)
クートのパッシブスキル魔力感知がモンスターの存在を教えてくれる。此処は間違い無くダンジョンだ。
「良し、行け」
「解ったよ」
取り巻き達の言葉に従うクート。洞窟内は暗いが味覚由来の魔力感知の出来るクートに問題は無い。舌ではなく鼻で匂いを感じ取る。嗅覚も味覚と連動しているのだ。
(Fランクモンスターの匂い)
雑魚だけの様だ。其のままスタスタ歩いていると背後から動揺する声が届く。
「おい、火ぐらい付けろよ」
「俺には出来ない」
「ははっ、良く其れで冒険者やれてるな」
「⋯⋯⋯⋯」
「まぁ良い。見てろよ?我が掌に太陽の息吹よ、芽吹け」
取り巻きの一人が掌に炎を灯す。
(何今の?)
フラッペショコラの様な上澄みしか知らないクートは基本的に自身も無詠唱である。しかし実は魔法には詠唱を使う場合も有る。言語化する事で脳内に魔力回路を構築し易くするのだ。詠唱内容はイメージし易い
オリジナルで構わない。対人戦闘では相手へのフェイントで詠唱内容を複雑にするテクニックも有るが、魔力の流れで何の魔法を使おうとしてるのか解ってしまうし、時間の無駄だ。結局無詠唱に行き着くので詠唱自体は既に形骸化している。今其れを行うのは魔力を練り、魔力回路を構築し、魔法を顕現する為の速度が足りない者達だけだ。あくまで補助の役割や、撚り精度や威力を上げる為のブースト効果目的だろう。
「ふふ、こんな事も出来ないのか?」
「まぁ出来ないけど」
炎が洞窟内を照らし、クート達の影を歪に歪める。少し進むと物音と鳴き声が聴こえて来た。
(*´ω`*)クート君はとことん自己評価低いでつ。




