第70話 プリメリア御嬢様の事情
(*´ω`*)おはようございみゃふ!
(私達は優秀な魔法使いに成れる)
そう盲目的に信じる魔法士ギルド附属魔法科分校の生徒達。彼女達は色々と間違えていた。魔法士ギルド附属魔法科分校はあくまで貴族街本校の分校に過ぎない。彼女達の所属は魔法士ギルドではない。魔法科分校の生徒達はどんなに優秀でも初級魔法士の資格までしか取れないのだ。下級以上を望むならば、正規のルートで入会し実績を積まねばならない。必要なのは貴族家のコネクションではない。個としての強さだ。エゴと言い換えても良い。家と金の力で資格を得、見栄の為に魔法を学ぶ彼等には、圧倒的に其れが不足していた。
「こんな近くに有ったのか」
「まだですわ。此処からは少し歩きますわ」
山の中の舗装された道に馬車を待たせ、山中を進む一行。此の山や周囲の田畑はプリメリアの家が治める荘園である。プリメリアの家は所謂在地領主である。本来の荘園領主⋯つまり此の町の領主は実際には都に住んでいる。魔法士ギルドとの盟約に依る領主の守護は、実際は代官家族を守る事に当たる。プリメリアの家を含め複数の分家当主達が合同で治めるのが此の町の統治体制だからだ。本家筋の当主は年に数える程しか町にはやって来ない。其の為用事が有る時は都へ出向く必要が有る。今のプリメリアの両親の様に。
(パパとママが居なくて良かった。ホント煩いんだから⋯婚約者は要らないけど)
プリメリアの両親は彼女が魔法科分校に通う事にも反対していた。貴族街の本校に通わせ淑女教育を受けさせたかったのだ。しかし魔法を使える貴族と云うのも箔は付く。一応のメリットを考え許可を出したに過ぎない。口煩い両親は私有地内ダンジョンの探索にも良い顔をしない。其の両親が居ないのは良いのだが、居ない理由はプリメリアの婚約者探しだ。複雑な心境にも成る。悶々とするプリメリアを他所に、クートはウキウキしつつ冷静に分析する。
(しかしおかしいな?こんなダンジョン知らないぞ?私有地内ダンジョンだからか?)
クートは周辺のダンジョンの下調べはしている。その内潜る予定だったからだ。Fランクでも潜れる初心者向けのダンジョンから、Cランク以上推奨のベテラン向けの物まで。中には確かに私有地につき無許可探索不可の物も有った。だが冒険者ギルドのモンスターエンカウントマップには記載されていた。ダンジョンが有ると其処から偶にモンスターがフィールドに溢れて来るのだ。そして其れを私有地の所有者が依頼して冒険者に狩らせる。一般人への警告が無いと万が一被害が出た時に、私有地内ダンジョンの所有者が罪に問われるからだ。
「私の家の敷地内だもの。此の山全部ね」
「⋯成る程」
(まさか未届け?て事はレーティングもされていないのかな?)
少し気になる。素人判断でEランクダンジョンかと思いきや、奥底にはCランクモンスターが待ち構えていてレーティングが見直された例も有る。ダンジョンのランクは基本的に出現モンスターのランクに準拠する。但し、Dランクモンスターしか出なくても環境が余りに過酷だったり出現モンスターの数が多過ぎるとCランクに格上げされたりもする。ダンジョンは生きているのだ。
(俺が連れて行って貰えた魔法士ギルド管理下ダンジョンはランクいくつだろう?)
浅層でDランクモンスターが出たのだ。深層へ向かえばBランクやAランクのモンスターもうじゃうじゃ居るだろう。
(まさか―――Sランクダンジョンか?)
各層のボスフロア前のキャンプ地。其処に常駐する上級魔法士達。空間転移魔法陣に緊急避難転送魔道具。部外者に対する徹底的な隠蔽措置。冒険者なら喉から手が出る程価値の有る魔石や素材は基本取り放題。
(何よりあのフラッペが攻略出来てないし。此の町を拠点にしてる理由なのか?)
フラッペやショコラ程の戦力なら、こんな地方の町でなく都市部に置く筈だ。本人が好んで此の町に居るのだろうが、其の理由は不明である。未攻略のダンジョンを攻略中と云うなら話が通る。
(もしもアレが冒険者ギルド管理下ダンジョンだったら大々的に解放して客寄せし、此の町も大都市へ変わったろうな。多数の死傷者の代わりにだが)
あの徹底的な安全措置はあのダンジョンが相当危険だとされているからだろう。魔法士ギルド管理下ダンジョンは実は他に幾つか有る。冒険者ギルドのエンカウントマップにも記載が有ったし、魔法士ギルドのロビーに有った地図にはもっと詳しく記されていた。だが其のどれでも無い。多少手順が手間とは云え、誰でも見れる地図に載せてる筈が無い。
(長期的に見れば観光地化させた方が町は潤うんだけど。死者は凄い事になるだろうな)
クートはフラッペショコラの凸凹魔法士コンビに過保護に守られてたから安心安全に探索出来たが、素人が突っ込んで行けば間違い無く死ぬ。雑魚モンスターとボスモンスターの力の差が酷い。
(まぁ其れは良いか。何れ必ず攻略してやる)
クートは気持ちを切り替える。フラッペすら梃子摺る推定Sランクダンジョン等、今の自分には夢の又夢なのだから。
「パパが定期的に冒険者を雇ってモンスター狩りをしてるわ」
「そうなのか」
(ふーん?プロが対処してるならまぁ、大丈夫、か⋯?)
高ランククエストなのだろうか。もしくはプリメリアの父親が個人的に指名クエストを出しているのかも知れない。魔法士ギルド管理下ダンジョンも秘匿されていたのだ。もしかして冒険者ギルドも魔法士ギルドも把握はしているが、表向きは知らないフリをしているのかも知れない。
(プリメリアの家は御貴族様だしな)
大人の事情なら考えても仕方無い。クートは気にしない事にした。
「敷地内にダンジョンが有るなんて、なんて羨ましい」
「あら、うふふ、そう?そうですわよね」
素直なクートの言葉にプリメリアは気分を良くする。そしてペラペラとお喋りしてくれる。プリメリアの家は此の町の領主の家の分家らしい。荘園領主でもある領主様は名義のみで、本宅は都に有り其処にずっと住んでいる事。実務を行うのはプリメリアの家を含む幾つかの分家達。其の分家当主達が荘園の在地領主をやったり町の治安維持をしたり、貴族街を纏めたり町の経済面を支えているらしい。
(なんかパーティーみたいだな)
領主様をリーダーとして、其々の向き不向きを見てパーティーを組んでいる様だ。プリメリアの家は農地の管理に秀でており此の町周辺一帯の荘園を管理しているらしい。取り巻き達は更に其の下の細分化したブロックの管理者の子供達だそうな。
(家の都合で太鼓持ちしてるのか。貴族も苦労してるんだな)
自分を馬鹿にして来た事にも少し違和感を感じていた。何故か自分への悪意が薄い事にだ。アレはクートが嫌いで悪く言っていたのではない。御主人様であるプリメリアのご機嫌取りの為にクートを出汁に使ったのだ。扱いの悪さは変わらない、むしろ明確な悪意が無い分酷いかも知れない。しかしクートは特に怒る事も無く、むしろ同情したのだった。
(*´ω`*)プリメリアのが化けの皮が剥がれてまつね。御父様でなくパパとか言っちゃってるので。




