第62話
(*´ω`*)場外乱闘
クートが魔法士ギルドからの指名クエストを受けてから二週間が経過した。しかし未だに戻って来る気配が無い事に、複数の者達が苛立ちを隠せずに居た。先ず其の矛先は子持ち時短パート受付嬢トロネへと向かう。
「トロネ?此れは一体如何云う事かしら?」
「トロネさんお願いします」
「トロネ、私達友達よね?」
トロネを問い詰めるのは同じく冒険者ギルド受付嬢カヤル、Dランク冒険者斥候ハーニャ、Eランク冒険者槍士レナ、Fランク冒険者弓士ルカ、クートが泊まる宿屋の看板娘リコ、繁華街の踊り子シャロンだ。其の様子をハラハラと見詰めるのは弓術教官メリッサ。
「申し訳御座いません」
トロネは微かにぷるぷると震えながら涙目で謝罪する。トロネが斡旋した訳ではないのだが、フラッペからの指名クエストを仲介したのはトロネだ。トロネを問い詰めるのはお門違いだしほぼほぼ無意味なのだが、彼女を問い詰めるしか出来ないのが現状である。
「謝られたい訳じゃないのよ?トロネ?」
ハーニャの目が座っている。仲良しとまでは言わないが其れなりに良い関係だったのに。今は底冷えする視線で彼女を射抜いている。斥候職とは云え彼女もモンスターを討伐する技術は有る。命の遣り取りをする者の凄みが内勤勤めの彼女を震え上がらせる。
「おいおいお前等、うちの受付嬢を余り虐めんなよ」
流石に支部長がトロネを庇う。今回の件、トロネには全く落ち度は無いからだ。お得意様である魔法士ギルドからの指名クエストは優先度が高い。更に秘匿性も高く、依頼内容は開示出来ない。
「支部長」
「支部長教えて下さい」
「駄目だ。Eランク冒険者クートの件に違法性は無い。半年一年とかなら兎も角、一週間が二週間になったぐらいじゃ騒ぐ程じゃねぇ。其れに向うさんから契約期間延長の打診は無いが、延長してくれんなら此方としても美味しい。好きなだけ延長して下さいってなもんよ」
「支部長っ!」
女達の責める様な視線を面倒臭そうに躱す支部長。如何云われ様とも仕方が無い状況だ。
「⋯まぁ、もしもやれるとしたら、延長申請や書類が無いのは如何な物か?お支払いはちゃんとして頂けますか?てお伺い立てるぐらいか⋯」
支部長が妥協案を出す。
「それじゃぁ益々クートが帰って来れなくなるじゃん」
基本的に人懐っこく笑顔を絶やさないレナの語気が強くなる。愛槍を握り締める腕がミチミチと軋む。一応笑ってはいるがかなり獰猛な笑みだ。
「クー兄を返して」
「クートには世話になったからお礼言いたいだけだから」
「解った解った。お引き取り下さい」
(なんか部外者居るけど確か部外者じゃないんだよな)
リコはクートが拠点としてる宿の娘さん。踊り子のシャロンはクートに以前助けられたお礼を言いたいと云う理由からだ。此の二人はやんわりと門前払いしてるのだが帰らない。そして此処最近毎日来る。
(魔法士ギルドに直談判した奴居ねぇだろうな?トラブル起こすなよ〜)
普通なら魔法士ギルドには向かわない。いや、既に行った人間も居るかも知れないが、完璧に門前払いされている筈だ。魔法士ギルドの建物には一種の結界魔法が張ってあり、部外者は簡単に入れない。敷地内に踏み込んだだけで攻撃魔法が飛んで来たりはしないだろうが、固く閉じられた扉はビクともしないだろう。魔力パターンを刻まれた魔法士ギルド会員なら顔パスらしいが。
(冒険者と魔法士を兼業でやってる奴も居るが、コイツ等の知己には居ないだろうし、もし居ても頼みを聞いてやる義理は無いだろう)
冒険者ギルドとは違うので一般人が依頼を出す事もほぼ出来ない。其れこそ冒険者ギルドからの仲介や紹介を経て依頼する事が出来るぐらいだ。
「支部長⋯ロッタと奥様の⋯」
「公私混同は止めろ。弱味を握られて脅されても出来ない事は出来ない。俺は小さな町の冒険者ギルド支部長だぞ?向こうも小さな町の魔法士ギルドだが⋯貴族街との太いパイプが有る。無理無理」
「⋯⋯⋯」
カヤルが悔しそうに俯く。其れは良く解っている。魔法士ギルドは国や貴族から資金援助を受けている。其の見返りとして貴族街の側に拠点を構え、護衛等の依頼を優先的に受けている。本来なら何方が上とか下とかは無いのだが、やはり向こうの方が立場は強い。
「クー兄⋯くすん⋯」
シンッとする冒険者ギルドのロビー。普段は野次を飛ばしたりして茶化す冒険者達も今は大人しくしている。クートが引っ掛けた女達が揃ってるのだ。此処でもしも『きっとクエスト中に死んだんじゃね?』とか冗談でも言えば袋叩きにされるだろう。
「済まない、邪魔するぞ」
其処に扉を開き、チョコチョコと小さな影が現れた。
「貴女は――――」
長いローブにトンガリ帽子、大きな魔石の付いた立派な意匠の杖。そんなコテコテの魔法使いの格好をした見た目幼女のアラフォー魔法士。
「悪食フラッペ⋯」
「魔食家フラッペ」
「アレが?」
「子供じゃん」
周囲がザワつく。見た目からは想像もつかない威力の攻撃魔法が使える事で有名だ。
「い、いらっしゃいませ⋯」
トロネが縋る様にフラッペを迎える。此れでクートの安否がハッキリする。助かったと思ったのだ。
「クート氏の指名クエスト延長の申請書だ。本人直筆の同意書も有る。申請が遅れた分の迷惑料も上乗せしよう」
希望が絶望に変わりトロネが放心状態に成る。此の場に居るクートの女達が殺気立つのが解った。感知系スキル等無くてもハッキリ解る。怖い、帰りたいと思っても逃げられない。誰も助けてくれない。
「クッ!クートさんがっ!魔法士にっ!?」
嫌々読み進めると更に驚きの事実が発覚し、トロネが戦慄する。魔法職の冒険者が魔法士ギルドにも兼業で所属するのは良く有る事だ。問題はクートが魔法を使えない事。しかし、書類に不備は無い。フラッペが偽造したとかでもない。魔法士ギルドの正式な書類だった。
「クート氏には魔法の才能が有った。私とのクエスト中に其れが開花したのだ。書類に書いて有るだろう?ん?ちゃんと試験も受けた。合格したのでクート氏は初級魔法士だ。何か問題有るかね?ん?」
「も、問題有りましぇん」
トロネが引き攣った笑顔で応える。何も問題は無い。しかし―――
「大有りよっ!」
女達を代表してカヤルが叫ぶ。契約関係で口出し出来るのが受付嬢のカヤルぐらいだからだ。ハーニャ達冒険者だと他人のクエスト依頼の契約にまで口出し出来ない。其の知識も無い。
「何がかね?」
フラッペがゆっくりと振り返る。悪食フラッペ中級魔法士。其れはモンスター食に拘る性癖の事だけではない。まるで怪物がモンスターを食い散らかすかの如く殺戮する様を差している。クートの様に攻撃魔法を研究したり研鑽してる訳ではないのでスキルは未覚醒だが、其の才は本物だった。
(*´ω`*)アラフォーロリの勝利




