第53話
(*´ω`*)おぱようございみゃふ!
扉が開く。魔法士ギルド管理下ダンジョン第一層地下十階階層ボスフロアの、扉が開く。
「此処が⋯」
クートとフラッペとショコラの三人がフロア内に立ち入ると、ガガンッ!と云う轟音と共に扉が閉まった。フラッペが開けた時は軽く開いた感じだったが、閉じた音はやたらと重々しく響く。
「第一層階層ボス攻略に定員は無い。何人で挑んでも構わない。まぁ扉が閉まる前に滑り込む必要は有るがね。そして今此の部屋に魔法的なロックが掛かった。外部への魔法、魔術式は不発に終わる。緊急避難転送魔法は使用不可だ。勿論通信魔法もね。だがもし使用すれば魔力は消費するし、緊急避難転送魔法を付与した魔道具は使用済みとなり壊れる。追い詰められパニックを起こした魔法士はそうやって自滅する。ま、君は大丈夫だろうがね」
階層ボスに依っては定員が満たされたら強制的に扉が閉まったり、逆に定員が満たされないとボスが出現しなかったりもする。と、本で読んだ。
「さぁ、何が出る?」
扉が閉まると同時に部屋の奥に何かが出現した。
「魔石―――」
小粒ではない。ボスコボルトやデスファングボアの魔石よりも大きい。大粒と云えるサイズだ。其れが―――
「六個」
其の魔石に何かが集約して行くのが解る。最近なんとか感じ取れる様になって来た不可視のパワー。生物無生物問わず、大地に大気に遍く超常なるエネルギー。
「魔力」
段々と魔石を核にして肉体が構築されて行く。骨が生まれ肉が湧き出し血が走る。高速細胞分裂に依る高熱に依り煙が噴き出ている。目玉が生まれ、ギョロリとクートを睨み付けて来る。生え揃い始めた牙がガチガチと鳴らされる。
「隙だらけに見えるがトラップだ。此の時点での攻撃は吸収される。魔法攻撃は魔力に変換されるし、物理攻撃は肉体構築のパーツにされる。なので敢えて弱点が解り易い物を投げ付けて弱体化させたり、攻撃魔法をぶつけて敢えて更に強くする裏技も有るが、肉体構築完了まで一切の魔法的接触や物理的接触を弾く事も有る。静観がベターだね」
フラッペの忠告が無くとも手を出す気はクートには無かった。折角強敵と戦えるチャンスなのだ。不意打ち等と云う野暮な事はしない。どうせなら相手をしっかり見たい。
「むむ?」
「あちゃぁ〜」
魔石を核にした受肉が完了する。階層ボスモンスター達は、肉体だけでなく装備まで充実していた。其れを見たフラッペとショコラが困った顔をしている。
「アレは⋯」
モンスター図鑑で見た姿だ。今のクートならなんとか勝てる相手であろう⋯一対一ならば。
「やった。やった」
クートがはしゃぐ。緑色の体色。体格は子供よりも大きく、背丈はクートと同じぐらいは有る。武骨な剣と盾と鎧を持つゴブリンの中位種―――
「ゴブリンナイト」
緑色の体色。体格はノーマルのゴブリンよりも細く頼り無い。しかし其の手に持つ禍々しい歪な杖と、襤褸切れの様なローブは邪悪さを放っている―――
「ゴブリンメイジ」
体色はやや薄い緑色。其の立ち姿は厳格で静謐な雰囲気を纏う。聖者の様な居住まいだが捧げる祈りは魔の神々の為のもの―――
「ゴブリンプリースト」
脂肪の下にハッキリと解る筋肉の装甲。其れこそが鎧で有り盾だと言わんばかりに装備は両手で握る大剣のみ―――
「オークナイト」
並のオークよりもか細くか弱い。しかし杖とローブは生まれながらの強者の証。杖の先端の頭蓋骨はダンジョンに喰われた探索者の物であろうか―――
「オークメイジ」
豚面なのに何処か理性と知性を感じさせる。欲望だけで動くモンスターには無い筈の信仰心を感じさせる佇まい―――
「オークプリースト」
其々一体ずつだ。其れがクートの目の前に現れた。殺せる。俺の獲物だ。クートの頭の中が真っ赤に染まる。
(先ずは定石通りにヒーラーから潰す―――)
「殺せる。殺す」
「クート氏、ステイ」
「!?」
飛び出し掛けたクートが急制動を掛ける。食材鑑定の根幹を為す感知系のパッシブスキルが反応したからだ。目の前に見えない壁が有る。ダンジョンのボスフロアのギミックの可能性も有る。しかし違う。見えない壁の発生源は背後からだ。
「ショコラさん」
「キュート君、御免ねぇ〜」
申し訳無さそうなショコラの顔にはクートを案じる色が有る。不満は無いが疑問は出る。
「なんで?」
邪魔をするの?
「⋯⋯ショコラさん」
続く言葉を飲み込んで名前を呼ぶ。応えたのはフラッペだった。
「我々が余り手を出さなかったのには理由が有るのだよ。地下一階から地下九階までに倒したモンスターの数や倒し方、そして到達スピードに依り探索者の強さを判定している、と、されている」
フラッペが目の前を示す。六体のモンスター共を。六体のゴブリンオークの中位種は動かない。いや、動けない様だ。恐らく奴等の前にも見えない壁が有るのだろう。
「あの階層ボスはクート氏が倒したモンスターの分、プラス⋯私とショコラが叩き潰した分が加算されている」
「手伝うな」
「クート氏?」
(つまり―――)
「今の俺でギリギリ倒せるレベルを超えるモンスター」
(俺を心配してくれてるのは解る。其れは嬉しいけど)
「余計なお世話です邪魔するな」
「今君本音と建前ズレてないか?」
クートは貼り付けた愛想笑いをし、瞳だけがギラギラした炎を灯している。
(ううむ、此れは危ういね)
二重三重の意味で危うい。放っておいたら簡単に死んでしまいそうだ。そしてそんなクートを見ていると、冗談や誂うとかでなくクートに惹かれて行く。誠実で真面目そう⋯ではなく本当に誠実で真面目なのだが、奥底には狂気が棲んでいる。女達が誘蛾灯の様に引き寄せられるのも解る。
(格上の敵。負ければ死ぬ)
「俺の獲物だ」
武器の具合を確かめる。チョッパーでオークナイトの大剣は防げまい。ゴブリンナイトの盾も厄介だ。
「駄目ですよぉ〜キュート君が怪我をしたら直ぐに緊急避難転送魔法が発動しますぅ〜」
「ボスフロアは―――」
「ボスを倒して扉が開いたら強制送還ですよぉ〜?其の場合、更に下の階層への探索は断念するしかないですぅ〜」
「ちっ」
「ああ〜!?キュート君に舌打ちされたぁ〜!?」
クートはフラッペの説明を思い返す。
(緊急避難転送魔法の発動方法は三つ⋯だった筈)
魔術式を刻んだ持ち主から一定距離離れる。魔術式を刻んだ持ち主の魔力が著しく減少する。魔術式を刻んだ持ち主の生命力が著しく減少する。
(俺がファングボアの肉を喰って食中毒に成った時は発動しなかった。つまり、あの程度なら許容範囲内って事だな)
確かに其れだと普通に探索で疲労しただけでも強制送還されかねない。
(まぁあの時は普通じゃなかったな。意識も失ったし)
あの時は、魔力と云う普段知覚していない不可思議な力が物凄い速度で減少している自覚は有った。しかし恐らくだが、モンスター食をした事で魔力が増大した⋯気もする。そう仮定するなら減少と増加で魔力のプラスマイナスがゼロと成り、緊急避難転送魔法は発動しなかったのだろう。
「余程の大怪我でもなければ、階層ボスを倒した後にノータイムで強制送還されはしない」
「そうだね」
「もしも体力気力が減少してたらモンスターを喰らえば魔力を回復出来る」
「其の通りだね。私の感覚頼りになるが⋯ファングボアの肉を食べた君の魔力が増大したのは知覚している」
「あぁ〜私のキュート君がどんどんフラッペさん味に染まって行くぅ〜〜〜」
何処から突っ込んで良いか解らない嘆きを上げるショコラ。
「そうか」
キシキシと鋼糸を手繰る。
「此のボスフロアでは」
ウルミのしなりを確かめる。
「緊急避難転送魔法は不発に終わる。大怪我さえしなければボス攻略後も探索は続行可能」
チャクラムの刃を確認する。
「魔力が減少してもモンスターを喰らえばキャンセル出来る」
手斧も問題無い。
「つまり」
チョッパーも絶好調だ。早くモンスターの血を吸わせろと、対モンスター用肉切り包丁が訴えて来る、気がする。
「気兼ね無く、殺せる」
地下一階から地下九階までも別に手を抜いていた訳ではなかった。しかし此処ではクートは外注された余所者だ。過保護なぐらい気を遣ってくれているフラッペとショコラが、クートが危険な事をするのを許さなかっただろう。其の為の魔術式を刻んだチョッパーだった筈。何となく察していたし、大怪我をすれば探索は中断だともハッキリ言われていた。
「今なら其の制約も無ぇ」
見た事が無い程嬉しそうに笑うクートを見て、遂にフラッペが折れた。
「解ったよ。私達は手を出さない」
「フラッペさん!?」
「だが、口は出させて貰うぞ」
「口だけ⋯」
「揚げ足を取るな。魔法も使わん」
(ま、私達レベルなら無詠唱で魔法は使えるがね)
「だが危険になったら私とショコラで片付ける。部外者の君が強制送還されたログが残れば、君をもう二度と此のダンジョンへ連れて来れない。私達の探索も制限が掛かる。だから此れが最低条件だ」
「了解」
クートは息を吐く。大怪我は出来ない。危うい場面も見せられない。中々にシビアだ。
「ゴブリンプリーストを狙え」
其れは考えていた。
「オーク種の方が動き出しが遅い」
其れも考えた。百戦錬磨の魔法士と同じ考えだった事に自信を持つ。
「お、動く」
クートが足を踏み出した。目の前から圧が消えた。ショコラが魔法の壁を消したのだろう。モンスターの前の壁も消した様で、向こうも動き出すのが見える。
「さぁ殺そう。殺し合おう」
戦闘―――開始。
(*´ω`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




