第94話 レベリア敗北
(*´ω`*)もっもっもっ
「んーと⋯こう?だっけ?」
レベリアから受けた斬撃を模倣してみる。力の入れ方と方向に角度、後は⋯
(折れたら嫌だなぁ)
何だかんだ愛着の湧いて来たチョッパーを失いたくないと云う執着心が、防御結界魔法を強く付与させる。結果―――
「っ!?」
ガキンッ!と云う金属と金属が打つかり合う音を響かせ、レベリアの手から騎士剣が飛んで行く。
「なっ―――」
「おおおおっ〜〜〜⋯」
驚愕で目を見開くレベリア。どよめく観衆。
「んーーーやっぱり、見様見真似じゃ此れが限界か」
(やはりスキルを奪うには抱かないと駄目だね)
レベリアの剣を破壊するつもりで斬撃を放ったが、弾き飛ばすだけに終わってしまった。しかし、剣は折れなかったがレベリアの心は折れた。
「ば、馬鹿、な⋯そん、な⋯非戦闘職相手に⋯」
ついさっきまで剣を持っていた筈の空の両手を見詰め、レベリアが呟く。茫然自失とは正に此の事。
(甘いなぁ⋯)
未だ戦いは終わっていない。例えばショックを受けたフリをして地面に座り込み、砂を掴んでクートに投げ付け目潰しをして、怯んだ隙に甲冑組手で制圧する。そんなプランも有る筈だ。勿論そんなやり方でクートは負けるつもりは無いが、悪足掻きしないレベリアに物足り無さを感じてしまう。
「で、まだやる?」
クートはチョッパーを肩に担いで訊ねる。飽きた感じを隠す気も無い。面倒臭そうに話し掛けてやる。
「あ、う⋯」
クートにジッと見詰められレベリアが目を逸らす。視線の先には愛用の剣。
「ま、まだまだ⋯」
ノロノロと蹌踉めきながらレベリアは愛剣を拾う。腕と心への衝撃で剣を上手く掴めずに苦戦する。何とか両手で持ち上げ構えようとするが、剣先は上がらない。体が震える。クートへの恐怖、敗北を重ねる事への恐怖、大勢の見てる前で恥をかく恐怖、夢破れる事への恐怖、そして何より⋯
(私は⋯私は本当は、真剣に夢に向かって取り組んでいなかった、のか?)
無自覚だった己の怠慢を認める恐怖。本当は彼女自身理解していた。御家再興の一番てっとり早い手段は身売りする事だ。レベリアは美しい。何処かの貴族家に嫁入りし、子供を複数産んで其の一人に自分の本家筋を継がせれば良い。もしくは金持ちの商人の元に嫁ぐのでも良い。お金で屋敷も領地も買い戻して貰えば良いのだ。爵位は失っていないのだから。
(嫌だ。女として、物の様な扱いをされて、其れで夢を叶えても⋯そんな物は、騎士ではないっ!)
プライドさえ捨てれば幾らでも手段は有ったのだ。しかし代々騎士として名を馳せた一族としてのプライドが其れを拒んだ。美貌と云う女としての武器ではなく、武骨な剣一本で成り上がる。まるで英雄譚である。
(私は、貴族、騎士だ。平民如きに⋯)
しかし其れも確かに中途半端であった。正規の軍隊に入る道も有った。しかし、平民の上官の元で一般兵士から下積みするのも嫌だった。没落した彼女の家では碌なコネクションも無い。一兵卒から成り上がるしか無かったが、其れもプライドが許さなかった。
(平民に、顎で使われるのは嫌⋯)
其の点、冒険者は都合が良かった。騎士らしい格好をしても見咎められない。変わり者として見られる代わりに、騎士らしい鎧と剣で過ごせる。只其れだけ。此の三年、冒険者として彼女がやって来たのは其れだけでしかない。それを―――
「私はっ!私は真の騎士だぁっ!」
認める訳にはいかない。怒りと焦燥で型が乱れ我武者羅に突っ込むレベリア。クートは其の場から動かずに一合二合とレベリアの剣を弾き続ける。
「俺が勝ったら本当に」
レベリアが踏み込み鍔迫り合いに成り火花が飛び散る。防御結界魔法が一部削られ、直接刃と刃が削り合う。
(一点集中で圧が掛かると防御結界に綻びが出る。要改善だな)
所詮他人から喰って学んだ物なのでオリジナルには到底及ばない。だが至らないなら改善すれば良い。
「抱かせろよな」
剣術と云うスキルには元々興味が有った。武器破壊術を扱う騎士の剣と云うのも初めてだ。是非欲しい。体を重ねて魔力を通じ合わせればコツを掴めそうである。しかもレベリアは美しいので実に楽しく抱けそうだ。
「勝ってっ!からっ!言えっ!」
「勝ちまくりの三連勝中なんだが?」
「ほざけぇっ!」
レベリアの剣がクートのチョッパーを弾き飛ばす。
「勝っ―――」
喜色を浮かべるレベリア。しかし其れは違った。幾ら防御結界魔法を纏わせているとは云え、何度もチョッパーで剣を受けるのをクートが嫌がったからだ。
(鍔迫り合いみたいに一点に圧が掛かり続けると脆いのか。気を付けよう)
そもそもチョッパーはモンスター専用肉切り包丁である。騎士の剣と斬り結ぶ為の物ではない。今は無事でも変な歪みが出たら困る。なのでクートがわざと手離しただけだ。実際チョッパーはくるくると回転して柔らかい地面にサクリと突き刺さる。衝撃は逃した。歪みや刃毀れの心配は無いだろう。
「魔闘」
クートが拳を握り、レベリアの懐に潜り込む。上背が有り手足の長いレベリアでは上手く剣を振るえない間合いだ。
「熱拳」
「ぐはっ!?」
ドゴンッ!とレベリアの鋼の鎧が歪む。調理魔法の加熱を纏わせた拳に依る打撃だ。
「凍拳」
「がっ!?」
更に打撃音が続く。調理魔法の冷凍を纏わせた拳である。至近距離からの打撃を躱す事が出来ずレベリアの体が人形の様に宙に浮く。剣は既に手離して地面に転がっている。
「熱拳、凍拳、熱拳、凍拳―――」
「あっ、あっ、あっ―――」
クートは浮かせたレベリアを追尾して殴る殴る。鋼の鎧が素手で凹みひしゃげて行く。そして―――
「がはっ!?」
遂に耐え切れずにレベリアの鎧が砕け散る。胸の装甲板は凹み、留め具が外れてバラバラに分解する。
「熱衝撃拳」
クートは片手から湯気、片手から冷気を立ち昇らせながら構えを解く。熱拳と凍拳を交互に打ち込み、レベリアの鎧に熱衝撃を起こしたのだ。手槍の下位互換技だが、素手同士直接反応させて爆発させる訳ではないので安全性は高い。
「何だアレは?」
「火属性魔法と氷属性魔法?使い方が地味ですけど、まるで残月魔法帖のキャラクターみたいに渋い魔法ですね」
アーシャとラビがクートの魔法に驚嘆する。ギャラリーも驚くが、クートがいったい何をやったのかが解らない。遠目には素手で鎧を破壊した様にしか見えなかった。
「武器破壊魔法⋯なんちゃって」
クートは魔法を解いてから合掌する。そして胸を開いたまま倒れるレベリアに近寄る。
「おい」
(お、やっぱ大っきいな)
レベリアは鎧の下には薄い服しか着ていない。やはり暑かったのだろう。そして其の胸部は身長や体格に見合った大きさをしていた。女として身売りすれば高く売れたろう。
「⋯⋯う⋯⋯」
「良し、勝ち」
しゃがんでほっぺをペチペチ叩くが意識を取り戻さない。クートの勝ちで良いだろう。
「腹狙わなくて良かったよね」
腹を殴っていたら、折角食べた食事を全て吐き戻してしまっただろう。熱衝撃拳のダメージもほとんど鎧が相殺した筈だ。
(*´ω`*)熱衝撃拳はサウナから出て冷水に浸かりサウナに入り冷水に浸かる感じでつ。




