第13話 謎の声
「なんで!ガルフがグールになってんだよ!」
俺は思わず叫んでしまった。
しかし、たった一回話しただけの間柄だとしても知ってる人がグールになってしまっていたら、普通なら今の俺のように動揺してしまうだろう。
「ヘルシャフト!あのグールは君の知り合いなのかい!?」
俺の言葉を聞いたのか、ジェイスがこちらに近寄ってきて聞いてくる。
その口調は、かなり切羽詰まっているように感じる。
それも仕方がないだろう。
ジェイスたちは、確かに普通の一般的なEランク冒険者に比べたら強いだろうが、ほぼCランクに近いDランクのグールを倒せるほどではない。
「……ああ、話したことがある程度だけどな」
先程までならジェイスに問いかけられても答えなかっただろうが、一回叫んだからか少しは気持ちを吐き出せて周りを気にする余裕が出来、ジェイスに返答を返すことが出来た。
「なるほどね、全く何の反応も示さずに立ちすくしてると思ったらそういうことだったんだね」
ジェイスは俺の言葉を聞き、先程までのことを理解してくれた。
その口調は先程までとは違い余裕があるように喋っているが、その実表情はいっこうに険しいままである。
「ヘルシャフトには悪いんだけど、少し聞かせてほしい。あのグールの元になった冒険者のランクはどのくらいか分かるかい?」
ジェイスが俺に気を使いながらグールになってしまった冒険者、ガルフの冒険者のランクを聞いてくる。
これを聞いてくるのは当然だろう。
グールは元となった素体が強ければ強いほど、そのグールの力は高くなるのだから。
「確かガルフのランクはCランクだったはずだ」
ガルフは確かあの時、自分はCランク冒険者だと言っていた。
「他にも戦い方なんかを聞……けないようだね」
ジェイスが他にもガルフについての情報を聞いてこようとしたが、それは叶わなかった。
「グルワァァァッ!」
ずっとこちらを観察しているような感じだったガルフいやグールが、咆哮をあげてこちらに向かってきたのだ。
「あのグールと戦えるかい?」
ジェイスが俺にグールと戦えるかをを聞いてくる。
ここで戦いたくないと言って戦わなかったら、ここにいるメンバーは俺を除いて全員死ぬことになるだろう。
それなら―――。
「戦える。これ以上は誰1人として知り合いを死なせない!」
ガルフには悪いが、俺は今を生きてる人を選ぶ。
「“三日月宗近”」
戦うことを決めた俺は、力を隠すことをやめた。
そして、《天下五剣》のスキルを使い三日月宗近を作り出した。
俺が何の対価も無しに刀を作り出したことに、ジェイスは驚愕の表情を浮かべる。
それも当然で、この世界では無から有は生み出せない。
錬金術を極めたと言っていたエルネルが、ワイバーンの死骸を金貨と銀貨に変えたようにこの世界では有から有を生み出すのが絶対なのだ。
だから、俺が何の対価も無しに刀を作り出したことはあり得ないことなのである。
俺が魔法使いとして行動してた理由にこれも関係する。
この世界には剣はあるが刀は無い。
つまり刀を手に入れられないのだ。
なのに俺は《刀術》は使えても《剣術》は使えなく、剣だと素人同然の動きしか出来なくて戦闘なんてまともに出来ないからだ。
「前衛は任せたよ」
だが、ジェイスは表情を変化させただけで問いただしてこなかった。
ただ一言、俺に声をかけて後ろに下がった。
「任せろ!」
俺がそう返事した時、もうグールは目の前に迫っていた。
「グルワァッ!」
そして、剣で斬りかかってきた。
「はぁっ!」
その上段からの一撃を俺は刀で受けた。
普通なら鍔迫り合いになるようなところだが、Cランク冒険者のグールでも俺のステータスには遥かに及ばない。
つまりどうなるかというと。
「こうなるんだよ!」
俺は刀を振り抜き、グールの剣を弾きグールを後方に吹っ飛ばす。
しかし、流石にCランク冒険者だったグールとでもいうべきか、空中で体勢を整えて着地しようとする。
「させないよ!“エアハンマー”」
だが、そこに俺の後方から魔法が放たれる。
そして、空中におり回避行動がうまく出来なかったグールを空気の塊のハンマーが上から殴り付ける。
「グルゥゥっ!?」
それにより体勢を崩され、グールは受け身もとれずに地面に叩きつけられた。
「ガルフ、静かに眠れよ!」
そこに俺が迫り、グールの首に斬りかかる。
なんとか逃れようとするが、叩きつけられたダメージが大きかったのかすぐには動けないようである。
グールはゾンビと違い、グールは生前の能力を発揮するためか生きてた頃と同じ生体構造をしており首を切り落とせば死ぬ。
そして、俺がグールの首を切り落とす瞬間―――。
“ふむ、この個体では相手にならないようだね”
声が響いた。
その声に気をとられた瞬間、グールの体の下に魔方陣が現れ、グールを呑み込み消えた。
一瞬の出来事であり、さらに声のほうに気をとられてたこともあって、反応することが出来なかった。
「なんだったんだ今の声は……」
あまりの出来事に思わずそう呟いてしまった。
「本当に今のはなんなんだろうね……。僕も全く分からないよ」
俺のところにジェイスも来て、そう話す。
「でも謎は残ったけど、これでグールの脅威は去ったね」
「ああ、そうだな」
グールがいなくなったことで脅威が去ったことをジェイスが伝えてくるが、今の俺は別のことを考えており生返事をするだけになってしまう。
あの声は何故だか聞き覚えがある気がした。
だけど、今思い出そうとしても先程の声が思い出せないのだ。
言葉は思い出せるのだが、肝心の声が思い出せない。
だから、結局誰なのかは分からない。
「誰なんだろうな……」
そんな言葉が口を零れてしまう。
「ん?何のことだい?」
「なんでもない」
俺はそこで考えるのをやめた。
いつか分かると確信を抱きながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おー見舞いに来てくれたのか」
俺たちは今、エイグの見舞いに来ていた。
あのグール襲撃から3日が経っていた。
あの後、グールとの戦闘と謎の声のせいで忘れそうになってたエイグのことを思い出し、エイグが倒れてた場所に向かうとティリーが魔法で癒したのか、一命をとりとめたエイグとその体に寄り添って寝てしまっているアリナがおり、近くではティリーとガンツが疲れはててこちらも眠ってしまっていた。
その4人の内アリナとティリーとガンツを起こし、エイグを連れて急いで街に戻り街の医者にエイグをちゃんと診てもらったのだ。
それで、しばらくは安静にすることになり、今エイグが泊まってる宿屋の部屋に見舞いに来たのだ。
俺たちと言ったが、正確には俺とティリーとジェイスとガンツの4人であって、アリナはずっとエイグのことを甲斐甲斐しく世話をしていた。
で、その4人で依頼を受けてきた帰りにエイグの見舞いに部屋に来たのである。
「元気そうだな」
「うん、そうだね。よくあの傷でここまで早く快復したのか不思議だよ」
エイグの様子を見て俺が呟くと、ジェイスがエイグの回復力の高さに驚いている。
エイグの傷はかなりの深手だったのだから当然だ。
これは俺が夜にこっそり少しずつ治療していたからである。
「まあ、俺にかかれば怪我なんてどうてことないぜ!」
俺たち2人の会話を聞き、エイグが笑いながら話してくる。
「あたしとしては、もうちょっとおとなしくしてくれると助かるんだけどね」
そのエイグの言葉を聞いて、アリナが苦笑しながら苦言を言うが、その表情からはエイグの怪我が良くなってくれた嬉しさが伝わってくる。
「これもあの時頑張ってくれたティリーのお陰だな」
俺がティリーにそう言ってあげると。
「わ、私はやるべきことをやっただけですから!」
わたわたしながら、自分はやるべきことをやっただけだと主張してくる。
「それでも俺はティリーのお陰だと思うな」
それでも尚も俺がティリーのお陰だと言うと。
自然と微笑みを浮かべながら。
「はうっ!……笑顔は反則ですよ」
「ん?何て言ったんだ?」
ティリーが何か言ったようだが、小声だったからうまく聞き取れなかった。
「な、なんでもないです!」
「そ、そうか」
聞き返した俺にティリーは、必死になんでもないと言ってきた。
その気迫にやられた俺は、それ以上聞くのをやめた。
ふとその時、複数の視線を感じてエイグたちのほうを見ると、何故かガンツを除く3人がニヤニヤしてこっちを見ていた。
ガンツはニヤニヤせずにこっちを見ていた。
「な、なんだよ」
俺が聞き返すと。
「別になんでもないよ。ささっ、続けていいよ」
ジェイスがそう言ってきた。
その発言で何を意味しているのか分かった。
「お、お前らなー!」
恥ずかしくなった俺は、それを誤魔化すためにジェイスたちに突撃するのだった。
そして、騒がしく時間は過ぎていくのだった。
―――謎の声の存在の思惑にまだ気づかぬまま。




