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 暗殺者たちとギルドを設立することになった。

 ギルドを設立するための条件は3人以上のパーティで申請しなければならない。またギルドを維持するためにお金(30万キャッシュ)も必要になる。

 ギルドメンバーには設立した場所で、それぞれ個室が与えられる。部屋のレイアウトは自由だ。お金を掛けて拡張、内装するもよし、初期の質素なベッドと机のみでもいい。


 ただ、ギルドの共有部屋(ロビー)を拡張する場合、維持費が上がる。

 ギルドの大きさは10人も居れば中ギルド、24人のレイドパーティを組めるのなら大ギルドと呼んでいた。ちなみに5人以上10人以下は中小ギルド。5人以下は小ギルドと呼ばれていた。【フォークロア】の過疎化以前に、この名称は決まっている。

 もっとも、この人数は【フォークロア】で活動しているアカウントの数だ。

 サブキャラや倉庫キャラと呼ばれる人数は含まれない。


 【フォークロア】のギルドの比率は中小ギルドが6割はあった。これはゲーム運営者の調査結果だ。


 理由は2つだとアカザは思う。

 1つ目は、無限スキル制なので、前衛、後衛を使い分けられるので、人数確保が容易である点。成長する要素にによって性能が変わり、取捨選択をしなければならないスキルツリー式、得られるスキルに制限があるジョブシステムのゲームなら、複数のキャラを多く育てたりしなければならない。


 だが、【フォークロア】は数多のスキルを習得できる。種族によって性能が変化したり、少ないが取得不可能なスキルもある。それでも、生産で上げるスキルにもステータスが向上する物が多く、基本は1キャラのみを強化し続ける。

 サブキャラは時々遊んでみよう感覚だ。少なくともアカザは1キャラを強化し続けた結果だ。


 2つ目は、そんなに集める必要がないからである。レイド(大規模戦闘)だって、数多のスキルを使うことで大抵の難易度ならば攻略できる。なので、薬品(ポーション)や【兵糧丸】などのアイテムを使えば、ある程度格上のモンスターは倒せる。


 もっとも、それこそ伝承級は廃人クラスが集まって攻略できる難易度だ。さらに言えば伝承級で出るアイテムは、レアアイテムのドロップ確率が変わる程度で神話級と変わらない。


 故に人数は少なくても攻略できる。無論、フィールドボスなどでは数十人、100人に達することもある。レイドボスの攻略でも、ミスした時リカバリーが効くために多くのパーティメンバーで攻略することが多い。

 また、人数が違えば討伐速度やダンジョンをクリアする時間も違う。アイテムが出ない場合は何度も何度もやらなければならないので、周回する効率を高めることになる。


 とは言え、ゲームなので死んだら復活する。

 ソロであっても、時間を掛けてクリアできる。

 この条件があるから、多少なりとも死亡する可能性が有っても、デスペナルティである衰弱状態が回復すれば、いいだけの話だけなのだ。

 だから、アカザは過疎化していく【フォークロア】で、ソロでレイドボスに挑んでいたわけである。


 なので、24人と言う大人数を率いる。また、そのギルドの長、ギルドマスターになるのがアカザには重かった。何せそんな人数を制御きれるとは思えない。

 少なくとも見栄を張ったところでボロは出るし、そもそも複数人と会話するのだけで疲れてしまう。自身の、もっと言えばゲーム廃人のコミュニケーション能力など、たかが知れている。


 だから、嫌だった。


 とは言え、引き受けた以上は手を抜かない訳ではないが、一応の形にしなければならない。


 日皇、ナオトラがギルドの維持費を負担してくれるのは初期のギルド共有部屋(ロビー)まで。それ以上は通常通り支払わなければならない。ギルドに入る人数はアカザを合わせて25人。そうなると、通常の共有部屋では狭すぎる。初期の共有部屋(ロビー)は個人の部屋と変わらない。


 初期の個人部屋は大体、アパートのワンルーム程度だ。

 そんなところに20人以上入ったらむさ苦しいので、維持費が掛かるとしても拡張するべきだと思った。


「なので、拡張するレベルは中級の40立法メートルぐらいの奴にする。少なくともそれで全員が入る大きさだと思う。ちなみに共有部屋の内装は今のところ考えていない。何か質問ある人は居るか?」

「はい! なんでトゥルーはアカザさんのギルドに入っちゃダメなの?」

「それは……」

 トゥルーの質問に口ごもってしまう。


 アカザたちは今、ギルドホールに居た。先日の戦闘の後は残っており、受付のカウンターや天井など破砕されている。暗殺者たちの何人かはそちらの修理に駆り出され、リーダー格の半獣、クガと他の部下3人、それとトゥルーとシルフィール、シャムが輪を作るようにして床に座っている。


 クガの部下はアカザから見た右から順に、短髪で青髪、そこからヤギの角を右に生やしている。がっちりとした逞しい体を持っている男の竜人、タツキ。

 肩まで伸ばした赤い髪からウサギ耳が生えて、豹のようにしなやかな体をしている獣人の女性、ユキエ。

 黒い髪を後ろで束ね、ポニーテイルにしている人間種の女性、クロメ。


 彼らの首には呪印と呼ばれる物が付けられている。×が続く鎖のように首に回され、一種の首輪にも見える。これは罪人を現す物であり、刑期が終わるまで取れることはない。

 また、これによりこれを刻んだ人物、ナオトラと日皇の命令を無視することはできない。


 なぜ、トゥルーたちが居るのかというと、今回のことは遊郭【常春】にも伝わっており、サツキからの情報経由でここに来たらしい。


 そこで、ギルド設立の話を聞いて「トゥルーも入るー!」と元気よく入って来た。

 だが、トゥルーがギルドに入るのは抵抗があった。

 アカザは彼らに命令を強制させられない。命令を出せるのは首に×を交互に刻んでいった人物のみ。そのため、アカザは即時に彼らが反乱を起こした際に止めることがない。

 もっとも、反乱を起こしたら速攻で武力行使しで、彼らを皆殺しにするが。


 首に×をアカザが刻まなかった理由は、彼らの反感を買うと思ったからと、命令に拒否権を与え彼らに汎用性を得るためである。

 例えば、戦闘で命令だけを聞く忠実な兵士は物である。だが、アカザは名将でも、名軍師でもない。それに加えて、ギルドマスターになるのも初めてだ。勝手が分からない。

 アカザが間違った命令を下し、それに抵抗することなく彼らが行動したらダメなのだ。


 また、命令の継続時間も分からない。もしかしたら「突撃しろ」と言ったら、どこまでも突撃するかもしれない。

 それにアカザ思っている「あれ」も、彼らにとっては「あれ」とは何なのか分からず、質問する暇なく命令が実行された場合、「あれ」ではない可能性が出て来る。アカザは醤油を取って欲しいのに、「あれを取って」と言って塩を持って来るといった感じだ。

 それは道具としても、使い辛い。頭の悪いAIじゃあるまいし、自分が考える頭を持っているのなら使わない方が損と考えた。

 その関係から、いきなり彼らが他人に反乱なり危害を加える行動に出た場合、多少ではあるが時間が掛かる。アカザは彼らを皆殺しにできるが、一瞬でできるかと言われれば、できない。


 せめて、彼らの信用を取れてからでなければ、トゥルーをギルドに入れるつもりはなかった。だが、それを彼らの前で言うのは躊躇ってしまう。お前らを信用していないと言っているも同然なのだから。


「儂からも1つ。儂らは奴隷ではなかったか? 共有部屋とやらの拡張に少なからず金を掛けてしまうのならば、儂らのことなど無視して家畜小屋の如く敷き詰めてしまえばいい」

 トゥルーになんて言い出したらいいか困っていると、クガの方から質問が来た。というよりは自分たちを卑下している発言だが。

「そう言った願望があるのかお前は」

「いや、待遇が良くなるのはうれしいが、儂らは罪人。アカザ様は儂らを扱き使えばいいのです」

「だからって、疲労や不満を蓄積されて、反乱でも起こされたら困る。金賃、休日、労働時間、環境の要求は言ってくれ。後、様付けはやめてくれ」


 後は発言権を与え、ストレスを与えさせないというのもある。誰だって嫌味や陰口ぐらい誰だって言いたい。


「で、ギルド名はどうする?」

 アカザが前に所属していたのは【立待の白月】というギルドだ。

 立待月、立ちながら待つ間に出て来る月の言葉に白を付け加えた。

 だが、わざわざ真似て寝待の月や居待の月といった、他の陰暦から取る事もない。


「候補としては、○○の何々の後に団が付いたりした感じのギルド名が昔は多かった。他にも固有名詞だったりする」

「儂らなら【名も無い暗殺団】か?」

「それは前に所属していた団体だろうが。暗殺者以外も居るから【暗殺団】はダメだ」

 【○○暗殺団】といった名前のギルド名も昔はあったが、今はもうギルドの維持費を払わず消滅した。【渡り人】、改めプレイヤーの引退、【フォークロア】の過疎化に伴いギルドはなくなっていった。


 また、プレイヤーなら【○○暗殺団】で、ギルド名と分かる。だが、この世界の住人にとっては、【暗殺団】なんて言い出したら、変な勘繰りをされてしまうのではないのかとアカザは慎重になっていた。


「【風林火山】などどうでしょう?」

「病魔に侵され死んだタケダ軍の言葉だ。ここでは縁起が悪い」

 クロメが言った風林火山とは、武田信玄の軍旗に書かれた言葉。そして、井伊直虎はその武田軍に城を占領された。そのことから、この世界のイイナオトラとタケダシンゲンは仲が悪かったはずだ。その言葉を使うのはやめておいた方がいいだろう。


「こう、できるだけ他者を刺激しないような名前ってないか?」

「アカザさんがリーダーなんだから、アカザさんが決めればいいんじゃない?」

 もう既にアカザがギルドマスターだというのは決まっている。だから、1人で決めてしまえばいいという物ではないのだが、トゥルーの発言に全員の目がこちらに向いた。


 注目を浴びる、複数の目がこちらに向く状況にまだ慣れないアカザ。それでも、人の提案に文句ばかり言っている嫌な奴という誤解は解きたいため、急いで頭の中でギルド名を考えながら言う。

「ま、まぁ、候補だけ、【夜明けの境界線】、【西日の空雲団】、【ハーメルンの宴楽団】、【スルー・デイ】、【フリーデイズ】、【オーバーゼェアー】」


 頭の中で浮かんだ名前をともかく言ってみた。ちなみに【ハーメルンの宴楽団】、【スルーデイ】【フリーデイズ】は有名ギルドだった名前を少し弄った。

 【ハーメルンの演奏団】というギルドは、オリジナルや現実の曲の楽譜を作り、公演をしていた音楽ギルドともいうべき団体だった。

 【レイドウォーデイズ】という戦闘ギルドは、レイドに挑み続ける戦闘ギルド。だが、アカザは戦闘ばかりする気はないので、フリーやスルーと言った緩い言葉を使っている。


「この中で何か良い、悪いはあるか?」

「【オーバーゼェアー】ってどういう意味でしょうか?」

「英語で【ほらあそこ】っていう意味。ゴーとか付けると【向こうに行く】とかになる」

 適当に言った単語や言葉だが、案外こう言ったギルド名も存在していた。【塩辛好きです】、【犬より猫】、【冷凍マグロ】といった意味は分かるが、何でそんな名前にしたのか理解ができないギルド名もあった。


 ギルド名は一度決めると、変更は出来ないので名前を変更する場合は、1から作り直さなければならない。

 キャラ作成時の時のように時間が掛かるものである。それが個人でなく複数なのだから、余計に時間が掛かる、と思われた。


 だが、トゥルーが言ったように、ギルドマスターなのだからアカザが決めていいと全員の了承を得た。それでも、これと思えるようなギルド名が浮かばず、名前付けは後回しにする。


「で、今のギルドの方針だが、【エチゴ】の復興と並行して、人員の強化にしないといけないと思う。昨日の戦闘から判断して、お前ら、はっきし言って弱い」

 ナオトラにボコられたアカザが言えることでもないのかもしれない。また、自分の腕に覚えがあるのか少し憤った顔をするタツキ。他の者もアカザの言葉に思うところはあるが、自分たちが負けた、アカザの方が強いという自覚があるのか渋々と認めている。


 昨日の戦闘では黒い布を使っていたから、アカザやナオトラなどの圧倒的な戦力を手こずらせたのだ。なかったら最初の一撃で何人かは死亡している。


 また、スキル群【暗殺者】を育てていれば必然的に、STR、つまり物理攻撃力は上がるはず。なのに最初の兵士を数人がかりで、しかも何回も連続攻撃をしないと倒せなかったのは暗殺者として失格だ。


 そして、彼らには戦闘力が求められる。【エチゴ】、採取する場所に出現するモンスターの排除、素材を採取に都市外に出る職人たちの護衛などが、彼らが主に行うことである。

 それなのに弱くてモンスターに負けました、不測の事態で護衛していた職人が死んでしまいました、では話にならない。


 素材を取るために護衛の人数が割かれる場合は、戦闘人数が減るので、複数対少数の状況も生まれる。また、ぞろぞろと24人で最大人数のレイドパーティを作るのは効率が悪い。

 護衛をする場合は多くて6人パーティ、もっと言えば2~4人パーティで済ませたい。これなら、職人が多く外に出て安心して採取できる。


 また、彼らが使っていた全身に巻いていた黒い布は、死んだ瞬間に消えてしまう物らしい。製法が伝わっておらず彼らでは複製ができない。これは敵国の戦闘機を鹵獲なり破壊した残骸を調べて、対抗策や技術を盗むような情報漏洩を防ぐ処置だろう。

 それに彼らの話では、【キョウノミヤコ】で精鋭に与えられる物らしいが、数はそれほど多くはないと言うこと。レア素材を使っているのか、生産性もないと思われる。


 なぜなら、【キョウノミヤコ】でアカザは日皇を誘拐しようとした暗殺者を、すんなりと倒すことに成功している。下っ端だったのか、殺されるほどの護衛は居ないと思ったのか。


 ともかく、あの黒い布のような強力な装備に頼ることは出来ない。

 と言っても、スキルのランクを上げて上昇するステータスは微量。

 だからと言って、今すぐ急に強くなれないという訳ではない。


「クガ、さっき扱き使って構わないって言ってたよな?」

「あ、ああ。確かに言った」

「それは全員に言えることなんだな?」

「ああ、命令ならば従う」

 言質は取った。なら後は実行するだけ。


「……効率重視でやるか」

 アカザは悪だくみを考えた悪ガキのように、にたりと笑みを浮かべた。

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