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6-13

 スキル群【武器《両手剣》】、【ドライジュヴェールト】。【武器《斧》】、【ハックダウン】

 凄まじい速度で振られる大剣と斧は剛と呼ばれるにふさわしい。その重圧な大剣の三連撃攻撃は、確実にアカザの動きを制限する。そこを強烈な斧の刃がアカザを捉えようとした。

 アカザは【封装境内】を使用しているので、回避、防御、迎撃するためのスキルを使えない。


 一撃目は薙ぎ払い、向かって来る大剣を刀で切り上げて弾く。STRが高くなかったら、今ので胴を斬られたかもしれない。手も弾いた衝撃で少し痺れるほどに、重い。こんなのが連続して自身に向かって来る。

 二撃目は切り上げ、身を翻して回避。一撃目から先程のような防御を連続してできるとは思えず、迫り来る大剣を躱すことにした。

 三撃目は斬り返して、袈裟斬りになる。刀から黒い斬撃波を出して、袈裟斬りを相殺する。


 そうした所に今度は振り下ろして、真上から迫る斧。だが体に接触する前に、黒い風と吹き荒らし、相手の懐へと間合いを詰める。

 その勢いのまま突きを繰り出し、半獣の体を突き刺す。だがそれだけでは彼の【生命力】を削り切れなかった。


 攻撃を当て動きが止まったアカザを、自身の体に抱き込む形で拘束しようとしてくる。

 だが、突き刺さっている刀は相手の【マナ】を吸い上げ、黒く刀身を染める。


 串刺しにした状態で、黒一色の刀の力を解放。

 風船が破裂するような膨張が起こり、半獣の体が弾ける。

 体毛が生えた肌、赤とピンク色の肉片、真っ赤な血をまき散らしながら、壁へと叩き付けられるクガ。

「あがっ!?」

 流石に体の内側から爆発する痛みというのは体験したことがなく、激痛に体が動かなくなってしまう。


 そこに追い打ちを仕掛けようとするアカザだが、他の暗殺者が殺到して時間を稼ごうとする。

 最早、なりふり構っていられない。

 【インベントリウィンドウ】から取り出した赤い液体が入った小瓶。【ライフポーション】を飲もうとするクガ。しかし、そんな暇が与えられるとは思ったのだろうか。


 アカザへと攻撃を仕掛けて来た暗殺者の隙間を縫うように、突きを放つ。針のような衝撃波を飛ばし、薬品(ポーション)での回復を阻止する。

 攻撃してきた暗殺者に対しては、刀身の黒い【マナ】を解放し嵐を引き起こす。その強風に巻き込まれた暗殺者は、体を浮かされて吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた暗殺者だが、まるで黒い風に乗るようにして跳ぶナオトラが追撃を掛ける。圧倒的なステータスの差を誇るナオトラが放つスキルでの攻撃は、一撃で暗殺者の【生命力】を0まで減らす。

 それも1人だけではなく、風を踏み台にしたように駆け上がり、次々と暗殺者を屠っていく。


 アカザですら装備がない状態で、一方的にやられるままだったのに、暗殺者たちが(かな)う道理などない。

 吹き飛ばされた暗殺者は空中でもがくものの、どうすることもできず、ナオトラが放つスキル攻撃の餌食となる。


 殆どがナオトラによって屠られ、パーティとしての機能すら瓦解した暗殺者集団。

 勝敗は明らか。

「――都合の良いことを言っている自覚はある。降伏は受け入れられるか?」

 半獣が口を震わせながら、そんなことを言った。


 無論、彼の提案は受け入れない。

 半獣の言うように都合が良すぎるし、先に襲撃して来たのはあちらだ。今更何を言っているのか。そんなことを言うのなら日皇を誘拐しなくても、外交による圧力を仕掛けてくればいいのだ。

 そもそも、暗殺者たちが武器を手放していない時点で話にならない。


 なので返答は苛立ちを含んだ声になる。

「安心しろ。確実に殺してやる」

「問答無用。抵抗しようとしまいと結果に変わりはありません」

 アカザはにんまりと凶悪な笑みを浮かべ、ナオトラは殺気を全身から迸らせる。


「あの……、お婆様にアカザ、その……ちょっとくらいは手加減してもいいのでは?」

 気の毒そうに半獣を見るキキョウが、そんなことを言い出す。心なしかこちらを見る目は怯えているような気がしてならない。

「敵に容赦する理由などありません」

 ナオトラの言うことに同意のアカザはこくりと頷く。


「いえ、その、大人しく縛に付いてくれるのなら」

「なるほど、縛った後で一方的に嬲るんだな」

「ならば、今すぐ【呪縛鎖】の準備を」

 ナオトラが許す気がないことを理解したクガは奥歯を強く噛む。


 せめて自分が殿となって部下を逃したいが、あの強敵2人相手では逃げることも困難だ。

 スキル群【守護騎士】、【インビンシブル】。

 クガの体が白く淡い光に包まれる。


「戦う気満々じゃねぇか」

 アカザはそのスキルの性質を理解している。10秒間の物理攻撃の無効化、敵愾心(ヘイト)は発動中トップを維持。その状態で半獣はアカザへと特攻して来る。


 PVP(対人戦)においても敵愾心(ヘイト)の影響があるのか、それとも強力なスキルを使ったことに対する警戒心からか、アカザは半獣から目が離せなかった。

 だが、アカザは【インビンシブル】の効果、弱点を知っている。その弱点は物理攻撃無効化だけで、魔法攻撃、属性ダメージなどは通ってしまう。

 【暗鬼鞘】によって黒い【マナ】を宿した武器による攻撃はどうなるのか。


 向かって来るクガに黒い斬撃波を放つ。

 その見た目から追加攻撃、属性ダメージは風、闇に見える。斬撃なので物理攻撃と判断されるかもしれないが、自分のスキルを誤解していないからか、あるいは野生の勘からか、斬撃波を避けるクガ。


 単調な攻撃だったため、避けられることは分かっている。だから、回避させるための牽制。【生命力】が僅かにしか残ってないときは、威力が低い攻撃でも倒されてしまう。なので誰でも相手の攻撃を意識してしまい、その結果、防御や回避に専念し距離を取ろうとする。


 攻撃の回避のために、突進の勢いをなくしてしまった半獣。

 そこに追撃を入れようとするナオトラ。

 【縮地】で彼と彼女までの距離を一瞬で詰め、その勢いのまま【武器《薙刀》】のスキル【山翡翠】を発動する。


 半獣の体に突進したナオトラ。衝突した瞬間、クガの大柄な体は空中を舞う。

 【山翡翠】は物理攻撃のため、【インビンシブル】を発動させている半獣にダメージは通らない。だが、追突したときの衝撃まで【インビンシブル】は無効化できない。


 空中に飛ばされ、身動きができないクガに向かって一閃の黒い斬撃が飛んでくる。

 だが、斬撃波が当たる寸前に、空中で身を捻り紙一重の回避に成功する。


 しかし、黒い斬撃波を避けることに集中していたせいで、放ってきた本人を視界から見失っていた。どこに、と考えるよりも速く、視界に映る刃。もう目と鼻の先に迫っている。この距離で避けることは不可能だ。


 アカザは先程の斬撃波を放ったと同時にクガへと接近していた。攻撃が避けられたら、と考えたわけではない。

 単に攻撃で相手の【生命力】を確実に0へとするために、連続攻撃をしていただけである。ボタン連打の感覚で相手の行動など関係ない。攻めの一手。


 そうなると攻撃に意識が向いてしまって、防御が疎かになるのだが、もうクガには先程の回避で反撃できるほど体勢は整っておらず、避けることもできない。


 だが、その刃はもう既に黒ずみは消えている。

 そのことを確認できたクガは思わず安堵した。

 どういう原理かは分からないが、黒ずんでいる刃は黒い布ではダメージを受けてしまう。だが、通常の攻撃なら【インビンシブル】を発動させている自分が有利だと思ってしまった。


「サブ武装に移行」

 しかし、次の瞬間、持っていた刀が野太刀へと変わる。

 背中の鞘に収刀されている野太刀はアカザが斬撃の動作をすると同時に、スルスルと抜けていき中の黒ずんだ刀身がその凶悪な姿を見せる。


 そのまま黒い刀身に身を切り裂かれた半獣の体は白い灰となった。




 その後は残敵を掃討し、急いで【エチゴ】の入口、復活地点である大門の所で復活した暗殺者たちを拘束、牢へと放り込んだ。

 牢はギルドホール、城の地下にある。蝋燭の薄明りでは薄暗く、湿気は感じられないが石畳のせいで空気が重く感じてしまう。


「出ろ」

 暗殺者の全員は装備は全て剥奪され、服は囚人服である柿色の半被を着せられている。腕には後ろに回され枷が嵌められた。足にも鎖が嵌められており歩くことぐらいしかできない。


 罪人の基本的な処遇は、罪状により牢獄で過ごす、奴隷として労働の年数が決まる。食事が与えられることは稀で、飢えで死ぬことは許されない。暗殺者の場合、日皇の誘拐未遂と器物破損、また兵士の殺害が罪状になる。


 アカザは彼らにどれ程の罪状が下されようが知ったことではない。だが、彼らの罪状を決めたのは日皇らしく、立会人として招集された。今回の出来事の終わりまで見届けることにした。


 アカザの周りには連行する兵士たちとされる暗殺者たち。

 黒い布で隠されていた姿は晒され半獣、獣人、妖精族、人間種、ゴブリンまでも多種多様の種族だった。復活したときの虚脱状態から完全には回復していないのか、足取りは重く、顔の血の気も少ない。

 アカザはその種族の統一性のなさに、なんとなく野良パーティを思い浮かべる。


 彼らを連行し、付いた場所は城の庭。そこには筵(藁でできた敷物)が敷かれ、そこに罪人たちを座らせる。時代劇に出て来る裁判所、奉行所にも見えなくはない。

 その場で暗殺者たちはもちろん、連行してきた兵士、アカザも頭を下げた。


「一同、面を上げい」

 日皇の声は、力強く発する声は子供の幼さを感じはさせない。

「は!」

 と、兵士たちが日皇の言葉で規律正しく動作する。アカザは慣れていないので一拍遅れ、暗殺者たちは敬う気がないのか声を上げはしなかった。


「この度の騒動に何か申し開きする者はおるか」

「…………」

 日皇の問いに全員が沈黙で答える。

 いくら、復活後に見舞われる虚脱感から回復していないとはいえ、口を開いて弁解できないほどに気を落としてはいない。

 そんな彼らの無言を肯定と受け取った日皇は罪状を読み上げる。


「【キョウノミヤコ】の暗殺団、【エチゴ】の復興に尽力せし、その後10年まで奉仕人として活動したのち、放免とする。異議は認めん」

 彼らは地下牢に閉じ込めるのではなく、労働力として扱う方にした。現状の【エチゴ】の復興として働かせるのは間違っていない。だがその際、彼らが何か細工がされないか監視する者が必要となった。


「そちらのまとめ役として、アカザ殿に引き受けてもらおうと思っている」

「え」

 突然名前を言われたので、思わず間抜けな声を出してしまった。


「ちょ、ちょっと待ってください!?」

「何か不服が?」

「えっと、まずこちらに24人もの大所帯を引き込むゆとりなんてありません」

「いや、ギルドを設立してもらい、その部屋で過ごしてもらえばいいだろう。少なくとも雨風は凌げる。また、ギルドを設立できるのは冒険者だ。運営費はこちらがある程度負担しよう」

「いや、でも、いきなりこんな人数の統制とかできないし」

「何も四六時中監視しろという訳ではない。一定の規律を守らせるだけでよい」

 つまり、アカザに彼らのギルドマスターになれと言うのだ。


 基本的にギルドマスターの仕事はない。強いて言えばレイドやダンジョン攻略の際にアイテムの準備やメンバーへの呼びかけ、気配りと言った物が仕事だろう。

 基本的に人に無関心なアカザには不可能なことだ。それ以前に、自身が表に立つことを嫌うアカザ。クラス委員長やリーダーなどやりたくない役割だ。なので拒否する。


「嫌です。第一、彼らは冒険者じゃないでしょうが」

「一時的な措置で、最低の位である【ランク証】を発行する」

「俺よりも適材な人材がいると思うんです」

「そのような人材は今の【エチゴ】では四六時中働いている。これ以上負担を押し付ける訳にはいかん」

「俺はいいのかよ!?」

 ついに敬語をかなぐり捨てたアカザ。日皇はそんな怒鳴るアカザを見て、ビクッと小さな体を一瞬震わせた。流石に大人げなかったと反省する間もなく、周囲に居た兵士たちから奇異な視線を感じた。


 日皇は肩書だけとは言え最高の位を持つ人物だ。一冒険者のアカザとは比較にならない。

 親しい中でもない社長に、アルバイトが出合った瞬間に「働きたくない」と言うようなものだろう。建前を言える人間ならまずしない行動だ。


「頼みます。事前に承諾を得なかったのはこちらの不手際。ご迷惑をお掛けしますが、どうか私目の顔に免じて承諾していただけませんか?」

 ナオトラがそう言って頭を下げたが、これで拒否したら最悪マイホームの設立の話はなくなるかもしれない。そうでなくとも周りの兵士たちは、ナオトラが言い出した瞬間、アカザを睨んでくる。

 相当に主として慕われているらしく、これで断ったら視線に殺気が乗ることだろう。


 狙って断り辛い雰囲気を作ったのなら、拒否しただろう。

 だが、ナオトラの顔が見えないので判断がし辛い。

「あの、顔上げてください」

 できるだけ申し訳なさそうな声で催促する。そうすることで承諾を得られるかもといった雰囲気を作る。

 だが、見えたナオトラの顔は真剣で、まるで射抜くような視線をアカザに向けている。やったといった喜びの表情も、なんとかなったかといった安堵の表情もない。

 真剣に話しているだけなのだ。疑った自分が恥ずかしく思えるほどに。


「……分かりました。お引き受けします」

 目の前の老婆には敵わないと降参した。

 武力では負け、心理戦でも負けた。

 ただ、面倒事を押し付けられたという嫌な感じはしない。

 真剣に、真摯に、自分を頼ってくれた。それだけで、少しだけ認められて気がして嬉しい。いつもの冴えない顔がちょっと綻んでしまうのを自覚した。

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