6-11
剣戟がギルドホールに鳴り続ける。
未だ死者は居ないものの、相手の【生命力】が高いのか、防御力が高いのか。
アカザが【ステータススキャン】を使っても、解読ができない。
恐らく、黒い布が【ステータススキャン】を妨害して、情報を悟られない隠蔽能力があるのだろう。
「くそ!」
アカザは物理攻撃がダメならと、魔法攻撃に切り替える。
剣先に詠唱を終えた【アイスボルト】を連続して放つ。
高速で放たれた握り拳程の氷塊。鍔ぜり合っている暗殺者と侍。目の前の侍に集中して、意識がアカザに向いていないことをいいことに、後から頭、背中に不意打ち。
グラッと暗殺者の体が傾き、これは幸いと侍も追撃する。
スキル群【武器《刀》】、【血夕空】。
胴を袈裟斬りして、切り口から血が噴き出る。【出血】のバッドステータスに掛かり【生命力】の減少に拍車が掛かる。
だが、傷口を手当てする様子はなく、死亡する様子もない。
「どうなってるんだ?」
エルフの里では頭を破裂するがごとく威力を発揮した【アイスボルト】が、彼らに対しては体を揺らす程度しか威力がない。
アカザの攻撃が彼らに対しては軽いように思える。
【生命力】が高い、防御力が高いと言えばそれまでなのだが、この世界の住人は英雄でもない限りそれ程頑丈ではない。何度も何度もアカザの攻撃に耐えられはしない。
ヴィクターのような強制的にステータスを跳ね上げているようにも感じない。
暗殺者と侍が鍔迫り合いで拮抗していたことから、筋力は同等と考えていいだろう。
だから違和感が拭えない。
通常、攻撃力特化の【暗殺者】スキル。もしくは、トリッキーな【忍術】スキルを上げても防御力や耐久力に関するステータスは余り向上しない。向上するのは【守護戦士】のような防御能力があるスキルだ。
なのに【守護戦士】のスキルを使う様子はない。回避スキルは使っているのにだ。
彼らが使うのは主に【暗殺者】スキルと、それぞれ持っている武器に応じた【武器】スキルが殆ど。【忍術】も使いこちらを翻弄しようとするが、どのスキルもランクは100も到達していない気がする。
【分身殺法】で生み出された分身は6体で、【アサシネイト】の赤黒いオーラも発光量が少なく思える。
つまり、ステータスの数値やスキルのランク値は英雄クラスではない。なのに防御力は英雄クラスに匹敵している。
それは暗殺者全員に適応されている。
つまり、彼らの共通点を探せば解決も可能かもしれない。
しかし、共通点などない。というよりも見つける以前に黒い布が邪魔で、背丈以外に判断できる材料は目ぐらいしかないのだ。
武器は短刀類が多いが、中には【鎖鎌】、剣であったり拳であったりと共通点はない。
また、黒い布で顔の殆どを覆っているので種族、年齢も分からない。ステータスを判断しようにも、読み取ることもできない。
なので、邪魔な黒い布から処理しなければならない。
対プレイヤー専用スキルという物がある。
例えばランダムにアイテムを掠め盗る【軽業師】の【テイクオーバー】、範囲に居る者の身に付けている装備を使えなくする【風水術】の【封装境内】などがある。
これらのスキルはモンスター側よりもプレイヤー側が使われた方が被害がでかい。
各薬品など消耗品が奪い取られれば、戦闘の継続やキャッシュの出費が嵩んでしまう。
もしプレイヤー側が、レアなアイテムが盗まれてしまったら、悲しみと怒りの感情がメーター振り切れる。大抵は中には盗んだモンスターを倒せば戻って来る。だが、一目散に逃走して、モンスターを発見できず、アイテムが戻ってこないということもあるのだ。
人型モンスターは剣や鎧を身に付けていることもある。だが、動物型モンスター側には装備という概念はなく、常時裸なので意味がない。
だが、プレイヤー側は戦闘中に装備を外している状況というのは、まずありえない。装備自体の攻撃力、防御力、特殊効果も無くなってしまい苦戦を強いられる。そんなスキルを持つモンスターは忌避されやすく、狩られることは余りない。
プレイヤー側が使える【封装境内】は【スタンバイタイム】が長く、また敵味方問わず掛かってしまうため上げる者は少ない。
だが、アカザはそんなスキルでも最高ランクまで上げてしまう廃人だ。
「なぁ、一定時間俺に近づくなって指示できないか? もしくは一度下がらせるか」
「それじゃ、あんたが孤立するじゃない。支援なんて期待できるとは思えないわよ」
この場を仕切っているキキョウに何とかできないか聞いてみるもの、あまり芳しくない答えが返って来た。
まず、【風水術】の大半は範囲が広く、自身を中心とした円状に効果が及ぶ。味方を強化するスキルであり、相手を弱体化させるスキル。だが、この【封装境内】は敵味方関係なく効力が及んでしまう。
次に、【封装境内】を張っているアカザは間違いなく影響を受ける中、スキルを使えず相手と対峙しなければならない。【境内】で既にスキルを発動させているので、他のスキルを使うことはシステム的にはできないのだ。
そのシステムを覆す【独自技芸術】が在りそうなものだが、都合よく習得できるとは思えない。
つまり、装備の身に付けていない裸のままで、スキルを使えず複数の敵にタコ殴りにされる可能性がある。
相手はこちらの言葉が分からないモンスターではなく、思考ができる敵であり、現在味方は戦闘中だ。大声でアカザの考えを伝えたら、相手は警戒してしまう。味方だけにそのことを伝えたくても伝えられない。
「どうしよう」
【ふん、我が居るのを忘れているのか?】
「あ、ごめん。忘れてた」
唐突に起こった戦闘に集中していたので、何も発言しない【鬼道丸】にすっかり頭から忘れていた。
【もう知らん】
そんなアカザの発言に不貞腐れてしまう【鬼道丸】。
「待って! お前の力が必要なんだよ! 大真面目に!」
【我の待遇改善を誓え。でなければ今後、一切合切力を貸してやらん】
「ごめん、自己主張して」
【それは我の影が薄いという事か!?】
「あんたたちうっさいわよ!」
「すいません」【すまぬ】
真剣に目の前の敵と対峙しているキキョウには突如として始まった、アカザと【鬼道丸】の言い争いが煩くて、怒鳴った。その剣幕に反射的にアカザと【鬼道丸】は謝罪する。
「さっさとやっちまおう」
【そうするが良い】
【暗鬼鞘】を握り、魔力を流し込む。【魔法】スキルを使うように念じていると、血が行けるような感覚を伴うが、【暗鬼鞘】に【魔】が宿る。両手に持った刀を収刀しその【魔】という力は、二振りの刀に宿る。
助走をつけ【ジャンプ】で、前方で刀や剣を振るい、盾で攻撃を防いで前線を支えている前衛を一気に飛び越える。アカザは暗殺者集団のど真ん中に着地。
突如飛来したアカザに、暗殺者の注意を引く。だが混乱したのは一瞬のことで、すぐに出しゃばって来たアカザを取り囲んで攻撃してくる。
が、彼らの攻撃は鞘から抜かれ、刀身が黒ずんだ一刀【膝丸《薄緑》】から黒い風が吹き荒れる。突然、嵐に巻き込まれる暗殺者たち。強風で体を飛ばされないように、武器を地面に突き刺したり、壁に貼り付いたりしないと吹き飛ばされてしまうので、攻撃どころではない。
その黒い台風の目の中で、アカザは【封装境内】の【スタンバイタイム】を終了させ、ドーム状の結界を張る。範囲内に居る暗殺者たちは身に付けている装備の効力がなくなり、その状態の暗殺者たちを【ステータススキャン】で見る。
表示されるステータスは、ATR,AIG,WILLと多少高いが、他は先程戦っていた侍や戦士と同じくらい。耐久力や防御力に関する【生命力】、DEFは斥候職らしく、彼らよりも低い者までいるのだ。
ステータスでもなければ、スキルでもない。
不可解な耐久力の正体は、暗殺者たちが身に付けている装備なのは間違いない。
アカザは【暗鬼鞘】に納刀しているもう一刀、【小鴉丸《八咫烏》】を抜き、【斬波】の要領で振る。すると、太刀筋に合わせて筋が迸る。黒い風が形を刃へと変えて暗殺者へと向かう。
強風で動けない暗殺者は、黒く飛ぶ斬撃に体を覆う布ごと引き裂かれ、白い灰となる。
「なっ」
暗殺者たちは驚く。なぜ死んでしまったのか分からないと、見開いた目が語っている。
そして、暗殺者が死んだ際に見えた、お札に書かれるような文字、ミミズ文字がびっしりと黒い布の裏地に書かれている。
最近何処かで見たことがあると思ったら、シャムがアカザを捕まえる時に使った【縛札鉤鎖】に付いている呪符に似ている。
自身のステータスを封じるような物をなぜ? と思ったが違う。こちらのステータスを封じるように細工を変更されているのなら、それは全く新しい防具だ。
彼らは黒い布に呪印を施し、それを身に纏うことで、こちらの攻撃にステータスの恩恵が乗ることを防いでいる。
ダメージ計算は主に(武器の攻撃力+ステータス補正)×(スキルのダメージ倍率)×(クリティカル倍率(クリティカルヒット発生=武器のクリティカル率+ステータス補正)=の数値が敵に与えるダメージになる。これに相手の防御力(装備している防具+ステータス補正)+(防御スキル時の能力)に応じて変動する。
だが、彼らが身に付けている呪印によってステータス補正がなくなり、相手に与えるダメージの威力が激減。不可解な耐久力と【ステータススキャン】のようなスキルの効力を封じる副次効果も得た。
この場合、アカザが彼らに与えられるダメージは(武器の攻撃力)×(クリティカル倍率(クリティカルヒット発生は、ステータス補正がないためで最低値)=の数値になる。
しかし、【封装境内】の状況下になり丸裸の状態で、暗殺者を倒したアカザの攻撃は(素手の攻撃力+ステータス補正)×(スキルのダメージ倍率(この場合【暗鬼鞘】による攻撃力追加))×(クリティカル倍率(クリティカルヒット発生はステータス補正のみ)=の数値になった。
どちらが与えられるダメージが多いかは一目瞭然。
しかも、先程まで手傷を負っていた暗殺者の【生命力】を、削り切るには十分な威力だ。
だが、仲間が死んだことで警戒を強め、迂闊な行動はしなくなってしまう。また、先程から放出し続けている黒い台風も、風力が弱わまって、【膝丸《薄緑》】の刀身が纏っている黒色も薄れていく。
「……さてどうしよう」
相手の耐久力をどうにかする術は分かったが、このままでは四方八方からタコ殴りにされてしまう。【封装境内】を解けば、他のスキルを使って窮地を脱せられるが、警戒した相手にもう一度同じ手が通じるだろうか。
恐らく、そんなに簡単にはいかない。
だから、今、どうにかするしかない。
【暗殺者】のスキル、【アクセルリッパー】によって、地面を疾走して擦れ違い様にアカザを斬ろうとしてくる暗殺者。それが3人、別々の方向から向かって来る。
捌こうにも1人は完全な死角から向かう。
【索敵】によってある程度の距離感は掴めるのだが、曖昧すぎて目の前の2人を迎撃しながら、回避もするというのは無理だ。
横に逃れることで【アクセルスラッシャー】の回避を試みようとするが、投擲された【棒手裏剣】が足に当たってしまう。異物が入り込んだ痛みに、足が止まってしまう。その隙を逃すはずがない。
猛烈な速度で迫りくる暗殺者たち。
だが、ギリギリのところで【小鴉丸《八咫烏》】から吹き荒れる黒い風が、アカザを空中に舞い上げる。
「ナイスアシスト!」
【もっと褒めるが良い!】
時間がないのでこれ以上の発言はしない。
空中で体をねじり、走り去ろうとする暗殺者の背中を【膝丸《薄緑》】で斬りつける。ざっぱりと背中を斬られ、赤い瘡蓋の筋ができる。すると薄くなっていた刀身が、再び黒く染まっていく。
何となくだが、先程攻撃した暗殺者から【マナ】を吸収したのだろう。
【どうだ? 我が考え付いた能力は】
調子がいつもより良いらしく、得意げな発言をする【鬼道丸】。
「今、話している暇ないから後で!」
まだ、黒色に余力がある【小鴉丸《八咫烏》】から、黒い風を噴射し、空中を移動。
【生命力】が一番低い暗殺者に向かって飛び、着地と同時に二振の刀で相手を切り裂く。
そうやって危機に落ちれば、黒い風を巻き起こし、相手の動きを阻害、攻撃を回避。
黒刃を飛ばすことで、牽制、撃破していく。
失った【マナ】は、一度収刀してアカザ自身が【暗鬼鞘】に【マナ】を注ぐか、相手を切り裂くことで薄れていく刀身の黒色を濃くしていくので尽きることはなかった。
「くそ! 何だこいつは!?」
「こんな奴が居るなんて聞いてないぞ!」
「だからと言って撤退するわけにはいかん! 全員、あいつから距離を取って、攻撃を回避しろ!」
アカザが暗殺者たちの包囲網の中で攪乱し続け、捕らえられないことにじれったく感じてしまう。
だが、暗殺者たちのリーダー格と思われる者は、焦ることなく指示を出した。
今のアカザの攻撃手段は斬撃と黒刃を飛ばすぐらい。黒色の強風は広範囲であるが、相手の動きを阻害するだけで攻撃にはならない。
つまり、相手を一気に殲滅する手段を持ち合わせてはいない。
しかし、それはアカザ1人だけの話だ。
「むしろ、ありがたいわ。3人で確実に仕留めなさい!」
アカザの行動が派手で注意を引き付けていた暗殺者たちの隙を突いて、前に出て来る。暗殺者たちは陣形の中に居るアカザと、押し出してきた兵士たちの相手にしなければならない。
暗殺者の前衛は、押し出て来た兵士を相手にする場合、背中をアカザに切られてしまう。
いくら【索敵】スキルで後方の動きを把握していても、腕は2本、頭は一つ、視覚情報は前方しか入ってこない。目の前の敵に集中している間は、どうしても後ろからの攻撃には反応は遅れる。攻撃されれば防ぎようがない。
さらにアカザに対して距離を取って戦うことを優先したため、前衛と後方に居る味方が離されることになってしまう。これでは、他の暗殺者へ援護することは難しい。
それに、暗殺者側の数も足りない。
本来は囮で、時間さえ稼いで合図があれば逃げるという算段だった。
だから、少人数で奇襲し、混乱を起こた。冷静になってくれば対策を立てられてしまい、数の多い方が有利ということに気付いてしまう。
現に、対策されて4人ほど、あの暴れまわっている奴に倒されてしまった。
それに自分たちが突入してから随分と立つ。
日皇を確保したという合図がまだないことに不安を感じてしまう暗殺者が居た。




