6-10
ギルドホールに暗殺者が戦闘を開始たと同時に、日皇の寝室にも暗殺者が忍び込んだ。
障子を張り倒し、いきなり入って来たがともかく護衛対象を守ろうと即座に動く日皇の付き人。
彼女は小太刀を構え、日皇を後ろに下がらせる。
だが、入って来たのは目以外を隅々まで黒い布で覆う姿は【キョウノミヤコ】に所属する暗部。しかも手練れらしく、数が有利であろうと女子供であろうと、気を抜く様子はない。
逃がさないように左右から追い詰めてくる。
「日皇様、お迎えに上がりました。御同行を」
「いやじゃ!」
「では力付くにいたします」
暗殺者の1人が飛び出て刃物で付き人を切り裂こうとする。
後ろには日皇がおり、避けることもできず、攻撃を小太刀で受け止めるしかない。
そうしているうちに、2人の暗殺者が【鎖鎌】を使う。左右に分かれ分銅を投げ頭を揺らし意識を混濁させ、もう1人が鎖で拘束する。
そのまま、拘束した者が鎖を引いて体勢を崩させ畳に転倒させる。
「お、逃げくだ……さい」
「あ」
日皇は前に付き人が殺されるところを見ている。
その時の映像が頭を過ぎり、今、また手に掛けられようとした。
「待ってたも! 殺さないで!」
咄嗟にそう涙を流しながら言ってしまう日皇。
これは幸いと付添人の首元に刃物を当てる。
「では、こちらに来ていただけますね?」
日皇を脅す暗殺者だが、彼ちはここがどこか念に置いておくべきだった。
虎児を得ようと虎穴に入った者たちは、獰猛な虎に見つかってしまえばどうなるか。
まず子供を取り返そうと、下郎たちに襲い掛かるだろう。
「必要ありませんよ」
日皇ではない別の声がした方に意識を向けた瞬間、暗殺者の体が弾き飛ばされる。
続き、2人が持っている【鎖鎌】を叩き落とし、付添人の体に巻き付いていた鎖から自由にする。
「その者を連れてお逃げなさい」
「え、でも」
「いいからしなさい!」
怒鳴るナオトラに、びくりと背筋を伸ばす日皇。
付添人を支え、ナオトラが入って来た障子から逃げ出す。
それを黙って見逃すはずがなく暗殺者の1人が追うとするが、ナオトラの持った刀に足を斬られる。
斬られた瞬間、何が起きたか分からず、突如鋭い痛みがした足に気を取られ転んでしまう。
「私目を無視するとは舐められたものですね」
ナオトラの言葉で、一瞬、真冬の氷点下まで室内の温度が下がったように錯覚する。
暗殺者たちは殺気に耐性がある。精神を鍛え、強敵でも怯えず敵に向かっていけるように訓練されている。その辺の冒険者が10人、100人束になったところで数に憶することはなく、任務を第一に遂行しようとする。
だが、暗殺者たちはナオトラの殺気に怯んだ。
その隙を逃さず、先程足を斬った暗殺者に襲い掛かる。
スキル群【武器《刀》】、【秋涼】。
刀がヒンヤリと冷たい風を帯び、瞬く間に首を斬られている。刃先が霞んで斬られたという意識もないまま、【生命力】を削る刀が美しく思えるほどに魅せられてしまう。
続いて同じスキル群【武器《刀》】、【五百重波】。
刀身が5つに見えるほど高速に振られ、多段攻撃が暗殺者を襲う。
最後にスキル群【武器《刀》】、【激浪】。
水が纏わり渦巻き怒涛の勢いで振られる刀。太刀筋に白い軌跡が描かれるその一撃は重く、相手を吹き飛ばし壁へと激突させる。
それらが滑らかに流れるように行われ、瞬く間もない。
3回のスキルによるコンボで暗殺者の【生命力】は0に達して、壁に叩き付けられた瞬間破裂するように体が白い灰となる。
「次は誰でしょう?」
ゆっくりと声を掛けて来たナオトラに気圧される。
まるで死刑場のような寒々しさが辺りに漂う。
「儂だ」
そんな中、声を出す半獣クガ。
その一言で、ナオトラの空気に呑まれつつある部下たちが、冷静さを取り戻す。
自分がするべきことも。
「行くぞ」
クガが手に持ったのは巨大な大剣と長い柄の斧。
両手剣は人の背丈を超えるほどの長い刀身を持ち、分厚い鉄板のように重厚な武器だ。【グレートブレイド】という名の両手剣であり、片刃だ。だが刃がない峰の部分で殴ろうと頑丈さと重量でダメージを与える。
両手斧の方は槍のように長い柄に巨大な弧の刃が取り付けられ、鉄塊のような風貌を持ってる。武器の名前は【グレートアックス】と呼ばれ、攻撃力はかなりの威力が目に見ただけで分かる。
武器の種類としては両手で扱わなければならない程の重量がある武器。それをまるで片手武器のように扱う。筋力が凄まじいのか、武器の扱いに困っている様子はない。
しかし、暗殺者の武器と言われると疑問に思ってしまう。
だが、そんなことを考えている暇はナオトラにはなかった。
振るわれる大剣は地面を揺るがすがごとく、斧は嵐を生み出すがごとく部屋が破壊される。その攻撃で床を叩き付けられ、起こる振動に足を取られる。
だが、暗殺者はその限りでない。
飛び散る破片や豪風のような攻撃に紛れ、バラバラに移動しナオトラを出し抜こうとする。
「誰の城で好き勝手しているんです」
一瞬で一番近くに居た暗殺者との間合いを詰める。蹴りを入れて飛ばし、移動していた暗殺者にぶつける。もう一人は【斬波】を放ち足止めする。
室内と言うことで、本来のナオトラの武器である薙刀は、その長さから使い辛い物となる。そう思ったから武器は刀、【虎徹《真》】を選んだが、こんなに相手が部屋を壊されるのならば、自分も気兼ねなく薙刀を振るって、城ごと彼らを屠れば良かったと思いそうになる。
一応、自分の領地の城を自分で壊したとなれば、他の諸侯に何を言われるか分からない。だから、使い慣れた薙刀よりも使える刀の方を選んだ訳だが、半獣が思いっきり部屋を壊しているので変える必要はなかった。
今から武器を変えると、その隙に両手武器を片手で扱う怪力攻撃に晒されかねないので、ナオトラはこのまま戦うことを選んだ。
クガがスキル群【武器《斧》】【トマホーク】を使い、足止めで攻撃しているナオトラを狙う。幾ら達人とは言え、多数を足止めしている状況では攻撃の処理ができないと思ったからだ。
斧を振り下ろした時に発生する衝撃波が、ナオトラに向かって飛ぶ。
だが、予想に反し、ナオトラは振り下ろされる衝撃波をギリギリの距離で躱し、接近してくる。
大剣や両手斧はモーションが大振りの攻撃だが、武器の重量を利用して流れるように連続攻撃を放つ。
だが、ナオトラは止まらない。
クガの攻撃を紙一重で何度も回避しながら、他の暗殺者を牽制し足止めを行っている。
アカザでもできることだが、【絶対回避】や【空蝉】などの回避スキルを使わなければならない。ナオトラは一切の回避スキルを使わずやっけ退けている。
もう既にクガの攻撃を見切っているらしく、涼しげな顔で豪風のような攻撃を避ける。
クガの攻撃が荒い訳ではない。確かに太刀筋は直線的ではあるが、振られる速度は刃先が見えず、正確にナオトラの体を切り裂こうと向かっていく。
だが、当たらない。
観の目強く、見の目弱くという言葉がある。
観の目は心で見ると言うことであり、目を動かさず全体を見る。また、全体の観察から相手の動きを察知するといったことだ。ボクサーが相手の胸や肩の位置でパンチを見切るようなもの。
目線の先、武器の構え方、足の位置、それらの情報を取り入れ、無駄のない行動で避け続けている。
ナオトラのような精神面、肉体面の錬度が高く、戦闘経験が豊富であるからできる芸当だ。
だが、そのような腕を持っている彼女でも避けられない攻撃もある。
スキル群【重戦士】、【パワーフォース】
自身を中心として衝撃波を発生させ範囲攻撃を与えるスキルだ。範囲攻撃は避け辛く、ましてや至近距離で発動したのだ。
だが――。
「甘い。このような攻撃で倒せると思っているのですか」
と、一言。それと同時に刀を振り下ろし、衝撃波を切り裂く。
「貴殿こそ甘い。この程度で倒せるなどと、はなから思っておらん」
先程の【パワーフォース】はナオトラへの攻撃ではなく、他の者たちの背中を押し出す加速として使われたらしく、最初に入って来た障子から逃げたのだろう。
そして、回り道になるが日皇を捕らえるために殿としてクガが残ったのだ。
「ならば、貴方をさっさと屠るだけ。後、弁償代を貰うとしましょう」
武器を刀から使い慣れた薙刀、【佳宵《月下》】に変える。
彼が部屋を破壊してくれたおかげで、いろいろと言い訳が付く。
部屋を気にして攻撃する必要はない。
取りあえず目の前の彼を倒してドロップするキャッシュは貰うことにした。
振るう薙刀は壁、床を物ともせず破壊しながら相手に迫る。迎撃に振られる大剣を弾き跳ね上げる。ナオトラに振られた斧は柄で防ぎ、そのまま懐に入る。
薙刀の刃の付け根辺りを持ち、間合いを調整。
そのまま、刀を使うように突きを繰り出す。
スキル群【武器《薙刀》】、【青鹿】。
一瞬で放たれる突き。クガの獣の頑丈な体を貫通し、そのまま振り上げながら薙刀を体から抜いて投げ飛ばす。空中に飛ばされた巨体は、体を捻って天井に足を付ける。そのまま天井を投げ飛ばされた衝撃の反動を利用して蹴り、落下攻撃に移そうとする。
だが、もう既に目の前にナオトラが迫っており、天井に足を付けており蹴り出す体勢だったので、迎撃や回避するタイミングを逃してしまう。
そして、ナオトラが放つ2つ目のスキル【飛燕】。
急速に飛び上がったナオトラの追撃は、クガをしっかりと捕らえそのまま天井を破壊して、上の階へと移動する。
もう部屋の大半が破壊されているので躊躇はないかった。
【受け身】を使い体勢を立て直したクガだが、先程の攻撃が効いているのか、その動きに繊細さが欠けている。
「くっ。流石は英雄!」
「そんなことはいいので弁償してください」
ナオトラの口から出て来た言葉が意外だったので、一瞬だけ気が抜けてしまった。
「……怒っているのか」
「とっとと金出せや」
最早、仕事のストレスだろうか。血管が浮き上がっているのは、単純な怒りではなく、口調まで変わってしまう程の八つ当たりにたじろくクガ。
「それでも、ここは通さん!」
「押し通りましょう」
クガは【武器《両手剣》】、【ヴォーパル・スラッシング】、【武器《斧》】【バーサーク・オーバー】を発動。
絶大な破壊力を増した剣と斧で十字切りの形でナオトラを襲う。
同時に迫る凶刃。横に振られた両手剣の攻撃範囲は広く、振り下ろされる両手斧は柄の端を握っているため槍のようにリーチが長い。避けるには破壊した床(天井)から降りるか、回避スキルを使うしかない。
だが、ナオトラは横に振られる両手剣に攻撃して軌道を跳ね上げさせ、振り下ろされる斧に弾いた両手剣を当てさせ攻撃を中断させる。
あまりの神業に、何をやったか理解が追いつかないクガ。
その隙を縫うように、今度はナオトラがスキルを発動させる。
スキル群【侍】、【行雲流水】。
続いて同じスキル群の【疾風勁草】。
最後に【磨穿鉄硯】で締めを飾る。
太刀筋は霞んで見えて、まるで水が流れ出るように切り口から血が零れる。そのまま、相手に反撃の暇を与えず、部屋の中に嵐が起きるほどの速度で切り裂く。一瞬で切り刻まれたクガの体は、激痛で動けないところに薙刀をねじ込まれる。
鋸で角材を斬るように、引いては押して引いては押してという動作を、刹那のうちにやってしまう。
「ごががが!?」
傷口を何度も抉られる攻撃に、忍耐強い鍛えられた男が悲鳴を上げる。
だが、何度も受けた攻撃の衝撃に体を抑えられず、後方に飛んで行く。
先程【受け身】を使い、【クールタイム】がまだ消化されていないために使うことはできず、クガは自力で立て直すしかない。
壁に打ち付けられる前に、地面を足で支え体勢を立て直す。だが、【残心】を使い飛び上がって薙刀を振り上げ、追撃してきたナオトラは脳天に向かって斬撃をクガに叩き落とす。
直撃される訳にはいかないと、クガは両手剣で防ごうとする。
薙刀と両手剣の鍔迫り合いが起こるが、【蓮華】によって先程までのダメージ率が加算された【残心】の威力は高い。
勢いを落とすことはできたが、肩に薙刀が食い込む。
先程の攻撃で終わらせるつもりだったナオトラだが、幾ら頑丈な体を持つ半獣とはいえ自分の攻撃をここまで受けて立っていられることに疑問を持った。
特に【蓮華】によって【侍】スキルを使えば使う程ダメージが上がるはずなので、先程の連撃中にクガが死んでもおかしくない。
薬品や【回復術】などの治癒も使っていない所を見ると、どれだけ膨大な【生命力】を持っているのか。
「何か、絡繰りでもあるのでしょうか?」
「ああ。でなければ英雄の攻撃をそう何度もこの身で受け止められはせん」
荒く息を吐きながら、クガは再び構える。
「ここは足止めさせてもらう!」
「いい加減、退いてもらいましょうか」
クガが決意を固め気合を入れるのと同時に、ナオトラの目は冷たく鋭くなっていく。
両手剣と両手斧には覇気が宿り、薙刀には殺気が研ぎ澄まされていった。
スキル群【武器《刀》】、【秋涼】。
ダメージ倍率にAGIの影響を受け、相手の装備による防御を潜り抜ける。一種の防御力無視だが、相手のステータスの影響は受けるため完全な防御無視とはいかない。
スキル群【武器《刀》】、【五百重波】。
通常攻撃の75%になる威力で5回の多段ヒットを相手は受ける。だが、5回の攻撃回数中、ダメージにバラつきが出るので安定はしない。これは相手とのAIGと自分のDXEの差に依存している。また、それぞれの攻撃にクリティカル判定が出るのでLUKの影響もある。
安定した火力ではないが、上手くいけば多くのダメージを与えることが可能。
スキル群【武器《刀》】、【激浪】。
ダウン値が一気にMAXになるので相手が吹っ飛ぶ。ダメージ倍率は500+WILL75%が水属性ダメージして現れる。高威力であるり、コンボの締めに使われる。
ちなみに、スキル名の決め方ですが【侍】は大抵、四字熟語。もしくは残心などの剣術用語など。単純にかっこいいから採用などもあり。飛燕とか思いっきり動物の名前ですけど。
野太刀は日本の神様や妖怪、幻獣の類。
薙刀は花や動物。
刀は自然現象。




