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6-5

 朝食の時、アカザの周りには誰もいない。あの親しいトゥルーでさえも多少の距離を置いている。


 何となくあの【ファッンキー】の糞攻撃による影響で、女性の方々は距離置くようになってきた。

 今度【ファッンキー】を見たら、攻撃する暇も与えずに速効で殺すことを誓う。


 【農場】に移動して、【木刀】を振り出すアカザ。午前中は【木刀】で素振りをして、午後は【エチゴ】周囲のモンスター相手に実践を仕掛けていることにした。だが、未だにあの感覚を掴んでいない。


「そう言えば気配の感じ方ってなんだ」

 【鬼道丸】が前に言っていたことが気になって話しかける。

【【索敵】スキルと【探知】スキルは持っているだろう。自身の体の中の力に意識を集中すればできるはずだ】

 【索敵】スキルも【探知】スキルも、モンスターを【地図】状に赤い三角として表示するスキルだ。違いは【探知】スキルの方は隠匿スキルなどで、隠れている状態を無視して発見することができる。


 【鬼道丸】が言うにはパッシブスキルは意識を向ければ、各武器のマスタリ以外にも頭の中に情報が入って来るものらしい。だが、スキルでの攻撃は身を任せてしまったり、自分の意思で変化を加えることができたりとあやふやである。


 いや、前に何も考えず素振りをしたときに感じた感覚のことからも、パッシブスキルも何も考えず身を任せてしまった方が良い結果を出すのではないのだろうかと考えてしまう。

「じゃあ、剣ていうのは何も考えず無心のまま振った方がいいのか? それとも自分の意思で振った方がいいのか?」

 そのことを【鬼道丸】に聞いてみると以外にも学のある言葉が帰って来た。

【理業一致、理を根本に技を磨け。お前の場合は胆力を磨く修行をせず、技だけを鍛えているから迷ってしまっているだけだ】

「……胆力、理。剣の理ってなんだ?」

 技はスキルだと分かる。胆力は心の強さだと理解できる。だが、剣の理とは何なのか少し考えるが、アカザにはよく分からない。鬼も仏も斬ればいいのだろうか。鬼は斬ったが。

【自分で考えろ。貴様は何のために剣を振るのか、それが理になる。逆境の苦しさを味わえ、それが胆力を鍛える】

 近道など考えるなと暗に言われたような気がした。


 【鬼道丸】の指摘に従い、目を閉じて自分の内側に意識を高める。

 心臓の鼓動、血脈の流れ、骨の軋み、振動、体温。

 それらを感じる。

 だが、それ以外にも自分の中にある力を自覚していく。

 感覚なので説明が付かないが、目隠しして手の触感でどういう形なのか判断出来るような、あやふやな存在。


 何となくだがこれがスキルと言う力なのだと感じる。

 膨大にあるスキルの中で【索敵】スキルに触れてみる。


 【農場】で畑仕事をしている人の気配が分かる。ぼやけた熱のような物を感じ、その数は20人程度。蛇のピット器官に近い物なのかと思った。


 意識を向けることで発動するスキル、無意識でも発動するスキルがある。まずは意識を鎮めて落ち着くことが重要だと考える。

 前の戦闘で【ブレイドタイガー】の攻撃を掠ったのは、恐怖や焦りで隙ができたからに他ならない。アカザのステータスなら完封勝ちが当たり前なのだ。

 これはナオトラもそうだし、シルフィールの攻撃を捌けないのも同じ弱点から来ている。


 ただ、恐怖や焦りを抑え込むのは逆効果らしい。

 自身が生まれる感情を飼いならすのが一流だとシルフィールが前に言った。

「恐怖とは本能だ。抑え込もうとしたところで溢れ出る感情に蓋をしてどうする。むしろ、その感情を利用して、危機感知したほうがいいだろう」


 つまり最高のコンディションは、恐怖を抑え込まず、飲み込まれもせず、緊張感を保ち続け、戦いに集中して、力を抜く。

 ゲーム画面でも強いボスモンスターと戦うときは、心臓の鼓動は速くなり緊張もして手に汗を握る。


 それでも上手くいくときも、上手くいかないときもある。

 ミスをするときは後一押しで倒せると思った時に焦って返り討ちに合う、勝ち方に拘って攻撃を外すなど、雑念を抱いたときが多かった。


 つまりやる事は、ゲームをやっている時と変わらない。

 緊張していても、焦らず、集中して戦う。

 と言っても、モンスターの殺気や威圧感、匂い、足元、気温、風を肌で感じるので、ゲーム画面でポチポチクリックするのと同じにはいかない。

 

 体中に張り廻っている神経を通して、今動かしている筋肉に意識を集中する。

 息を吐き、心を落ち着かせる。その時も空気の湿気や匂いが喉を通ることを感じた。

 そして、頭が空になったと思った時に、【木刀】を振り下ろす。


 振った時にはまだ手の感覚があり、目の前の空気の壁も弛んだだけで、切れはしなかった。

「まだ腕の力で振っているのか……」

 今の振り方は良い太刀筋なると思ったが、そうならなかったことに残念な気持ちになる。

 無心で振った感覚を思い出そうとして、もう一回、もう一回と何度も振る。だがあの感覚にはたどり着けなかった。




 3時間素振りをしていて、もう既に日は高く登っていた。夏が近づいているせいか、最近日差しが強いように思う。そんな中、集会場に行くための階段を歩く。この移動だけでしんどくなった。

「はぁ」

【どうした】

 アカザがため息を吐いた理由は様々だ。上手くいかず何も掴んでいない修行、なんでこんなに長い道のりにしたのかというゲームの設計者への不満。そして、都市内ではペットでの高速移動が事実上できないこと。


 この世界に来た時はゲームの中だとはしゃいだが、実際に中に入ってみれば色々と面倒で、嫌なことが起きる。

 手っ取り早く強くなりたい。だが、今アカザが求めているのは単純なステータスの数値や高性能の武器ではない。


 プレイヤースキルは経験と勘を培っていくしかないのだ。それこそ10年間、【フォークロア】を我武者羅にやって、なんとかPVPの大会で上位の成績順位に上り詰めた。参加人数はアカザの居るサーバーで4682人のプレイヤー。

 掲示板に表示されたアカザの順位は82位。10位以内どことか、50位以内にも入っていない。少なくともあの時、アカザよりも強いプレイヤーが81人は居たことになる。


 ゲーム時代に最強だった訳でも、何か誇れる特技がある訳でもない。ゲームは所詮遊びだ。趣味だ。本気でやったところで、勉強や資格のように何かしら社会に役立つことでもない。


 思考がネガティブに傾き続け、暗い気持ちになってい、ついつため息を吐いてしまう。

「はぁ」

【……いい加減にしてくれ。こっちの気も滅入る】

 どうやらアカザのため息には感染力があるらしい。【鬼道丸】は呆れ、心なしか鞘が力なく萎れたような気がした。


 参道の階段を登り終え、神社を模した集会場に入る。

 それから何か【エチゴ】周囲で何か討伐系のクエストがないか、受付の巫女さんに聞いてみる。


「申し訳ありませんが、アカザ様にみあったクエストは【エチゴ】にはありません。オーガなどの残党ももうおりませんし、急務のクエストもありません。最近は生態系に変化はなく、山奥やダンジョンに行かなければ、冒険者レベル最高にみあったモンスターは存在しません」

 黒髪のおさげを二つ下ろしている巫女、スズランはそう言った。スミカやキキョウたちと同じ顔つきで同じ体格をしている。だが、目は知性的で掛けているメガネがより一層賢く見える。だが、その目は冷たく鋭く隙が見えない立ち姿をしている。

 前に会ったスミカやキキョウは他の仕事をしているらしく、今冒険者のクエストの発注、受付業務は全て目の前の巫女1人でこなしているらしい。


 ただ、アカザのようなプレイヤー【渡り人】が極端に減少した為、難易度が高いクエストはそんなに受けている人が居ない。なので、前の【地獄門】や【シュウキゴク】のようにモンスターで溢れかえっていないかという調査もして欲しいとの要望。


 それならばそれなりに強いモンスターと戦えるので、実戦経験を積むのにも事欠かない。だが、問題がある。


 集会場は世界中で情報を共有している。その為、星の反対側に居ても今アカザいる【エチゴ】の集会場に情報が更新され、クエストとして発注される。

 もっとも、そのクエストのモンスターが居る狩場に行く足は、自前になってしまう。【大陸移動】は都市への転移スキル、そこからは移動用の【ペット】が居ても、制限時間もあり移動範囲は限られてしまう。

 アカザのように何体も【ペット】を所有していているのならば、制限も減るがこの世界の住人の移動方法は馬が主だ。しかも使用の制限時間が在るため【エチゴ】から【キョウノミヤコ】に行くのも3日ぐらい掛かる。


 アカザなら2時間もあれば大方のダンジョンや狩場へ遠出できるが、時間が勿体ない気がするのだ。それなら近場で適当にモンスターを狩るのが正しいが、それだとお金を稼げない。アカザはゲーム時代にお金をたくさん溜めたため、急いで稼ぐ必要はない。だが損している気分になる。


 MMOPPGではフィールドにいるモンスターは一定時間で沸き(ポップ)いて、一定の基準に達する。【シュウキゴク】のことは【地獄開門】のイベントが発生した影響で、フィールドが埋め尽くされたから、遠く離れた【エチゴ】へと向かって来た。


 【レッドワイバーン】の時のように、フィールドに沸いた(ポップ)モンスターが餌を求めて移動するのも考えられるが、今はそんな報告は受けていないらしい。


 現在の【エチゴ】では緊急に発注されているのは、破壊された建物の修復のために使う、素材集めをするためのクエスト。討伐といったクエストはどこも発注されていない。木工職人や町人も手伝いに出向いているが、この世界は都市外に出ればモンスターが蔓延っているため護衛としてもクエストがある。


 それでも都市の周辺は比較的に、こちらから手を出さなければ襲ってこないノンアクティブモンスターが多い。そのためクエストの内容に表示される場所は、都市から少し離れた森の中や山である。そこにはアクティブモンスターが生息し、生産スキルしかない職人NPCは危険になってしまう。


 アカザはどうせ奥地に行くのならば、複数のクエストを受けて狩場に野宿するのが時間の節約になる。ゲームでは集会場のクエストは1回受けると達成するか、リタイアして失敗扱いにしないと、他のクエストは受けられない。


「聞くけど発注されているクエストを、複数同時に受けられるか?」

「申し訳ありませんが、規則ですので無理です」

「……クエストを受けず内容を達成しても報酬は受けられない?」

「申し訳ありませんが、規則ですので無理です」


 まるでプログラムを埋め込まれたかのように、何の変化もなく応答を繰り返すスズラン。何となくNPCのように同じことを繰り返す感覚を味わう。無限ループって怖い。


「それで、どういたしますか?」

 未だにクエストを受けないアカザに痺れを切らしたか、催促してくるスズラン。

 アカザはまだどうしようか迷っていると後ろから聞きなれた声を掛けられた。

「アカザさん?」


 振り向くとトゥルー、シャム、シルフィールがアカザの後ろに居た。クエストを終わらせた後らしく、収納品である【スギの原木】を【マイバック】から取り出す。大人の伸長よりも長く、同じような太さがある原木を幾つもスズランに渡す。

 素材と数を確認し、スズランはトゥルーたちに報酬品であるキャッシュを3分割した袋を手渡した。


「ありがとうございました」

 一礼して、そのまま元のぴしゃりとした立ち姿に戻るスズラン。それと同時に他の冒険者もクエストを達成してきたのか、集会所に入って来る。

 アカザは邪魔になるかと思い受付から退いた。トゥルーたちもアカザに倣う。


 集会所の隅に移動した一行は、トゥルーが最初に口を開いた。

「アカザさんは何のクエスト受けるつもりだったの?」

「いや、ちょっと迷っていた」


 アカザが先程まで考えていたことを話すと、シルフィールが呆れたようにため息を吐く。

「時間が掛かるからとどこにも行かないようになるのか?」

「そうじゃなくて、近場で修業になるような実践はできないかって考えていただけだ」


「……素材、大量採取状態、クエスト、連続達成」

「複数のクエスト内容に書かれた素材をたくさん採取して、ここでクエストを受けては、その場で達成して、それを繰り返してしまえばいいって事か?」

 シャムの言葉を解釈した内容は間違っていないらしく、こくりと頷く。

 確かに、それならば行って達成したらすぐに帰って、また同じ場所に行かなければならない手間を省ける。だが――。


「一定レベルからはレア度が高いからな……素材」

 最高レベルのクエストには運がなければ1ヶ月採取し続けても、現れない確率が低い素材なんて言うのもある。モンスター倒したついでにドロップしたアイテムならいいが、採取で永延とその場に留まり続けるのは勘弁したい。

 火山や凍土といったフィールドでしか取れない金属や結晶がある。ドロドロ流れるマグマの熱や凍てつく風に打たれながら、採取するのだって気が滅入る。なのにその場に1ヶ月も滞在しなければならないのは、幽明の境に立っているようなものではないだろうか。


 最も効率的にするなら、確率が低い採取アイテムを収納するクエストを受け、大量に持って来ることだ。

「だけど、今回は身体操作ができるようになりたいだ」

 今回アカザがクエストを受ける目的は戦闘で、採取ではない。そもそも、なんで採取に話が変わっているのかシャムに聞いてみる。


「……採取、体動かす」

「……戦闘に関わりあるのか」

「……各種、採取マスタリ、向上。故に、ステータス向上」

「もう既に全部ランク100だ!」

 各種の採取マスタリを上げることで、基本的にDEX(器用さ)WILL(意志)、【生命力】などのステータスが上昇する。

 だが、すでにゲームとして【フォークロア】が閉鎖されるまでに、取得していたスキルは全て最高値のランク100である。これ以上のステータスの上昇は【独自技芸術(オリジナルアーツ)】を上げていくしかない。

 それに、アカザが得たいのはステータスではなく、身体操作の術だ。


「ならば、力に枷を付ければいいではないか」

「あー、それも考えたんだけど、身体操作をできるようになりたいんだ。弱くして戦闘時間を長くするのは違うと思うだが」

 【虚弱の指輪】でのステータス減少による弱体化で、【エチゴ】周囲のモンスターと実勢経験を積むのも考えた。

 前のように防御力関係のステータスは下げず、攻撃力に関するステータスを下げて戦闘を延長化させる。だが、アカザは戦闘を長引かせて持久力を育てたい訳ではない。


「だったら、人型のモンスターと戦うべきではないのか?」

「だけど、その人型モンスターは全て奥地にしかいない」

 だから、時間が掛かってしまい面倒なのだ。


「アカザさんは考え過ぎなんだと思う」

「え」

 突如トゥルーに言われた言葉に唖然としてしまった。

「慎重なのはいいことだけど、考え過ぎて行動できなくなっている……みたいな?」

 トゥルーも表現に迷っているのか、最後に首を傾げてしまう。


 トゥルーの言葉を考える。

「確かに、試し斬りするのにモンスターなんて何でもいいのかもな」

 ぐだぐだ考えても仕方ないと頭を振りかぶり、またスズランの元に向かう。

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