4-8
【種族違いの姉との殺し合いか。なかなかどうして楽しませてくれるぞ主】
「黙れ」
アカザは【暗鬼鞘】の戯言を一蹴し、目の前の敵から目を離さない。
ルレーアと言う名のアバターは、【弓術】、【魔法】、【付与術】、【回復術】、【風水術】、【陰陽術】などの後衛スキルを使い、パーティメンバーの支援をすることが多かったエルフの後衛。加えて言えば指揮官役割を果たすため、戦況を確認しやすい後ろに居たのも関係している。
故に彼女のパーティロールは単純なヒーラーや属性DPSではなく、パーティを纏め上げるコントローラーである。
敵の行動を阻害、味方の支援、強化。
クスフィーがサブキャラの妖精族と呼ばれる種族、アバターが変更されている。だが、ルレーアの共有的なスキルは全て引き継がれ、ランク100になっているだろう。
これは運営側が一々キャラを作り直して、時間を掛けてやり直すといった手間を省くための課金サービスを作った。要はコンバートを大量に発生させられる。
ただし現実のお金で、1000円。経済的に余裕がないアカザはそんなに使うことはなかったが、経済的に余裕がある姉がこのシステムを使っていない訳がない。
一応、【ステータススキャン】でクスフィーの状態を確認する。
【クスフィー】
【生命力】7075/7075【マナ】9999/9999【スタミナ】7589/7589
STR/6545 DEF/6857 INT/9997 DEX/8957 AGI/9859 WILL/9877 MND/9689 LUK/8951
立派な廃人クラスのステータスであった。
そして、今クスフィーが使用している【人形術】は実質的には2対1であり、マリオネットと操者で攻撃することも可能。例えばマリオネットが前衛でスキルで攻撃している最中、後衛の術者が【魔法】で攻撃を加える、【付与術】でマリオネットを強化など1人でセオリー通りの戦い方をすることが可能。
それに妖精族はINTや【マナ】、【魔法】の【スタンバイタイム】減少やダメージ率が増加して、後衛向きの種族。
とはいえ実行するには、凄まじいプレイヤースキルが必要になる。
何せ、マリオネットの操作と自身のアバターの操作を随時切り替えなければならず、操作していない方は無防備になってしまうため、単純に操る量は2倍という訳にはならないのだ。
そして、相手に合わせスキルも組み直さければならず、1人2役と言う点では【召喚術】の方が簡単である。【召喚獣】をオートアタックさせたり、AIを組み攻撃を与えたりしつつ、状況に合わせ【召喚獣】の特技を発動さ、自身も後方で【魔法】、【弓術】のスキルを発動させる方が簡単である。
だが幾ら難しいとはいえ、クスフィーなら【人形術】での1人2役くらいは簡単にこなせる。そういった核心がアカザにはあった。
なので、最初はアカザから仕掛けることにした。
時間を与えてしまえば、それだけクスフィーの方が有利になる。
【斬波】を発動させ、【膝丸《薄緑》】、【小鴉丸《八咫烏》】を振るう。剣先から放たれる飛ぶ斬撃はそのまま【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】に向かう。
直撃するものの、マリオネットは一瞬震えただけで倒れない。
ゲーム的にマリオネットにはダウン値が設定されておらず、ノックバックやダウンもしない。いわば巨大な巨体を持つボスモンスターと同じく、無効化する。
それ以外にも【毒】や【麻痺】などの、バッドステータスには掛からず、武器扱いのため【生命力】が存在しない。代わりに攻撃を喰らうたびに耐久が幾らか減っていく。
「あんまりがっかりさせないでアカ君」
牽制攻撃と見なされたのか、少々失望したように沈んだ声を出すクスフィー。
次の瞬間、【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】が両手を翳し、アカザに向かって放射状に分かれた細い光の線を放ってくる。
スキル群【人形術】、【ワイヤーハンド】。
【マナ】で作れられたマリオネットを動かす糸を、10本を生み出し、それを相手に絡みつかせる。
【ディールアクション】で2回横に滑るようにして移動し、その光の糸を回避する。が、そのまま光の糸は植木に絡まり、引き抜かれアカザへと放り投げられる。
ゲームならできない攻撃方法を、【ディールアクション】の最後の回避行動で、その植木を回避する。
「ほら、当たっちゃうよ」
その行動を読んでいたかのように、クスフィーがいつの間にか手の平をアカザに向け、【魔法】、【アイススピア】を放って来る。
氷の槍は戦車の砲弾みたいに、回避行動先に居たアカザを釘刺しにしようと飛んでくる。
だが、アカザはギリギリのタイミングでアビリティスキル【斬り払い】を発動させる。
両手に持った刀を氷の槍に当て、打ち払う。
「あ、今のを防ぐんだ。やるねアカ君」
まるで子供と遊ぶように楽しむクスフィー。
【アイススピア】が強力な威力だったためか、遠距離攻撃を無効化するためにアカザの【スタミナ】が一気に消費されたためか少し気怠く感じた。今はまだいいが、これ以上【スタミナ】の大量消費による気怠さは抑えたい。
【斬り払い】を解除し、高いステータスのAIGの性能を遺憾なく発揮させ、クスフィーとの距離を一気に詰めようとする。
アカザを迎え撃つマリオネット。
立ちはだかり、主人を守ろうとする。
アカザが降った刀はマリオネットによって阻まれる。が、即座に【疾風一閃】を発動。
風となったアカザは【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】の間をすり抜け、2つの刀をクスフィーに迫まらせる。
が、刀と彼女との間にマリオネットが瞬時に割り込み、攻撃を弾く。
恐らく、マリオネットが操者への攻撃を防ぐ【サーヴァント・オンセルフ】を使い、攻撃を無力化した。
しかし、アカザはクスフィーに張り付くようにして、近距離を保つ。ここで距離を離されれば、また苦戦し勝利は遠ざかる。
「F5!」
そうアカザが叫ぶと、持っていた【膝丸《薄緑》】、【小鴉丸《八咫烏》】が虚空へと消え、代わりに【天叢雲剣《剣之神器》】が手に握られていた。
一瞬で装備が変わった瞬間、【斬鉄剣】を発動させ武器の耐久度を下げるスキルを発動させる。
相手の【生命力】を減らすことより、武装を使えなくする戦術を取る。【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】が使えなくなったところで、サブ武装やサード武装に変更すればいいだけの話。
しかし、何も全壊させることはない。耐久度が下がるたびに攻撃力は変動し、アカザにも余裕が生まれる。
だが、こちらの思考を読んでいるかのように、今度はアカザの攻撃を自身で受ける。
妖精族が持つ種族スキル【フェアリー・バンブーズル】。
30秒間、受ける物理攻撃を大幅に軽減するスキル。
アカザが【斬鉄剣】の能力を付加させた【天叢雲剣《剣之神器》】で切り裂いたのは、クスフィーの残像。アカザの装備【天叢雲剣《剣之神器》】の能力を把握しているため、それを見た時、瞬時にアカザの狙いである【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】の耐久度減少に気付いたのだ。
防御力が低い妖精族。
だが、【フェアリー・バンブーズル】発動中に与えられたダメージは精々、肌皮を薄く切った程度の掠り傷。
この状態でダメージを与えるには【魔法】か、属性ダメージを与えるしかない。
そして相手のエフェクトから推理し、即座に【火之炫毘古神・加具土命】を使い、紅蓮の炎に包まれた【天叢雲剣《剣之神器》】を振るう。
流石に属性攻撃を加えられると不味いのか、【縮地】を使い一気に後方へ移動し距離を離し、攻撃範囲外に逃れた。攻撃を外してしまい、振り終えた刀の余熱が虚しく薄く積もった雪を溶かしただけに終わった。
そして、再び危機に陥るアカザ。
「今のは危なかった。じゃ、こっちの番ね」
クスフィーが手を翳した先から極光が迸る。
そして、放たれた極級魔法。
視界が、世界が、旭光の輝きに塗り潰され全て白に変わる。
「……理解不能」
シャムは目の前で起きていることがよく理解できずにいた。
一方は苛烈に、もう一方は優雅に戦う彼ら。
激しい攻防を繰り返す。
それに巻き込まれないために彼らから距離を取り、安全地帯に避難している。
だが、彼らは姉弟らしい。種族違いなのが疑問に残るが少なくともシャムの目から見て、アカザは本気で姉に手を掛けようとしているように見える。そして姉の方はそんな弟を容認しているのか、薄く笑いながら彼を翻弄し対応している。
「我々に理解できるとも思えん」
いつの間にシャムの隣に居たのか、英雄ジークフリートがシャムの隣に立っていた。
警戒を一瞬強めたシャムだが、殺そうと思えば2人の戦闘に気を取られている時点で不意打ちし放題。すぐに身構えた体勢を元に戻す。
彼の横顔を見るが、やはり精悍な顔付きであり、筋肉質の身体は竜殺しに相応しい屈強さを感じさせる。
「あの方は、圧政を敷いていた義父レギンの国を一夜にして変革した。それは貴公も知っているだろう。女一人を兵士で取り囲んで、騎士の風上にも置けない戦い方をして負けた」
『あの方』、クスフィーは、単身で城に乗り込み制圧した。
戦うために鍛え、ステータスが向上している兵士100人と英雄ジークフリート。
真面な神経を持っている者なら、まずそんなことはしない。PVPで1対多数で戦うのがいかにきついか。
例えアカザが、万単位のモンスターたちとの戦闘で勝ったことがあるとはいえ、単純なAIで動く人形を広範囲攻撃で纏めて倒しただけ。性能差が圧倒的とはいえ、戦術を使って来る人間に対しては苦戦は必至だ。
それにアカザも【鬼道丸】との戦闘中、取り巻きのモブモンスターが追加されてしまえば、あの戦いは不測の事態に対応できず【鬼道丸】に負けていたかもしれない。
そして、クスフィーは自身より高いステータスを持つ英雄、ジークフリートと兵士たちを同時に相手取りながら戦い勝利を収めた。
「……冗談?」
「本当の話だ。手も足も出なかったが、……まだあの方は我々を手玉に取ったあのスキルを使っていない」
「……嘘、!?」
そして、突然放たれた強い光に目を閉じるシャム。瞼でも防げない光量が差し込んで来る。その光が収まり、ちかちかする目を開けるシャム。
目に映った光景は想像を絶し驚き目を見開いた。
一瞬で光は中庭に一線が引かれ、痛々しい傷跡が残る。それに壁がドロドロと融解し大穴を開けている。余熱で庭にあった薄く積もった雪を全て溶かした。光の余熱がシャムの身体に吹き付けて熱いはずなのに、鳥肌が立つ。
それに戦闘をしていたアカザが見えない。夜でも照らせるほどの光を喰らえば無事では済まなかったのだ。
「……此?」
「これで俺は負けたのではない。と言うよりもこのようなスキルを持っていたのを、俺たちも今知った」
この規模の【魔法】スキルを即座に発動させるのが切り札ではない、と言うジークフリートをまじまじと見るシャム。
石のような表情を見せるジークフリート。少なくとも嘘を吐いたようには見えない。
これが切り札ではない。
圧倒的な力を持つヴィクターを翻弄したアカザを倒したスキルが、切り札ではない。
中庭に佇むクスフィーに敬畏を抱く。
だが、その姿の背後から凶刃が迫る。
アカザは極級魔法を回避スキル、【蜃気楼】を使い逃げ延びた。【蜃気楼】は無敵時間が3秒だけ展開し、どんな攻撃でも時間内であれば素通りさせる。
そして先程の旭光を目潰し代わりに使い、クスフィーの背後に回り込む。
完全に視覚から音を立てずに【黑之絶断】を使い、素早く切り掛かる。
(正々堂々? 騎士道? くそ喰らえ、だ!)
未だ【フェアリー・バンブーズル】の効果時間内だが、【黑之絶断】には支援効果無効があるので問題ない。
だが、一瞬にしてクスフィーは目の前から消え代わりに、【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】が攻撃を肩代わりする。
【人形術】、【ドール・キャスリング】。
危機に陥った操者の位置をマリオネットの位置を入れ替える回避スキル。
アカザの必殺の攻撃は、クスフィーの【索敵】で位置を判断され回避されてしまった。
「ふふ、今のはいい線いってたね」
余裕綽々で言われても、何も嬉しくない。
「本当に危なかったのなら、汗くらいかけよ」
唾を吐き捨てながら、眼前の敵から目を逸らさず見据える。
そうして思考を巡らし、先程の極級魔法【バルドル・サガ・グリッター】が一瞬で実行されたことの謎を考える。案外、答えはすぐに出る。
「……確認なんだがさっきのは同時進行、もしくは並列詠唱みたいなものか?」
「まぁ、分かっちゃうよね。正式なスキル名はスキル群【独自技芸術】、【並列行動】って言うの。何の捻くりもないでしょ?」
肩をすくめるクスフィー。
【バルドル・サガ・グリッター】の【スタンバイタイム】は45秒。妖精族なら設定で短縮されているため、35秒。その時間は何も行動ができない隙となる。
だが、クスフィーは戦闘の最中に、【スタンバイタイム】のあるスキルを発動。そして、そのスキルが発動させるまでの間、ダメージを受けないように立ち回り、【スタンバイタイム】を終了し発動させた。戦闘を見ている者は、まるで極級魔法に【スタンバイタイム】がないように感じてしまう。
だが、アカザも【独自技芸術】を持っているため、そのからくりを理解した。
そして、タネが分かったところでどうしようもないことを理解する。
元々、妖精族は【マナ】を使用するスキルに特化した種族。
【スタンバイタイム】は人間種よりも短縮され、【マナ】消費も軽減されており威力も上げられている。また、【スタンバイタイム】中に攻撃を受けてもダウン値が50%になるまで、詠唱が止まることはなく【スタンバイタイム】続行できる種族特徴がある。
さらに盾となるマリオネットが操者を守る。
クスフィーのプレイヤースキルも凄まじく、極級魔法の【スタンバイタイム】中、マリオネットの操作、自身で攻撃、回避など完全にこなしていた。
今のところアカザに突破口は見つからない。
並列詠唱そのものには余り脅威はない。それを完全に操っているクスフィーが凄まじい。
戦闘の最中に右手で絵を描き、左手で携帯で操作してメール文を作成し、口では歌って、足はダンスゲームでステップを踏んでいるようなものである。どこかでミスをしない方がおかしい。
しかし、それを苦もなく完璧に実行した。
「まぁ、これじゃアカ君が倒せないとは思っていたから他のを使いましょうか」
「……他の」
クスフィーの言葉を聞いたとき、思わず震えた声を出すアカザ。
「ええ、まだ使っていない【独自技芸術】は何個も残っているから」
アカザも【独自技芸術】を持っている。それにプレイヤー側1人だけに与えられる特別なスキルや装備は、MMORPGにはありえないと言っていい。そういった【勇者の剣】や【特別な力】はコンシューマーRPGだ。
ネットのMMORPGに唯一のスキルやアイテムはない。例え超難易度の生産アイテムや低確率ドロップアイテムでも、何度も何度も挑んで強力なアイテムやスキルが入手可能なのだ。そこまでの道は険しいが、ちゃんとした順序を踏んで、運が良ければ、誰にも手に入れる可能性がある。
問題は僅か1か月半で攻略サイトもないのに、【独自技芸術】を幾つも習得し使いこなすクスフィーだ。
アカザですら習得した【融技】は、使いこなす域に達していない。
「まずはこれね」
次々と彼女の周りにマリオネットが浮かぶ。
魔法使いが使っていたブリキ人形、夜に黒髪が伸びていそうな日本刀を持った日本人形、ゴシック少女の衣装を纏い剣を携えた西洋人形、アンティークのドレスを着たフランス人形。それ以外にもロボット、中身がないプレートアーマー、簡素的な作りをした木の人形、等身大のマネキン、騎士、槍使い、拳闘士。
大小様々なマリオネットが計25体、現れる。
【同調操作】と言ったところだろうか。
「じゃあ、仕切り直し」
マリオネットたちが、アカザに殺到する。
突進して向かって来るマリオネットたち。雪崩を思わせる突進から逃れるため、逆にアカザもマリオネットの群れに【電光石火】を使い突進する。距離を離されればマリオネットたちの壁で、ダメージを与えることができない。
アカザの体に気の障壁が張られ、一気に加速したことによって空気摩擦し電流と火花が散る。マリオネットたちがそんなアカザに攻撃してくるものの、【電光石火】の効力、スーパーアーマーの付与によってアカザの突進を止められない。
しかし、いくらダメージを軽減できるスーパーアーマーが付与されているとはいえ、【生命力】が削られ痛みがアカザに痛みが走る。
1体、1体の性能は先程の【怪盗ピエロ《ジョーカーショウ》】と同性能か、個体差の性能でバラつきがある程度。操っている分、性能や操作性が分割され落ちてしまっている感じはしない。故に受けるダメージも相当な物となり、激痛で顔が歪み脂汗が出る。
だが、ダメージを受けながらでも人形の壁を突破し、クスフィーへと迫るアカザ。
【融技】で【武器《野太刀》】スキル【火之炫毘古神・加具土命】、【霹之劔古神・武御雷命】、【風之息長古神・志那都比】を合わせる。
炎、雷、風が合わさり、渦巻く剣が放たれた。
が、人形の1体から放たれる【マナ】の糸がクスフィーの目の前で編まれ、壁となる。
【フォークロア】で、そのようなスキルなどない。これも【独自技芸術】なのかと驚くアカザ。だが、アカザの心情を顔から読み取り、クスフィーは否定する。
「これは【独自技芸術】じゃなくて、ただの技術」
恐らく、【鬼道丸】のスキルのモーションを変更、仰け反りを無効化する力を手に入れたようなもの。
クスフィー、姉だってこの世界に来て1か月のはず。たったそれだけの期間で戦闘に応用できる程の技術を手に入れたというのか。
そして、指を動かし糸が生き物のようにアカザを追い立てて来る。人形、糸の包囲網にアカザは【疾風一閃】を使い、一気に駆け抜ける。
それで迫っても、足を踏み込み距離を詰めても、アカザはクスフィーに近づいている気がしない。
圧倒的な力量差によって存在が遠くに感じてしまう。
そして、疾風の速度で振られた刀は、いつの間にか右手で握っていたレイピアで弾かれる。【パリィ】を使って弾かれたのか、アカザは仰け反り無防備な姿を晒す。先程まで持っていた【インヴィシブルハンド・コントローラー】は左手で2つ合わせて持って操作し、マリオネットたちと糸を動かしアカザを拘束する。
「このっ!」
「惜しかったね。アカ君。そこのジークフリートだってここまで札を見せることはなかったし、近づくこともできなかったんだけど、それじゃあ倒せないよ」
暴れて拘束を抜けようとするが、がっしりと巻き付かれているため、身動きが取れない。スキルによって拘束を抜けようとした時、アカザの肩にレイピアを突き刺す。
クスフィーの持っているレイピア【ティターニアレイピア《フェアリーフェンサー》】は、攻撃した相手の【マナ】を吸収、【マナ】の自動回復量増加、【マナ】の使用量減少などの効果がある。
突き刺さった【ティターニアレイピア《フェアリーフェンサー》】の効力によってか、アカザは頭がボーと怠く感じる。
「アカ君。もうやめない? もう、アカ君の【生命力】は1。【手加減】しているんだよ」
「……だったらなんだ? 大人しく傘下にでもなれって?」
「ちょっと違うかな。アカ君はこの世界に来て浮かれているんだよ。突然手に入れた力、周りとの格の違い。調子に乗って、今まで無事だったのはただの運なの。だからこれからは、お姉ちゃんが守ってあげないといけないでしょ?」
「知るか」
「えー。家で引きこもって居たのはアカ君だよ。突然異世界に来て、調子に乗って無双する頭の悪いメアリー・スーも圧倒的に強いから物語は成り立つの。お姉ちゃんにもアカ君は勝てないでしょ?」
お前と比べるな! と大声を出したいアカザだが、調子に乗って潰されたメアリーはアカザの方。姉の力を見誤り、一方的にやられた。
「だから、アカ君。君は何もしなくてもいいの。お姉ちゃんが全部解決してあげるから」
「……嫌だ」
確かに全て完全無欠な姉に全て任せてしまえば、何でもなってしまう。それに自分の意思で何とかなってしまう程、この世界は甘くない。
だが、認めてしまえばアカザはもう何も持っていないただの廃人となる。
最も時間をつぎ込み、得意となったゲームで負けた。
惨めで、最低な存在だが、それでもアカザは目の前の姉に保護されるのを容認できない。
「嫌だ!」
「わかったよ」
淡々とした声でクスフィーは再び、アカザにレイピアを突き刺した。
「死になさい」
今度こそ【生命力】は0となる。一発逆転も奇跡的展開も起きない。
アカザはこの日、初めて死んだ。




